© WWF-Aus / Chris Johnson
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WWFジャパン1年間の活動報告(2023年7月~2024年6月)

皆さまからお寄せいただいた会費やご寄付をもとに、2024年度(FY2024)もさまざまな活動を進めることができました。この場を借りて、心より厚く御礼申し上げます。 自然環境の悪化をくいとめ、危機にある野生生物を守ることへ、確実につながるような変化を起こすには、何年にもわたる取り組みが必要です。その中から、この1年の間に達成できたことや、進捗したことを中心に、ご報告いたします。


FORESTS:自然度の高い森と野生生物を守る

私たちの衣・食・住・遊を支えるさまざまなモノ。その生産が森林の過剰伐採、植林地・農園・牧草地などへの転換を招き、世界各地で自然林の減少を引き起こしています。自然林の減少はそのまま、そこに暮らす野生生物の危機にも直結します。
WWFジャパンは、日本の消費と関係が深い地域を中心に、木材、紙、パーム油、天然ゴム、カカオ、大豆、牛肉などの生産を持続可能なものに改善し、森と野生生物を守ることをめざしています。

南三陸町とともに、国内森林でのネイチャー・ポジティブに取り組む

© WWF-Japan

南三陸町のFSC認証の森は、明るく、豊かな下層植生が広がる

昨今、広く認識されるようになってきた、「生物多様性」の損失の問題。その解決のためには、保全と並行して、「ネイチャー・ポジティブ(生物多様性の損失をくいとめ、回復傾向へと向かわせること)」を実現することが必要です。日本国内においても、ネイチャー・ポジティブの実現は大きな課題ですが、具体的に何をすればよいのか、どうなれば達成といえるのか、その具体的なイメージが掴みづらいのが実情。そこでWWFジャパンでは、2023年より、宮城県南三陸町の方々と協力し、FSC®認証林の管理強化や認証林拡大を通して、ネイチャー・ポジティブを形にする取り組みを始めました。

2023年9月のTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース、p.16参照)の公開を前にWWFジャパンが発表した報告書「TNFD開示が推奨する企業と自然の依存と影響-南三陸のFSC認証林におけるLEAP検証を事例に-」では、南三陸森林管理協議会の協力を得て実施した、FSCとTNFDの親和性を検証するパイロットテストを、事例として掲載。その後、2024年3月には、南三陸森林管理協議会と、「日本のFSC®認証林推進協定」を締結しました。

WWFは、今後も地域の方々と協力しながら、FSC認証林の拡大とネイチャー・ポジティブの実現をめざして取り組みを続けていきます。

企業協働で取り組む持続可能な天然ゴムの生産

© WWF / Simon Rawles

天然ゴムのもととなる樹液を収穫するために、樹皮を削る様子

世界屈指の豊かな自然を誇るインドネシア。しかし近年は、大規模な農地開発などにより、その自然は失われつつあります。スマトラ島では、パーム油や紙パルプ、天然ゴムが重要な商品作物でありながら、森林減少の大きな要因にもなっています。そこでこれら3つの産品の持続可能な生産をめざす取り組みを展開してきました。

天然ゴムの取り組みの一環として、2017年からは、世界的なタイヤメーカーである株式会社ブリヂストンと、調達方針の策定などにおける協働を開始。2024年1月には、新たに、リアウ州とジャンビ州で持続可能な天然ゴム生産をめざす小規模農家を支援する取り組みを立ち上げました。同社が長年にわたって培ってきた天然ゴム生産に関する知見や技術を現地の生産者に伝え、協働することで、小規模農家の生産性や品質を改善させ、生計を向上させること。さらにその波及効果によって、地域全体で新たな農地開拓のための森林減少が抑制されることを目標に、取り組みを進めていきます。

大豆生産による環境へのリスクについて報告

© Roger Leguen / WWF

セラードには、オオアリクイなどの絶滅危惧種も多く生息する

南米での森林破壊・土地転換の大きな要因となっている、大豆生産のための農地の拡大。特に、世界最大の大豆生産国ブラジルでは、「世界で最も生物多様性に富むサバンナ」とも呼ばれるセラードの50%以上のエリアが、大豆栽培などの農地に転換され、豊かな自然が急速に失われつつあります。日本も食用や飼料用として大豆を輸入していますが、実はそれ以外にも、大豆を飼料にして育てた食肉を輸入し食べることで、間接的に大量の大豆を消費していることは、まだあまり知られていません。

WWFは2023年12月、日本で間接的に消費される大豆の量や自然環境への影響についてまとめた報告書「『見えない大豆』の森林破壊・土地転換リスク」を発表。間接的な消費を含めると、輸入される大豆のうち約3割がブラジル産であり、知らないうちに森林破壊や土地転換に加担している可能性が、ゼロではないことを示唆しました。WWFは今回の報告をもとに、大豆を扱う企業に対し、持続可能な大豆の生産や調達の重要性について働きかけていきます。

OCEANS:乱獲や汚染から海の生態系を守る

水産物の獲りすぎや、漁業対象でない生きものまで網にかかってしまう混獲、沿岸や浅海域の環境を大きく損なうような開発、プラスチックの流入、そして、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の横行など、海の危機が続いています。
WWFジャパンは、日本が主要な消費国となっている水産物のサステナブルな利用を推進すること、プラスチック廃棄物の発生抑制や資源循環促進などを通して、海の生態系保全に取り組んでいます。

持続可能な水産物の認証、MSC・ASCの取得が拡大

© WWF-Indonesia

見渡す限りに広がるエビの養殖池(インドネシア・ジャワ州)

日本の食との結びつきも深い、魚や貝、エビやカニなどの水産物。需要の拡大が起きて、獲りすぎや環境への影響が心配されるこれらの海の恵みを、これからも末永く享受していくための方法のひとつとして、WWFでは、持続可能な漁業や養殖業であることを示すMSC認証(天然水産物が対象)・ASC認証(養殖水産物が対象)の普及、認証取得をめざす水産企業や生産現場の支援などに取り組んでいます。
今年度は、こうした複数年にわたる取り組みが実を結び、日本が消費する主要な水産物について、国内外での認証の取得事例が相次ぎました。
2024年2月、WWFが2020年から支援してきた国内の水産企業3社が取得したのが、まき網(網を使った漁法の一種)漁船によるカツオ・キハダのMSC認証です。世界有数のカツオ・キハダの漁獲国かつ消費国である日本で、持続可能なカツオ・マグロ漁業が、確実に広がっています。
また、日本で多く食べられているエビ(ブラックタイガー)についても、主要輸入先のインドネシアで、WWF、現地エビ加工会社、同社からエビを調達する日本生協連が、生産者と協力し、2024年3月にASC認証の取得が実現。サプライチェーン全体が一丸となり達成した事例で、意義のある成果となりました。

野心的な国際プラスチック条約成立をめざして

© UNEP Artan Jama

INC-4の会場前には、実際のプラスチックごみで作られた巨大なアートの展示も

世界で拡大し続けるプラスチック汚染。WWFは、これまでのように各国それぞれで規制・対処するだけでは不十分であり、世界共通の法的拘束力のあるルールに基づく野心的な、「国際プラスチック条約」を早期に成立させることが不可欠と考え、政府への提言をはじめとした取り組みを行なっています。

その一環として、WWFは2023年11月、国内で活動する企業に呼びかけ、10社による「国際プラスチック条約企業連合(日本)」を発足させました。これは、プラスチック問題の解決を推進する日本企業自らが、野心的な条約の成立を日本政府に働きかける枠組みで、WWFは、事務局として企画や調整を行なっています。企業連合は、2024年4月に開催された、INC-4(国際プラスチック条約の策定に向けた「第4回政府間交渉委員会」)に際し、日本政府に対して、不必要なプラスチックの禁止を含む野心的な条約への明確な支持を求める声明を発表。野心的で実効性のある国際プラスチック条約を、2024年末までに成立させることをめざし、活動を続けます。

日本とかかわりの深い南米の水産業の改善

© Shutterstock / Craig Lambert / WWF

ザトウクジラをはじめ、多種多様な生きものが生息するペルー沿岸の漁場

漁業大国ペルーでは、主要な水産物のひとつ「アメリカオオアカイカ」の漁業に、約2万人もの小規模零細の漁業者が従事しています。しかし、漁業許可を得ず非正規に漁が行なわれていることが多く、漁獲や流通が不透明になり、その結果、IUU(違法・無報告・無規制)漁業由来のイカが広く出回ってしまうことに。WWFペルーは、こうした課題に対処すべく、小規模零細のイカ漁業者と共に、漁業アプリを活用した取り組みを展開。ペルーは日本のイカ類輸入量で中国に次ぐ第2位の国であることから、WWFジャパンもこの取り組みを支援しています。アプリの導入によって、漁獲や流通のデータを、漁業者自身が手軽に登録・管理できるようになり、トレーサビリティ(誰が、いつ、どこで漁獲し、どういう経路で流通しているか)が確保されたイカの流通が、ペルー国内で進み出しています。

また、チリでも、日本の消費を支える養殖サケ(サーモン)や、養殖の餌の原料に使われる小型魚の持続可能な生産をめざす取り組みなどを続けています。

FRESHWATER:持続可能な水環境と淡水生態系を守る

大小さまざまな河川、湖、池、沼、湿地帯など、水(淡水)をたたえた環境はとても多様です。しかしその総面積は、地球上のわずか1%しかありません。さらに、水資源の過剰な利用や開発などによって、その多くが危機にさらされています。
WWFジャパンは、日本を代表する水環境である水田の生態系の保全を推進。また、特に淡水を大量に利用し、排水の課題にも深くかかわっている繊維業界との協力を図り、水環境の改善をめざしています。

「サステナブル・コットン」の拡大をめざして

水(淡水)環境に特に大きな影響を与えている産業のひとつが、アパレル・テキスタイル(服飾や繊維など)の分野です。中でもコットン(綿)は、生産時に大量の水や農薬が使われることも多く、野生生物や人の暮らしへのリスクが高い状態にあります。
求められるのは、環境や人権に配慮して生産・加工された「サステナブル・コットン」の拡大です。WWFは「GOTS(Global Organic Textile Standard)」及び「OCS(Organic Content Standard)」認証のオーガニックコットンと、BC(Better Cotton)イニシアチブに参加しているか、それに準ずるコットンを、サステナブル・コットンとして推奨しています。
2024年6月、日本の企業にサステナブル・コットンへの転換を促すことを目的に、GOTSと共催でセミナー「繊維・ファッション産業の持続可能な事業モデルへの転換に企業が果たすべき役割とは」を開催。併せてGOTS認証を取得した大阪の紡績、染色、縫製の3つの工場を視察するメディア及び企業関係者向けツアーも実施しました。
WWFジャパン自身も、通信販売「パンダショップ」などでコットン製品を扱っていることから、OCSのブランド認証を取得。繊研新聞主催のセミナーに登壇し、この認証が水環境の保全においてなぜ重要なのかについて紹介しました。

© WWF Japan

パンダショップで販売しているGOTS認証Tシャツ

© Mauri Rautkari / WWF

農薬の大量使用も、コットン生産における問題点のひとつとなっている

マナヅルの保全プロジェクトを開始

© WWF Mongolia

モンゴル東部の平原を歩くマナヅル

2024年4月、WWFジャパンは、WWFモンゴルと共同で、マナヅルとその生息地の保全プロジェクトを開始しました。マナヅルは夏、モンゴルなど中央アジアの湿地帯で繁殖し、冬は韓国や日本の水田地帯で越冬する渡り鳥です。推定個体数は6,700~7,700羽で、絶滅の危機にあります。

モンゴルでは、家畜の放牧の拡大に伴い、マナヅルの営巣地での水質汚染や、犬による卵やヒナへの被害が発生。WWFモンゴルは繁殖地の調査や、被害対策、地域住民への普及活動などを展開。WWFジャパンもこれを支援しています。

また日本では、越冬のために渡ってきたマナヅルが鹿児島県出水市の干拓地に集中しており、感染症などのリスクが課題に。現在、少数ながらマナヅルの飛来が確認され、越冬地としての可能性からも注目されている熊本県玉名市の水田地帯は、WWFが希少な淡水魚の保全に取り組んでいる場所でもあることから、地域の関係者と越冬地の分散を図るための検討を進めています。

熊本県立玉名高校との希少魚類の調査を開始

© WWF-Japan

調査対象の淡水魚について解説する九州大学の鬼倉先生

九州の有明海沿岸域に広がる水田地帯は、日本固有の希少種を含む淡水魚類が、今も多く生き残っている場所です。WWFは九州大学と共同で、この地域の淡水生態系調査と保全に取り組んできました。

こうした活動を土台に新たにスタートしたのが、熊本県立玉名高校の科学部の皆さんが地域の希少淡水魚の分布状況を把握し、保全策の検討を行なうという試みです。地元の菊池川水系で、環境DNA調査という手法を用いて行なうこととなります。

2024年4月、玉名高校でキックオフ会合を実施。玉名高校科学部の皆さん、九州大学の鬼倉徳雄先生、環境省九州地方環境事務所の鈴木規慈自然保護官をはじめ、国土交通省菊池川河川事務所や、地域の方にもご参加いただきました。
2024年7月には、実際の環境DNA調査を実施。九州大学、玉名高校、今回の取り組みに関心を持った市民の皆さんと共に、玉名市における広域的な採水を行ないました。この調査の分析結果に基づき、次のアクションを検討していきます。

WILDLIFE:乱獲や違法取引を防ぎ生息環境を守る

食料、宝飾品、薬の原料、さらにはペットに至るまで、さまざまな目的で利用されている野生生物。中には、過剰な利用によって危機に陥っているものもいます。捕獲や取引(売買など)を規制する法律や条約に反した密猟・違法取引も後を絶ちません。
WWFジャパンは、特に日本が関係している過剰利用や違法取引を防ぐための活動を進めると同時に、野生生物の生息地保全にも取り組んでいます。

西ヒマラヤで人とユキヒョウの共存の道を探る

© Sascha Fonseca / WWF-UK

カメラトラップが捉えたユキヒョウの姿

WWFジャパンは2021年から、WWFインドが西ヒマラヤのラダック地方で進めているユキヒョウ保全活動に協力しています。

データに基づいて保全戦略を立て、実行していくために欠かせないのが、ユキヒョウの行動範囲や個体数に関する調査です。2024年度は72カ所・145台のカメラトラップ(自動撮影装置)による観測のほか、地域住民100名への聞き取りも実施しました。

ユキヒョウをはじめ、オオカミやクマによる家畜などへの被害が生じている地域では、その被害防除も、野生動物を守るために必要となります。WWFは、特に被害が頻発している地域での現地調査や肉食動物の侵入を防ぐことのできる、共同で使える家畜小屋の設置などにも協力。また、環境と野生動物の保護・調査に携わる若者の育成プログラム「マウンテン・ガーディアン」も開始し、地元の若者6名へのトレーニングを実施しました。

ヒマラヤは、地球温暖化による気候変動の影響を強く受けることが懸念される地域でもあります。そこで、専門家の協力を得て、ラダック中部のチャンタンで、放牧を営む人々を対象に気候変動への脆弱性を調査し、収集したデータを基に適応(気候変動による影響に備えること)戦略の策定をめざすべく、取り組みを開始しています。

フクロウ類のペット利用に見直しを求める

© WWF-Japan

フクロウカフェで販売されていたワシミミズク

野生動物のペット利用には、密猟や密輸の誘発、感染症の発生など、さまざまなリスクがあります。フクロウ類も人気のある生きもののひとつですが、2012年から10年の間に、判明しているだけで62羽の日本向けの密輸が発覚しています。
WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICは、専門家と共に、野生動物の輸入状況や、国内のペットショップ及びアニマルカフェでの利用状況の調査を進めてきました。そして2024年5月、フクロウ類の取引・展示の実態について発表。日本がフクロウ類の主要な輸入国であること、輸入されたフクロウ類の半数以上は、野生で捕獲された個体であること、また、いったん市場に出てしまうと、野生で捕獲されたものか、飼育繁殖によるものか、識別が困難になることなどを指摘しました。
併せて、メディア向けの説明会やファクトシートの作成、飼育意向者にフクロウ類の飼育の再考を求める動画も発表。フクロウ類のペット利用に対する日本国内の意識変革をめざしています。

西表島の旧稲葉集落で進む水辺の生物多様性再生

© WWF-Japan

島内外の複数の団体が協力して水辺を再生

西表島の浦内川流域にある旧稲葉集落の水田跡地は、かつて水鳥が群れ、イリオモテヤマネコも採食場として頻繁に利用していた場所です。WWFは2020年から、この地域における水環境再生検討業務を環境省から受託。研究者の協力を得て水生昆虫、湿地性植物の調査、埋土種子の再生実験、水辺の再生とその効果検証などを行なってきました。
2023年6~12月の調査では、再生した水辺に希少な湿地性植物や水生昆虫が戻ってきていることを確認。2023年10月には西表島エコツーリズム協会、浦内川観光、旧稲葉集落の元住民・地権者、琉球大学・東海大学の研究者、環境省西表自然保護官事務所、WWFが一堂に会し、今後の再生計画指針「イナバ水辺再生ビジョン」に合意しました。
2023年12月には、新たに2つの池を作る活動を実施。環境省の受託事業は2024年2月で完了しましたが、WWFは今後も、現地の団体や研究者と連携し、再生した水辺の生物モニタリング、エコツーリズムや環境教育などを推進していきます。

CLIMATE:地球温暖化をくいとめる

世界中の気候が今までと大きく違ってきていることを、誰もが肌で感じるようになりました。温暖化(気候変動)は、人間社会はもちろん、野生生物の暮らしにも大きな影響を与えます。
WWFジャパンは、国、自治体、企業を対象に、温室効果ガスの排出量を大幅に削減するよう促す活動に注力しています。また、自然環境や地域の文化などに配慮しながら、自然エネルギーの導入が進むようにするための活動にも取り組んでいます。

COP28で、歴史的な合意「化石燃料からの転換」を後押し

© Brent Stirton / Getty Images / WWF-UK

レッドリストの最新版では、絶滅危惧種のうちの6,754種が、地球温暖化の影響を受けていると報告されている

脱炭素化をめざす世界の約束「パリ協定」。その実施や追加ルールを議論するCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)が、アラブ首長国連邦のドバイで2023年11月30日~12月13日に開催され、WWFもこれに参加。会場で政府代表への働きかけを行ないながら、議論の行方を追いました。

会議初日には、地球温暖化がもたらす気象災害によって「損失と損害」を受けた国々を支援する基金の運用に関する大きな合意があり、幸先の良いスタートを切ったCOP28。しかしその後、今回が初めてとなるグローバルストックテイク(世界の温暖化対策がどれくらい進んだかを5年ごとに評価する制度)や、化石燃料を巡る議論は難航し、最終的には会期を延長。それでも、最終的な合意文書には、「化石燃料を転換していく」という表現が盛り込まれるなど、2050年までの温室効果ガス排出ゼロの実現に向け世界全体が化石燃料から脱却していく方向性が明示されるという、歴史的な成果が上がりました。

2024年1月、WWFは、COP28の参加報告会を開催し、化石燃料をめぐる交渉や、非国家アクター(企業や自治体、NGOなどの国家政府以外の団体)の現地での動きなどについて報告。COP28の結果が、今後の日本の国内政策にとっても重要となることを、企業やメディア関係者をはじめ、広く伝えました。

日本企業のSBT認定及びコミットが1,000社を突破

© WWF-US / Keith Arnold

温室効果ガスの主要な排出者である企業が、科学に基づいて設定する温室効果ガスの削減目標であるSBT(Science Based Targets)。WWFを含む4つの団体が設立したSBTの運営機関は、各社が設定したこれらの目標を審査し、基準に合致したものには「SBT認定」を付与する取り組みを続けています。
2024年3月には、SBTの認定を取得した、または取得することを約束(コミット)した日本企業の数が、ついに1,000社に到達。この数字はイギリスに次いで世界2位、既に認定を取得した企業に限ると、日本企業の数は世界1位となっており、日本の脱炭素化に向けた大きなうねりとなっています。
その一方で、日本を代表する大企業であってSBT認定を取得していないケースも見受けられます。そこでWWFでは、日経平均株価を構成する企業を対象に、SBT認定の取得やコミット状況を分析、公開する新たな取り組み「日本企業脱炭素本気度ウォッチ」を開始。今後もモニタリングを継続しつつ、SBT認定の取得企業の拡大をめざしていきます。

中高生と考える「エネルギーの選択」

© WWF-Japan

グループ間での交渉のために自身のグループの主張をまとめる参加者たち

WWFは将来を担う若い世代を対象に、2019年より、体験型ワークショップ「選ぶ!私たちの未来とエネルギー」を実施しています。今年度は計3回開催し、全国から50名の中高生が参加しました。
ワークショップでは、まずWWFから、地球温暖化の現状やCOP28の最新情報を紹介。さらに、地球温暖化対策の鍵をにぎる「エネルギーの選択」について学ぶため、各エネルギー源(再生可能エネルギーや化石燃料など)の特徴に関するレクチャーを行ないました。その後、参加者たちは、「2030年の理想のエネルギーミックス」をテーマに、COPなどの国際会議でも重要となる「交渉」を体験。最終的な合意に至る難しさや、敬意を持って相手の意見を傾聴することの大切さを知ったという感想が多く寄せられました。
WWFは、今後もこうした取り組みを通じて、次世代を担う若者が地球温暖化などのグローバル社会課題を「自分ごと」として捉え、将来の社会を自分たちで選択する力を培えるよう応援していきます。

CROSS CUTTING:テーマ横断で課題解決に挑む

WWFジャパンの活動は大きく5つのテーマ(森林、海洋水産、淡水域、野生生物、地球温暖化)に分けられますが、その原因や、解決に向けた課題には多くの共通点もあります。
そこでテーマ横断の取り組みとして、金融機関や企業の事業および投融資に環境への配慮を求める活動や、環境保全と人道支援の連携、環境・社会課題に取り組む次世代リーダーの育成などを進めています。

次世代リーダー育成プログラム「BEE」を開始

BEEプログラムのシンボルイメージ

2024年3月、生物多様性の回復と脱炭素社会の実現を導く次世代リーダーの育成をめざし、若者向け事業支援プログラム「BEE(Base for Environmental Entrepreneurs)」を開始しました。環境課題や、関連する社会課題に既に取り組んでいる、あるいは解決に向けたアイデアを持っている若者を応援し、ソーシャルインパクト(社会的波及効果)のさらなる創出に向けた事業の実装・推進を後押しする内容で、NPO法人ETIC.、アクセンチュア株式会社との協働で進めています。

初回の募集は18~35歳までの15名。6カ月間の実践型プログラムで、参加者はWWFをはじめ、各分野の最前線で活躍する専門家、研究者、先輩起業家とのネットワーキングやメンタリング、システム転換のシナリオ作成支援などのサポートを受けながら、3つのテーマ「プラスチックをめぐるサーキュラーデザインと実装」「自然と調和した地域づくり」「サステナブルビジネスとイノベーション」に沿ったそれぞれの事業・活動のブラッシュアップを行なっていくこととなります。

約500名の方からプレエントリーがあり、うち約100名から実際に事業企画書が提出されました。その中から選ばれた15名が、2025年2月までのプログラムに臨みます。

セーブ・ザ・チルドレンと連携プロジェクトを始動

© WWF-Indonesia

多くの関心を集める形で実施された2023年12月のキックオフ会合

インドネシア・スマトラ島のリアウ州では、紙パルプやパーム油の生産を目的とした大規模な農地開発などにより、森林減少や生物多様性の喪失が続き、近年では、地球温暖化の影響も広がり始めています。こうした環境問題は、地域の子どもたちが児童労働や搾取、不就学の増加といった問題にさらされる要因のひとつにもなっています。
2023年12月、WWFは、国際NGOセーブ・ザ・チルドレンとの連携プロジェクトを新たに開始しました。「BASAMO(バサモ。地域の言葉で「一緒に」という意味)」と名付けられたこのプロジェクトの目的は、環境教育と子どもの保護、持続可能な生計の構築を通じて、子どもたちとその家族の生活の支援と、地域の自然環境保全を推進することです。
2024年度は、地域の生活状況や教育、暴力や搾取などに関する実態調査や、ESD(持続可能な開発のための教育)推進に向けての学校や行政との協議、持続可能な農業への転換と計の向上をめざす活動計画の策定などを、地域の人々と共に進めました。

TNFDによるネイチャー・ポジティブへの貢献をめざして

© WWF-Aus / Chris Johnson

真の「ファースト・ペンギン」になるのはどの企業?

生物多様性の損失をくいとめ、回復へと向かわせる「ネイチャー・ポジティブ」を実現するには、世界のあらゆる場面で、人類の行動を「持続可能(サステナブル)」な形にすることが欠かせず、そのために重要な役割を持つのが企業です。

2023年9月、WWFも創立にかかわったTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言が発表されました。これは、企業が自社の操業およびバリューチェーン全体を通じて、どのように自然に「依存」し、「影響」を及ぼしているか把握・情報開示するためのフレームワークを示すもの。2024年1月のダボス会議では、2025年までにTNFDの採用を宣言する「アーリーアダプト企業」として、世界で320社(日本からは80社)の登録が発表されました。

WWFは、情報開示の中身が実際に自然の危機に対処し、ネイチャー・ポジティブに貢献する内容となることを求めています。2024年5月には、オンラインセミナー「TNFD開示における認証制度の利用と注意点」を開催しました。

Many thanks!

皆さまからのご支援が、世界100カ国以上で展開されているWWFネットワークの活動を推進する大きな力となっています。

FY2023
個人サポーター総数 約600万人
SNSフォロワー総数 約3,800万人
ネットワーク全体の収入 約11億3000万ユーロ
ネットワーク全体の支出 約10億100万ユーロ
*FY2024については現在、WWFインターナショナルにて集計中です

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