インドネシア スマトラ島の熱帯林の減少
2019/05/14
スマトラ島の熱帯林と野生生物
日本から飛行機で約8時間のところにあるインドネシアのスマトラ島。
島といってもその面積は、約4,736万ヘクタール。これは日本の面積の1.25倍ほど広さで、世界でも6番目に大きな島です。
ほぼ手付かずの熱帯林に覆われ、多くの野生生物の命を育んできたこの島は、古くから多様な民族が森とともに暮らしてきた場所でもあります。
スマトラ島には15,000種以上の植物、201種の哺乳類、580種の鳥類も確認されています。
特に島固有の亜種であるスマトラトラ、スマトラゾウ、スマトラサイ、スマトラオランウータンは、どれも絶滅が危ぶまれる絶滅危惧種に指定されています。
しかし1980年頃から、この貴重な熱帯林は、著しい減少が続いています。
1985年には島の面積の58%にあたる2,530万ヘクタールの熱帯林が広がっていましたが、2016年には1,040万ヘクタールにまで減少。つまり過去30年間で半分以上の熱帯林が失われたのです。
とりわけ減少が著しいのは、島東部の平地の広がる地域です。
開発から免れ、比較的多くの熱帯林が残るのは、島西部の沿岸沿いに位置するバリサン山脈の周辺です。
熱帯林減少の要因
この急激なスマトラ島の熱帯林の減少に大きく関わっているのが、紙とパーム油です。
広大な平地が広がる地域では、いわゆるプランテーション(大規模農園)といわれる、紙の原料となるアカシアやユーカリを植える植林地やパーム油を生産するためのアブラヤシ農園の開発が進められてきました。
今やスマトラ島は、世界の製紙、パーム油産業の一大拠点となり、周辺で原料調達、製造された原料や製品はインドネシア国内だけでなく日本を含む世界中に輸出されています。
単一の樹種のみを大規模に植えることになるプランテーションは、かつてあった熱帯林と同じように緑に覆われていたとしても、自然環境的にはまったく性質の異なるものです。もちろんトラやゾウといった生き物が、安全に生きていくことはできません。
さらに、こうした理由ですみかを失った野生生物が、プランテーションや村落で人に殺されたり、大幅に縮小したことで、人が入りやすくなった森で密猟にあうなど、野生生物は窮地に追いやられています。
またプランテーション開発は、熱帯林の減少の要因となるだけでなく、別の大きな被害にもつながります。それは、泥炭湿地と呼ばれる、地中に大量の炭素を含む熱帯性の湿地で起こる火災と、その煙による被害(煙害)です。
WWFの森林保全活動
このスマトラ島の自然を保全するため、WWFはさまざまな森林保全活動を行なっています。
(1)テッソ・ニロの森林保全
島中部の森林減少が深刻な地域にあるテッソ・ニロ周辺は、世界屈指の生物多様性の高さを誇る、WWFが特に力を入れて保全に取り組んできた地域です。ここでは、スマトラゾウの重要生息地となっていることから、これ以上の森林減少をくい止めるためのパトロールや、地域の人々が森を守りながらも生計をたて、暮らしてゆけるようにするための持続可能な農業やエコツアーといった代替産業の支援を行なっています。
(2)ブキ・バリサン・セラタン国立公園の保全
スマトラ島の南端に位置し、起伏に富んだ山間にあるブキ・バリサン・セラタン国立公園には、絶滅のおそれの高いスマトラサイ、ゾウ、トラや「幻のウサギ」と言われるほど珍しいスマトラウサギなどの野生生物が多く生息しています。また「スマトラの熱帯雨林」として、ユネスコの世界自然遺産にも指定されており、WWFは、ここで密猟を防止するためのパトロールや自然の森を再生するための植林などを行なっています。