© Y.Okamoto / WWF-Japan

カワウソカフェにおける飼養環境調査と法規制改善の必要性

この記事のポイント
世界でも突出して多く存在している日本の「アニマルカフェ」。一般に、時に飲食も伴いながら展示されている動物を間近に見たり、ふれあったりする商業施設を指しますが、カワウソやフクロウ、トカゲなどの野生動物が展示・ふれあい利用されている場合があります。今回紹介する外部研究者らによる研究では、国内でコツメカワウソをメインで展示するカワウソカフェにおいて、展示個体の飼養環境の調査を実施。結果から、調査対象となった全ての施設で本種の飼養環境が不十分であることを明らかにしました。本研究では、各施設が展示動物への動物福祉を十分に満たしていることが担保されて初めて営業できるようにするなど、動物取扱業者への規制を見直すことが必要であると指摘しています。
目次

「アニマルカフェ」で展示される野生動物とその課題

展展示されている動物を間近に見たり、ふれあったりする「アニマルカフェ」。中には、飲食サービスを提供する施設もあります。

最初は猫を展示した施設が、1990年代後半に海外でオープンしました。

その後、2010年代以降、日本でカワウソやフェネック、フクロウ、トカゲなどのさまざまな野生動物※を展示するアニマルカフェが続々と作られました。現在の日本は野生動物を扱うアニマルカフェの数が他国に比べて多く、取り扱われる動物も多種多様であることが報告されています。

珍しい動物と間近でふれあえると人気を博す一方、その展示動物の中には絶滅のおそれが高い種(しゅ)が含まれていることや、不適切な飼養により展示されていた動物が病気を患う事例が報告されています。

また、動物に触る際も手洗いの指導がなかったり、管理者の監督もなく利用客が動物に噛まれケガをする、といった問題も確認されています。
このように種の絶滅や、飼育下の動物に担保されるべき動物福祉に関する問題だけでなく、野生動物との近距離でのふれあいにより、怪我や動物由来感染症への感染リスクを高めるなど、アニマルカフェに関するさまざまな課題が浮き彫りとなっています。

アニマルカフェにおいて生息地や生態が異なるフクロウが近距離で同一の部屋に展示されている様子。
©WWF-Japan

アニマルカフェにおいて生息地や生態が異なるフクロウが近距離で同一の部屋に展示されている様子。

※ここでは、家畜化された動物であるイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリなど以外の動物を「野生動物」としています。野生で捕獲された個体はもちろん、飼育下で繁殖した個体も含みます。

【外部研究】カワウソカフェにおける飼養環境の調査

アニマルカフェの中でも、メインで展示される動物がカワウソであればカワウソカフェ、フクロウであればフクロウカフェというように呼ばれることがあります。

そうした中、国内の大学の動物福祉の専門家により、日本のカワウソカフェにおけるコツメカワウソの飼養環境の評価についての研究論文が発表されました。なお、WWFジャパンは、この調査研究には関与していません。

この研究では、2023年に国内で主にコツメカワウソを展示していたカワウソカフェのうち5つの施設において、展示個体の飼養環境の調査を実施。

インタビューおよび観察を通して、各施設の飼養するカワウソの頭数や面積、水場環境や、カワウソに提供されるエサや健康管理方法、環境エンリッチメント※などに関する情報を集め、分析が行なわれました。

その結果、調査対象となった全ての施設で環境エンリッチメントにおける工夫がみられたものの、カワウソが遊泳するために必要な水場施設の面積が不十分であることが明らかになりました。

利用客とのふれあいにおいては、基本的にふれあい時間中カワウソが隠れたり逃れたりすることはできないなど動物福祉に配慮されておらず、カワウソに精神的な負担を強いていることが示唆されました。

また、飼養環境から保有しているカワウソのさまざまな疾患を誘発する要因があると考えられ、実際に過半数の施設で尿路や皮膚、呼吸器官などに関する病歴があった一方、展示しているカワウソに病歴は一切ないと回答した施設もありました。

インタビューの回答内容は管理責任者の観察状況や責任意識にも左右されることから、過小評価された情報を含んでいた可能性を指摘しています。

※動物を飼養する施設における物理的環境及び社会的環境を動物本来の生活に近づけることにより、飼養動物の生活の質の向上を図ろうとするもの。

アニマルカフェでは、利用客が野生動物と写真を撮ったり餌を与えたりする「ふれあい」サービスが提供されていることが少なくない。(※本写真は上記の調査研究と無関係)
©WWF-Japan

アニマルカフェでは、利用客が野生動物と写真を撮ったり餌を与えたりする「ふれあい」サービスが提供されていることが少なくない。(※本写真は上記の調査研究と無関係)

現行の法規制に求められる改善点

今回調査対象となったカワウソカフェにおけるコツメカワウソの飼養環境は本来推奨される基準を十分に満たしておらず、飼養個体がさまざまな疾患を発症する可能性があることが示されました。

また、コツメカワウソは甲殻類をかみ砕く鋭い牙と顎と持つため、利用客が噛まれることによって破傷風などの感染症に罹患するおそれも指摘されています。

カワウソカフェを含むアニマルカフェは、利用客を通じて展示動物やその飼養方法に関する情報が拡散される特徴を持つことから、こうした施設における不適切な飼養は社会に誤った認識を広めることにもなりかねません。

このため、研究論文では、動物取扱業者が守るべき規制に動物福祉の基準などを盛り込み、各施設が展示動物の良好な動物福祉を十分に担保して初めて営業できるようにするなど現行の法規制を見直すことが必要であると述べています。

コツメカワウソは東南・南アジアの湿地や熱帯雨林でエビやカニ、魚などの生きものを捕食して暮らす野生動物です。近年では生息地の破壊や汚染も深刻な影響を与えており、その個体数は減少傾向にあります。
©Y.Okamoto/ WWF-Japan

コツメカワウソは東南・南アジアの湿地や熱帯雨林でエビやカニ、魚などの生きものを捕食して暮らす野生動物です。近年では生息地の破壊や汚染も深刻な影響を与えており、その個体数は減少傾向にあります。

課題の解決に向けて‐WWFジャパンの要望

野生動物を取扱うアニマルカフェで見られる不適切な飼養は、カワウソカフェに限ったことではありません。

また、アニマルカフェにおける動物利用のあり方については、ペット業界団体も危惧しており、改善の必要性を指摘しています。

適正飼養の実現には、動物取扱業者の責任意識の向上が欠かせませんが、法律で事業者に対応を求めることも重要です。

「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」は野生動物を含む動物の飼養や動物取扱業者の遵守義務を定めています。

現在次期改正に向け、同法の課題や改善策が議論される中、WWFジャパンでは、「カワウソやサルといった一般的にその動物の生態や習性を発揮させることが難しい動物については、適切に飼養できる動物取扱業者のみが扱える」という規制の導入を求めています。

これは、個体ごとに適正飼養の可否を評価し、認定するという野生動物飼養のあり方を抜本的に変える仕組みです。

この仕組みによって、動物の生態や行動への正しい理解が広まり、野生動物との適切な付き合い方を知る機会が醸成されます。

動物愛護管理法の課題とは?法改正に向けた要望書を発出

近年、ヨーロッパではペットとして飼養できる動物種をリストし、それ以外の動物の飼養を認めないホワイトリストの策定の検討・導入する国が増えています。

イギリスでも、2026年4月以降サルの飼養は、動物園ライセンスを有する施設と同等の基準を満たす施設以外ではできなくなる予定です。

さらに、韓国では野生動物のアニマルカフェでの展示が禁止されるなど、野生動物の飼養を制限する動きが加速しています。

日本は野生動物の消費大国です。
「多種多様な動物を利用している」、その責任を果たすという意味でも、野生動物利用のあり方を抜本的に見直し、改善することが迫られています。

© Adriano Gambarini / WWF-US

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