© David Lawson / WWF-UK

【開催報告】動物愛護管理法改正を考えるラウンドテーブル 「人と動物の共生する社会とは⁉ 野生動物のペット・ふれあい利用のあり方」~ペット業界、環境NGO、有識者など多様な立場から法改正を考える ~

この記事のポイント
今、動物愛護管理法改正の議論が加速しています。一部の国会議員が2025年春の改正に向けて法律の改善点を議論しているのです。しかし、議論の中心はイヌ、ネコばかり。サルやカワウソ、フクロウといった野生動物に関する議論は十分とは言えません。WWFジャパンではこうした野生動物のペット、ふれあい利用のあり方を議論し、国会議員間での問題認識を高めるため、国会議員、動物取扱業者、動物福祉の専門家らを招聘したラウンドテーブル(円卓会議)を開催しました。
目次

改正の議論から抜け落ちる野生動物

フクロウは単独生活を行います。自然環境下ではこうしたさまざまな種類のフクロウが共に止まり木に止まることはない。
©WWFジャパン

フクロウは単独生活を行います。自然環境下ではこうしたさまざまな種類のフクロウが共に止まり木に止まることはない。

今、一部の国会議員を中心に「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)」の改正の議論がされています。

現行の法律の不備によって生じる問題やその対策が話し合われているのです。

しかし、過去の改正も含めこれまでの議論の中心はイヌ・ネコの販売日齢や飼養基準に関わるものばかり。サルやカワウソ、 フクロウといった野生動物の利用に伴う問題の認識、議論は十分とは言えません。

WWFジャパンでは 法律の目的にある「人と動物との共生社会の実現」のため、野生動物が正しく理解、飼養されるべきだ、と考え、その実現を目指した提言を行なっています。

とりわけ、野生動物は、イヌやネコといった長い歴史をかけて、人との暮らしに適用するようになった動物とは異なります。

例えペットやふれあい利用がされていたとしても、野生動物特有の特性を色濃く残し、人との関わりが向かない動物がいることを理解する必要があるのです。

また、動物愛護管理法は、動物取扱事業者の登録や遵守義務を規定しており、動物園やペット業界に深く関わっています。

開会あいさつをする串田誠一議員
©WWFジャパン

開会あいさつをする串田誠一議員

法律が適切に執行できるよう調整する行政にも影響を及ぼします。

法改正の議論では、そうした関係者の意見にも耳を傾ける必要があります。

WWFジャパンでは、これまで野生動物のペット・ふれあい利用に伴う問題の指摘、改善策を国会議員に提示し、また、ペット業界、動物福祉の専門家らとも個別に意見交換を行なってきました。

そして今回初めて、関係者を一堂に会したラウンドテーブル(円卓会議)を開催しました。

ラウンドテーブルの議論

多様なステークホルダーが参加

ラウンドテーブルには、国会議員、ペット業界団体、動物福祉団体、環境省が参加しました。
また、多くの政策担当秘書も会場で傍聴くださいました。

まず、開会にあたり参議院議員の串田誠一議員よりご挨拶をいただきました。

串田議員からは、野生動物の利用に関する議論や野生動物が無秩序に利用されている社会を変える必要性について、メッセージをいただきました。

続いて、WWFジャパンより話題提供として、一部の野生動物の飼養制限とその運用方法に関する要望を説明しました。

WWFジャパンの要望

©WWFジャパン

WWFジャパンでは、「サル、カワウソ、フクロウといった一般的にその動物の生態や習性を発揮させることが難しい動物については、適切に飼養できる動物取扱業者のみが扱える」という規制の導入を求めています。

<要望の仕組み>
【Step1】一般的に生態や習性に配慮して飼養することが難しい動物種を関係者協議のもと政令で定める

【Step2】指定種の飼養は、種の行動特性および感染症対策に十分配慮した飼養環境を備えた動物取扱業者のみが扱える

動物の愛護及び管理に関する法律の改正についての要望書

これは、適正飼養の可否を評価し、認定するという野生動物飼養のあり方を抜本的に変える仕組みです。

また、この要望は、現在環境省が進めている飼養管理基準の課題解決にも寄与する、というメリットもあります。

2019年の法改正では、動物取扱業の基準遵守義務(第二十一条)が盛り込まれました。
これは、動物取扱業者に対して自治体がレッドカードを出しやすい明確な基準を作り、悪質な事業者を排除することを目的に導入されました。

アフリカの砂漠地帯に生息するキツネの仲間フェネック。深く、長い巣穴を掘る習性をもつ。
©TRAFFIC

アフリカの砂漠地帯に生息するキツネの仲間フェネック。深く、長い巣穴を掘る習性をもつ。

基準策定の対象には、人が飼養している動物で野生動物としての性質が強く残る動物も含まれ、現在、イヌ・ネコ以外の哺乳類と爬虫類の基準策定の検討が進められています。

しかし、野生動物は多種多様です。
また、適切な飼養方法がわかっていない動物種も多くいます。

つまり、種ごとの基準策定は困難であり、また検討のために多くの時間と手間を有します。
さらに、基準が策定されたとしても基準どおりの飼養がされているか確認する地方自治体職員の負担も懸念されます。

WWFジャパンの要望は、事業者への適正飼養の可否を専門家組織による第三者機関が行うことを提案しており、現行法の課題を解決するものといえます。

WWFジャパンの要望に対する議論

ラウンドテーブルでは、この要望に対する意見を参加者それぞれから求めました。

まず(公社)日本動物福祉協会からは、ペットとして飼養できる野生動物種の制限の必要性に加え、海外の事例を例に挙げながら、WWF提案の指定種については、動物福祉、人獣共通感染症の感染リスクの観点からサル類だけでも実施すべき、という指摘がされました。

(一社)日本爬虫類両生類協会 及び(一社)日本小鳥・小動物協会は、法規制にこだわらず、業界の意識変容、啓発によって改善を求めることも検討すべきと述べる一方、アニマルカフェには不適切な飼養、感染症のリスクがあることを指摘しました。

また、動物種のリスクについては、科学的に検討すべきと述べられたうえで、サル類については日本への違法取引が横行している懸念も示されました。

環境省からは、WWFの提案の詳細について質問がなされた他、すでに他法令での飼養規制も存在しているところ、さらに動物愛護管理法で対応する場合はその対象と根拠については明確に定める必要性があること、そして、まずは現在飼養されているものが現行の法律の枠組みの中で適正に飼養されていくことを求めていくべきではないか、人が動物を飼う選択の自由があることも踏まえ、相当な議論が必要との意見がありました。

こうした議論を受け、串田議員からは、人だけなく動物にも配慮した飼養が求められる時代になってきたこと、動物福祉や希少種といった観点も考慮する必要性があることが指摘されました。

© WWF-US / Marlon del Aguila

また、衆議院議員の鬼木誠議員は、知識なく野生動物を利用することは、人獣共通感染症への問題でもある。ワンヘルスの観点からも野生動物利用のあり方を考えるべき、という考えを示されました。

まとめ

アフリカに生息するナマケモノは、樹上性で木の枝にぶら下がって過ごします。
©TRAFFIC

アフリカに生息するナマケモノは、樹上性で木の枝にぶら下がって過ごします。

ラウンドテーブルでは、以下ポイントが挙げられました。

・野生動物の適正飼養については、他の法律の利用、普及啓発や教育も含めて考えていくべきである。
・飼養制限は動物種のリスクに応じて、その要否を考えるべきである。サル類は動物福祉、感染症、違法取引といった観点でリスクが高い。
・アニマルカフェについては不適切な飼養が認められ、改正で改善を求める余地がある。

最後に鬼木誠議員より動物愛護管理法は、対象種や飼養主体が多様であることから、立場の異なる関係者が議論を重ねて検討することが重要である、というメッセージをいただきました。

継続した議論の必要性

ラウンドテーブルでは、野生動物の利用や管理の仕方について議論がしつくされておらず、今後も継続して議論する必要性が明らかになりました。

一方で、すでに現行法による飼養管理基準の検討と策定作業が進められており、この検討と併せて法改正の議論をしていくことが求められます。

WWFジャパンでは、引き続き、関係者の方々と対話、議論を重ね、野生動物の適切な飼養の実現を目指して行きます。

イベント概要

タイトル 「人と動物の共生する社会とは⁉ 野生動物のペット・ふれあい利用のあり方」~ペット業界、環境NGO、有識者など多様な立場から法改正を考える ~
日時 2024年8月28日(水)16:00~17:00
場所 衆議院第一議員会館第2会議室
参加者 串田誠一参議院議員、鬼木誠衆議院議員、(公社)日本動物福祉協会、(一社)日本爬虫類両生類協会、(一社)日本小鳥・小動物協会、環境省 他
主催 WWFジャパン

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