新型コロナウイルス感染症の経済影響からの「グリーン」な回復を
2020/05/08
脱炭素社会志向がより豊かな復興に繋がる
WWFジャパンは、新型コロナウイルス感染症拡大に端を発し今後本格化していくと予想される経済回復に向けた対策議論について、気候変動・エネルギー対策の観点から、以下の通り提言をする。
日本では、新型コロナウイルス感染症拡大の危機からの出口が未だ見えていない。「経済回復」を語るには早すぎるかもしれないこの時期に、あえてこうした提言を発表するのは、すでに経済回復に向けた議論が各所ではじまっており、政府も4月7日の時点で「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(以下「政府経済対策」)を発表していること、そして、国際的にも「グリーンな回復(Green Recovery)」や「Build Back Better(より良い形への復興を)」を目指すべきという議論が始まっていることからである。
経済回復と温暖化対策はトレードオフではない
現在、新型コロナウイルス感染症拡大の経済影響を背景として、世界的に温室効果ガス排出量が減っているという推計がある(※1)。しかし、現状の変化は、経済活動停滞による一時的なものであり、根底にある化石燃料依存型のエネルギー経済体制を能動的に変えない限り、経済がのちに回復した場合、排出量はもとに戻ってしまう。特に温暖化対策を経済回復の妨げと捉え、従来型の経済回復のみを優先する場合には、むしろコロナ禍前より増加する可能性がある。パリ協定時代に、温暖化対策と経済回復をトレードオフと捉えるべきではない。
回復に向けた経済対策では脱炭素社会への移行につながるものを優先すること
新型コロナウイルス感染症拡大の経済影響から、「回復する先」は今までと同じエネルギー経済体制ではなく、より脱炭素社会への移行を意識した、持続可能なエネルギー経済体制を目指すべきである。それこそが長期的に見て成長機会が巨大な脱炭素型経済へ向けて、日本の産業が後れを取りもどし国際競争力をつける契機となる。
たとえば、在宅勤務実施を余儀なくされた職場の拡大によって、これまで普及しなかったテレワークやオンライン会議が一挙に普及した。現在のように、準備も不十分な状況でテレワークが継続することは望ましくないが、テレワークやオンライン会議を適切に活用することで、航空機などの移動にかかるCO2排出量を減らすことができる道は開かれたといえる。「回復」する先は、元の通りの働き方ではなく、より人々にも職場にも、そして環境にとってもよい形態を目指すべきである。
今後、回復に向けた経済対策として影響があった産業への支援が検討・実施されていく。実際「政府経済対策」でもすでに支援策が盛り込まれている。それらの実施に当たっては、最も影響を受けた人々の救済という視点に加え、脱炭素社会への移行に役立つか否かを基準の1つとして盛り込むべきである。たとえば、落ち込んだ需要を喚起するという対策をとる場合、対象は、省エネルギー・エネルギー効率改善や再生可能エネルギー活用に貢献するようなものが優先されるべきである。
気候危機は別な形での感染症拡大のリスクを持つ
気候危機は、新型コロナウイルスとは別に、マラリアやデング熱等の感染症を拡大する可能性があり、日本でも、デング熱等を媒介するヒトスジシマカの生息域拡大が予測されている(※2)。
今回の新型コロナウイルス危機が明らかにした通り、感染症の拡大は、それへの対応の準備ができていない地域に対して、甚大な影響を与える可能性がある。また、新型コロナウイルスのような感染症が拡大している中にあって、異常気象による災害が起きた場合の複合的な被害は甚大なものになると予想できる。温暖化対策は、それらの将来のリスクを減らすことにもつながる。
地域のレジリエンスを長期的に高める方向でコロナ禍に対応する
新型コロナウイルスに対してレジリエンスを高めていく中で、深刻化の一途をたどる温暖化の悪影響に対する適応力を、同時に培う視点を持つことが重要である。感染症対策を充実させていくことはその最たるもので、一過的な禍として対応するのではなく、長期的に地域全体の対応力を高めていくことによって、早ければ2030年に産業革命前からの気温上昇が1.5度に達し、より熱波や洪水、感染症の増加が予測される将来に備えることが可能となる。
今後、経済対策の議論の中では、「経済回復か、温暖化対策か」のような非生産的な二項対立も起こりえるだろう。しかし、気候危機は現在進行形の危機であり、それへの対処は、上述したように結果として次の感染症拡大や異常気象からの複合的な被害のリスクを下げることにもつながる。そして何より、脱炭素社会を志向することは、決して経済回復を妨げるものではなく、ただ、「回復する先」を、今まで通りの社会ではなく、人々にとっても、環境にとっても、より持続可能な、より良い社会を目指すことを意味する。今回のコロナ禍において、都市や自治体の首長のリーダーシップが光っている。パリ協定時代の主役は、国だけではなく、都市や自治体・企業・市民社会などすべての人である。一丸となってコロナ禍と温暖化対策に取り組んでいきたい。
WWFジャパンも、今後、日本での議論の進展を見ながら、より具体的な提言を発表していきたい。
脚注
※1 Evans, Simon. (2020) Analysis: Coronavirus set to cause largest ever annual fall in CO2 emissions. Carbon Brief. https://www.carbonbrief.org/analysis-coronavirus-set-to-cause-largest-ever-annual-fall-in-co2-emissions
※2 環境省 他(2018)『気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~』
お問合せ先:C&M室プレス担当
Email press@wwf.or.jp
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