動物愛護法施行規則について意見書を提出!
2020/02/12
動愛法の改正と運用
イヌやネコ、さらには鳥やトカゲなど、日本ではさまざまな生きものが、ペットとして飼育されています。
こうした動物の飼育管理と責任を定めた法律として「動物の愛護及び管理に関する法律(動愛法)」があります。
この動愛法は、2019年に改正され、改正動愛法が2020年6月から施行されます。
動愛法は国会が定めた国の法律。
動物の飼育における権利や義務が定められ、強い拘束力を持ちます。
国会で定められる法律は、例え些細な変更であったとしても、国会の審議を受け、可決することが求められるため、数値基準や手続き方法などの規定は定められていません。
そのため、法律で規定しきれない細かい事項を明らかにした「政令(内閣が定める)」や具体的な手続きなどを「省令(各省の大臣が定める)」で定め、法律を運用していくことになっています。
政令や省令は、法律の目的や考え方を社会に反映させる役割を持っていることから、法律自体が改正されると、それまであった省令などにも影響が及び、必要に応じてその内容も改正されます。
動愛法においても、「省令」である「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則(動愛法施行規則)」が、環境大臣によって定められていますが、先に行われた動愛法の改正を受けて、施行規則も改正に向けた準備が進められています。
動愛法施行規則の課題
2019年に行なわれた動愛法の改正では、展示や販売などの目的で動物を取り扱う事業者の適正化と動物の不適切な取扱いへの対応強化が盛り込まれました。
これによって、動物を取扱う事業者に求められる資格や能力の要件、事業を行う上での責任が厳しく求められることになったのです。
しかし「動愛法」自体が改正されても、同時に見直される「動愛法施行規則」の基準や手続きの中にこの改善点が反映されなければ、法改正は意味を成しません。
2019年12月に環境省から公開された「改正動愛法施行規則」の素案は、残念ながら改正法の意図を十分に実現できる内容とは言い難いものでした。
そこでWWFでは、この素案に対し、主に次の3つの課題を指摘しました。
- 課題1 第一種動物取扱業者の登録拒否事由
- 課題2 帳簿の記載方法
- 課題3 動物取扱責任者の選任要件
課題1 第一種動物取扱業者の登録拒否事由
問題点 | 不正な行為が疑われる事業者の登録を排除する「おそれ規定」の仕組みが機能しない。 |
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改正動愛法の内容(該当部分) | ペットショップでの動物の販売、動物園の展示、ペットホテルといった保管など、業として営利目的で動物を取扱う人は、事業所を管轄している地方自治体において「第一種動物取扱業者」の登録を受けなければならない、ことが規定されている。 改正では、第一種動物取扱業者の登録において、「不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」の定義を環境省令で定め、その者の登録を拒否するという、いわゆる「おそれ規定」を設けた。 |
改正動愛法施行規則の課題点 | 「おそれ事項」に該当する者は、登録取消しの処分通知を受けた者など極めて限定的な形で設定。「おそれ規定」が十分に機能しないことが懸念される。 |
改善策 | 動物取扱業に関連する法律に違反し、罰金刑以上を処せられているような者は、おそれ条項の対象に含めるなど、第一種動物取扱業者の登録の要件を厳格にすべき。 |
理由 | ・近年、国際条約で取引が規制されている動物を許可なく輸入する密輸事件が相次いでいる。 ペット販売事業者や卸売事業者など第一種動物取扱業者が密輸事件に関与しているケースが少なくない。実際に密輸を繰り返している者も確認されている。 ・動愛法には、都道府県知事は、第一種動物取扱業者が動愛法違反など行った場合、その登録を取り消すことができるという規定がある。 しかし、この取消措置は、執行者である都道府県知事の判断に委ねられており、取消要件に該当する事業者の登録が必ずしも取り消されるわけではない。 動愛法に違反しても、引き続き事業を継続できる可能性があることから、この「おそれ規定」の厳格化によって密輸の再犯を防ぐ必要がある。 |
課題2 帳簿の記載方法について
問題点 | イヌ、ネコ以外の動物、特に野生動物でペットととして扱われている個体のトレーサビリティができない。 |
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改正動愛法の内容(該当部分) | 販売、貸出し、展示等を業として行なう第一種動物取扱業者に、取扱い動物に関する情報を記録した帳簿を備え付けることを義務付けている。 |
改正動愛法施行規則の課題点 | 施行規則に、取扱い動物の輸入年月日や繁殖者の氏名など帳簿の記録事項が定められるが、その記録方法が、下記のように区別されている。 イヌとネコ:個体ごとに情報を記録 その他の動物:品種等ごとに情報を記録 |
改善策 | すべての動物が、個体ごとに情報管理されるべきである。 |
理由 | ・イヌとネコのみを特出し、厳しい規制を明記することは、動物を等しく扱う法の趣旨に反する。 ・動物種や品種ごとに情報管理することは、トレーサビリティをよりわかりにくくし、密輸される個体が紛れやすい状況を作り出すおそれがある。 |
課題3 動物取扱責任者の選任要件について
問題点 | 動物の生態や習性に配慮した飼育管理が実施されないおそれがある。 |
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改正動愛法の内容(該当部分) | 事業所を統括し飼育員を指導する立場にある動物取扱責任者には、「取扱う動物の十分な技術的能力及び専門的な知識経験を有すること」を求めることが盛り込まれた。 |
改正動愛法施行規則の課題点 | 展示や販売といった業種別の実務経験や知識などがあれば動物取扱責任者として任命が可能、となっている。 これでは必ずしも、改正動愛法が求める「動物の飼育や管理に関する知識」を保有していることにならない。 |
改善策 | 事業所を管理し、指導する立場にある動物取扱責任者の任命は、動物の取扱い経験や教育による十分な知識と能力を「必須」とすべき。 |
理由 | ・コツメカワウソや小型のサルなど、ペットとして飼育や取扱いが難しい動物が、イヌやネコのように飼育、展示されている。 動物種を飼育するための十分な知識や施設を有しない事業者も確認されている。 ・海外原産の動物が数多く取引されているが、こうした動物は、人間に病気を移す可能性を保有していたり、動物が遺棄されて外来生物になる状況を招いたりする可能性がある。 人獣共通感染症や生態系への影響にも配慮できる事業者だけが動物取扱責任者に任命される仕組みが必要である。 |
抜本的な改正の必要性も
どんなに素晴らしい法律が制定されても、その運用方法が不十分では、法律は全く機能しません。
この動愛法の事例がそうであるように、法律の目的をきちんと果たす上で欠かせない政令や施行規則が、重要な役割を担っている法律は、少なくないのです。
そうした意味でも今回、動愛法施行規則の改正案を作成した環境省の責任は重いといえるでしょう。
そして、その改善には、十分な審議と検討が必要です。
また、改正動愛法で定められた第一種動物取扱業者の遵守基準など、一部の規定は「段階的」に施行されていくことから、今後も動愛法がどのように施行されていくのかについては、注目していく必要があります。
さらに、省令や施行規則だけでなく、動愛法自体にも、まだ問題が多く見受けられ、その抜本的な改善に向けた取り組みも必要とされています。
たとえば、動愛法がペットとして扱っている動物の中には、野生動物も含まれており、日本でも数多く取引されていますが、その中には、絶滅のおそれがあり、国際取引が制限されている動物種もいます。
また、そうした野生動物は、ペットとして取扱いが難しく、遺棄されるケースも少なくありません。
そしてこれが、新たな外来生物となり、在来の自然環境に悪影響を及ぼすことも懸念されているのです。
それにもかかわらず、動愛法の目的には、野生動物の飼育管理や生態系への影響に配慮する規定が、盛り込まれていません。
WWFでは、こうした問題を引き続き政府や国会議員に訴え、次の動愛法改正時には、野生動物やその生息地、日本の生態系にも配慮するような法律にするよう取り組んでいきます。