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インタビュー連載 ~環境保全のヒトビト~ 野生動物の未来を守る

この記事のポイント
森や海の自然を守る。トラやゾウなどの絶滅しそうな野生動物を保護する。気候変動(地球温暖化)をくい止める… 言葉では見たり聞いたりすることがあっても、実際それに携わる人たちが何を考え、どのように動いているのか?は、なかなかイメージするのが難しいかもしれません。 この連載企画では、WWFジャパンのスタッフへのインタビューを通じて、何を感じ、悩み、何を大切にしながら、どのような活動に取り組んでいるのかを紹介します。 日本を、世界を舞台に環境保全に奔走するヒトビトの姿と、現場の活動の本当の姿に、ぜひ目を向けていただければと思います。

第7回はWWFジャパン自然保護室野生生物グループの岡元友実子。動物園からWWFへ来た経緯や新しく立ち上がったペットプロジェクトでの奮闘、今後も大事にしていきたいことについて聞きました。

スタッフ紹介

© WWF Japan

WWFジャパン
自然保護室 野生生物グループ
岡元 友実子


獣医学修士(ソウル大学)/ 学芸員 / IUCN カワウソ専門家グループメンバー
学部から大学院に至るまで、野生動物について専門的に学ぶ。修了後、上野動物園など日本および台湾での動物園勤務を経て、2021年WWFジャパン入局。現在はペットプロジェクトに関連した業界変容を担当。
すきな動物はカワウソ!ヨガや水泳で体力づくりにも励んでいます。

家族ぐるみで動物が好き

――岡元さんは、野生動物のペット取引が引き起こす問題を担当していますね。ご自身も相当な動物好きと聞いています。どういったきっかけで野生動物に興味をもったんですか?

子供のころから動物園に行くのが好きでした。船乗りだった祖父も動物好きで、寄港地では必ず海外の動物園に行っていたそうです。エジプトの動物園に行ったとか、ベルギーのアントワープ動物園がよかったとか。そういう話が身近だったからかもしれないですね。

――50年前くらいのヨーロッパや中東の話はとてもインパクトが強そうですね。WWFに来る前も動物園で働いていたそうですが、どうして動物園で働きたいと思ったのですか?

大学生の時に野生動物の勉強に特化した学科にいて、そのなかに動物園学があって実習などで関わることも多かったので、動物園の知り合いが多くいたのです。最近は動物園のなかにも、動物をただ見せるだけでなく、種(しゅ)の保全に関わったり、海外の動物園との積極的な交流があることを知り、そういった魅力に触れて動物園で働きたいな!と思いました。まず上野動物園で2年、その後は台湾の動物園で約4年働いていました。

違法野生生物取引に関連する業務の都合上、顔はうつせない岡元さんですが、笑顔の素敵な女性です。
© WWF Japan

違法野生生物取引に関連する業務の都合上、顔はうつせない岡元さんですが、笑顔の素敵な女性です。

――海外の動物園への転職というのは、初めて聞きました。どういう経緯でいくことになったんですか?

上野動物園で働いていた時、たまたま台湾の動物園関係者を案内する機会があり、後日、出張で台湾の現地を訪ねた際、小さいけど歴史があっていい動物園だな、と思ったのがきっかけです。もともと、韓国に留学していた学生時代から、いつか海外の動物園で働きたい!という想いは持っていました。幸い中国語も話せたので、台湾の動物園にオファーして働くことになりました。

――台湾の動物園、なかなか日本から行く機会はなさそうですが、実際に働いてみてどうでしたか?

大変なところもたくさんありました。文化的な違いもたくさんありましたし、現地も初めての外国人採用だったので、受け入れ側の苦労もあったと思います。また、ネイティブではないので、うまく言葉を操れずに悔しい面もありました。
一方で、若いうちにそういう経験ができてよかったなと思います。色んな人に出会い、考え方や文化の違いなどが経験できた点や、台湾固有の動物について詳しくなれたことなど、視野は広がったなと思います。

カワウソ専門家グループの活動でみえた自分の方向性

――台湾での経験は、国際性という観点ではWWFとも通じるものがありそうですね。ただ、野生動物という共通点があるとはいえ、動物園と自然保護団体では異なる点もあると思います。動物園からキャリアチェンジしようと思ったのはなぜですか? 

動物園で働く中で、もっと動物園の外とかかわる仕事がしたい、と思うようになりました。もともと私は論文を書くのが好きだったのですが、そのためにフィールドに出て調査や研究を行なうことや、学会で発表したり世界中の研究者と連携するような活動にもっと深くかかわりたい、その方が自分に向いているかな、と。

――そういった自分の志向をより強く意識するようになったきっかけは何だったのでしょうか。

私は学生のころからずっとカワウソの研究をしているのですが、台湾の動物園時代に、IUCN-SSC(国際自然保護連合-種の保存委員会)のカワウソ専門家グループに入らないか、とメンバーの方から打診されました。実際に入ってみると、世界中の人と情報交換や学会発表もできるので、とても世界が広がりました。この活動はボランティアなので、仕事の傍ら、自分の研究結果をレポートで提出したり、その一環でフィールド調査に行って知見を集めたり。そういった経験を経て、もっと保全にフォーカスした仕事がしたいと思いました。

フランスで開かれたIUCN国際カワウソ会議で発表する様子
© WWF Japan

フランスで開かれたIUCN国際カワウソ会議で発表する様子

――なるほど、研究も保全もフィールドに生きる野生動物をテーマとしているという意味では、確かに通じるものがありますね。

そうですね、どちらも実際にフィールドで野生動物を観察することは、本当に大事だと思っています。現場の知見というのは、いつかどこかで必ず役に立つことが多いからです。

例えば、2022年にフランスで開かれたIUCN国際カワウソ会議の中で「カワウソのフンをどれだけリアルに作れるか」を競うユニークな大会がありました。私はそこで優勝したのですが、これは普段から、いかにフィールドでカワウソを観察しているかを競うコンテストなのです。

今のWWFでの取り組みの中でも野生動物の深い知識が問われることがありますので、現場の知見を、図鑑やインターネットでは知りえない「生の情報」として、これからも大切にしたいと思っています。

アマゾンにて双眼鏡で自然を観察する様子
© WWF Japan

アマゾンにて双眼鏡で自然を観察する様子

――カワウソのフンのコンテストとは!IUCNの専門家グループの活動について、普段なかなか聞く機会がないので興味深いです! IUCNはWWFともつながりのある団体ですが、岡元さんはWWFとはどのようにかかわってきたのでしょうか?

WWFジャパン自体は上野動物園時代から一緒にイベントを開催するなど、関わりがありました。カワウソの密輸事件が相次いでいた時にも、WWFジャパンに「コツメカワウソのペット問題」の観点で情報提供をしたことがあります。そうした中で、WWFが野生動物のペット問題に取り組んでいることを知り、自分がやりたいと思っていた事と近そうだと思っていました。
2021年3月に台湾から帰国した時、WWFジャパンの野生生物グループで、野生動物のペット問題にかかわるスタッフ募集がでていたので、思い切って応募しました。

サステナブルなペット市場への変容を目指して

――動物園からWWFへの道のり。そして、その根っこにある野生動物への想いと知見、とても興味深かったです。ここからは、WWFジャパンで岡元さんが現在取り組んでいる活動について聞かせてください。  

はい、私が取り組んでいるのは「ペット利用される野生動物」の取引に関係した活動です。
近年、犬や猫以外の動物を「エキゾチックペット」として飼育することが注目されていますが、この中にはサルやカワウソ、フクロウ、カメといった野生動物も含まれています。
最近、日本でもこういった野生動物を飼育する事例が増え、SNSでも人気を博しているのですが、実はこうした野生動物の飼育や取引(売買)には、いろいろな問題があります。

たとえば、野生動物がペットとして過剰に利用されると、高く売れる動物を狙って生息地で乱獲が起きたり、違法な取引(密猟や密輸)が行なわれたり、持ち込まれたペットの遺棄や脱走によって外来種になってしまったり。さらに近年は、動物から人間へ感染する、動物由来感染症の流行を引き起こすリスクがあることも心配されています。

――野生動物がペットとして利用されることにはたくさんのリスクが潜んでいるのですね。こういった問題の解決には何が必要なのでしょうか。

はい、3つの取り組みが必要です。1つ目は、動物の飼養や管理などについて定めた法律を見直すこと。2つ目は、飼育を希望する消費者の野生動物に対する意識を改善すること。そして3つ目が、ペット業界がそのビジネスの在り方を変えていくことです。
WWFジャパンの野生生物グループでは、この3つの問題全てに取り組んでいますが、その中で私が担当しているのは、最後のペット業界への働きかけです。最終的には、ペット利用によって絶滅の危機にさらされる野生動物をゼロにしていくことが目標です。

日本のペット市場でも見られるフェネック(Vulpes zerda)は、北アフリカからアラビア半島の乾燥地帯に分布する野生動物です。夜行性で、常に湿度を低く保つ必要があるなど、ペットとしての飼育には適しておらず、近年には日本人が関与した密輸も発覚しています。
© John E. Newby / WWF

日本のペット市場でも見られるフェネック(Vulpes zerda)は、北アフリカからアラビア半島の乾燥地帯に分布する野生動物です。夜行性で、常に湿度を低く保つ必要があるなど、ペットとしての飼育には適しておらず、近年には日本人が関与した密輸も発覚しています。

近年は、ESG投資が大きく広がりを見せるようになるなど、企業に対し持続可能なビジネスを求める動きが加速しています。ペット業界でもそれは同じで、法規制を遵守するだけでなく、生態系に負荷を与えない、持続可能な範囲での調達や動物を適切に取り扱う動物福祉の概念を事業に取り入れていかなければ、サステナブルなビジネスとして認識されなくなります。また、ペット業界全体としても、こうした対応の不足が、経営リスクにつながってくると予想されます。

――なるほど、野生動物のペット問題に取り組むことは、それを取り扱うペット業界にとっても、必要な対応ということなんですね。

どうすれば野生動物のペット利用によって絶滅の危機にさらされる動物をゼロにしていけるのか。そうした課題を様々なステークホルダーと一緒に検討しながら、自主的に変わっていく事が大切だと思っています。

野生動物もペット目的で売買される米国のフェア(展示即売会)の様子
© WWF Japan

野生動物もペット目的で売買される米国のフェア(展示即売会)の様子

「知る」から行動につなげるためには 

――野生動物のペット利用問題は、ペットとして求める消費者の需要も要因の一つかと思いますが、欲しいと思う人たちに変わってもらうためにはどういったことが必要ですか。

野生動物をペットとして利用することには、さまざまなリスクがある、ということを正しく認識してもらい、安易な飼育に対して疑問を提起できるような世論を形成することが必要だと思っています。

2022年、私たちは「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」キャンペーンを実施しました。これは、近年ペットとして人気が高く、飼育に絶滅や密輸といったリスクが伴う野生動物にスポットをあて、飼育員さんからペット飼育が向かないことや、人馴れしない野生動物の特徴、保全に関するリスクなどを伝えてもらい、野生動物のペット飼育を考える人に、飼育そのものの見直しを求める、という企画です。また、そうした事実を一般の人が知ることで、野生動物を飼育したいと考えている人の周囲からも、慎重に飼育を考える必要があることを促す効果も期待しています。

そういった取り組みから、徐々に世論が変わっていく兆しはあるかなと思います。一般の人たちに、この問題について知ることで行動を変えてもらう施策を考えることは、今後の課題だと思っています。

キャンペーン「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」

ここが難しい!ペット利用される野生動物をめぐる4つの課題
WWFジャパンは、消費者及び事業者等へエキゾチックペットの適切な取引と飼育に資する科学的根拠のある情報を提供する目的で「エキゾチックペット ガイド」ウェブサイトを作成しました。

1:どこから来たの!?不明な情報が多い
ペットとして売られている野生動物については、犬や猫に見られる血統書のようなものが一般的になく、生産者や出生場所といった情報の詳細も、消費者(ペットを飼う側)にはわからないケースが大半です。また国外から輸入される動物も非常に多いですが、これらが販売される際に表示される出生地も、国名や地域名が表記されるのみで、詳細がわかりません。

2:ペットにかかわるビジネスはさまざま!
ペット産業は日本でも大きな産業の一つです。直接、生きた個体を取り扱う卸売や、販売する小売企業、またペット保険や用品・フード販売企業、商業施設、獣医療、メディアなど、ビジネスとしてかかわる業態は多岐にわたります。また、業種や個人によって考えや意見が異なることも多いことも、多くあります。その中で、エキゾチックペットの問題を解決していくためには、こうしたさまざまな業界のステークホルダーと対話を重ね、協働することが大切です。

3:種類が多い!日本で売買されるエキゾチックペット
日本でペットとして取引される野生動物の種(しゅ)が、非常に多いことも、問題解決を困難にしている要因の一つです。たとえば、フクロウ類だけでも、寒冷地に生息する比較的大きなシロフクロウから、温暖な場所に生息する小型のコキンメフクロウなどさまざまな種がいます。また、野生動物は研究が進んでいる家畜と異なり、その生態や食性などに関する科学的知見が不足していることがほとんどです。

4:科学的根拠のある情報の提供が必要!
たとえば、ペットを飼育することを考えている人や、ペットを取りあつかう事業者が、その動物を飼育することに、野生生物の保全、合法性や公衆衛生の面でどのようなリスクが伴うのかを知りたいと思った時、現在の日本にはそれを適切に判断できる材料が不足しています。どのような動物がペットとしての取り扱いに適しているのか。また、適していないのか。判断の参考にするべき、科学的根拠に基づいた中立性の高い情報へのアクセスが必要とされています。


WWFジャパンは、消費者及び事業者等へエキゾチックペットの適切な取引と飼育に資する科学的根拠のある情報を提供する目的で「エキゾチックペット ガイド」ウェブサイトを作成しました。
エキゾチックペットガイド

――ペットをめぐるさまざまな取り組みについて聞きましたが、実際にWWFで働いてみて、今どう感じていますか?

動物園とは仕事内容は大きく違ったので、最初は戸惑うことも多かったのですが、私自身は人と話したり、外に行くことも好きなので、さまざまな方々とお会いすることについては、苦ではないですね。 もちろん多様な意見をもつ方々との対話は、そう簡単にうまくいかないことも多いのですが、互いの理解が進んで、少しでも目標に近づいていると感じたときには、とても嬉しくなります。何より、このペットに関連したプロジェクトでは、業界の方や行政の方々と議論をしたり、世論に訴えかけるキャンペーンを実施したりと、問題の根本に大きく働きかけるような、ダイナミックな取り組みを行なっていますので、そうした点には非常にやりがいを感じています。
また、このプロジェクトではWWFアメリカのスタッフとも連携していて、定期的に会議を行なっています。他にもブラジルやイギリス、シンガポールなど海外とのやり取りが多いのも国際NGOならではですね。時差や価値観の違いという大変さはありますが、個人的には海外の文化やコミュニケーションがすきなので、仕事に向き合う上での一番のモチベーションかもしれません。(笑)
さまざまな人とのかかわりの中で、広い視野と知見を吸収しながら、この大きな難問に全力でぶつかっていけるのは、有難いなと感じています。
そのためにも今まで学んできたことや経験を総動員して、この仕事に取り組んでいきたいと思っています。

アマゾンで設置したカメラトラップ映像を確認する様子
© WWF Japan

アマゾンで設置したカメラトラップ映像を確認する様子

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WWFジャパンでは環境問題に取り組むさまざまなスタッフの頑張りを支えてくれる、「サポーター」を募集しています。ご関心をお持ちいただけた方は、ぜひこちらの資料をご覧になってみてください。

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