© Frederico Viana / WWF
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WWFジャパン1年間の活動報告(2019年7月~2020年6月)

皆さまからお寄せいただいた会費やご寄付をもとに、2020年度(FY2020)もさまざまな活動を進めることができました。この場を借りて、心より厚く御礼申し上げます。自然環境の悪化をくいとめ、危機にある野生生物を守ることへ、確実につながるような変化を起こすには、何年にもわたる取り組みが必要です。その中から、この1年の間に達成できたことや、進捗したことを中心に、ご報告いたします。


2019年7月~2020年6月 活動ハイライト:相次いだ緊急事態 への対応

各地で続いた森林火災(2019年7月~12月)

2019年の後半は、世界のあちこちで、例年を大きく上回る規模の森林火災が起きているというニュースが続きました。

7月~11月、南米アマゾンの熱帯林をはじめ、隣接するパンタナール湿原、セラードと呼ばれる草原地帯などで火災が連続。延べにして9万平方キロ以上(北海道を上回る規模)が焼失しました。

9月にはオーストラリアでも森林火災が発生。翌年の2月まで勢いは止まらず、焼失面積は約12万平方キロに及びました。また、同じ時期にインドネシアのスマトラ島やボルネオ島でも、合わせて約1万7,000平方キロの熱帯林が、火災で失われています。

こうした事態を受け、WWFは各国で募金や寄付を募り、WWFブラジル、WWFボリビア、WWFオーストラリアに送金。現地での消火活動や野生動物の救護活動の支援などを行ないました。現在は、鎮火後の被害状況調査や森林回復、地域コミュニティの支援など、長期的な活動が続いています。

WWFジャパンは、WWFインドネシアと連携して、スマトラ島、ボルネオ島でも、火災対応活動を行ないました。

COVID-19パンデミック(2020年1月~6月)

2020年は言うまでもなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に世界中が揺れることとなりました。

COVID-19は「動物由来感染症」のひとつです。もともとは自然界で野生動物と共存していたウイルスが、なんらかのきっかけで人間への感染力を持ったと考えられています。こうした動物由来感染症は近年、増加傾向にあり、その背景には、急激な森林破壊や、野生動物の利用の拡大があると指摘されています。

WWFは1976年に、IUCN(国際自然保護連合)と共同でTRAFFICという機関を設立し、野生生物の過剰利用や違法取引の問題解決に力を注いできました。

特に、野生生物の違法な取引(密猟や密輸など)は、衛生管理などが行き届かず、動物由来感染症の拡大につながるリスクが高いといえます。こうした問題点について、WWFとTRAFFICは2020年2月に声明を発表し、警鐘を鳴らしました。

海外からペット目的で野生動物を輸入している日本も無縁ではありません。TRAFFICの調査では、感染症予防の観点から輸入が禁止されているサル類やコウモリ類などが、ペット目的で日本に密輸される途上で差し止められた事例が見つかっています。2020年6月、WWFとTRAFFICはパンフレット『感染症パンデミックを防ぐために、緊急に見直すべき野生生物取引の規制と管理』を作成。注意喚起に取り組んでいます。

さらに、COVID-19による経済停滞からの回復を図る中で、温暖化対策や、農林水産物の持続可能な利用が大きく後退するおそれがあるという課題もあります。WWFは「グリーンリカバリー(環境に配慮した回復)」を図ることの必要性や、そのための政策提案などを行なっています。

地球への処方箋 コロナ禍を越えて、地球の健康を取り戻すために。ぜひご支援ください!

2つの緊急事態が語るもの

森林火災もウイルス感染も、自然界で普通に起きる現象です。問題なのは、人類が自然環境に及ぼしてきた影響によって、その規模や頻度が拡大している点です。

アマゾン周辺とインドネシアの森林火災の原因には、熱帯林を農地や植林地に転換したことや、その開発の際に行なわれる森への人為的な火入れなどが挙げられます。また、オーストラリアでは、地球温暖化による異常な乾燥が、森林火災の大規模化を招きました。

自然環境の健康と、人間を含む地球上の生命の健康は、深くつながっています。そのことを今まで以上に意識し、今後の取り組みに活かすことが求められています。

伐採と生産地への転換から、森と野生生物を守る

さまざまな「もの」を生産するために行なわれる森林の過剰な伐採、そして、植林地や農園への転換が、世界各地で自然林の減少を引き起こしています。自然林の減少はそのまま、そこに暮らす野生生物の危機にも直結します。

WWFジャパンは、日本で消費される木材・紙・パーム油・天然ゴムなどの生産によって森林の減少が起きているアジア圏を中心に、森と野生生物を守る活動に力を注いでいます。

シベリアトラの母子
© Ola Jennersten / WWF-Sweden

シベリアトラの母子

シベリアトラの増加と新たな課題

WWFロシアは長年にわたって、極東ロシアの森と野生生物の保全に尽力。WWFジャパンもその活動を支援してきました。日本は木材の輸入を通じて、この森に大きな影響を与えているからです。木材利用による森林生態系への影響の軽減と、絶滅のおそれの高いシベリアトラとアムールヒョウの個体数回復が、WWFの直近の目標です。

2020年1月~2月、極東ロシア唯一の自治州であるユダヤ自治州で、初の本格的なトラ調査を実施。約20頭の生息と繁殖を確認しました。ここでは数年前から、トラを野生復帰させる取り組みを行なっており、その個体が定着、繁殖していると考えられます。

シベリアトラは1940年代に50頭以下、アムールヒョウも2000年代半ばには約30頭まで減っていましたが、現在はトラは約600頭、ヒョウは約80頭にまで回復してきています。しかし、同時に、人里にトラが出没する問題も増加。地域住民への普及活動や生息地となる森の保全が急がれます。

ボルネオ島での活動

インドネシアのボルネオ島では、木材や紙、パーム油の生産を持続可能な形に改善する活動に注力しています。

木材については、「FSC® 生態系サービス」の評価手法を手順として確立するとともに、地元の木材会社による生態系サービスへのポジティブな影響を証明・表示する取り組みを支援。

パーム油をとるためのアブラヤシ農園の改善プロジェクトでは、小規模農家による組合が結成され、アブラヤシ栽培の効率化が進展。農園の拡大防止につながることが期待されます。

2019年11月にはRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)年次総会に参加。ずっと求め続けてきた小規模農家専用の基準が、実情に合った内容に改訂され、認証取得が進まない小規模農家の状況に光が見えてきています。

アジアゾウと地域住民の共存実現を含むESD(持続可能な開発のための教育)活動も、継続して行なっています。

メコン地域でも活動

タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジアの5カ国にまたがるメコン地域では、天然ゴムの生産拡大による森林減少が進行しています。

タイ南部では、国立公園の内部に違法なゴム農園が拡大している現状を調査するEyes on the Forest Projectを開始。ミャンマー南東部では、天然ゴムなどの農産物の生産を、持続可能な方法に転換していく活動を進めました。

天然ゴムの生産・加工・流通・販売にかかわる企業とは協議を重ね、持続可能な天然ゴムの利用を促進する上で必要な基準づくりや、トレーサビリティ確保のためのツールの開発に取り組んでいます。

タイのケーン・クラチャン国立公園とクイブリ国立公園では、絶滅寸前のインドシナトラの調査を継続して行ない、調査地拡大も検討しています。

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スマトラ島での活動

スマトラ島のテッソ・二ロ国立公園で、おそらく人為的原因とみられる森林火災が発生。日本の皆さまからお寄せいただいた緊急支援は、現地での消火活動支援、火災の影響調査、焼失地での植林、違法な火入れを防ぐための監視活動などに活用しています。

ブキ・バリサン・セラタン国立公園では、「地域住民主導で行なうトラとヒトの衝突防止活動によるスマトラトラの個体数回復プロジェクト」を推進中。現地の目撃情報を基にトラ調査用のカメラトラップの設置場所が決定するなど、進捗が見られました。

SPOT LIGHT
インドネシアでも起きていた大規模森林火災

2019年後半、アマゾン周辺やオーストラリアの森林火災に世界の耳目が集まっていたのと同じ時期、日本ではほとんど報道されませんでしたが、インドネシアのスマトラ島やボルネオ島でも、大規模な森林火災が続いていました。

両島には、泥炭湿地林と呼ばれる森が多くみられます。林床には大量の水分が含まれるため、本来は火災が起きにくいのですが、パーム油をとるためのアブラヤシや、紙の原料となるアカシアを植えるために土壌から水分が抜かれると、逆にとても燃えやすくなります。さらに、整地のために火が使われることも。そのため、毎年のように森林火災が起きています。パーム油や紙の生産を環境に配慮した形に改善することは、森林火災防止のためにも重要なのです。
(森林グループ 伊藤小百合)

今日、森林破壊を止めるためにできること

乱獲や汚染から海の生態系を守る

マグロやウナギをはじめ、多くの天然魚介類が、乱獲によって激減しています。
また、頭打ちとなった天然漁業を補うために、水産物の養殖が急拡大し、周辺の海洋生態系に影響が及んでいます。さらに、廃棄されたプラスチックが最終的に海に流れ込むことによる汚染も深刻です。

WWFジャパンは、日本が主要な消費国となっている水産物の利用を、持続可能にすること、プラスチックの海洋流出を防ぐことを中心に、海の生態系保全に取り組んでいます。

日本で多く消費されるマグロ類もIUU漁業のリスクが指摘されている
© Brian J. Skerry / National Geographic Stock / WWF

日本で多く消費されるマグロ類もIUU漁業のリスクが指摘されている

IUU漁業根絶に向けた活動

海洋生物の保全や、持続可能な水産物利用、人権をも阻害する「IUU漁業(Illegal 違法、Unreported 無報告、Unregulated 無規制)」。世界中の海で漁を行ない、海外から大量の水産物を輸入している日本には、特に大きなかかわりのある問題です。 

WWFは日本政府に対し、IUU漁業防止のために実効性のある規制を導入するよう求める活動を展開。2019年9月から、国の「漁獲証明制度に関する検討会」に委員として参加してきました。また2019年11月には、IUU漁業のリスクが高いウナギについて、国会議員を対象とした勉強会を実施しました。

IUU漁業を根絶するには、漁獲から最終消費まで、一貫して水産物を追跡できる「トレーサビリティ」を確保し、IUU漁業で獲られた水産物を特定・排除するしくみが欠かせません。2020年3月、その重要な前進となるトレーサビリティの世界標準をGDSTが発表。GDSTは、世界で水産物を扱う約60社が参加する検討会議で、WWFもその運営をサポートしています。

チリ南部の海洋生態系保全

マゼランペンギンやシロナガスクジラ、ミナミアメリカオットセイ、固有種チリイルカなどが息づくチリ南部の「命の海」で、5年をかけて作り上げてきた海洋保護区管理計画が、ついに正式に発足しました。

ピティパレーナ・アニーウェ海洋保護区は、サケ(サーモン)養殖を含む水産業の継続と、野生生物の保護の両立を図っていく方針であるため、しっかりした保護管理計画が不可欠です。地域住民との合意形成から始まった保護管理計画づくりは、2018年に草案が完成しましたが、その後チリ国内の政情不安などもあって一時棚上げに。ようやく2020年1月に、正式にチリ環境省による承認が下りました。

コロナ禍でのスタートとなりますが、いよいよ保護管理計画の実行段階へと進んでいきます。

サステナブル シーフードの普及

環境保全や人権保護に関する厳しい基準を満たした養殖場に与えられる「ASC認証」や、同様の基準を満たして漁獲された天然水産物に与えられる「MSC認証」。WWFは、持続可能な水産物(サステナブルシーフード)を増やしていく方法のひとつとして、これらの認証制度の普及をサポートしています。日本のスーパーや外食産業でも、少しずつMSCやASCの認証マークが付いた製品が広がってきています。

また、持続可能な水産物の利用に大きな影響力を持つと期待されるホテル業界に向けて、講演や対話の機会を作り、協力を呼びかけたほか、「東京サステナブルシーフードシンポジウム」にも参加。政府、企業、自治体、消費者への認知拡大を図りました。

黄海での活動

中国と朝鮮半島に囲まれた「黄海」の広大な干潟は、さまざまな渡り鳥にとって重要な飛来地となっています。特に、河北省唐山市の南堡(ナンプ)干潟には、毎年、春になると10万羽近くの水鳥が飛来します。WWFは、この地が公立の「湿地公園」として保全されることをめざし、中国政府への働きかけを継続しています。

中国と北朝鮮の間を流れて黄海に注ぐ鴨緑江の河口は、アサリの一大生産地となっており、日本にもその多くが輸出されています。

WWFが2016年に開始したアサリ漁業改善プロジェクトがついに完了。2020年1月、アサリ漁業がMSC認証取得に向けた本審査に入りました。

SPOT LIGHT
「海洋プラスチックについて考えよう」 教材完成

プラスチック製品が海に流れ込んで、生きものたちに大きな影響を与えている「海洋プラスチック問題」。その解決には、特に使い捨てのプラスチック利用を減らすことと、ごみとして捨てる場合の適切な処理が必要です。そうしたことを広く知っていただくため、WWFは、全国川ごみネットワーク、日本野鳥の会、容器包装の3Rを進める全国ネットワークの3団体と協働で、教材「海洋プラスチックについて考えよう(Vol.1)」を制作しました。

海洋プラスチック問題に関する非営利の活動であれば、どなたでもお使いいただけます。以下よりダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
(海洋グループ 浅井総一郎)

過剰利用や違法取引から野生生物を守る

ゾウの牙やトラの骨、ペット利用に至るまで、人間の過剰な利用が、多くの野生生物を絶滅の危機に追い込んでいます。捕獲や取引(売買や譲渡)を規制する法律や条約も作られていますが、それに反する密猟や、違法な取引もあとを絶ちません。

WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFIC(トラフィック)は、特に日本が関係する野生生物の過剰利用を防ぎ、違法取引を根絶する活動に取り組んでいます。

ユーラシアカワウソ
© Sanchez & Lope / WWF

ユーラシアカワウソ

日本のペット需要と違法取引に関する活動

カワウソやトカゲ、サルなどが「エキゾチックペット」として日本に密輸される事件が多発していることを受けて、2020年6月、TRAFFICは、密輸に関する報告書『Crossing the Red Line:日本のエキゾチックペット取引』を発表。密輸ルートや手口、対象となる動物とその市場価格、摘発や処罰の現状などを分析。その結果をもとに、税関をはじめとする関係機関に対策の強化を提言しました。

報告書の中では、野生動物の違法取引が、新型コロナウイルス感染症のような病気を広げるリスクを高めることについても指摘。日本でも違法取引をなくすための取り組みを強化すべきとの緊急提言を発表しました。

特に、日本はペット目的でさまざまな野生動物を輸入しています。そのため、感染症のリスクは個人の暮らしにも広くかかわりのあることといえます。今後は、これまで以上に感染症と野生生物取引の関係性を注視しながら、活動を続けていきます。

ワシントン条約と国内法の強化

2019年8月、野生生物を過剰な利用から守るために国際取引を規制する「ワシントン条約」の第18回締約国会議に参加。アフリカゾウ、コツメカワウソ、日本固有種のトカゲモドキ類、アオザメなど、日本に関連の深い動物も議題に上がっていたことから、事前にメディア向け勉強会や、環境省や経産省など関係省庁との意見交換を実施しました。会議では、コツメカワウソやインドホシガメなど16種が、商業取引禁止となる「附属書Ⅰ」に新たに掲載されることが決まりました。

この決定を受けて、TRAFFICでは対象種の日本におけるペット取引に関する緊急調査を実施。現行制度の問題点を指摘し、「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」の規制や運用を強化するよう求めました。また、水際での密輸取り締まり強化をめざして、税関の職員を対象にした研修を継続して行なっています。

日本での象牙取引に大きな変化

日本では、ワシントン条約で禁止される以前に輸入されたものなど、象牙の在庫が数多くあり、国内での象牙取引は合法となっています。しかし、日本からの象牙の持ち出し(=違法)が増加するなど問題を抱えています。

特にインターネットでの取引が活発なことから、TRAFFICはオンライン企業と対話を続け、対応を求めてきました。2019年8月、ヤフー株式会社が、「Yahoo!ショッピング」や「ヤフオク!」などでの象牙の取り扱いを完全に禁止すると発表。2カ月の猶予期間を経て11月1日に実施となりました。2017年に実現したメルカリや楽天の象牙取引禁止に続く、大きな前進です。

法改正に向けた活動

2019年6月に改正された動物愛護管理法が、2020年6月1日に施行されました。国が定めた危険動物を愛玩目的で飼養することが禁止されるなど改善された点もありますが、まだ課題も残っています。そのひとつが野生動物の飼育と販売の問題です。

TRAFFICは、以前から、密輸された動物が国内へ持ち込まれるのを防ぐしくみや、感染症予防の強化といった改善を求めていますが、今回の改正ではそれらの内容は盛り込まれず、野生動物の飼育管理基準についても不十分なままです。

TRAFFICは、施行日に合せて改めて動物愛護管理法の問題点を指摘。今後も改善に向けた活動を続けていきます。

SPOT LIGHT
センザンコウの未来に光明?

全身をウロコでおおわれた哺乳類、センザンコウ。肉やウロコをめあてに乱獲され、アジアとアフリカに分布する8種すべてが絶滅の危機にあります。

中国政府は2020年6月、自国に生息するミミセンザンコウを「国家一級保護野生動物」に指定。また、伝統薬の原料として推奨するリストからセンザンコウを外すと発表。その背景には、動物由来感染症の発生や拡散を防ぐ狙いがあるともいわれています。

センザンコウが新型コロナウイルスの媒介に関与したかどうかは、まだわかりません。また、たとえ感染症の件がなくても、センザンコウは早急に保護すべき状況にあります。誰も予測しえなかった形ではありますが、一気に保護策強化が進んだセンザンコウのこれからを、注意して見守りたいと思います。
(野生生物グループ 浅川陽子)

地球温暖化をくいとめる

世界中の気候が今までと大きく違ってきていることを、誰もが実感するようになってきました。温暖化は、人間社会はもちろん、野生生物の暮らしにも大きな影響を与えます。

WWFジャパンは、国、自治体、企業を対象に、温室効果ガスの排出量を大幅に削減するよう促す活動に注力しています。また、自然環境や地域の文化などに配慮しながら、自然エネルギーの導入が進むようにするための活動にも取り組んでいます。

グリーンランド東部の町。海氷の融解が進んでいる
© James Morgan / WWF-UK

グリーンランド東部の町。海氷の融解が進んでいる

SBTi に参加する日本企業が100社に

世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて1.5℃に抑えるという目標に沿った、実質的な温室効果ガス排出削減計画を掲げて実行する「SBTi(Science Based Targetsイニシアティブ)」。「1.5℃」は、地球温暖化防止のために世界が合意している「パリ協定」が掲げる努力目標でもあります。

WWFは、企業に対し、このSBTiへの参加を促す活動を続けています。2014年から継続している、企業の温暖化対策を評価する「温暖化対策ランキング」プロジェクトでは、業種ごとに計11回の評価を実施。各回の報告書をもとに企業との対話を重ね、SBTiへの参加の道を拓いてきました。このプロジェクトは2020年1月、(一社)環境金融研究機構の「サステナブルファイナンス大賞」において「NPO賞」を受賞しました。

2020年6月、ついにSBTiに参加する日本企業が100社に到達(世界全体では900社)。SBTiは温暖化防止の国際スタンダードになりつつあります。

ユースを対象にした普及啓発活動

日本では、若い世代が地球温暖化とエネルギー問題について、政策や経済の面から深く学ぶ機会は多くありません。そこで、2019年12月~2020年1月、高校生対象の特別ワークショップを、東京都内と鳥取県内で計3回実施しました。

参加した高校生たちは、日本で必要なエネルギーを、どのような資源で作るのかという課題にチャレンジ。CO2の排出量だけでなく、経済性や安全性、国産か輸入かなども多面的に検討し、議論を重ねて自分の意見をまとめます。足りないデータをスマホやタブレットで探し、即座に議論に活かす活発なシーンも見られました。

計84名の参加者からは、「硬いテーマだと思ったけれど、予想以上に面白かった」「知っているつもりでいたが、他の人の意見を聞くことで考えが変わった」などの声が聞かれました。

国際会議における活動

世界全体で温室効果ガスの排出削減が進むことをめざし、WWFは国連の気候変動枠組条約締約国会議を中心に、各国の政府に積極的な取り組みを求める活動を継続して行なっています。

2019年12月にスペインで開かれた国連会議(COP25)では、「パリ協定」の運用ルール策定に向けた各国の議論を追い、より積極的な温暖化対策に結びつく内容となるよう、働きかけを行ないました。WWFが事務局を務めるJCI(気候変動イニシアティブ)も、会議期間中に小泉環境大臣と直接対談。日本政府が排出削減にもっと積極的に取り組むよう求めました。

日本の温暖化対策の強化

2020年3月、パリ協定の長期目標達成に向けて、各国が温室効果ガスの排出量削減目標をより高くすることが不可欠な中、低い目標のまま修正しない日本政府の姿勢に対して、抗議文を提出し、改善を求めました。

一方、石炭火力については一定の進展がありました。2020年7月、日本政府は、石炭火力発電の輸出を「原則支援しない」、さらに国内の石炭火力発電所も非効率なものは休廃止すると発表。WWFはこれを歓迎しつつも、日本国内では高効率の石炭火力は温存され、石炭依存が継続されることなどに強い懸念を表明、計画的にすべての石炭火力から撤退するよう求めています。

SPOT LIGHT
コロナ禍からの「グリーンなリカバリー」を!

新型コロナウイルスと共存しつつ、いかに経済と生活を立て直していくのかが問われる中、「グリーン・リカバリー」と呼ばれる経済復興策が、世界で広がり始めています。これは、温暖化防止をめざす「パリ協定」や、「SDGs(持続可能な開発目標)」とも一致する形で復興をめざすというもの。WWFも2020年5月、日本でもグリーン・リカバリーを実施するよう、政府に提言しました。
 さらに同年6月、グリーン・リカバリーの実現は、経済成長にもつながるという研究報告を、IEA(国際エネルギー機関)が発表。環境NGOではなく、OECD加盟国で構成されるIEAからの発表だという点に、時代の大きな変化を感じつつ、WWFは、グリーン・リカバリーの主流化をめざしていきます。
(気候・エネルギーグループ 小西雅子)

一緒に、未来へ。Together, to the future.気候危機に立ち向かうための活動へ、ご支援のお願いです。

日本の生物多様性を守る

「自然との共存」という言葉が普通に聞かれるようになる一方で、実際の現場では、持続可能とはいえない利用や開発、外来生物による影響などが、依然として続いています。

WWFジャパンは、長年にわたって保全に注力してきた南西諸島や、希少な水生生物が多く生き残っている九州北西部の水田地帯を中心に、人と自然が真に共存できる社会の実現をめざしています。

© WWF Japan

水田・水路の生物多様性を守る

水田や周辺水路の改修などにより、淡水魚をはじめ、水辺の生きものの多くが絶滅の危機に陥っています。

そこでWWFは、魚類や貝類の専門家や、水路設計の専門家にご協力いただき、農作業の効率性や安全性を確保しつつ、生物多様性も守れるような水田・水路の改修・維持の方法について検討を重ね、具体的な工法と実践のためのマニュアル「水田・水路でつなぐ生物多様性ポイントブック」にまとめました。

2020年3月から、主に農政や自然保護にかかわる、地方自治体の担当者を対象に配布を行なっていますが、行政以外の方々からのお問い合わせも数多く寄せられています。

この資料は、WWFが現在、活動を行なっている九州の水田・水路における淡水生態系の保全を想定して作成したものですが、全国の水田・水路に棲む生きものたちを守る上でも十分に応用可能です。生物多様性の保全と農業の両立をめざす実践的なツールとして、今後も活用を呼びかけていきます。

【寄付のお願い】失われる命の色 田んぼの魚たちと自然を守るために、ぜひご支援ください!

奄美大島の開発問題への対応

奄美大島瀬戸内町で、アメリカの船会社ロイヤル・カリビアン・クルーズ社が計画していた大規模な港湾施設の開発計画が白紙撤回となりました。

WWFは2018年からこの問題に取り組み、国土交通省、鹿児島県、瀬戸内町、ロイヤル・カリビアン・クルーズ社に対し、計画の撤回を求めるとともに、瀬戸内町の自治体関係者や地域住民との話し合いも続けてきました。

また、鹿児島大学や地元の研究者の協力のもと、独自に海域の調査を実施。サンゴの被度(海底に占めるサンゴの割合)が高く、アマミホシゾラフグなど希少な生物が息づいていることを明らかにしました。

2019年8月、瀬戸内町の鎌田町長が、就航計画誘致の撤回を公式に発表。これは、開発に伴うさまざまな影響に懸念を示してきた地域の人々の声を真摯に受け止めた決定であり、日本のみならず国際的にも貴重な自然を守る上でも非常に大きな意義を持っています。

今後、世界自然遺産への登録も進むとみられる中、次の課題は「持続可能な観光」を実現していくこと。WWFは2020年1月、環境への負荷を抑えながら地域の収益増加を図る「持続可能な観光を考えるセミナー」を瀬戸内町で実施するなどの活動を続けています。

サンゴ礁の保全活動

奄美群島

良好な状態のサンゴ礁が残る喜界島では、サンゴ礁の恵みに支えられてきた島々の伝統的な暮らしを、文化的「資源」と位置づけ、現代のサンゴ礁保全につなげることをめざす「サンゴの島の暮らし発見プロジェクト」を実施中。2019年1月には、WWFが長年にわたって活動してきた石垣島と、喜界島との第2回視察・交流会を実施しました。

海の富栄養化などが課題となっている与論島では、2020年3月、環境教育教材『ヨロン島とサンゴ礁』が完成。与論島のサンゴ礁を未来に向けて守っていく上で何が必要か、子どもたちに考えてもらう内容で、島内の小学校に配布され、授業で活用されます。

八重山諸島

八重山諸島(石垣島~与那国島)では、急増する観光利用に伴う環境への影響が課題。そこで2019年9~12月、観光事業が、島の自然環境や暮らしにどのような影響を与えているか、実態調査を開始。石垣市在住の観光事業者、飲食業者、農業・漁業従事者、公民館関係者、石垣市議会議員、沖縄県観光関係者の方々へのヒアリングを行ないました。調査で得られた結果は冊子にまとめ、関係者に配布する予定です。

2020年2月には「陸域の開発が石垣島白保サンゴ礁に及ぼす影響」に関する詳細な資料を作成。白保で計画されているリゾートホテル建設についても、引き続き見直しを求めています。

SPOT LIGHT
センター設立20年で迎える「節目の年」

石垣島の白保にあるWWFサンゴ礁保護研究センター(通称:しらほサンゴ村)が、2020年4月で20周年を迎えました。

白保におけるWWFの活動は、センター設立よりさらに前、1980年代まで遡ります。当時はサンゴ礁を埋めて新空港を造る計画がありました。空港予定地は二転三転の末、今の場所に決まり、2013年に新空港がオープンしました。

WWFは新空港建設についても、環境への影響の軽減を求めてきました。そして2020年2月、影響を評価する調査委員会の最終会合で、生態系への影響はかなり低減されたことを確認。現在、白保のサンゴ礁は、地球温暖化や大型ホテル建設問題など、新たな課題を抱えていますが、空港建設による影響から守るという活動については、ひとつの結実を迎えた節目の年となりました。
(しらほサンゴ村 小林俊介)

自然保護に関心を持つ人を増やす

環境問題は、誰にでも関係のあることですが、何かきっかけがないと関心を寄せるまでには至らない、という人も。一方で、解決には、できるだけ多くの人が問題に目を向け、行動してくれるようになることが欠かせません。

WWFは、イベントや普及教育を通して、環境や生きものの話題に触れ、共に考える場づくりを進めています。近年では、インターネットを使った取り組みも増えてきました。

© Sawako Sakurai

地球を想う特別な時間の創出

毎年3月下旬の土曜日、午後8時30分から1時間、消灯して地球環境の今を見つめ、改善への想いを新たにする『EARTH HOUR(アースアワー)』。WWFの主催で世界各地で実施され、現地時間に合せて明かりを消すので、消灯がリレーのように地球を一周します。

2020年も、3月28日にEARTH HOURを迎えましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で関連イベントなどが世界中で中止に。それでも世界190の国と地域が参加しました。

日本では、過去最多となる1,755施設が消灯に参加。例年のような、大勢の人が集う場を作る形でのイベントは開催できませんでしたが、「#地球とつながる」をテーマに、体験型のウェブサイトを用意。モデルの前田智子さん、さかなクン、ジャーナリストの堀潤さん、JAXA宇宙飛行士の油井亀美也さんなど、多くの方にもサポートをいただいて、SNSで発信を重ね、約7,000名の方々に、EARTH HOURへの参加表明をしていただくことができました。

プラスチック問題に関する普及教育

WWFは、2017年から横浜市で、「明日の授業に活かせるESD講座」を開催しています。ESDとは「持続可能な開発のための教育」のことで、環境、貧困、人権、平和といった社会的課題の解決につながる価値観や行動を育てることが狙いです。

WWFはこれまで、地球温暖化や森林破壊をテーマに、小中高校の先生方が授業で活用できる資料の提供や、模擬体験型アクティビティの紹介を行なってきました。2019年は新たに「プラスチックごみ問題」のプログラムを追加。

このプログラムを応用し、2019年8月には、宮城県気仙沼市でもESD講座を開催しました。WWFは、三陸沿岸地域で持続可能な水産養殖業の実現を進める活動を行なっています。海洋に流出するプラスチックごみの中には、漁網やブイなどの水産業由来のものも少なくありませんが、持続可能な養殖水産物であることを示す「ASC認証」を得るには、流出した漁具の回収や廃棄物の適切な処分も求められます。 

気仙沼市での講座には、教員や市の職員の方々34名が参加。ビーチクリーンや拾ったごみの分類調査も体験していただくことができました。

行動を呼びかけるキャンペーン

2020年6月、WWFは新たなキャンペーン「気候危機で地元どうなる?未来47景」を開始しました。

「気候危機」とは、地球温暖化による気候の変化によって、災害などさまざまな影響が起き始めていることをさす言葉です。この「気候危機」を身近に感じていただくことで、温暖化をくいとめるために行動をする人を増やすことが、キャンペーンの狙いです。

キャンペーンでは、特設ウェブサイトを開設。各都道府県ごとに、その地域に起こりうる今世紀末の未来予測を見ることができるようになっています。同時に、一人ひとりにできるアクションも提示。自分にとっての「地元」が、温暖化の進行によってどう変わってしまう可能性があるのか。未来の危機を知ることで、今、行動を起こしてほしい、と呼びかけています。

候危機で地元どうなる?未来47景
SPOT LIGHT
嗅覚から広がる豊かな世界「うんことばホイール」

「においでめぐる動物園―くんくんPlanetに出かけよう―」は、動物の「ふん」のにおいを出発点に、世界の自然や野生動物を五感で感じ、理解していくという、WWFが開発した環境教育プログラムです。2019年は京都市動物園やよこはま動物園ズーラシアで開催。2020年も上野動物園などでの開催を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で中止に。

プログラムが実施できないのは残念ですが、これまでに参加してくださった方々が感じて表現した「うんことば」を視覚的に捉えられる「うんことばホイール」を公開するサイトが完成しました。「うんことば」とは? なぜ「ホイール」? 好奇心をくすぐられた方は、ぜひウェブサイトをご覧ください。
(普及啓発教育担当 松浦麻子)

においの言葉でさぐる、野生動物のこと

WWFネットワークの活動

WWFは、スイスにあるWWFインターナショナルを中心に約80カ国に事務局を置き、100カ国以上で保全活動を行なっています。いわゆる本部-支部という関係ではなく、通常は各国のWWFが、それぞれに立てた計画に基づいて活動を行なっていますが、グローバルな課題には、世界のWWFが協力して取り組みます。

FY2020年に進展が見られた活動の中から、いくつかをピックアップしてご紹介します。

©Ola Jennersten / WWF-Sweden

クロサイの個体数が回復傾向に

2020年3月、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト(p.29参照)が更新され、クロサイの個体数が5,630頭まで回復していることが示されました。クロサイは主に角をめあてにした乱獲で急激に減少。1990年代の半ばには約2,500頭になっていました。

WWFは2003年から、南アフリカで「クロサイ生息域拡張計画」に着手。地域のNGOや土地所有者の協力を得て、良好な環境が残る場所を確保し、個体数が増加した地域から何頭かのクロサイを移して、新たな生息域を作る取り組みを継続中です。これまでに13カ所、延べ3,000平方キロ*以上の生息域が生まれ、繁殖も確認されています。

それでも、クロサイの個体数はアフリカ全土で5,600頭にすぎません。密猟の脅威も依然としてあり、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で国立公園の観光収入が減り、野生動物保護のための資金や人員の不足が心配される中、個体数の回復傾向を維持していけるかが問われています。
*参考値:東京都の面積=2,194平方キロ

メコン川のダム開発停止を発表

アジア6カ国を流れる大河、メコン川の本流には、大規模水力発電用のダムがいくつも計画されています。しかし、その多くは環境への影響評価すら十分に行なわれていません。WWFは、絶滅危惧種カワゴンドウ(イラワジイルカ)に代表される河川の生物多様性や、下流域の人々の暮らしに多大な影響を与えるとして、その建設見直しを求めて活動してきました。 

2020年3月、流域の国のひとつであるカンボジア政府が、今後10年にわたってメコン川の本流にはダムを建設しないと発表。WWFはこの決定を歓迎するとともに、化石燃料にも大規模ダムにも頼らない、クリーンで再生可能なエネルギー計画の実現に向けて、カンボジア政府に協力を申し入れています。

ロシアで3つの保護区が誕生

WWFは、ロシア共和国政府に働きかけ、野生生物保護区の設立や拡張に取り組んでいます。2019年は新たに3つの国立公園の設立が実現しました。

ロシア北東部に広がるサハ共和国に設立されたのはKytalyk国立公園(約1,886平方キロ)。Kytalykとは、この地が貴重な営巣地となっている希少種ソデグロヅルの現地名です。

アムール川流域でWWFの支援により設立された3番目の保護区となったのがTokinsko-Stanovoy国立公園(約2,350平方キロ)。先住民の伝統的な暮らしを守りつつ、野生生物保護との両立を図っていく場所となります。

カスピ海西岸のダゲスタン共和国で設立されたのはSamurskiy国立公園(約500平方キロ)。ペルシャヒョウやシャモアの重要な生息地である沿岸林の保全をめざします。

ジャガーの保護に新しい枠組み

3年に一度の割合で開かれているボン条約(移動性野生動物の種の保全に関する条約)の締約国会議。その第13回会議がインドで開催され、アジアゾウやアホウドリなど7種の動物が、厳格な保護を求められる「附属書I」に追加されました。中南米に生息するジャガーも含まれています。

野生動物の多くは、季節などに応じて長距離を移動しつつ暮らします。そのため、複数の国が協力して保護を図ることが欠かせず、ボン条約はそのための重要な枠組みといえます。

第13回会議は、渡り鳥の違法な捕殺や取引を防ぐための対策強化などにも合意。WWFが長年にわたって求めてきたことの一部が実る形となりました。

未来へつながる生活向上プロジェクト

フィジー共和国のヤサワ諸島で、3年間にわたって実施してきた生活向上プロジェクトが無事に終了しました。

このプロジェクトは、地域の人々を対象に、持続可能な農業のやり方や、気候変動による災害への備えなどを学ぶ機会を提供するとともに、太陽光発電装置の導入も実施。貴重な収入源であるココナツの加工や食品の保存に必要な電力が得られるようになりました。

森や海から得られる天然の資源を地域の人々が保全・管理し、後の世代へ伝えていけるよう、また温暖化の進行で激しさを増す気象災害からコミュニティを守れるよう計画されたプロジェクトは、地球上に持続可能な社会を増やしていく確実な一歩となっています。

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Beautiful Destinations / @Beautiful Destinations

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