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発覚するのはごく一部!野生動物密輸の実態

この記事のポイント
ペットとして利用される野生動物の中には、密猟や密輸の犠牲になる動物がいます。 日本の空港や港湾では、こうした違法行為が発覚する案件が後を絶ちませんが、それでもこうして差し止められる事例は、密輸全体の一部にすぎません。 規模や実態を知ることが難しい、野生生物の違法取引。この犯罪をゼロにするためには、水際での密輸の取り締まり強化だけでなく、野生動物をペットとして利用する消費者の意識の見直しも求められています。
目次

ペット利用される野生動物と違法取引

©Ranjan Ramchandani / WWF

日本は、ショウガラゴやシロフクロウ、オオトカゲなど、もともと日本には生息していない野生動物を数多く輸入し、ペットとして利用しています。

野生動物特有の表情や行動、希少性などから人気が高まり、高値で取引される動物種も少なくありません。

こうした動物の中には、「ワシントン条約(正式名称:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)」で国際取引が規制されている種もいます。

ワシントン条約は、国家間の取引を制限することによって、野生生物の絶滅のおそれを軽減し、持続可能に利用することを目指す国際条約。

しかし、人気のある動物は、価値が高いとみなされ、条約のルールを守らずに密猟、密輸されるというケースが後を絶ちません。

日本への密輸の状況

日本の税関では、ワシントン条約の規制の対象となっている動物の密輸入の差止記録、すなわち条約に違反して日本に持ち込まれようとして発覚した事例をまとめ、公開しています。

ワシントン条約対象の動物種を輸入する際は、輸出国政府が発行する輸出許可書を取得し、税関に提出する必要があります。

この許可を得ずに動物を持ちこんでしまうと、密輸、つまり国際法に対する違法行為となり、持ち込もうとした動物も税関で差し止められます。

WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFICは、過去にこの税関差止記録を分析し、日本でペット利用される野生動物の密輸の実態を明らかにしました。

その調査によれば、2007年~2018年の間に、1,161匹のワシントン条約の規制対象種が、ペット取引を目的とした密輸の疑いで差し止めされていたことが分かりました。

密輸された動物の多くは爬虫類で、全体の7割を占め、哺乳類、鳥類が続きました。

日本税関によって差し止められた動物(生体)の分類学的構成(N=1,161)(2007〜2018年)(参照:日本税関)

TRAFFIC「日本のエキゾチックペット取引」

また、2019年以降に摘発された密輸の事例でも、サル、フクロウ、ジャコウネコ、カメ、トカゲなど、さまざまな種類の野生動物が確認されています。

コキンメフクロウ
©Wild Wonders of Europe / Widstrand / WWF

ペットとして人気のコキンメフクロウ。2020年に税関で差止が確認されています。

こうした、密輸が発覚した場所は日本の税関だけではありません。

日本へ密輸する前、輸出国を出る時点で発見され、差し止められるケースもあります。

2007年から2019年6月にかけて、少なくとも28件のこうした事例が発覚し、合計1,207匹の動物が差し止められました。

このデータから、密輸される動物の中には、ワシントン条約には掲載されていないものの、生息国の法律で保護されている野生動物が含まれており、その地域だけに生息する固有な動物や、絶滅の危機にある動物に日本のペット需要が影響を与えていることがわかります。

© Martin Harvey / WWF

オーストラリアの固有種、マツカサトカゲ。オーストラリアの法律で保護されているにもかかわらず密輸出が相次ぎ、オーストラリア政府の要請により2022年6月にワシントン条約の規制対象となり、国際取引が規制されました。

差止実績は密輸事件の氷山の一角

© Fletcher & Baylis / WWF-Indonesia

日本の税関において差止が報告されているミズオオトカゲ(Varanus salvator)。

このような税関などで発覚する、ワシントン条約対象種の差し止め事例は、必ずしも、密輸の規模や実態の全容を示すものではありません。

差止実績は、あくまで税関が空港で「差し止めることに成功」した事例に過ぎないからです。

税関などの水際をすり抜けて、「成功してしまった密輸」の例については、統計を取る手段がないため、正確な規模の把握ができないのです。

つまり、発覚した密輸の事例は、実際に行なわれている密輸全体の、ごく一部に過ぎない、ということです。

©TRAFFIC

2007年~2018年に水際で差止されたサル類は185頭にも及ぶ。サル類は公衆衛生の法律でも輸入が禁止されている。

そのことを示唆するデータが存在します。

日本と同じようにエキゾチックペットの一大消費国として知られるアメリカと比較してみましょう。

まず、日本が「合法」に輸入している野生動物の総量は、アメリカの少なくとも15%に相当します。

一方、日本での「違法」な輸入の差し止め、つまり違法行為が発覚した事例の割合は、アメリカの2%程度にとどまっています。

これは、実際には差し止めされている個体よりも、多くの種、数が密輸されている可能性があることを物語っています。

大事な点は、差し止めされた記録がない種や、近年差止数が減少していることは、「密輸されていない」ことの証明にはならない、ということです。

さらに、密輸を阻止する関門として重要な税関も、大きな課題に直面しています。

近年の、物流件数の増加や貨物形態の多様化によって、すべての貨物や荷物を監視・確認することが、非常に難しくなっているのです。

しかも、密輸の手口は巧妙なため、隠された野生動物を発見することは、容易ではありません。

こうして、税関をすり抜け、日本のペット市場に違法な個体が流入しているおそれは否定できないのです。

実際、これまでにも日本のペット市場で販売されていたトカゲが、密輸された個体であった、という事例が発覚しています。

違法に持ち込まれた個体は見分けられない

© Kari Schnellmann

ヤドクガエルも日本では人気があり、密輸が確認されている。

日本では生きた動物の取引や飼養に関する規制は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」や、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」によって定められています。

しかし、これらの法律はペットショップに動物の由来(入手)の合法性証明や取引経路の開示を求めていません。

つまり、ペット市場に密猟・密輸された動物が紛れ込んでいたり、業者が虚偽の情報開示を行なっていたりしても、消費者は見分けるすべがないのです。

気をつけて買ったつもりでも、結果的に密猟や密輸を助長してしまうおそれがあります。

密輸にはペット事業者が関与するケースも多く、事業者の「命を扱う」という責任意識の低さも大きな課題です。

悪質な事業者が排除され、取引の透明性が確保されない限り、販売される個体の違法性への懸念はなくなりません。

違法取引をなくすために消費を見直す

違法取引の課題は、ペット利用される動物だけに起こる問題ではありません。

ゾウやサイなどの大型哺乳類やウナギなどの水産物までその範囲、規模は大きく、違法取引は人身売買や違法薬物などと並ぶ国際犯罪として位置づけられています。

違法取引問題の深刻さが指摘される中、ワシントン条約では違法取引への対抗措置として、水際での取り締まりの強化や、動物の生息国での密猟・保全対策だけではなく、消費国が、その需要について見直し、削減していくことの必要性を指摘した決議を発出しました。
実施のためのガイドラインも示されています。

【関連資料】ワシントン条約 決議17.4

WWFジャパンでは、こうしたワシントン条約の方針に則り、ペット利用される野生動物について、違法取引を助長し、動物種の絶滅の危機を高めないよう、「ペットとして飼いたい」という気持ちそのものを、見直すことを呼びかけています。

「飼育員さんだけが知ってるあのペットのウラのカオ」特設Webサイト

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