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SBTiが新基準のドラフトを公表!

この記事のポイント
企業の温室効果ガス排出削減のための国際スタンダードであるSBTiが、2025年3月18日、ネットゼロ基準の改定案を公開しました。最新の科学や優良事例、そしてこれまで得られてきた知見を基に、包括的な改定がなされています。SBTiでは2025年6月1日まで、意見・コメントを募集しています。より効果的で実効性のある基準を作り上げるために、企業や関連するステークホルダーがアイディアを出しあっていくことが非常に重要です。
目次

企業脱炭素の国際スタンダードSBT

科学による羅針盤、SBT

企業が科学に基づく温室効果ガス削減目標(SBT : Science Based Targets)を策定することを支援する国際イニシアティブであるSBTi。
2015年に取り組みが始まって以降、全世界でSBT認定を取得した企業、または2年以内に取得することを約束(コミット)した企業は急速に増えてきており、2025年1月にはその数は世界全体でついに10,000社を超えました。さらに2024年8月には、日本が認定取得・コミットした企業の数で世界1位となっています。

関連情報:SBTiとは
関連情報:日本企業SBT認定・コミット数が世界1位に
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図:SBTiにおける企業ネットゼロの考え方(出典:SBTiガイドラインをもとにWWFジャパン翻訳・一部編集)

図:SBTiにおける企業ネットゼロの考え方(出典:SBTiガイドラインをもとにWWFジャパン翻訳・一部編集)

新ネットゼロ基準の改定の背景とは

最新の科学やベストプラクティスを反映

SBTiでは、2021年に最も重要な基準である企業ネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard)を発表しました。

企業にとって「ネットゼロ」とは何か、そしてその達成のために企業はいつまでにどれだけの量の温室効果ガス(GHG)を削減する必要があるのかを示しました。2025年3月現在で、全世界で1,600以上の企業がネットゼロ基準でSBT認定を取得しています。
一方で、2021年のネットゼロ基準の発表以降、気候変動の世界では様々な動きがありました。例えば、2022年のCOP27では国連グテーレス事務総長が率いる専門家グループが非国家主体にとってのネットゼロに関する報告書を発表し、企業や自治体といった非国家主体にとってのネットゼロとはどうあるべきかという議論に大きな進展が見られました。

また、2023年にはIPCCの第6次統合報告書が発表され、科学的知見もアップデートされました。
こうした最新の科学や優良事例(ベストプラクティス)をネットゼロ基準に統合することが求められていました。

関連情報:企業が知っておきたい国連による「ネットゼロの定義提案書」(COP27で発表) ~業界団体のロビー活動やクレジットにご注意~
関連情報:IPCC報告書AR6発表「2035年までに世界全体で60%削減必要」

企業の経験から見えてきた課題

また、実際にネットゼロ基準の運用が始まり、企業の認定数も増える中で、改善が必要な点も見えてきました。

特に、多くの企業にとって削減が難しいとされるスコープ3(調達する原材料に関するGHG排出や販売した製品の使用時のGHG排出など)については、どうすればより効果的に実効性のある削減を進めることができるのか議論がされてきました。

加えて、目標に対する実際のGHG削減の進捗評価の方法や関連するその他のイニシアティブとの関係性の整理も求められていました。

新ネットゼロ基準のドラフトが公表

包括的な改定

こうした背景を踏まえ、SBTiでは2024年5月から2025年3月にかけて、ネットゼロ基準の包括的な改定のための論点の整理や最新論文の収集、専門家による議論やワークショップ等を重ね、今般、2025年3月18日にネットゼロ基準第2版改定版のドラフトを公表しました。

この改定により、目標設定に主眼を置いたツールであったSBTiが、その進捗評価や目標達成といった部分にも役割を拡大し、より包括的なツールに進化しようとしているとも言えます。また、これまで企業にとって大きな課題だったスコープ3の削減についても、企業が取り得る手段をより明確にしたり選択肢の幅も増やす方向性です。

主な変更点

SBTiが示した資料によると、主な変更点は以下です。

  • 地域や企業の規模による要件の変更(カテゴリゼーション)
  • GHG削減目標の進捗評価のサイクルを提示
  • IPCC第6次評価報告書に基づく最新の科学に基づく削減モデルを採用
  • これまでまとめられていたスコープ1・2の目標を別々に設定すること。
  • スコープ3目標の対象範囲における排出の関連性(Relevance)の概念を導入することや、整合性目標(例:ネットゼロに整合した調達の割合)をより強調
  • 追跡(トレース)が難しい排出源に対処するため間接的な緩和方法などの柔軟性の追加
  • 残余排出量に対処する方法や最低限の耐久性要件の案の提示

関連基準にも影響

また関連して、ネットゼロ基準以外の既存の基準の構造にも改正が加わり、中短期の目標設定のための基準や中小企業向けの基準は基本的にネットゼロ基準に統合される予定です。中小企業の目標設定は上記のカテゴリゼーションの仕組みにより、引き続き一定の簡素化が適用される予定です。

改定に向けたタイムライン

基準の改定案は公表されましたが、まだこれで全ての内容が決定したわけではありません。改定案にはまだ解が明確に示されていない技術的な点も残っています。こうした点は、企業や関連するステークホルダーがともに解決の方向性を議論していくことが重要です。

SBTiでは現在、新基準案について意見・コメントを2025年6月1日まで募集しています。

また2025年4月9日には概要を説明するウェビナーも予定されています。

寄せられた意見やコメントを基に、再度、専門家による検討がなされ、改定案に磨きをかけるとともに、実際に企業による実証運用もされる予定です。

こうしたプロセスを経て、最終版は2026年頃に公表、移行期間を経ながら順次運用が開始されていく見込みです。

アイディアを出しあって作り上げるネットゼロ基準

SBTiネットゼロ基準は企業の気候アクションの方向性を位置づける重要な国際スタンダードです。どうすれば、より効果的で実効性のある基準になるのか。企業や関連するステークホルダーがアイディアを出しあっていくことが非常に重要です。

新基準案の詳細や意見・コメントの提出、概要説明ウェビナーへの参加登録等はSBTiの以下のwebページからできます。SBT取得をリードする日本企業としてもしっかりと声を上げることが重要です。ぜひ積極的にご参加ください。

関連情報:SBTiネットゼロ基準改定ウェブページ(外部サイト・英語)
関連情報:SBTi概要説明ウェビナー(外部サイト・英語)

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