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飼育下繁殖個体なら飼っても問題ない? 懸念される4つの問題

この記事のポイント
いま、ペット利用を目的とした野生動物の捕獲や取引が、希少な種(しゅ)を絶滅に追い込む、深刻な原因の一つになっています。日本も多くの種をペットとして取引している消費大国の一つ。実際「野生捕獲個体(WC)」や「飼育下繫殖個体(CB)」といった表示のある動物たちが、ペットショップやフェアなどで、数多く販売されています。この表示、一見、WCはダメだが、人工的に繁殖させたCBなら問題ない、という印象を与えるかもしれません。しかし、実は飼育下繫殖による個体であっても、野生個体群や生態系に悪影響を及ぼす可能性があるのです。CBの表示に隠された4つの問題について解説します。
目次

ペット利用される動物の由来

ペットや展示のために野生動物が数多く利用され、取引される脊椎動物は1,000種を超えます。

IUCN(国際自然保護連合)が公開している「レッドリスト」によれば、絶滅のおそれがある1万7,000種の動物のうち、1,900種でペットや展示利用がされていることがわかっています。

日本もまた、こうした野生動物を利用する消費大国の一つです。
多くの野生動物を海外から輸入し、その数は脊椎動物だけで毎年30~40万頭にも及びます。

© WWF-US / Clay Bolt

ペットショップやフェアで販売されている、こうした動物には、多くの場合、生産地や由来などを示す表記が添えられています。

特に、ペットとして流通している野生動物の由来は、次の2つに大別されます。

野生捕獲個体
(WC:Wild Caught)
野生で生きていた個体を捕獲したもの。
飼育下繫殖個体
(CB:Captive Bred)
人の管理下で飼育されている個体から生まれた個体。国内だけでなく、海外で繁殖させ、輸入した個体も含む。
(但し、妊娠している野生捕獲個体を飼育下で出産させたり、野生から採取した卵を飼育下で孵化させたりするケースを含むこともある)

当然ですが、販売するために野生からたくさんの動物を捕獲すると、その地域に生息する個体数の減少、生態系への悪影響が心配されます。

現時点では絶滅のおそれがないとされる野生動物でも、もともとの個体数が少ない種や、限られた地域だけに生息するような種の場合は、一度の捕獲や取引によって、大きな打撃を受けることもあり得ます。

ですから、野生捕獲個体の利用は、野生の個体群や生態系に影響をあたえない、持続可能性に配慮した捕獲・採集が行なわれることが大前提です。
しかし、実際にそうであるのかを消費者が確かめるのは困難です。

こうした理由から、野生捕獲個体には、確かに一定の懸念があるといえます。

© Fletcher & Baylis / WWF-Indonesia

ミズオオトカゲ(Varanus salvator)。2022年に日本に輸入された野生捕獲個体はおよそ1,000頭。野生個体群の数はよくわかっていないため、捕獲による個体群への影響が心配される。

では、飼育下繫殖個体を選択すれば、その問題は解決できるのでしょうか。

実は、飼育下繫殖個体の表示がある場合でも、いくつかの問題があります

「飼育下繁殖」表示の4つの問題

問題1:親個体が野生捕獲であるケース

飼育下繁殖個体は、人が飼育、繁殖した個体ですから、確かに野生から直接捕獲したことにはなりません。

しかし、その親は野生から捕獲し、飼育されていた個体である可能性があります。

親の個体も飼育繁殖によるものか、それとも野生捕獲によるものか、「飼育下繁殖」という表記からだけでは、これを読み取ることができません。

問題2:飼育下繁殖には野生の遺伝子が必要

親が野生から捕獲した個体ではなく、代々飼育してきた個体ならば、問題はないのでしょうか?

実はここにも問題があります。

交配可能な親の個体数が少ない状態で、飼育個体を掛け合わせて繁殖させ続けると、近親交配が進み「近交弱勢」が生じます。

近交弱勢とは、遺伝的な多様性が少なくなることで、出生率の低下や、先天的な異常を持った畸形(きけい)の個体などを増加させる作用です。

これを避けるためには、外から新たな遺伝子、つまり同種の野生の個体を入れ、繁殖に参加させなければなりません。

こうした飼育繁殖の事情も、結果的に野生個体の捕獲や、それに由来する個体数減少の原因につながる可能性があります。

大規模なペットの流通量に対し、近親交配を防ぎ、飼育下繁殖個体を供給できるだけの、多様な遺伝子を持った繁殖個体が十分にストックできている動物種の例は、多くありません。

また同時に、個体を確保するのみならず、飼育や繁殖技術が確立されている必要もあります。

こうした点を考慮すると、「飼育下繁殖」と表示のある動物であっても、野生種の絶滅や生態系の劣化のリスクに関与している可能性があるのです。

問題3:表示される由来の確認の難しさ

3つ目の問題は、その「飼育下繫殖個体」という表示は、本当に正しいのか? これを確認する手段がない、ということです。

実際、野生から捕獲した個体を「飼育下で繁殖した個体」だと偽って取引を行なう「ロンダリング」の問題が起こっています。

たとえば、北アフリカに生息する野生のキツネの一種で、大きな耳が特徴的なフェネックについて、このロンダリングの問題が発覚した事例がありました。

スーダンから「飼育下で繁殖された」と輸出されていた個体は、実は野生から捕獲された個体だったのです。

そして、日本もそうした個体を輸入していたことがわかっています。

© John E. Newby / WWF

北アフリカの砂漠地帯に生息するフェネック(Vulpes zerda)。

さらに、中東のヨルダンから輸出されるインドホシガメにも、ロンダリングの懸念がありました。

ヨルダンには野生のインドホシガメは生息していませんが、この動物の飼育繁殖施設を有しており、世界でも最大の輸出国となっていました。

ところが、ワシントン条約の運営の役割を担う常設委員会は、ヨルダンに対し、インドホシガメの輸出停止の勧告を行ないました。

その理由は、繁殖に利用された親個体の由来の確認がされていないことや、施設の繁殖能力と比較して、取引記録で確認される輸出個体数が多すぎることです。

なお、インドホシガメはワシントン条約の規制強化が進み、2019年に商業目的の輸出入が原則禁止となりました。
そのため、ワシントン条約が認めた繁殖施設から輸出される個体のみ例外的に国際取引が可能となります。

ヨルダンのインドホシガメについては、その後の調査でも十分な説明が得られないとし、施設登録はされていません。

© David Lawson / WWF-UK

ペットとして人気の高いインドホシガメ(Geochelone elegans)。日本は、最大の輸入国として1983年から国際取引禁止となるまで4万2,000頭を輸入してきました。

インドネシアで飼育下繁殖させた、日本でも人気のあるミドリニシキヘビ(グリーンパイソン)についても、同様の問題が指摘されています。

一年間に飼育下繁殖個体として輸出された個体の約80%が、実は違法に野生から捕獲された可能性があるという調査報告が発表されたのです。

こうした問題が起きている背景には、飼育下繁殖を行なうよりも、野生の個体を捕獲する方が安上がりである、という現地の事情と、こうした動物の輸入を求める日本のような消費国の需要があります。

© Martin Harvey / WWF

ミドリニシキヘビ(グリーンパイソン)

こうしたロンダリングは、ヨウムやトッケイヤモリなど、さまざまな野生動物でも行なわれていることが指摘されています。

つまり、「飼育下繁殖」の表示がある個体であっても、実は野生から捕獲された個体や、由来が確認できないまま、取引されている個体の可能性があるのです。

問題4:野生捕獲個体と飼育下繁殖個体が区別できない

問題3にも通じる点ですが、現状では、ペットとして販売されている個体が、野生捕獲個体か飼育下繁殖個体であるかを、簡単に見分ける方法がありません。

その動物を購入し、飼育することが、野生の個体やその生息環境の自然に悪影響を及ぼしていないか。

これを確認するためには、取引や飼育施設の合法性を証明することや、親個体の由来、取引経路などの情報を把握することが必要です。

しかし、現状ではそうした情報を入手、確認することは困難です。

日本の法律では、親の由来や取引経路に関する情報提供を、ペットショップや流通業者などの事業者に、義務付けていません。

つまり、野生で捕獲し、密輸入した個体であっても、「飼育下繁殖」という表示を添えて、販売することができてしまうのです。

規制による取引の透明性確保や、事業者の調達改善などは必要ですが、実現には多くの時間と調整を要します。
そうしている間にも絶滅の危機が加速し、手遅れになる可能性があります。

だからこそ、消費者のより良い選択をする、という意識こそが有効です。

© J.J. Huckin / WWF-US

南米に生息するサルの一種ピグミーマーモセット。サル類は感染症予防の観点から、輸入が禁止されているため、ペットとして販売されている個体は、全て「国内繁殖」の表示が付与されています。しかし、密輸も確認されており、こうした個体が国内繁殖個体に混ざって売られている可能性があります。

ペット利用による野生動物の危機を回避するために

飼育下繁殖された個体は、野生の個体を直接捕獲したものではない、という意味で、乱獲などには関与していない、といえるかもしれません。

しかし実際には、飼育下繁殖のプロセスにおいて、野生の個体が必要とされる、「飼育下繁殖」という表示が真実かどうか見極めることができない、といった問題があります。

これは、現状行なわれているペットの取引においては、「飼育下繁殖」であっても、野生の個体群に影響を及ぼすリスクがあるということです。

WWFは生息地の自然環境と絶滅の危機にある野生生物の保全に取り組む団体として、このリスクを看過することはできないと考えています。

© Wild Wonders of Europe / Konrad Wothe / WWF

ペット飼育を志向する消費者意識の重要性

この野生動物のペット問題への取り組みとしては、飼育をしたいと考える消費者の意識と行動も重要なカギになります。

たとえば、「この動物を飼ってみたい」と思った時、その対象となる動物について、以下の点などを事前に調べることが、大事なアクションとなります。

  • 絶滅の危機に瀕していないか
  • 条約や法律・条例で輸入、販売や飼育が規制されていないか
  • 密猟や密輸事件の対象となる動物ではないか
  • 外来種化している、または、するおそれがないか
  • 研究者など動物の専門家が飼育について懸念を示していないか など

これらの点で懸念がある動物については、飼育や購入をしない、という判断も必要です。

WWFジャパンでは、野生動物のペット飼育や取り扱いにどのようなリスクが伴うのか、どのような点に留意すべきか、といった情報を動物ごとにとりまとめたオンラインツールを公開しています。

エキゾチックペットガイド
https://www.exoticpetguide.org/

こうしたツールも活用しながら、動物を飼うことの責任や自然環境への影響を考えてみていただければと思います。


参考

CITES(2022). REVIEW OF TRADE IN ANIMAL SPECIMENS REPORTED AS PRODUCED IN CAPTIVITY. SC74 Doc. 57

CITES(2023). REVIEW OF TRADE IN SPECIMENS REPORTED AS PRODUCED IN CAPTIVITY. SC77 Doc.36.

Lyons, J.A. and Natusch, D.J.D, Wildlife laundering through breeding farms: illegal harvest, population declines and a means of regulating the trade of green pythons (Morelia viridis) from Indonesia, Biological Conservation 144, 3073–3081 (2011).

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