© naturepl.com / Paul Williams / WWF
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WWFジャパン1年間の活動報告(2022年7月~2023年6月)

皆さまからお寄せいただいた会費やご寄付をもとに、2023年度(FY2023)もさまざまな活動を進めることができました。この場を借りて、心より厚く御礼申し上げます。自然環境の悪化をくいとめ、危機にある野生生物を守ることへ、確実につながるような変化を起こすには、何年にもわたる取り組みが必要です。その中から、この1年の間に達成できたことや、進捗したことを中心に、ご報告いたします。


FORESTS:自然度の高い森と、野生生物を守る

私たちの衣・食・住・遊を支えるさまざまなモノ。その生産が森林の過剰伐採、植林地・農園・牧草地などへの転換を招き、世界各地で自然林の減少を引き起こしています。自然林の減少はそのまま、そこに暮らす野生生物の危機にも直結します。
WWFジャパンは、日本の消費と関係が深いアジア地域を中心に、木材、紙、パーム油、天然ゴムなどの生産を持続可能なものに改善し、森と野生生物を守ることをめざしています。

「コアラの森」復活へ、大規模プロジェクト進行中

© Shutterstock / GunnerL / WWF

WWFオーストラリアでは2050年までに野生のコアラの個体数を倍に増やすという目標を立てている

2019 ~ 2020年に大規模な火災が発生したオーストラリアでは、北海道の2倍に及ぶ面積が消失したと推定されています。また、それ以前から、オーストラリアでは、都市や農地の開発、資源採掘などによる森林の減少が続いています。特にオーストラリア東部は、2021年にWWFがまとめた報告書『森林破壊の最前線』の中で、減少が著しい世界24カ所のうちのひとつに挙げられています。
WWFオーストラリアは、火災による被害への緊急対応に続いて、残された自然の徹底した保全、長期的な自然回復、気候変動の防止をめざす「Regenerate Australiaプロジェクト」を始動。地域住民を対象に、コアラと共生するためのワークショップを実施、その結果、約250名の参加を得て、ユーカリなど約10万本を、1,200ヘクタールにわたって植林するなどの取り組みがすでに動き始めています。2020年1 ~ 2月に日本全国からWWFジャパンに寄せられた約8,000万円の募金や、2021年6 ~ 9月のキャンペーン「よみがえれ!コアラの森」に対してサポーターの皆さまからお寄せいただいた約5,900万円は、これらの取り組みを推進する確かな力となっています。WWFジャパンは引き続き、オーストラリアの森林保全と回復を支援していきます。

ブラジルで2つのプロジェクト発足

© Martin Harvey / WWF

セラードに生息するタテガミオオカミ

WWFブラジルと協力して取り組む新しいプロジェクト2件が発足しました。
ひとつはアトランティックフォレスト(大西洋沿岸林)。長年にわたる開発にさらされ、かつての数%しか残っていない森の、保全と再生をめざします。
この地域は、日本を含め、世界中で消費される紙製品用の木材の一大生産地でもあることから、FSC®認証制度の普及を図るなど、環境保全や人権保護に配慮した生産を広げることも重要となります。
もうひとつは、「セラード」と呼ばれるサバンナ地帯です。ここでは牛の放牧や、輸出用の大豆の栽培を目的とした大規模開発が進行しているため、WWFは、ブラジル政府に向けて保護区の拡大などを求めるとともに、企業に対して、持続可能な大豆の調達を求めています。また、失われた自然を再生するための現地での取り組みを進めています。

ガーナのカカオ生産をサステナブルに

© WWF / Jaap van der Waarde

カカオはもともと、風や直射日光をさえぎってくれる他の樹木の陰で育つ

日本で消費されるカカオの8割近くは、西アフリカのガーナから輸入されています。日本ではこれまで、主に児童労働の問題が取り上げられてきましたが、環境面でも課題を抱えています。
カクム国立公園に隣接するアフィアソ村は、カカオ農園の拡大が起きると、保護区を含む森林が伐採されてしまうリスクと隣り合わせです。そこでWWFジャパンは、現地の団体と協力しながら、これ以上農地を拡大することなく安定した収入を得られるよう、アグロフォレストリー(農業と林業を組み合わせて行なう生産方法)の普及を進めています。まず、102世帯に計3,000本の常緑樹と30本のココヤシの苗を配布し、カカオの周囲に植える取り組みに着手。児童労働の解消に関するトレーニングもサポートしながら、3年間で支援対象を300世帯まで増やしていく予定です。

メコン地域の森と野生生物の保全

© Anton Vorauer / WWF

インドシナトラ。トラの一亜種で、生息数は200頭ほどと見積もられている

タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジアを含むメコン地域。その生態系を代表する動物であるインドシナトラの個体数調査を、2022年12月、タイの4つの国立公園で実施。密猟防止のパトロールも継続中です。2023年6月には、より広い範囲をトラが行き来できるようにするため、分断された森をつなぎ直す取り組みがスタートしました。
カンボジアの東部平原地帯では、2023年2月より、アジアゾウの保全と天然ゴムの持続可能な生産をめざすプロジェクトを開始。貧困から抜け出すために行なわれる森の開墾が、わずかに残るアジアゾウの生息地を圧迫しているため、主要産業である天然ゴムの生産性を高めつつ持続可能な形に改善することで、貧困の解消と森の保全の両立を図っています。コロナ禍で中断していたゾウの個体数や行動パターンの調査も再開。天然ゴムを扱う企業が参画する「持続可能な天然ゴムのためのグローバル・プラットフォーム(GPSNR)」の連携も視野に、多方面にわたる活動を進めています。

OCEANS:乱獲や汚染から海の生態系を守る

水産物の獲りすぎや、漁業対象でない生きものまで網にかかってしまう混獲、沿岸や浅海域の環境を大きく損なうような開発、プラスチックの流入、そして、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の横行など、海の危機が続いています。
WWFジャパンは、日本が主要な消費国となっている水産物のサステナブルな利用を推進すること、プラスチック廃棄物の発生抑制や資源循環促進などを通して、海の生態系保全に取り組んでいます。

IUU漁業根絶に向け、メディアや報道機関との連携を強化

© Cat Holloway / WWF

海の環境や人権を損なう大きな要因であり、日本にもかかわりの深いIUU(違法・無報告・無規制)漁業。WWFジャパンは、この問題の認知拡大をめざし、発信力の高いメディアや報道機関との連携を強化しています。
その取り組みのひとつとして、WWFジャパンが特別協力する、IUU漁業をテーマとした映画『ゴースト・フリート』の上映と組み合わせた講演や情報提供を実施。以降、IUU漁業に関する特集記事が通信社を通じて複数配信され、2022年9月には、NHK総合の報道番組「クローズアップ現代」でも、IUU 漁業問題が大きく紹介されました。
また、WWFジャパンと北陸中日新聞が共同で行なった、IUU漁業由来のロシア産冷凍カニに関する調査結果を、2023年1月、中日・東京新聞が1面で発信。私たち日本人が、知らず知らずのうちにIUU漁業由来の水産物を口にしてしまうリスクがあることが広く報じられました。これをきっかけに、WWFジャパンと中日・東京新聞社は、IUU 漁業の問題を解説するイベントを各地で共催。IUU 漁業がはらむ環境や人権にかかわる問題の現状と、その対応策として、水産物の認証制度や水産流通適正化法(IUU漁業由来の水産物流通を規制する法律)を強化することの必要性を、改めて訴えました。

カツオの漁獲ルールの歴史的な合意に貢献

© Shuhei Uematsu / WWF Japan

WCPFC年次会合では、WWFジャパンスタッフを含めたチームWWFが一丸となって、議論の進展を後押しした

日本を含む世界中で消費され、資源量の低下が心配されるカツオ。その最大の漁場、中西部太平洋の漁業を管理する国際機関WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)では、長年、持続可能なカツオ漁業管理のためのルール策定が進められてきました。しかし、議論は難航。2022年中にそのルールが合意されない場合、この海域で「海のエコラベル」MSCの認証が一時的に停止し、市場のMSCカツオが激減してしまう可能性も出てきました。
WWFジャパンはこれまで、国内の企業・団体と共に、WCPFCと水産庁に対し、カツオを含む熱帯マグロ漁業の管理強化を求め続けてきており、今回もまた要望書を提出。その後の2022年11月末、ベトナムで開催されたWCPFC年次会合で、ついに国際的なルール導入が決定。持続可能なカツオの漁獲管理に向けた大きな一歩を踏み出すことができました。

プラスチック汚染対策に関する日本政府の「高野心連合」加盟を後押し

© naturepl.com / Michael Pitts / WWF

プラスチック製の漁具がからみついたアザラシ

ますます深刻化するプラスチック汚染問題に際し、各国政府の間では、プラスチック汚染を根絶するための国際条約制定に向けた交渉が進められています。
2023年5月15日、WWFは日本政府に向け、特に汚染リスクの高いプラスチック製品の特定や使用禁止を含む、具体的で法的拘束力のある国際ルールに基づいた条約の制定を支持するよう、声明を発表。日本政府は、同年5月末にフランス・パリで開催された第2回政府間交渉委員会の直前に、これまで保留してきた「プラスチック汚染根絶の高野心連合」への加盟を表明しました。
WWFは引き続き、野心的で具体的な法的拘束力のある世界共通ルールに基づく条約の早期発足に向けて、日本のさらなる貢献を後押ししていきます。

国内のサンゴを守る新たな取り組みを開始

WWFジャパンは、国内のサンゴを守る新たな取り組みとして、将来にわたって重要なサンゴの生息域となることが予想される四国南側の太平洋沿岸を主な活動地域とした、新たなプロジェクトを開始しました。2023年1月には、高知県に拠点を置き、地域でサンゴの調査研究に取り組む「黒潮生物研究所」と、協定を締結。今後、同研究所とは、サンゴや沿岸生態系の調査、サンゴの保全活動、関係者に対する情報発信などについて、継続的に協働していきます。
そうした取り組みのひとつとして、2023年5月には、高知県幡多郡大月町にあるスルギの浜で、児童とその保護者を対象とした「磯の生きもの観察会」を共同開催しました。海の自然や生きものについてのレクチャーを通じて理解を深めていただいた後、実際に磯に出向き、そこで採取した磯の生きものの観察や図鑑づくりを実施。イベントを通じて、この海域の保全価値を、地域の住民の方に改めて知っていただく機会となりました。

FRESHWATER:持続可能な水環境と淡水生態系を守る

大小さまざまな河川、湖、池、沼、湿地帯など、水(淡水)をたたえた環境はとても多様です。しかしその総面積は、地球上のわずか1%しかありません。さらに、水資源の過剰な利用や開発などによって、その多くが危機にさらされています。
WWFジャパンは、日本を代表する水環境である水田の生態系の保全を推進。また、特に淡水を大量に利用し、排水の課題にも深くかかわっている繊維業界との協力を図り、水環境の改善をめざしています。

市民参加の「環境DNA調査」

© WWF Japan

他の調査地点の水が混じらないよう慎重に取水する

日本有数の水田地帯である佐賀県の有明海沿岸域は、古くから大小の水路をめぐらせた利水が行なわれ、日本固有の希少種を含む、淡水魚類の貴重な生息域となってきました。しかし近年、コンクリートで水路を固める整備が進み、淡水域の生物は減少傾向に。そこでWWFジャパンは、九州大学の協力を得て淡水魚の調査・保全プロジェクトを推進。水田・水路の生物多様性の保全と農業の共生をめざしています。
その一環として2023年6月に佐賀市東与賀町で、市民参加による環境DNA調査を実施。これは、水中に含まれる動物由来のDNAを分析し、特定の動物の存在や量(いる・いない・たくさんいる、など)を調べるというもの。絶滅のおそれのある淡水魚の生息状況を科学的に把握する手法として確立すべく、九州大学との共同研究を進め、一定の技術水準に達したため、1回目の市民参加型調査が実現しました。
当日は九州大学の鬼倉徳雄先生のご指導のもと、佐賀市内で環境保全活動に取り組む「ラムサールクラブ」の小中学生の皆さんや、「シギの恩返し米」生産農家の方々が参加。採取したサンプルは九州大学で分析し、特に希少な2種の淡水魚、カワバタモロコとニッポンバラタナゴの保全に役立てていく予定です。

繊維産業をサステナブルに

© WWF Japan

WWFトルコの取り組み事例。綿花の作付け前に地面を覆う植物を栽培し、刈り取り後も敷きワラにして土壌を保護するとともに、水使用量の低減を図っている

コットン(綿)は、原料となる綿花の栽培や、糸・布・服に加工する過程でも多くの水を必要とします。また、排水によって水環境の汚染が生じてしまう場合も少なくありません。
日本は、衣料品の約98%を輸入に頼っています。そのため、綿花や繊維製品を生産している国の水環境に対しても、責任を負っているといえます。2023年5月、WWFジャパンはJSCI(日本サステナブル・コットン・イニシアチブ)と共に「繊維産業に求められるサステナビリティとは? ~水リスクとコットンについて考える~」セミナーを開催。コットンに関連する水の課題や、企業やNGOの取り組み、トレーサビリティの重要性、国際的な認証制度を用いた持続可能(サステナブル)な調達のあり方などを紹介し、特に水に関連する課題解決に向けて意見交換を行ないました。

農業基本法でも生物多様性の保全強化を

© WWF Japan

九州の有明海沿岸に広がる水田地帯の用水路には、ニッポンバラタナゴなどの希少な淡水魚も生き残っている(佐賀市の「東よか干潟ビジターセンター・ひがさす」の水槽にて撮影)手前がナベヅル、奥はマナヅル

WWF ジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会、オリザネット、ラムサールネットワークジャパンの5団体は「生物多様性と農業政策研究会」として、農業政策における生物多様性の保全強化に向けて活動を続けています。
農林水産省が「食料・農業・農村基本法(以下「基本法」)」の改正案を2024年の国会に提出するとみられることから、2023年1月、「農業基本法改正と多面的機能を考える集い」を開催。基本法には、自然環境保全・国土保全・水源涵養機能
など、農地が持つ多面的機能が「適切かつ十分に発揮されなければならない」と定められていますが、現在はその多面的機能の多くが損なわれつつあります。
5団体は研究会として、基本法改正に向け、政策提言を行なう予定です。

責任ある水利用管理へ

水辺の環境破壊や、大量の水使用による水資源の枯渇、汚水の排出といった問題の解決に、大きな役割を持つと考えられるのが産業界です。水をめぐる諸問題の発生に大きく関与していると同時に、水資源の枯渇や汚染は、企業経営にとってのリスクでもあるからです。
そこでWWFは、企業が持続可能な水
資源管理をめざす際の指針となる国際認証「AWS(Alliance for Water Stewardship)」をテーマにした会合を日本で初開催。約230名の参加を得て、水をめぐる世界の動向や、AWS認証取得事例、メリットなどを紹介しました。
2023年4月には、企業9社と共に水の利用管理に関する情報交換会を開催。分野を越えて課題解決の道を探る機会を、今後も定期的に作っていきます。

WILDLIFE:乱獲や違法取引を防ぎ生息環境を守る

食料から、宝飾品や薬の原料、さらにはペットに至るまで、さまざまな目的で利用されている野生生物。中には、過剰な利用によって危機に陥っているものもいます。捕獲や取引(売買など)を規制する法律や条約に反した密猟・違法取引も後を絶ちません。
WWFジャパンは、特に日本が関係している過剰利用や違法取引を防ぐための活動を進めると同時に、野生生物の生息地保全にも取り組んでいます。

野生動物のペット利用に関するキャンペーン

© Wild Wonders of Europe / Pete Oxford / WWF

日本でもペットとして人気が高いコキンメフクロウ

野生動物のペット利用には、絶滅の危機の加速、密猟・密輸・外来種問題の誘発、動物福祉上の問題や感染症の発生などさまざまなリスクがあります。一方で日本では「珍しい動物を飼う」ことへの関心が高い、という傾向がみられます。
そこで、2022年8月、野生動物のペット利用の見直しを訴える行動変容キャンペーンを開始。6種の動物(コツメカワウソ、ショウガラゴ、スローロリス、フェネック、コモンマーモセット、スナネコ)の生態とともに、飼育に伴う問題点を紹介する動画を作成、一般の方にも呼びかけて、広く拡散をめざしました。東京、神奈川、広島の動物園では、来園者を対象に、この問題について知り、考えてもらう機会を複数展開。同年12月には、19種の動物について、飼育に伴うリスクの評価を掲載したウェブサイト「エキゾチックペットガイド」を公開。飼うことを決める前に、適切に飼育できるのか考えてもらうことが狙いです。
また、ペットの販売や、商業施設などでの展示にかかわる企業を対象にしたセミナー「エキゾチックペット利用と企業責任」も開催し、多分野の専門家を招いて、企業が今後取るべきアクションについて議論しました。キャンペーンは、次年度(2023年7月~)も継続して行なっていきます。

野生動物と人との共存をめざす

© Emmanuel Rondeau / WWF France

中南米の熱帯林を象徴する生きもの、ジャガー

WWFジャパンは現在、ヒマラヤのユキヒョウ、東アフリカのアフリカゾウ、アマゾンのジャガーの保全を、現地のWWFと協力して進めています。
2023年度、ユキヒョウに関しては、家畜への被害をなくしていくための防護施設の設置支援、地域住民の意識や家畜の保有状況調査、地域の産業として持続可能なツーリズムを育てるための取り組みなどを行ないました。
アフリカゾウに関しては、タンザニア北東部の6つの自治区の行政担当官の参加を得て、ゾウと人のあつれきに関する状況把握や、有効な対策に関する情報交換などを進めています。
ジャガーに関しては、生息状況が十分に明らかになっていない地域で自動撮影
カメラによる調査を実施し、少なくとも5頭の生息を確認。得られた1万5,000余りのデータの分析を進めています。

水際での違法取引防止の強化

希少な野生生物の国際取引(輸出入など)を規制する「ワシントン条約」。その実効性を高める上で重要なのが、税関での取り締まりの強化です。WWFジャパンの野生生物取引調査・監視部門であるTRAFFICでは、10年以上にわたって毎年、税関の職員研修の中で、ワシントン条約の講義を担当。2023年も新卒採用者や、中級職員の方々を対象に講義を行ないました。
また、野生生物を密輸する際に、航空輸送が利用されていることから、航空関連企業の職員の方々に向けて、野生生物の違法取引に関する情報提供を続けています。
2023年は、旅客輸送と貨物輸送、それぞれを対象にしたセミナーでの講演も行ないました。どのようなことが課題になっているか、理解を深めていただくとともに、野生生物の違法取引防止における民間セクターの貢献の可能性や、協力の重要性について知っていただく貴重な機会となりました。

世界自然遺産登録地および周辺島しょ部での生物多様性保全活動

© WWF Japan

水辺環境の創出に取り組んでいる西表島の水田跡地

沖縄県石垣島では、日本最南端のラムサール条約湿地「名蔵アンパル」の流域で計画されている大規模ゴルフリゾート開発の問題に対して、地元の市民団体や日本野鳥の会、日本魚類学会などと共に見直しを求める活動を継続しています。
2022年10月には、石垣市が同計画の推進根拠として掲げている250億円の経済効果について、経済学者の協力を得て分析。多数の根本的な問題があることを明らかにしました。2023年6月には、環境アセスメント調査の不備などを指摘する記者会見を実施。再度、懸念と必要な調査・対策の実施を訴えています。
西表島では、島の中央部を流れる浦内川流域で、水生生物の再生をめざす環境省の水環境再生事業を受託・実施しています。2023年6月には、水辺環境の復元を進めている場所で生物調査と観察会を実施。また西表島エコツーリズム協会、浦内川観光、琉球大学、環境省西表事務所の参加を得てワークショップを実施し、今後の保全のあり方と、自然の利活用について議論を深めました。

CLIMATE:地球温暖化をくいとめる

世界中の気候が今までと大きく違ってきていることを、誰もが肌で感じるようになりました。温暖化(気候変動)は、人間社会はもちろん、野生生物の暮らしにも大きな影響を与えます。
WWFジャパンは、国、自治体、企業を対象に、温室効果ガスの排出量を大幅に削減するよう促す活動に注力しています。また、自然環境や地域の文化などに配慮しながら、自然エネルギーの導入が進むようにするための活動にも取り組んでいます。

「SBT認定」で企業の温室効果ガス削減を後押し

© naturepl.com / Bryan and Cherry Alexander / WWF

世界各地で深刻化する地球温暖化による被害を最小限に抑えるためには、世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べて+1.5℃に抑えることが重要となります。この「1.5℃目標」を達成する上で、特に大きな役割を担うのが、温室効果ガスの主要な排出者である企業です。WWFをはじめとする国際NGOなどは2015年、企業が具体的にどれだけの量の温室効果ガスを、いつまでに削減しなければいけないのかについて、科学的知見に基づいた目標(Science Based Targets)の設定を支援する、SBTi(Science Based Targets イニシアティブ)を設立。各社が設定した目標を審査し、基準に合致したものに「SBT認定」を付与する取り組みを続けてきました。
日本では、2015年10月にソニーが日本企業として最初のSBT認定を取得して以降、認定を取得、または取得を約束する企業は着実に増加し、2023年6月末までに、その数は580社*を超えています。しかし、CO2排出量の特に多い鉄鋼分野や、投融資先の排出量に大きな影響を及ぼす金融分野の日本企業においては、他国に比べ、SBT認定の取得が遅れているなど、課題も残されています。
企業による脱炭素をさらに加速させるため、WWFは引き続き、SBT認定の取得を積極的に働きかけていきます。
*2023年9月末時点では677社

COP27で各国政府への働きかけを実施

© WWF Japan

世界が一丸となって地球温暖化対策を進められるよう、WWFは、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などの国際会議に参加して、各国政府に、より野心的な政策を求める活動を続けています。
2022年12月に、エジプトで開催されたCOP27では、WWFもその必要性を長く訴えてきた、地球温暖化によってすでに被害を受けている国々を支援するための基金の設立が決定しました。一方で、各国の温室効果ガスの排出削減目標をより強化するような具体的な合意には至らず、多くの課題も残した今回のCOP27。WWFジャパンとしては、引き続き、こうした温暖化対策についての国際交渉の最新の動向を、分かりやすい形で発信していくとともに、今、日本政府が国際的に遅れを取っている脱炭素政策の導入を早急に検討するよう、改めて働きかけを強めていきます。

非国家アクターの活動をサポート

© WWF Japan

JCI は、COP27の会場でも、世界に向けて日本の非国家アクターの取り組みを発信するイベントを実施した

近年、世界各国では、企業や自治体、NGOなど、国家政府以外の多様な団体、通称「非国家アクター」が、脱炭素の取り組みを自主的に進める形で、地球温暖化対策に大きな役割を果たすようになっています。日本でもその動きはますます盛んで、WWFジャパンが共同事務局を務めるJCI(気候変動イニシアティブ)には、2023年6月末時点で800近い非国家アクターが参加し、活発な情報発信や意見交換を行なっています。
JCI が、2022年10月に開催した年次イベント「気候アクション日本サミット2022」では、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の小森博司理事らが登壇。また、さかなクンによる特別講演や、メンバー企業・自治体のトップが集うパネルセッションなどを実施し、世界の脱炭素実現に向けて日本の非国家アクターが進める最前線の取り組みを発信。約2カ月後に開催されたCOP27に先駆け、日本の非国家アクターによる地球温暖化対策の機運を、一気に高める機会となりました。 

温暖化対策として不十分なGX関連法に抗議!

日本政府は、温室効果ガスの排出量削減と産業競争力の両立をめざし、経済社会システム全体の変革を図る取り組み、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を、今後10年間の温暖化対策の中心に位置づけ、その推進のための法律、「GX推進法」と「GX脱炭素電源法」を、2023年5月の通常国会で成立させました。
しかし、施策の要であるカーボンプライシング(炭素への価格付け)の導入は遅く、温室効果ガスの排出削減効果は乏しい設計に。さらには、国民的な議論もないままに、原子力発電活用への方針転換が定められるなど、地球温暖化対策としてはきわめて不十分な内容となっています。WWFジャパンは、これらの成立にあたってただちに抗議声明を発表。各法の問題点を指摘し、改善を求めています。

NETWORK:WWFネットワークの活動

WWFは、 スイスにあるWWFインターナショナルを中心に約80カ国に事務局を置き、100カ国以上で保全活動を行なっています。いわゆる本部-支部という関係ではなく、通常は各国のWWFが、それぞれに立てた計画に基づいて活動していますが、グローバルな課題には、世界のWWFが協力して取り組みます。
ここでは、FY2023に進展が見られた各国の活動の中から、いくつかをピックアップしてご紹介します。

絶滅危惧種サイガの個体数が回復!

© WWF-Mongolia

モンゴルサイガの親子

中央アジアの草原地帯などに生息するウシ科の動物「サイガ」。かつて、角を目的とした密猟の標的になったことや、地球温暖化の影響、さらに2017年に発生した小反芻獣疫という感染症による大量死の影響で、モンゴルに生息するサイガの数は、一時は約750頭にまで激減し、絶滅が心配されています。
WWFモンゴルは、モンゴル政府と協力し、サイガを保護するための情報収集や、密猟の防止や生息地の保全、感染症の蔓延防止などに長年にわたって尽力。その結果、2022年11月に地元の市民団体と協力して実施した大規模なサイガの個体数調査では、計1万3,925頭が確認されるとともに、生息地の大規模な拡大も報告されました。

メコン地域で380種の新種発見!

報告書の表紙は、カンボジアで発見された新種のトカゲ

2023年5月、WWFは、メコン川流域の5カ国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)での生物調査の結果をまとめた最新の報告書を発表。世界中の研究者の協力のもと、2021年から2022年にかけて、380種もの新種の動植物が発見されたことを明らかにしました。
発見された新種の内訳は、哺乳類1種、爬虫類46種、両生類24種、魚類19種、植物290種。しかし、これらの中には、すでに絶滅が心配されるほどに減少している動植物も多数含まれています。その原因である、流域各地での大規模開発や生息地の喪失、ペットなどを目的とした密猟、違法取引、さらに地球温暖化といったさまざまな問題に、早急に取り組む必要があることを、報告書を通じて改めて訴えました。

川の豊かさを再生する取り組み

© WWF-Ukraine

堰が撤去され、再び自由な流れを取り戻したウクライナのペルカラバ川

世界では今、淡水に生きる魚種の約3分の1にも及ぶ2,400種以上の淡水魚が、
絶滅の危機に瀕しています。急速に失われる淡水の生物多様性を回復させるため
の有効な手段として欧米諸国で近年盛んになっているのが、河川に放置された時代に合わないダムや堰などの障害物を撤去する取り組みです。
WWFウクライナは、2022年8月、戦時下の困難にも負けず、カルパティア山脈にある老朽化した堰の撤去を実施。せき止められていた川の流れを120年ぶりに復活させました。これにより、絶滅の危機に瀕しているドナウサケなどの淡水魚の個体数回復や、それらをえものとするヒグマやカワウソなどの魚食動物の数が増加することなどが、大きく期待されています。

地球温暖化の影響を受ける子どもたちを支援

© Nay Ye / WWF-Myanmar

ミャンマー中央部にある村での教育プログラム実施風景

地球温暖化の影響を特に受けやすい国々では、相次ぐ洪水や干ばつの影響が、貧困や飢餓というかたちで、子どもたちの生活や教育の面にも及んでいます。
こうした事態を受け、WWFは、2021年より、国際的な人道支援団体セーブ・ザ・チルドレンと協力し、子どもたちが地球温暖化によって受ける被害を軽減させるための取り組みを開始。その一環として、ミャンマーで、子どもたちに向けた教育プログラムを提供しています。今年度は、約250人の児童が参加し、1年間を通して、地球温暖化や森林破壊、水質汚染、廃棄物などの課題について学習。子どもたちが成長の過程で、コミュニティの未来をより良い方向に導くリーダーシップを発揮できるよう、必要な知識とスキルを育んでいます。

Many thanks!

皆さまからのご支援が、世界100カ国以上で展開されているWWFネットワークの活動を推進する大きな力となっています。

FY2022
個人サポーター総数 約580万人
SNSフォロワー総数 約3,800万人
ネットワーク全体の収入 約2億600万スイスフラン
ネットワーク全体の支出 約2億スイスフラン
*FY2023については現在、WWFインターナショナルにて集計中です

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環境保全団体です。

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