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ペット事業者団体が法規制を上回る野生動物の取り扱い自粛を要望

この記事のポイント
さまざまな野生動物がペットとして飼育されるようになり、その不適切な利用が生態系への脅威となっています。そのような中、爬虫類や両生類の取扱事業者団体である日本爬虫類両生類協会は、国産の野生動物4種の取り扱い自粛を関係者に要望しました。この要望は、現状の法規制の水準を超えた取り組みの必要性を確認するものであり、業界団体として認識し、行動したものとして評価できます。本記事では、今回の業界団体による要望の概要と、一方で多く残されている、ペットをめぐる課題について解説します。
目次

拡大するエキゾチックペットの利用とその課題

ペット大国の日本では、海外産の種(しゅ)を含む、さまざまな野生動物がペットとして輸入され、飼われるようになりました。
その背景の一つには、だれでもがどこでも簡単に野生動物を購入できるようになってきたことが挙げられます。
例えば、展示即売会での取引。展示即売会では、一般的なペットショップではなかなか見かけないようなエキゾチックペット(家庭でペットとして飼われるイヌ・ネコ以外の動物)をその場で見て、購入することができます。こうした展示即売会は、全国各地で開催されるようになっており、ますます拡がりをみせています。

© J.J. Huckin / WWF-US
© Days Edge Productions / WWF-US

展示即売会では哺乳類や鳥類、爬虫類、両生類に至るまでさまざまな種の野生動物が販売されています。中には絶滅危惧種や、野外で捕獲された個体が売られている例も少なくありません。

また、オンラインでのペット取引も拡大する傾向にあります。
通信手段や輸送手段が充実し、野生動物を購入後、自宅まで届けてもらうことができるようになったからです。
今では、インターネットさえ使用できれば、全国どこからでも野生動物を売ったり、買ったりすることができます。

「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」では、 哺乳類・鳥類・爬虫類の生体は、事業所において動物の状態確認(現物確認)と対面販売(対面説明)が義務づけられているため、オンラインのみで売買をすることができません。一方、現状の同法では、この対面販売に関する規定の対象外である両生類・魚類・節足動物(昆虫を含む)などの生体は、オンラインのみでの売買が可能になっています(2025年3月現在)。

「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」では、 哺乳類・鳥類・爬虫類の生体は、事業所において動物の状態確認(現物確認)と対面販売(対面説明)が義務づけられているため、オンラインのみで売買をすることができません。一方、現状の同法では、この対面販売に関する規定の対象外である両生類・魚類・節足動物(昆虫を含む)などの生体は、オンラインのみでの売買が可能になっています(2025年3月現在)。

こうした環境の変化により、野生動物の取引がますます活発になる一方、種や生態系に影響を及ぼす可能性があることが指摘されるようになりました。
ペットとして取引される野生動物は、野生から捕獲されたか、捕獲した個体を元に飼育下で繁殖させた個体です。つまり、元をたどると、どちらも自然環境下にいた個体を利用しているということです。
そのため、活発な野生動物の取引が、捕獲圧を高めることにつながり、対象となる種や、食物連鎖や習性を通じて関わりあう他の野生生物にも影響を与え、生態系全体を劣化させることが懸念されるのです。
そうした事例の一つに、南西諸島の固有種シリケンイモリが挙げられます。
シリケンイモリは近年、国内各地の展示即売会やオンラインで、活発に販売されています。その影響か、生息地の島々では、商業目的と思われる大量捕獲が行なわれている事例が確認されるようになりました。

シリケンイモリ。生息地の一つである奄美大島の空港では、一度に約200頭が持ち出された事例があった。また、島内の生息地の一つである水辺から忽然と姿を消した事例もあり、販売目的の大量捕獲が強く疑われる。
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シリケンイモリ。生息地の一つである奄美大島の空港では、一度に約200頭が持ち出された事例があった。また、島内の生息地の一つである水辺から忽然と姿を消した事例もあり、販売目的の大量捕獲が強く疑われる。

その他にも、一部の地域でのみ捕獲が規制されている野生動物が、取引されているケースも見受けられます。
この場合、取引されている個体の由来を確認する手立てがなく、規制に違反して捕獲されたとしても、そのことを追及することはできません。
これらのほかにも、野生動物の取引の在り方については、多くの課題が残されています。

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"Bufo gargarizans miyakonis" is licensed under CC BY-SA 2.5. 写真の動物はミヤコヒキガエル(Bufo gargarizans miyakonis)。ペットとして取引されているが、一部の地域で捕獲規制がある。

そこで、WWFジャパンはペット取扱事業者や、生きた動物を取り扱うオンラインプラットフォームの運営企業に対し、種や生態系に悪影響を及ぼさない野生動物取引の実施、そのための必要な対策を講じることを求めてきました。

日本爬虫類両生類協会が野生個体の取り扱い自粛要望書を発出

そうした中、2025年3月12日、爬虫類及び両生類の取扱事業者団体である日本爬虫類両生類協会が展示即売会主催者やペット取扱事業者宛てに「野生個体の取り扱い自粛要望書」を発出しました。

【参考】野生個体の取り扱い自粛要望書 (日本爬虫類両生類爬虫類協会のホームページ添付のPDF)

内容は、取引による影響や合法性の観点から懸念が指摘されてきたシリケンイモリ、ミヤコヒキガエル、ニホンイシガメ、ヤエヤマイシガメの4種について、野生捕獲個体(野生から捕獲した個体のこと)の取り扱いを自粛するように関係者に要望するものです。
これらの野生動物は、法規制上取引が可能な場合もありますが、それでも、種への影響や地方自治体の定める条例で捕獲禁止などのルールとの適合性の判断が困難といった懸念から、取り扱い自粛を求めた形です。
日本爬虫類両生類協会が行なった、この野生動物4種の取り扱い自粛要望は、法律を超えた取り組みが必要であることを業界団体としても認識し、行動したものとして評価できます。

残された課題

その一方で、以下のような課題も残されています。

・販売されている個体が、野生捕獲個体か飼育下繁殖個体であるかを、簡単に見分ける方法がないこと
野生捕獲個体の取引は、野生個体群に対して直接的に影響を与えます。絶滅のおそれが高まっていたり、個体数が減少している野生動物にとって、その取引を自粛することは保全上の意味があります。
しかし、販売されている個体そのものを見ても、野生捕獲されたものか、飼育下で繁殖されたものか容易に区別はできません。適切な表示を徹底すると供に、野生捕獲個体が飼育下繁殖個体であると偽って販売されないよう、監視をすることが求められています。

・「飼育下繁殖された個体=持続可能」ではない場合もあること
当然ですが、飼育下で野生動物を繁殖(交配)させるためにはその元となる親個体が必要となります。
交配可能な親の個体数が少ない状態で、飼育個体を掛け合わせて繁殖させ続けると、近親交配が進み「近交弱勢」が生じます。(近交弱勢とは、遺伝的な多様性が少なくなることで、出生率の低下や、先天的な異常を持った畸形(きけい)の個体などを増加させる作用のこと。)
これを避けるためには、外から新たな遺伝子、つまり同種の野生個体を入れ、繁殖に参加させなければなりません。
こうした飼育下繁殖の事情も、結果的に野生個体の捕獲や、それに由来する個体数減少の原因につながる可能性があります。
大規模なペットの流通量に対し、近親交配を防ぎ、飼育下繁殖個体を供給できるだけの、多様な遺伝子を持った繁殖個体が十分にストックできている動物種の例は、多くありません。
「飼育下繁殖」と表示のある動物であっても、野生種の絶滅や生態系の劣化のリスクに関与している可能性があるのです。
一口で「飼育下繁殖個体」といってもその繁殖確立の度合いはさまざまです。「飼育下繁殖」と表示されている動物の取引にも留意が必要となります。
【参考】飼育下繁殖個体なら飼っても問題ない? 懸念される4つの問題

・ペット利用が脅威となる野生動物は他にも存在すること
ペットや展示のために野生動物が数多く利用され、取引される脊椎動物は1,000種を超えます。
IUCN(国際自然保護連合)が公開している「レッドリスト」によれば、絶滅のおそれがある1万7,000種の動物のうち、1,900種でペットや展示利用がされていることがわかっています。
この中には、そうした利用が種の脅威としてとらえられている種も数多くあります。
また、現時点では絶滅のおそれがないとされる野生動物でも、もともとの個体数が少ない種や、限られた地域だけに生息するような種の場合は、一度の捕獲や取引によって、大きな打撃を受けることもあり得ます。
そのため、取り扱い自粛が要望された4種以外の野生動物にも、ペット利用の自粛を拡大する必要がないのか、さらなる検討が望まれます。

・自粛を求めるべきオンライン取引の範囲はネットオークションに限定されないこと
オンライン販売のプラットフォームには、オークション形態の他、ショッピング形態のプラットフォームも存在します。持続可能性に懸念のある野生動物の取引はネットオークションに限らず、ショッピングのプラットフォームでも確認されているため、こうしたオンライン取引も自粛要望の対象にするべきと考えられます。
例えば、今回の自粛要望の対象となっている野生捕獲のシリケンイモリは、楽天市場、ヤフーショッピング、Amazonといった大手のショッピングプラットフォームでも販売が確認されています。
【参考】ペット利用される野生生物のオンライン取引の課題~両生類のスナップショット分析から考える~

今後に向けて

日本爬虫類両生類協会の発出した「野生個体の取り扱い自粛要望書」は、法律を超えた取り組みが必要であることを業界団体としても認識し、行動した意味のある取り組みです。
上記のような課題の克服に向けて、今後更なる検討が進められることが期待されます。
これからもWWFジャパンでは、エキゾチックペットを扱う事業者、業界団体やオンラインプラットフォームの運営企業と対話を継続し、持続可能な野生動物の取引に向けて活動していきます。

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