「グリーン・リカバリー」が鍵 コロナ禍からの復興
2020/12/11
- この記事のポイント
- 世界の経済、社会、人の暮らしに大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。このコロナ禍からの復興のカギとして、今「グリーン・リカバリー」が注目されています。これは、コロナ禍からの復興にあたって、地球温暖化の防止や生物多様性の保全を実現し、よりよい未来を目指していくことを目指すものです。単にコロナの前に状況を戻すのではなく、その復興に投じられる智恵と資金を通じて、新しい持続可能な社会を築く。WWFは、これからの環境保全の在り方として、この「グリーン・リカバリー」を通じた取り組みの推進を目指しています。
大きな可能性を秘めた「グリーン・リカバリー」とは
コロナ禍からの経済復興策として今、世界中で広がりを見せている「グリーン・リカバリー」。
イギリスの独立研究機関VIVID ECONOMICSによると、主要国の経済刺激策に投じられる資金の総額は、実に11.4兆ドル。そのうちの3.5兆ドルが、この「グリーン」な、すなわち環境を重視した経済刺激策として評価されています。
「グリーン・リカバリー」のポイントとなるのは、次の2つ。
- 地球温暖化対策の国際協定である「パリ協定」の達成に貢献すること
- 国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも一致した施策を実施すること
つまり、強力な経済政策が実施されることを大きな機会として、一気に「持続可能な社会」を実現し、コロナ禍以前とは異なる、新たな未来の創造につながる復興を目指すものです。
これは、WWFが目指す、地球上の生物多様性の保全にも欠かせない取り組みです。
コロナ禍からの復興に、なぜ「グリーン・リカバリー」が重要なのか?
「グリーン・リカバリー」の重要性は、SDGsの各目標の内容を見てみるとよくわかります。
ここには、コロナ禍の影響を最も直接的に被った、人の健康を守る取り組み(目標3)をはじめ、
新型コロナウイルス感染症を含む新たな動物由来感染症の発症原因となった森林破壊への取り組み(目標15)、
さらに、その影響や被害の大きさから、今や「気候危機」とも呼ばれるようになった気候変動(地球温暖化)問題への対応(目標13)も含まれています。
また、森林保全の実現のためには、木材や紙などを生産し、それを使う責任(目標12)が欠かせないことや、気候変動への対応には、クリーンなエネルギー社会の実現が何よりも重要であることなど、各目標はそれぞれ複雑に関係しあっています。
残念ながら2020年末時点で、これら17の目標はいずれも達成できていません。
また、これらを実現するには莫大な資金が必要とされるほか、これまでの産業構造やライフスタイルにも、変化が求められるため、達成にはさまざまな困難が伴います。
しかし、コロナ禍からの復興という大きな社会的、経済的な動きの中には、これを実現するチャンスがあります。
その手立てを考え、実現するのが「グリーン・リカバリー」なのです。
「グリーン・リカバリー」が今、世界の大きな潮流に!日本は追いつけるか?
2020年4月、イギリスに本拠を置く国際的なリサーチ会社Ipsosが発表した報告によれば、日本を含む14ヵ国で、一般を対象に行なわれた世論調査の結果、65%が「グリーン・リカバリー」を支持していることが示されました。*
また、欧州委員会は2020年5月、2021年~27年の次期中期予算の一環として、コロナ禍の打撃を受けたEU加盟国の支援のため、7500億ユーロ(約89兆円)の復興基金「次世代EU」を設置することを発表。
その成長戦略として、2019年12月に発表された「パリ協定」に沿った環境戦略「欧州グリーンディール」を明確に位置づけました。
これにより、欧州のグリーン・リカバリーには、「2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロ、2030年に90年比で50~55%削減」という、パリ協定に沿った目標の引き上げが組み込まれることになったのです。
さらに、グリーン・リカバリーが決して「我慢の施策」ではない、むしろ世界の経済を活性化させる可能性も指摘されています。
2020年6月、国際エネルギー機関(IEA)は新しい報告書『Sustainable Recovery:持続可能なリカバリー(経済復興)』を発表。
その中で、持続可能性を重視した施策に3年間で3兆ドルを投じれば、世界のGDP成長率を、年平均で1.1%ポイント増加させる効果があることを指摘しました。
この中では、失われた雇用を900万人規模で新規に生み出す効果や、温室効果ガスの排出を減少に向かわせ、45億トンもの削減を実現することが可能であること、またその成長の規模は、2023年には日本1国分に相当するGDPに相当すると予測しています。
国際的な潮流として、今後推進が期待される「グリーン・リカバリー」は、世界の経済、ビジネスはもとより、暮らしや文化といった社会的な側面にも、大きな影響と変化をもたらすものになるといえるでしょう。
残念ながら、現時点の日本では、この「グリーン・リカバリー」は経済政策の柱として位置付けられておらず、そのための施策も明確にされていません。
ポスト・コロナを見据え、国際的な潮流に乗り遅れないためにも、日本は「グリーン・リカバリー」の実現に向けた議論を、加速させる必要があります。
「グリーン・リカバリー」とは、あなたのライフスタイルを変えること!
本来、「グリーン・リカバリー」は復興のための「経済政策」として提唱されてきた考え方です。
しかし、そこに込められたメッセージと、実現をめざす「持続可能な社会」という未来の姿は、全ての人々の暮らしにかかわるものです。
WWFもこれまで、環境保全に取り組む国際団体として、地球温暖化の防止や、森林、海洋の保全を推進するため、エネルギー政策の転換や、持続可能な木材や紙、農産物やシーフードの生産・流通を拡大する取り組みを行なってきましたが、そうした活動のいずれもが、「グリーン・リカバリー」に関与し、貢献する大きな要素となっています。
そして、各国の市民の方々も、こうした取り組みに参加し、後押しすることができます。
たとえば、
• 地球温暖化防止につながる、
→太陽光や風力など自然エネルギーに由来する電力の選択
→石油や石炭などの化石燃料に頼らない移動手段の選択
• 森林の保全につながる、
→持続可能な形で生産された、木材や紙製品の利用
→周辺の森林環境に配慮して生産された、パーム油や天然ゴムなどの利用
• 海の環境保全につながる、
→持続可能な漁業によって生産されたシーフードの選択
→特に使い捨てのプラスチック製品の利用を減らす
また、非常に身近な課題として、近年深刻化の一途をたどっている、異常気象への適応という点からも、この「グリーン・リカバリー」は重要です。
「グリーン・リカバリー」は、水害や干ばつなどによる災害から回復し、復元する力を持った、「レジリエンス」のある社会を実現する、大きなチャンスにもなるからです。
たとえば、水害を防ぐための遊水地として農地が活用できるよう、土地や補償制度が整備できれば、防災や減災が強化されるだけでなく、水田などの身近な自然を守ることにもつながります。
気候変動をくいとめ、環境と暮らしを守り、新たな感染症を防ぐ。
大切なことは、こうしたさまざまな取り組みが、さまざまなところで相互に関わり合っていること。そしてそれらが、「持続可能な未来を創る」という一つの大切な目標を目指していることを、たえず意識し、行動することです。
WWFのNew Deal for Nature and People
WWFはこうした取り組みが世界規模で達成できるように、各国に対し、「自然と人間のための新しい指針(New Deal for Nature and People)」を実現することを求めています。
これは、2030 年までに次の3つの目標達成に取り組むことを、求めるものです。
1)生息地を保全し回復させること:
陸地と海洋の30% を保護することで、現在残されている自然環境を維持する。
残りの陸地と海洋については、地域のコミュニティと先住民が主体となった管理に重点を置き、保全と持続可能な管理を行なう。
2)生物の多様性を守ること:
生息地の保全と回復を通じて、きわめて深刻化している野生生物の絶滅と個体数の激減に歯止めをかける。
持続可能でない漁業、狩猟と野生生物の取引を抑制する。
3)生産と消費による環境への負荷(フットプリント)を半減させること:
自然の喪失に繋がっている経済活動、すなわち、農業、漁業、インフラ整備、採取産業、林業とエネルギー産業を環境配慮型に転換し、人が生態系に及ぼす破壊的な影響を減らす。
これから本格化していくコロナ禍からの復興。
未来に向けた、その明確な方向性として、ぜひこの「グリーン・リカバリー」を推進してゆきましょう。
*“How do Great Britain and the world view climate change and Covid-19?” (2020)
(https://www.ipsos.com/ipsos-mori/en-uk/two-thirds-britons-believe-climate-change-serious-coronavirus-and-majority-want-climate-prioritised)
#GoToGREEN グリーン・リカバリーで当たり前を見直そう
なくなってほしくない場所、なくなってほしくないもの、なくなってほしくない生活。
これからも、ずっとずっと守るために。
私たちはもっと根本から、経済や社会の当たり前を見つめ直すことができます。