緊急報告:インドネシアで泥炭・森林火災が多発
2019/09/25
その数8万7,960地点!急増する泥炭・森林火災
2019年9月18日、インドネシアから衝撃的な森林火災の現状報告が届きました。アメリカ航空宇宙局(NASA)およびアメリカ海洋大気庁(NOAA)の気象衛星が観測した火災発生地点(ホットスポット)の情報です。
それによると、2019年9月10日から9月17日の一週間に確認された、火災発生地点の数は、累計8万7,960地点に及ぶことが分かりました。
これは、火災の発生地点が、8月27日~9月3日の一週間の観測で約1万3,000地点であったことを考えると、危険な増加と言わねばなりません。
インドネシアでは毎年、雨の少ない乾季の訪れと共に、森林や泥炭地で火災が発生し始めます。この乾季は、通常3月ごろから始まり、半年ほどで終わりますが、毎年とりわけ火災の発生件数が急増するのが、乾季もきわまった9月~10月にかけての期間です。
しかし、年によって乾季は12月ごろまで長引くこともあり、それに伴って火災とその被害が拡大することも少なくありません。
深刻な泥炭地の火災
特に深刻なのは、泥炭地と呼ばれる環境で生じている火災です。
泥炭とは、枯れた植物が、湿地などの水中で分解されずに蓄積したもので、場所によっては、最大で20メートル以上にもなる厚さの地層を形成します。
インドネシアでは特にスマトラ島の東部などを中心に、この泥炭地層が広がっており、その上に形成された湿地や湿地林が多くみられます。
そして今、火災がこうした場所にまでおよび、被害が拡大しています。
この泥炭地の火災の大きな問題は、地層を形成する泥炭自体が、乾燥すると非常に燃えやすくなることです。そして、一度発火し、土の中にまで火が入ってしまうと、完全に消火することがきわめて困難になります。
さらに、泥炭は膨大な炭素の貯蔵庫。
泥炭地は、地球の陸地面積のわずか3%にすぎませんが、世界中の森林を合わせたよりも多くの炭素が貯えられています。
この泥炭が燃えると、通常の土地が燃えたときの20倍にも上る二酸化炭素(CO2)が排出されてしまうため、地球温暖化(気候変動)をさらに増進させてしまう大きな原因にもなります。
拡大する火災の被害
こうした泥炭や森林の樹木の燃焼は、大気中に二酸化炭素だけでなく、二酸化窒素や二酸化硫黄などの有害物質も排出します。
この大量のヘイズ(煙霧)によって、近隣の市街地はもちろん、国境を越えてシンガポールなどの国々にも、深刻な健康被害が拡大しているほか、学校や公共機関なども一時閉鎖されるなど、大きな社会問題が生じています。
自然環境への被害も甚大です。
スマトラ島やボルネオ島のカリマンタン地域を含むインドネシアの国土面積は、地球の地表の1.3%に過ぎませんが、その主要な島々の全てで現在、火災が多発。
しかもそこは、世界の熱帯林の約10%が残る場所です。
そこには全世界の哺乳類の12%、爬虫類・両生類の 7.3%、鳥類の17%が生息しているといわれ、トラやアジアゾウ、スマトラサイ、オランウータンなど、国際的にも絶滅が心配されている多くの野生動物が命をつないでいます。
火災の拡大は今も、こうした貴重な野生生物をはぐくむ、東南アジアの貴重な熱帯林の生態系を、大規模に破壊し続けています。
火災発生の原因と日本の関係
インドネシアで多発している火災の主な原因は、主に農地の開発を目的とした「火入れ」すなわち人為的な放火です。
これは、熱帯林を切り拓き、農地や植林地を造成する手段として行なわれているものです。違法な行為でありながらも、その手軽さや効率の良ささから、火をつける人が後を絶ちません。
特に、火災の発生に拍車をかけているのが、パーム油(植物油)を収穫するためのアブラヤシ農園や、紙の原料となる紙パルプを生産するためのアカシアやユーカリといった樹種を植えた植林プランテーションの造成です。
特に被害のひどい地域は、スマトラ島中央のリアウ州、ボルネオ島の西カリマンタン州や中央カリマンタン州など。いずれも、パーム油や紙の生産が盛んな地域に重なります。
そして、こうして切り拓かれた農地やプランテーションで生産されたパーム油や紙は、日本へも輸出されているのです。
森林火災への緊急対応
WWFでは現在、このインドネシアでの泥炭地や森林での火災を鎮火するため、その最前線で消火活動を行なっている人々への支援に取り組んでいます。
日本のように、各地域に消防署が常設されているわけではなく、河川などの水源が近くにないことも珍しくなく、困難を極めています。その場合は、火災現場まで水を運び、さらに消火のための道具や設備を移送する必要が出てきます。
また、森林や泥炭地のような環境で起こり、延焼していく火災の対応には、高度な技術を持った消防隊に緊急出動要請を行なう必要もあります。
そして、火災は鎮火すれば問題が終わるわけではありません。
鎮火後の森林の回復や、火災の再発を防ぐための措置にも、急ぎ取り組まなければ、この森林火災の問題は本当の意味では解決しないのです。
WWFでは現在、下記のような現場への支援を実施・検討しています。
また、東南アジアの森だけでなく、アマゾンを含めた他の地域の森林火災についても、同様の対応と支援を行なうべく、各国のWWFと活動計画の検討を進めています。
消火活動に必要な支援
- 消防隊の緊急出動の要請と、火災現場への移動費用の支援 ・消防隊の食費、宿泊費、医療費、緊急時非難費用などの支援
- 消防隊の装備(防火服、防炎マスク、ヘルメット、携帯用酸素ボンベなど)の充実
- 消火用のポンプやホースといった機材の確保と、水の運搬費用の支援
消火後に行なう活動
- 燃えやすい木くずなどの破片の撤去
- 本来そこに生育していた在来の樹種の植林
- 損壊した野生生物の保全設備の修繕
- 被害地域の現状調査と、地図にデータを落とす作業
- 火災発生の原因の解析
新たな火災を防ぐための活動
- 火災の早期警報システムの構築
- 違法な火入れを防ぐための森林パトロールの継続
- 必要な機器や設備の準備
- 森林周辺で生活している地域住民との協力
- 泥炭地の再生
- 防火用の水の確保を目的とした河川の整備
日本からもできること
海の向こうで起きている森林火災への対応には、まず消火活動への支援が急務です。
しかし、この問題を解決するためには、こうした地域で生産されたパーム油や紙を輸入し、購入している日本の企業や消費者の理解と協力が欠かせません。
特に企業には、自社が取り扱うパーム油や紙がどのような過程で生産されているかを把握し、火災や煙害、森林破壊に関与していないか確認する義務があります。
WWFジャパンは日本で、企業各社に対し、こうした問題への取り組みの姿勢を明らかにした「責任ある調達方針」を策定し、運用することを求めています。
企業が森林火災や環境破壊に加担して生産された原料や製品の輸入をしなければ、消費者がそれを手に取ることはありません。
また日々の生活の中で、紙やパーム油由来の製品を購入している一般の消費者も、製品の原材料がどこで生産されているのか、その現場で何が起きているのか、関心を持つことが大切です。消費者がそうした情報を企業に開示するように求めることで、消費する立場から企業の行動を変えることもできるでしょう。
WWFは、そうした手段の一つとして、現在、環境や社会に配慮して生産された紙や木材、パーム油製品を認証する、FSC®やRSPOの認証制度を推進しています。
FSCでは紙製品や木材製品に、またRSPOではパーム油を含む製品に、それぞれが持続可能に生産されたことを証明するラベルが付けられ、消費者も一目で、そうした製品であることが分かります。
このような信頼のできる国際的な認証マークを確認しながら、必要なものを購入することで、火災現場から遠く離れた日本でも、森林の保全や地球温暖化の防止、また、そこにすむ野生生物の保全に貢献することができるのです。
WWFは、今後も森林火災の現場で、その支援活動と絶滅危惧種の保全に取り組むと同時に、企業や消費者に対して、環境に配慮して生産された製品や原材料の購買や調達を行なうよう、働きかけていきます。
地球から、森がなくなってしまう前に。
森のない世界では、野生動物も人も、暮らしていくことはできません。私たちと一緒に、できることを、今日からはじめてみませんか?