黄海のアサリ漁業改善プロジェクトが完了!MSC本審査入り
2020/02/05
「食」を支える黄海の豊かな自然環境
中国大陸と朝鮮半島に囲まれた広大な海、黄海。沿岸には、数多くの湿地が広がり、魚類、貝類や甲殻類をはじめ、様々な生きものが生息しています
加えて、黄海は世界に9つある渡り鳥の主要な経路の一つ「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ(=鳥の渡り経路(またはルート))」の重要地域。春のシーズンには、シギやチドリをはじめ、非常に多くの渡り鳥が休息や採食のため、黄海沿岸に広がる干潟などの湿地を訪れます。
さらに黄海は、人間にとっても、水産物の産地として重要な地域です。その中でもアサリは、比較的安価で貴重な栄養源として、人々の食生活に欠かせません。
日本のアサリ消費も、中国で生産されたアサリに支えられており、アサリ供給量の実に6割以上にあたる量を中国からの輸入に頼っています。そしてとりわけ、豊かな自然環境に支えられたこの黄海沿岸は、中国におけるアサリの主要生産地であり、それによって日本人の食も支えられているのです。
しかし近年、日本への輸出に加え、中国国内での需要が拡大。アサリの生産量は増え続け、2016年には中国のアサリ生産量が年間400万トンを超えました。こうした生産量の増加に伴い、黄海でもアサリの資源や生産現場の自然環境への影響が懸念されてきました。
そこでWWFは、アサリの主要な生産地であり、渡り鳥の重要な中継地でもある黄海沿岸の、中国・遼寧省東港市の鴨緑江河口域で、2016年11月より、アサリ漁業の「漁業改善プロジェクト」を開始しました。
漁業改善プロジェクトは、持続可能な漁業であることを示す国際認証である、MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)認証制度の基準を満たすことをゴールに設定し、段階的に漁業の改善を進めていくプロジェクトです。
これが達成できれば、アサリの資源の乱獲を防ぐことができるだけでなく、渡り鳥の訪れる周辺の沿岸の自然環境への配慮も実現することができます。
WWFジャパンでは、アサリ漁業でこのゴールを達成することを目指し、中国遼寧省東港市の水産加工会社である丹東泰宏食品有限公司、同社からアサリを調達する株式会社ニチレイフレッシュ、WWF中国と協力し、2016年にプロジェクトを開始。現地の漁業改善を支援してきました。
関係者の協働によるアサリ漁業の改善
段階的な改善の取り組み
MSC認証制度の原則は、主に下記の3つの視点をふまえ、構成されています。
- 資源の持続可能性
- 漁業が生態系に与える影響
- 漁業の管理システム
漁業改善プロジェクトの開始にあたっては、まずこれらの原則にもとづき「予備審査」を実施。この時点で、アサリ漁業がMSCの基準を満たしていない課題を洗い出しました。
その結果をもとに、課題を解決するための作業計画を策定。2016年11月にアサリ漁業の漁業改善プロジェクトが始まりました。
この漁業改善プロジェクトでは、漁業管理計画の改善だけでなく、漁業による生態系や野生生物への影響に関する調査なども必要とされました。これらは、企業やNGOのみで解決できる課題ではないため、政府や研究者をはじめとするさまざまな方々の協力を得て、推進されました。
幅広い関係者との協働の推進
プロジェクト自体も、幅広い関係者の参画を得ることで推進されてきました。
具体的には、丹東泰宏食品有限公司、株式会社ニチレイフレッシュ、WWF中国、WWFジャパン、さらに東港市の漁業局、大連海洋大学、遼寧省海洋水産科学研究院(LOFSRI)、中国水産加工流通協会(CAPPMA)、MSC中国事務所など。
しかし、この関係者との協働を進めていく上では課題も出てきました。
その一つが、MSCの基準に関する理解を向上させること。MSCが定めた国際基準の中で求める事項を理解し、漁業改善に必要な作業を進めていくことは容易ではありません。そのため、プロジェクト開始当初は、作業が順調に進まない時期もありました。
そこでWWFでは、プロジェクトを円滑に進めていくために、関係者と進捗を確認し議論する機会を定期的に設けることにしました。
各関係者が関わる作業の進捗を確認し、課題や次に必要な作業を議論。さらに、それぞれの作業が、MSCの基準で求められている事項に関わるのかということも含めて話し合いを重ねました。
持続可能性の向上と関係者の協働体制の確立
定期的な話し合いの機会は、関係者のMSCの基準や持続可能な漁業への理解の向上だけでなく、実際の改善の作業が進むきっかけにもなりました。
漁業管理については、東港市の漁業局の関係者をはじめとする方々が、管理の強化、自然環境への影響の防止、科学的調査の促進などを、東港市の漁業・養殖業計画として明記。実効性のある管理にもとづき、中長期的に自然環境に配慮したアサリの生産につながるような計画の策定に成功しました。
加えて、泰宏食品社を中心に、東港市で水産業に関わる企業・団体が、新たに業界団体が設立。企業・団体間の協働のもと、東港市の漁業局とも連携し、漁業・養殖業計画にもとづいた適切な管理の実施や、自然環境に配慮した水産物の生産に取り組むなど、適切な漁業管理のシステムが構築されました。
さらに、研究者や漁業局関係者の協力を得て、生産現場での生態系や野生生物への影響に関する調査も実施。このプロジェクトが生態系や、渡り鳥をはじめとする野生生物、その生息地に及ぼす影響は非常に小さいということを明らかにしました。
プロジェクトでは、一連の作業を通じてアサリ漁業の持続可能性が向上しただけでなく、関係者間の関係構築も実現。幅広い関係者が連携し、継続してアサリの持続可能な生産に向けて取り組んでいけるような協働体制の確立は、プロジェクトでの大きな成果となりました。
水産物の持続可能な生産の拡大を目指して
2016年11月のプロジェクトの始動から、約3年間にわたる関係者との取り組みの結果、2020年1月6日に、アサリ漁業がMSCの本審査に入りました。今後、半年から1年にわたり、第三者の認証機関によって認証取得の可否が審査されます。
日本のアサリ供給量の6割以上を支える中国のアサリは、日本人の食卓にも欠かせないものです。今回の審査を経て認証が実現すれば、MSCのラベルの付いた持続可能なアサリが、日本の食卓にもやってくることになります。
いま、世界の海では、水産資源の枯渇が国際的な課題となっています。そのため、多国間の協力のもと、幅広い関係者が協働し、水産物の生産を持続可能なかたちに転換していく、今回のような取り組みの実現は、他の海域の手本となる貴重な機会となります。
このアサリの漁業改善プロジェクトも今後、他の場所や漁業にとっても良い先例となり、広がっていくことが期待されます。
WWFは引き続き、こうした生産現場でのプロジェクトを推進し、豊かな海洋環境の保全と、持続可能な水産物の生産の拡大に向けて取り組んでいきます。