WWFが提唱する人と自然の新しい関係 ウィズ/ポストコロナ時代を見据えて
2020/06/05
自然環境の破壊と感染症
ここ数十年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)、エボラ出血熱などの新しい感染症が発生しています。その多くは野生生物からヒトに感染する「動物由来感染症」だと言われています。
2019年11月に発生し、世界中の国々に感染が広がり、まだ多くの国では収束を迎えていない新型コロナウイルスもそのひとつです。
このような動物由来感染症拡大の背景には、世界各地で行なわれている野生生物の消費や取引や、地球温暖化、森林破壊など野生生物の生息環境の破壊による人間と野生生物の接触する機会が増え続けてきたことが原因の一つになっていると考えられています。
こうした課題の解決には、WWFが長年にわたって取り組み、貢献してきた活動とも深くつながっています。
WWFが取り組む生物多様性の保全と新型コロナ感染症問題のつながり
感染症と地球環境の保全は、感染症の予防・拡大抑止のみならず、感染の影響からの復興、そして新型コロナウイルス感染収束後(ポスト・コロナ)の世界の柱となる「持続可能な社会」を目指すために何が必要なのか、それぞれのステージごとの段階的な取り組みが必要とWWFは考えます。
これらはまた、国連のSDGs(持続可能な開発目標)にも通じた課題です。
1)感染の予防、拡大の抑止のステージ
- 野生生物の違法取引防ぐこと
- 森林減少など自然環境破壊をくいとめること
- 自然破壊の根本原因となる、貧困を撲滅に取り組む必要性を再認識すること
WWFの取り組み
- 森林・海洋・水環境の保全活動:企業に働きかけ生態系や生きものを減らす破壊的な開発行為の防止を求める
- 野生生物の保全活動:野生生物の違法取引の撲滅に向け、調査に基づいた提言活動
- 森林・海洋の保全活動:経済的自立を伴った地域主体の自然保護活動の支援
- 次の感染症パンデミックを防ぐための緊急要請
- 感染症と野生生物取引
- 野生生物取引と人獣共通感染症に関するWWFジャパンの見解 まとめ
- アジア5つの市場で新型コロナウイルスと野生生物の取引市場に関する意識調査を実施
- エキゾチックペット密輸の動向と法執行分析の報告書を発表
- まだまだ知られていない?動物由来感染症とエキゾチックペット取引問題
- 新型コロナウィルスと野生植物
主に関連するSDGs
2)感染の影響からの復興のステージ
- 経済だけに偏った復興政策を優先せず、長期的な持続可能性を目指すこと
- コロナと同じく社会に大きな影響を及ぼす地球温暖化の抑止につながる復興を目指すこと
- 環境保全につながる新しい生産と消費の在り方を基本方針とすること
WWFの取り組み
- 地球温暖化の防止:グリーン・リカバリーの実現に向けた提言
- グリーン・エコノミー:環境に配慮した金融政策の促進
- 森林・海洋・水環境の保全:海や森の持続可能な産品の生産促進
主に関連するSDGs
3)ポスト・コロナの新しい未来のステージ
- 一人ひとりが、正しい情報を見極め、より賢い消費、選択を行なうこと
- 国境を越えた国際的な取り組みを支援すること
- 人の社会的多様性を認め合い、他の生物との共生を実現すること
WWFの取り組み
- 森林・海洋の保全活動:環境に配慮した製品につけられるエコラベルの推奨
- 環境教育・普及活動:環境教育、活動の広がりと支援の呼びかけ
- 活動全般:持続可能な社会の実現に向けた提言
主に関連するSDGs
求められる「多様性」 ウィズ/ポスト・コロナの新しい未来に向けて
新型コロナウイルス感染症拡大がもたらした影響は、社会全体の価値観や、様々な課題の解決方法に再考を強いる一方で、WWFがこれまで継続して取り組んできた活動が、このウィズ/ポスト・コロナ問題解決に貢献できる重要性と意義を明確化する機会ともなっています。
WWFは、この問題に向き合いながら、新たな未来を拓くカギは、2つの「多様性」にあると考えます。
1) 生物の多様性
環境の破壊を防ぎながら、人とは異なる多様な生命の存在を受入れ、保全しつつ共生を実現していくことが、新たなウイルスとの接触、拡大を防ぐと考えます。
2) 社会の多様性
人間同士の間にある、異なる価値観、文化の相違を受入れ、尊重し合うことが、国際的な協力に基づいた問題解決に欠かせないと考えます。
新型コロナウイルス感染収束後(ポスト・コロナ)の環境保全は、この2つの「多様性」をこれまで以上に意識し、一つに統合した形で、新しい取り組みとして行なっていくことが求められるでしょう。
そして、この実現に欠かせないのが、「持続可能な社会」を目指す取り組みです。
これは、WWFが変わらず、その活動の基本理念として、目指すべきゴールとして、長年にわたり取り組んできた、さまざまな活動そのものでもあります。
WWFは、これまで取り組み蓄積してきた活動を基盤として、新型コロナウイルスの影響で生まれた「ニュー・ノーマル(新しい生活様式)」といわれる新常態の社会の中でも、この持続可能な未来に向けた取り組みを引き続き行なってゆきます。