ボルネオ島の森を守る!パーム油の小規模農家との取り組み
2020/06/29
【動画】ボルネオ島の森を守る!パーム油の小規模農家との取り組み
切り開かれていくボルネオの森
インドネシア、マレーシア、ブルネイと3つの国が領するアジア最大の島、ボルネオ島。
地球の陸地面積のわずか1%でしかないこの島には、地球上にいる動植物の約5%の生息が確認されています。
そんな生物多様性の宝庫であるボルネオ島の熱帯林は、急激な破壊と変化にさらされています。
島の沿岸から内陸にかけて広がる熱帯林が、大規模に切り拓かれ、エビを養殖するための池や、紙・パルプ用の植林木を生産するための植林地(プランテーション)などが開発されているのです。
中でも、森林破壊の最大の要因の一つとなってきたのが、パーム油を生産するためのアブラヤシ農園の拡大です。
パーム油とは?
アブラヤシの実が原料となるパーム油は、現在、世界で最も多く使用されている植物油です。
日本への年間輸入量は約80.5万トン、そのうちの8割が加工食品に用いられています。
ポテトチップスやインスタントヌードルなどの揚げ油、またパンやお菓子などに利用される一方で、洗剤や化粧品、バイオ燃料と、幅広く使われている油です。
パーム油の生産が、貴重な生きものがすむ熱帯林を破壊する原因になっていると知ると、「パーム油は悪い」「パーム油を使わなければいい」と考える方も少なくないかもしれません。
しかし、パーム油の使用を止めると、さらなる森林破壊が引き起こされる可能性があります。パーム油は、単位面積あたりでもっとも多く生産できる、効率と汎用性の高い植物油だからです。
生活必需品であり、大量に必要とされるこの油を、パーム油以外の植物油で補う場合、その代替作物を栽培するため、現在よりも数倍から数十倍もの広大な農地が必要となるかもしれません。そうなれば、森林破壊の問題がまた別の地域で深刻化してしまう恐れがあるのです。
つまり、パーム油の生産に伴う森林破壊の問題を解決するには、パーム油の利用をやめるのではなく、その生産方法を改善することが、何よりも重要なのです。
持続可能に生産することができるパーム油
この取り組みに向け、WWFジャパンは、次の2つの活動を実施しています。
- 生産国が持続可能性を担保できる方法で、パーム油を生産していくこと
- 消費国である日本が、持続可能なパーム油を積極的に選んで利用していくこと
そして、生産国と消費国、双方からの活動を進める上での一つの手段となるのが、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)による国際的な認証制度です。
これは、森林破壊などの環境的な課題を解決するだけでなく、労働面での安全性や、人権侵害などへの社会的な課題にも貢献する方法で生産された、持続可能なパーム油を認証し、普及させてゆくものです。
実際、大企業の運営する農園が、こうした持続可能なパーム油の生産に取り組む事例は、近年増えてきています。
しかしその一方で、世界のパーム油生産量の約4割を担う、家族経営の小規模農家の人々は、資金的、技術的な課題が多く、こうしたRSPO認証の取得が困難な状況が続いていました。
小規模農家が抱えている問題
特定の企業と契約を結んでおらず、適切な販路が確立できていない、独立した小規模農家には、アブラヤシの良い苗の入手方法や、栽培・収穫方法など、基本的な情報と知識が不足しています。
その結果、生産効率の悪さをカバーしようと、収穫量を上げるために、農園を拡大し、各地で森林破壊が引き起こされてきました。
WWFが森林保全に取り組むボルネオ島の西カリマンタン州メラウィ県も、こうした問題が深刻化している地域の1つ。地方政府もこの状況を把握しきれていない状況でした。
そこで、WWWFジャパンはWWFインドネシアと共に、この地域の農家と地方政府、双方への働きかけを2018年から開始。小規模農家の人々を集めた組合を作り、パーム油の生産を持続可能なものに切り替えてゆく活動を進めてきました。
西カリマンタン州メラウィ県の取り組み例
こうした取り組みを進めるためにはまず、基本的な情報を整理する必要があります。
小規模農家が、自主的に「持続可能なパーム油の生産」を実践し、県政府がそれを普及できるようになるためには、まずどこが農地として開発していい土地で、どこが森なのかという区切りも、明確でない場合が多いためです。
実際、WWFが活動を開始するまでは、メラウィ県では小規模農家が所有する農地を示す地図も存在しませんでした。
そこで2019年12月、結成した農家グループにGPSの専門家をつけ、各々の農地を計測し、地図を作成。
また同時に、この2つの村だけでなく、メラウィ県全体で、どこに保護価値の高い自然が残されているのかを調べるために、県政府と共に、チームを立ち上げ、調査を実施しました。
その結果、県の約52%の土地に、保護価値の高い自然が残っていることが確認されています。
こうした自然を避けながら、荒廃した土地にアブラヤシ農園を広げることに問題はないため、今後は県政府と協働して土地利用計画を策定します。
また、県政府の職員には、小規模農家への正しい農業指導ができるよう、トレーナーを育成・増員する予定です。
取り組みの現場から
買いたたかれる小規模農家の挑戦
「ディシニ(こちらです)」少し恥ずかしそうに笑いながら、自家農園を案内してくれたのは、6年前に西カリマンタン州のメラウィ県で、アブラヤシ農園をはじめた小規模農家のジャスマンさんです。
通常であれば、苗を植えて3年で大きな実が毎月収穫できるようになるアブラヤシ。
しかしジャスマンさんの農園では、6年たった今でも木に大きな実はなりません。
原因は、適切な量の肥料を与えられていないこと、また知らされないまま、質の悪い苗を購入してしまったことが考えられます。
なんとか収穫できた小さな実を、搾油ができる工場へ販売したいジャスマンさんですが、運ぶトラックなどがない上に、工場が設定した最低買取量には達しておらず、直接取引してもらえません。
唯一の買い手となる仲介業者からは、安く買い叩かれてしまうため、農園経営は苦しい状況にありました。
小規模農家が増えている地域をターゲットに
ジャスマンさんが住む西カリマンタン州の熱帯林は、このまま何もしなければ、2030年までに4%まで減少することが見込まれています。
特にメラウィ県は、ブキバカブキラヤ国立公園をはじめ、オランウータンやセンザンコウなどの絶滅が心配される野生生物がすむ、手つかずの熱帯林が残されている地域です。
無秩序なアブラヤシ農園開発が引き起こしてきた沿岸から内陸にかけての森林破壊を、ここで断ち切る必要がありました。
WWFの調査からメラウィ県では小規模農家が更に増えていくことが予測されています。
そして県政府側も現状がどう変化しているのか把握しきれておらず、どのような対策を施せばいいのか悩んでいる状態でした。
この活動は、アブラヤシの小規模農家と、県政府をサポートし、持続可能なパーム油の生産体制を築き上げることを目指しています。
独立した農家が、手を取り合ってできること
メラウィ県内では、まず二つの村(ナンガピノン村とスマディン・レンコン村)を活動支援の地として選定しました。
どちらも、比較的最近アブラヤシ農園を始めた人々が多い村です。
活動の中では、村内で模範となるモデルケースを作ると同時に、県政府が主体的に他の村の小規模農家へそのモデルケースを普及できるよう計画しています。
2019年7月~8月にかけては、まず2つの村の農家や村長、県政府を招き、この活動に関する説明会を実施しました。
また、小規模農家が抱える問題や、農家がどのような研修を必要としているかを把握するため、ヒアリング調査も行なっています。
調査からは、多くの農家が環境破壊に関して問題意識を持っていること、村民が慣習的に利用する暮らしに欠かせない水源となる森があることも確認できました。
ヒアリングを通しては、アブラヤシ農園の運営に関して、多くの農家が栽培のノウハウがないまま、計画性もなく始めていることが判明しています。
また、各農家の資金が不足しており、アブラヤシの栽培を一番大きく左右する、良質な苗と肥料が必要な分、購入できていないこともわかりました。
そこで、2019年9月に、2つの村から3つの農家グループを結成、各農家から資金を出し合いながら、肥料などを購入し、計画的に収穫することを目指しています。
結成したグループでまとめて収穫し、工場に卸せるようになれば、仲介業者に買い叩かれている現状を打破できる可能性も生まれてきます。
これまで、各々の農園で運営をしていた村の人々が、グループとなって農園を運営し、持続可能な生産方法を身に着けてゆくにはまた、さまざまな知識が必要となります。
そのため、2019年11月には、組織運営のためのノウハウを学ぶ研修を実施しました。
今後もさまざまなトレーニングを受けながら、グループでの自立への道を目指し、RSPO認証の取得を目指して、取り組みを進めていきます。
トレーニングに参加した支援先の村長、クマディアニさんからのメッセージ
私たちはこれまで、見よう見まねで、近所の人から聞いた話だけをたよりに、アブラヤシの栽培を始めてきました。実際のところは、どう栽培したらいいか、誰も詳しく知りませんでした。WWFのトレーニングを通じて初めて知ることがたくさんありました。経験に勝る知識が得られたし、何より村で一丸となって村の森を守るプロジェクトに参加できることが嬉しいです。
現場を担当するWWFスタッフからのメッセージ
WWFインドネシアフィールド担当者 ムナウィル ムハンマド
「WWFのことも、自分のことも、誰も知らない環境で」
一人で奥地の村を訪問し、信頼を得ながら、守るべき森を守れるようになることには、言葉にならない難しさがあります。アブラヤシを生産して暮らしを立てている人々に「森や生き物守ろう!」と呼びかけるだけでは、話にならないからです。彼らが抱える課題を理解し、私たちの懸念を理解してもらいながら、一緒に取り組むことで、初めてスタートラインに立つことができます。このプロジェクトが発足してもうすぐ2年、県政府の参画も得ながら、少しずつ成果がでてきました。日本のみなさんにも引き続きご注目いただき、応援していただけたら嬉しいです。
自然保護室 森林グループ 現場担当 天野陽介
「ごま油や菜種油のように、実物が売られているわけでもなく、原材料表記では別の名前で記載されてしまうことが多いパーム油。日本では、なんだか遠い存在のように感じてしまうかもしれません。でも、小規模農家の皆さんと会う中で、アブラヤシ農園を始めたきっかけを聞いてみると、アブラヤシで収入をあげて、家族を楽にさせたい、旅行に連れてってあげたい、といった思いを話してくれました。みなさんにも同じような気持ちを、家族に抱いたことがあるのではないでしょうか?こうした生産現場の状況を改善する大きな一歩は、環境に配慮した商品を、日本で選ぶことから始められます。日本にもRSPO認証の商品は棚に並び始めています。目にしたときはぜひ手に取ってみるところから、現地で持続可能な生産に取り組む農家の皆さんを応援してください。」
地球から、森がなくなってしまう前に。
森のない世界では、野生動物も人も、暮らしていくことはできません。私たちと一緒に、できることを、今日からはじめてみませんか?