©TRAFFIC

日本の希少種63種が新たに法律上の保護対象に

この記事のポイント
2020年2月、日本に生息・生育する希少種63種が新たに「種の保存法」の「国内希少野生動植物種」に指定されました。この中には、国民や自然保護団体が保全対象の候補となる野生生物を提案できる「新制度」により指定された種が含まれています。また、この63種のうち、トウキョウサンショウウオ、カワバタモロコ、タガメは、販売目的の捕獲や譲渡のみ禁止される「特定第二種国内希少野生動植物種」に新たに指定されました。「種の保存法」を通じた日本の自然保護の現状と課題を解説します。

「種の保存法」に基づいた「国内希少野生動植物種」の指定

2010年に、名古屋で開催された、生物多様性条約第10回締約国会(CBD-COP10)から、10年目にあたる2020年の初め。

生物多様性の保全の現状が注目される中、日本でも絶滅危惧種の保全に向けた大きな動きがありました。

日本に生息・生育する希少種63種が、2020年1月17日の閣議決定を経て、新たに「国内希少野生動植物種」に指定され、2020年2月10日から施行されたのです。

この「国内希少野生動植物種」は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」に基づいて指定されるもので、日本の国内に生息する野生動植物が対象となっています。

現在の指定種数は、新たに加わった63種を含め、約350種。

これらの野生生物はいずれも、国の法律によって、個体の捕獲や譲渡が原則禁止されており、違反すると罰則が適用されます。

これまでにも、「国内希少野生動植物種」の指定種は、たびたび追加、時には削除が行なわれてきました。

しかし今回の指定に関しては、特に次の2つの点において、日本の自然保護の新しい展開ともいえる要素がありました。

  • 【進展:1】国民が直接参加できる「提案募集制度」による初めての指定
  • 【進展:2】販売目的のみ禁止する「第二種」希少種を初めて指定

また一方で、今後に向けた課題があることも、あらためて明らかになりました。その主な内容は、次の2つです。

  • 【課題:1】確実に「種の保存法」が執行できる体制の欠如
  • 【課題:2】未だ指定されていない絶滅危惧種への対応

このそれぞれに注目してみましょう。

【進展:1】国民が直接参加できる「提案募集制度」による初めての指定

2017年の「種の保存法」改正で、「提案募集制度」が新たに導入されました。

この制度は、WWFジャパンなどの提言により成立したしくみで、一般国民が、捕獲や譲渡の禁止対象となる「国内希少野生動植物種」の候補種を国に提案できるというものです。

「絶滅危惧種の保存を多様な主体と連携しつつ推進する観点から、国内希少野生動植物種に係る提案を広く国民から募集する」(種の保存法第6条2項に基づく希少野生動植物種保存基本方針 第三)という方針のもと、導入されました。

この制度の導入により、日本に生息・生育する野生生物のうち、どの種を法律で規制するべきかについて、民間の個人や団体が、国(環境省)に対し直接提案できることになりました。

その最初の提案の受け入れが、環境省により、2019年1月10日から2月28日までの間、「国内希少野生動植物種の選定又は解除に関して提案の募集」として行なわれ、日本各地から提案が寄せられました。

環境省ではこれらの提案をふまえ、今回新たに「国内希少野生動植物種」に指定する63種を選定。国民や自然保護団体が直接関与する形で、法律で保全する野生生物が決定された初めての事例となりました。

【進展:2】販売目的のみ禁止する「第二種」希少種を初めて指定

2017年の「種の保存法」改正では、もう一つ新たな要素として、「特定第二種国内希少野生動植物種(第二種)」というカテゴリーが設けられました。

「第二種」とは、国内希少野生動植物種のうち、主要な生息・生育地が消滅・悪化しつつある一方で、個体数が著しく少ないものではなく、かつ繁殖による個体数の増加が見込まれる種が指定されるもの(種の保存法第4条6項)。

そのいちばんの特徴は、その他の指定種と異なり、「販売目的」ではない捕獲等であれば、法的に禁止されない点です。

このカテゴリーが用意された背景には、近年、里山や水田など人の手が加わることで成立し維持されてきた「二次的自然」に生息する野生生物が数多く、絶滅の危機に追い込まれている現状があります。

こうした生きものたちは、かつては身近に見られた、親しみを感じる人も多い野生生物。野外での観察会などを通じ、子どもたちが触れ合う機会の多い生きものでもあります。

そこで、調査研究のための活動や環境教育的な視点から、「販売目的」を除き、捕獲などの行為を認めるため、「第二種」は、これまでの「国内希少野生動植物種」とは別の扱いのカテゴリーとして設けられたのです。

今回新たに63種に含まれる形で、「第二種」初の事例として指定された野生動物は、トウキョウサンショウウオ、カワバタモロコ、タガメの三種でした。

カワバタモロコ

カワバタモロコ

第二種に指定されたタガメ
©Taichiro Oda

第二種に指定されたタガメ

これらはいずれも、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に選定されていますが、本来は身近に見られた生きものたち。まさに「第二種」の扱いをもって、保全の対象とすべき野生生物です。

これらの三種については、今まで禁じられてこなかった販売目的の捕獲等が新たに禁止されることになった点で、保全に向けた前進が見られたといえます。

また、減少の危機にあるのは、里地・里山など二次的自然そのものともいえます。

こうした人の生活に近い自然と、身近な野生生物との関係を考え、理解を広げていく上で、この「第二種」のカテゴリーをどう活用し、どのような動植物を指定していくかは、日本の自然保護の今後を考える上で、重要なポイントといえるでしょう。

【課題:1】確実な法執行を可能にする体制の欠如

今回の国内希少野生動植物種の追加指定は、日本に生息・生育する希少種を保全する上での一つの前進として評価できます。

しかし、ただ指定種を決めるだけで、その生きものが守られるわけではありません。

実際、WWFジャパンの野生生物取引調査部門TRAFFICでは、2018年5月に発表した報告書『南西諸島固有両生類・爬虫類のペット取引』等の中で、国内希少野生動植物種を含む、日本固有の希少な両生・爬虫類の違法取引が多発している可能性を指摘してきました。

「種の保存法」では、国内希少野生動植物種を捕獲、譲渡、輸出入等した違反者に対し、5年以下の懲役や500万円以下の罰金を科すことを定めています(種の保存法第57条の2)。

しかし、実際に「種の保存法」違反で摘発される事案は極めて少数にとどまっており、十分な抑止力になっていない点は否めません。

野生生物の密猟や違法取引が取り締まられ、法律が確実に執行される体制が、現状で十分に確立できていないことは、大きな課題といえるでしょう。

【課題:2】未だ指定されていない絶滅危惧種への対応

「種の保存法」の現状をめぐる、もう一つの大きな課題は、未だ法的な保護が及んでいない絶滅危惧種が数多くいるという点です。

今回の追加指定種を加えた、日本の「国内希少野生動植物種」は、約350種。

一方で、2019年の環境省のレッドリストに、絶滅危惧種として掲載されている種は合計3,676種にのぼります。

レッドリストへの掲載は、あくまで絶滅の恐れを指摘するもの。
法的な保護の対象とするには、「種の保存法」における「国内希少野生動植物種」などに、別途指定される必要があります。

そして、レッドリストの掲載種数とこの国内希少野生動植物種の数の間に見られる差は、日本の自然保護、野生生物保護にまだ大きな課題が残されていることを示しています。

法律上の保護を含む何らの保全策も講じられないまま、絶滅していこうとしている野生生物が、日本国内にも生息・生育している、ということです。

今後、全国の市民や自然保護団体からの「提案」にも真摯に耳を傾けながら、新たな保護の対象種を定め、実際に現場で保全や調査に携わる人材、体制をどのように整えていくかが問われています。

WWFの取り組み ~生物多様性にとって重要な2020年に

WWFジャパンはこれまで「種の保存法」をめぐる取り組みとして、法改正にあたっての提言や、改正案の提示、さらに法の施行に向けた提言などを、長年にわたり、繰り返し行なってきました。

その中で、求めてきた「提案募集制度」が実現し、今回ついに、その提案を受けた国内希少野生動植物の選定が行なわれたことは、保全活動上の大きな一歩となるものです。

そして、この「提案募集制度」の中で今回、WWFジャパンは、日本の固有種を含めた合計10種の野生生物の指定を提案。

国内外でペット取引の対象となっている南西諸島固有の爬虫類と、近年急激に消失・劣化が続いている水田の生態系に生息する淡水魚を、専門家の助言を参考にしつつ、新たに国内希少野生動植物に加えるよう、独自に求めました。

結果、全ての提案が認められたわけではありませんでしたが、沖縄のリュウキュウヤマガメなどはじめとする5種が、国内希少野生動植物種として選定され、今後、国の保護動物となることが決まりました。

リュウキュウヤマガメ
©TRAFFIC

リュウキュウヤマガメ

また、世界自然遺産登録をめざす南西諸島では、密猟取り締まりのため、地元の方々を含むさまざまな主体が協力し、保全の確実な実施に向けた動きを見せ始めています。

ここに関わっているのは、地域住民、自治体、行政、警察司法、研究者、企業、NGO/NPOなどの多様な関係者。WWFジャパンも、こうした方々との協力のもと、新たな活動を進めようとしています。

2020年は、世界の生物多様性をまもる上で大変重要な年です。

10月に中国で開催される、生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)では、2020年を目標年とする「愛知目標」の達成状況が明らかにされ、それを踏まえて2030年までの次期目標について議論されます。

また夏には、一度登録延期となっている奄美大島:徳之島・沖縄島北部・西表島の、ユネスコ世界自然遺産登録の審査結果が発表されます。

そうした中で、日本が自国の法律を整え、その執行を確実なものとし、世界的にも希少な種を含めた在来の野生生物を守ることができるか、国際的にもその動きは注目されることになるでしょう。

WWFジャパンも引き続き、日本の生物多様性保全を実現するための活動として、この課題に取り組んでゆきます。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP