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WWFジャパン1年間の活動報告(2018年7月~2019年6月)

皆さまからお寄せいただいた会費やご寄付をもとに、2019年度(FY2019)もさまざまな活動を進めることができました。この場を借りて、心より厚く御礼申し上げます。自然環境の悪化をくいとめ、危機にある野生生物を守ることへ、確実につながるような変化を起こすには、何年にもわたる取り組みが必要です。その中から、この1年の間に達成できたことや、進捗したことを中心に、ご報告いたします。


2018年7月~2019年6月 活動ハイライト

海洋プラスチック問題解決に向けた政策提言

©naturepl.com / Jordi Chias / WWF

2018年は、日本でも、プラスチックごみへの関心が高まった年となりました。プラスチック製品が普及したのは第二次世界大戦後のことですが、それ以来、今も急激な広がりが続いています。

しかし、軽くて耐水性と耐久性に優れたプラスチックの特徴は、「いつまでも消えないごみ」になる可能性と表裏一体。特に、風で飛ばされたり、ポイ捨てされたプラスチック製品が川や水路などを通って海へと流入したり、プラスチック製の漁具が直接、投棄されるなどして「海洋プラスチック汚染」という問題を引き起こしています。海を漂うプラスチックは、やがて小さな粒子「マイクロプラスチック」となり、多くの海洋生物の体内に取り込まれることとなります。

一方で、日本では「サーマルリカバリー(熱回収)」として、多くのプラスチックごみを焼却していますが、これは温室効果ガスの排出を増加させるという別の問題につながります。

WWFは2018年10月29日、他団体と共に、環境大臣に「減プラスチック社会提言書」を提出。また、2019年5月には外務大臣を訪問し、G20大阪サミットにおいて意欲的なプラスチックの削減目標を世界に向けて示すとともに、問題の包括的な解決につながる、実効性のある国際協定の早期設立をリードするよう求めました。

こうした動きの中、G20大阪サミットでは、首脳宣言の中に「2050年までにプラスチックによる新たな海洋汚染をゼロにすることを目指す」とする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が盛り込まれるに至りました。このビジョンは未だ不十分ではあるものの、世界のリーダーが「プラスチック汚染ゼロ」を初めて宣言したという点では、解決への一歩
といえます。

また、沖縄県石垣島にある「WWFサンゴ礁保護研究センター」では、海岸のごみを回収するビーチクリーン活動の支援も行なっています。

「エキゾチックペット」大国・日本の問題点を明らかに

©David Lawson/WWF-UK

イヌやネコのように、長い年月をかけて人間と暮らすことに適応してきた動物ではない生きものは「エキゾチックアニマル」などと呼ばれます。日本は、そうした動物をペットにする例が多く見られる国のひとつです。

近年、特に日本で人気が高まっているのがカワウソです。TRAFFIC*が調査したところ、2016~2017年の間に、日本へ密輸する途中で保護・押収されたカワウソが39頭にものぼることが判明。また、日本国内でも、輸入の合法性が確認できないまま、ペットショップなどで販売されているなど、多くの問題が明らかになりました。

TRAFFICでは、これらの調査結果を『Otter Alert:日本に向けたカワウソの違法取引と高まる需要の緊急評価』としてまとめ、2018年10月19日に発表。日本国内の取引に関する規制のゆるさに加え、カワウソのかわいさばかりを強調し、絶滅のおそれのあることや、違法取引について取り上げないメディアやSNSの問題も指摘しています。

こうした動きを受けて、2019年8月、ワシントン条約第18回締約国会議で、コツメカワウソが国際取引を原則禁止とする「附属書I」に掲載されることが決まりました。とはいえ、密猟や密輸を防ぐための取り組みは引き続き必要です。

エキゾチックペットとして利用されるのは、カワウソだけではありません。日本の南西諸島に生息するトカゲ類やカメ類なども海外に持ち出され、ペットとして販売されています。WWFジャパンは、南西諸島の両生爬虫類の保全活動も、今後、強化していく予定です。

*TRAFFIC:野生生物の過剰な利用を防ぐために、WWFとIUCN(国際自然保護連合)が共同で設立した組織。日本ではWWFジャパンの中にある

【寄付のお願い】違法な取引から野生動物を守るためにぜひご支援ください

解決をめざす「場」が新たに2つ発足

©Howard Cheek / WWF-Greater Mekong

現在、天然ゴムの生産による熱帯林の減少が、タイやミャンマーなどで起きています。しかし、天然ゴムを大量に必要としているのは日本を含む世界の市場(しじょう)であり、生産現場だけの問題ではありません。そのため、根本的な解決を図るには、すべての利害関係者が国境を越えて集い、話し合う「場」を、継続して設けていくことがとても重要になります。

2018年10月25日、WWFは、世界の天然ゴムの7割を利用しているタイヤメーカーなどと共に「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム(GPSNR:Global Platform for Sustainable Natural Rubber)」を新たに発足させることができました。ブリヂストンやミシュランなど、世界的なタイヤメーカーを含む約40の企業とNGOが参加して、「持続可能な天然ゴム」の国際的な基準づくりや、トレーサビリティの確立などをめざす取り組みが始まっています。

問題解決のために重要な役割が期待される「場」が、2019年度にはもうひとつ発足しています。「気候変動イニシアティブ(JCI:Japan Climate Initiative)」です。地球温暖化対策の国際的なルール「パリ協定」の実現に向けて、自主的な取り組みを推進すべく、日本の企業や自治体、NGOなど「政府以外」の多様な主体が参加して、2018年7月6日に発足しました。WWFは、その事務局を担う3団体のうちのひとつとして参加しています。

発足から1年余りで、参加主体は105から403に増加。多様な主体が「パリ協定の実現」というひとつの目標に向かうための日本唯一の「場」として、温暖化対策の強化をめざしていくこととなります。

2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて

2020年に開催される「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に貢献することを掲げています。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会において、2016年から政府や東京都、経済団体、市民社会などの多様なステークホルダーが参画して、東京大会の持続可能性のあり方についての検討が行なわれてきました。

「気候変動」、「資源管理」、「大気・水・緑・生物多様性等」、「人権・労働・公正な事業慣行等」、「参加・協働・情報発信(エンゲージメント)」の5つの主要テーマと目標が掲げられ、「持続可能性に配慮した運営計画第二版」が公表されています。さらにその具体的な方策として、木材、紙、パーム油、水産物、農産物など調達される物品に対する「持続可能性に配慮した調達コード」が定められています。

2015年からスタートした「持続可能性」を大会運営に反映する検討は、環境、人権などの面から検討を進め、「持続可能に配慮した運営計画」「持続可能性に配慮した調達コード」を策定。また、持続可能性に配慮した調達コードの不遵守に関する通報を受け付ける通報受付窓口も設置されています。

これらの運営計画及び調達コードは、パーム油など世界で初めて東京大会で策定された調達コードや、ゼロカーボンを目標とする脱炭素の運営計画など、先進的な取り組みもあります。一方で、現状の木材や紙、パーム油、特に水産の調達コードでは、持続可能性がきちんと担保されない点が多々あります。

WWFでは、それぞれの分野について、本来あるべき調達コードを提案しています。

伐採と生産地への転換から、森と野生生物を守る

さまざまな「もの」を生産するために行なわれる森林の過剰な伐採、そして、植林地や農園への転換が、世界各地で自然林の減少を引き起こしています。自然林の減少はそのまま、そこに暮らす野生生物の危機にも直結します。
WWFジャパンは、日本で消費される木材・紙・パーム油・天然ゴムなどの生産によって森林の減少が起きているアジア圏を中心に、森と野生生物を守る活動に力を注いでいます。

メコン地域での活動

クイ・ブリ国立公園(タイ)の森
©Adam Oswell / WWF-Thailand

クイ・ブリ国立公園(タイ)の森

タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナム、カンボジアの5カ国にまたがるメコン地域では、天然ゴムの生産拡大による森林減少が進行しています。

WWFは、インドシナトラをはじめとする希少な野生生物の調査を行ない、森林保全の重要性を訴えるとともに、天然ゴムの生産を持続可能な形へ改善していく活動を続けています。2019年度には、タイのケーン・クラチャン国立公園で、新たなトラの個体を確認しました。

カンボジアでは、絶滅寸前のインドシナヒョウが生息する保護区で頻発している野生動物の密猟をくいとめるため、パトロールの強化や、密猟ワナの撤去、保護官の育成などを支援しています。

ミャンマーでは、WWFの提案により、天然ゴムに関する法案に、森林破壊ゼロをめざす内容が取り入れられました。
また、約40社の企業とNGOが参加する「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム(GPSNR)」の設立を支援。WWFも正式に参加していくことを表明しています。

/campaign/da/

極東ロシアでの活動

シベリアトラ
©Vladimir Filonov / WWF

シベリアトラ

北海道と海を隔てて隣り合う極東ロシアの沿海地方に生息するシベリアトラ(アムールトラ)は現在500頭あまり。人里に出没したトラや、親を失った子トラなどを一時的に保護して野生に帰す取り組みが続いています。2019年5月には、1年以上野生復帰訓練を続けてきた2頭の子トラを森へ帰すことができました。

2007年に30頭前後だったアムールヒョウは、保護区の設立などで、成獣91頭、幼獣22頭まで回復しています。

極東ロシアの森を守るには、家具や建材などへの利用を目的とした違法伐採を防ぐ必要があります。WWFが世界中で取り組んでいる「FSC(R)」森林認証制度の普及は、ロシアの森を守るためにも重要な意味を持っています。

ボルネオ島での活動


RSPO

ボルネオ島では、特にパーム油の生産拡大が進行していることから、森を守るには「持続可能なパーム油生産」へ切り替えていくことが重要となっています。

そこで、総生産量の約4割を占める小規模農家が「RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)」の基準に沿った栽培を実施するための支援を開始。さらに、政府に対する能力強化を通して、こうした取り組みの普及をめざしています。

ボルネオ島では絶滅と考えられていたスマトラサイは、2016年に再発見されましたが、個体数はわずか数頭で、野生のままの存続は難しく、捕獲して安全な場所へ移すという判断がなされています。2018年11月、ついに1頭の保護に成功。保護施設への搬送も成功しました。

野生のゾウと人間の接触事故が起きている問題については、地域住民を対象に情報提供や普及活動を実施。その結果、2019年度は、北カリマンタン州で、人やゾウが負傷・死亡する事故をゼロに抑えることができました。

スマトラ島での活動

スマトラサイ
©WWF-Indonesia / Gert Polet

スマトラサイ

スマトラ島では、紙やパーム油生産のために多くの森が失われてきており、国立公園でも違法伐採が起きています。

テッソ・ニロ国立公園では、違法伐採を防ぐためのパトロールや植林活動を展開。昨年度に引き続き、森林の減少率を引き下げることに成功しました。

植林を行なった面積は、2011~2018年の間で100ヘクタール以上に拡大。森林再生は、育てる段階のほうが困難を伴いますが、これまでに植えた在来樹木の約80%を根付かせることができています。

さらに森林伐採が起きている最前線でも、伐採をくいとめるべく、植林を始めようとしています。

絶滅のおそれが非常に高まっているスマトラサイについては、生き残っている可能性のあるブキ・バリサン・セラタン国立公園で、個体数と生息状況を把握するための調査を開始しました。

乱獲や汚染から海の生態系を守る

マグロ、サンマ、ウナギ...日本の食卓を支えてきた魚介類の多くが、乱獲によって激減しています。また、サケ(サーモン)などの養殖も年々増え続け、それに伴って海の汚染や開発が起き、周辺海域に影響が及んでいる場合もあります。WWFジャパンは、日本が主要な消費国となっている水産物の利用を、持続可能な形へと改善してゆくことを通して、海の生態系保全に取り組んでいます。

チリ・ペルーでの活動

マゼランペンギン
©WWF Japan

マゼランペンギン

南米大陸の太平洋沿岸は世界屈指の漁場であると同時に、野生生物の宝庫。人の利用と生態系の保全の両立が課題です。

チリの沿岸では、シロナガスクジラや、マゼランペンギンなどに加え、チリイルカ(ハラジロイルカ)の調査にも着手。内湾や入江を好む生態を明らかにし、漁業や養殖業による影響を指摘しました。

保全策として重要なのは、保護区の設置と管理、そしてサケ(サーモン)養殖場による影響の軽減です。ピティパレナ・アニーウェ海洋保護区では、2015年から取り組んできた、地域住民・サケ養殖企業・政府の協働による管理計画がついに完成。こうした協働はチリ初の事例です。また、「ASC認証」の普及にも取り組み、チリのサケ生産量の20%が、認証を取得するに至っています。

ペルーでは、日本にも多く輸出されているアメリカオオアカイカの漁業改善プロジェクトを開始。南米各地で問題となっているIUU(違法・無報告・無規制)漁業への対策として、電子漁業証明システムの導入に取り組んでいます。

/campaign/da_2019sa/

ASC・MSC認証の普及活動

海の生態系を守るために、WWFが普及に取り組んでいるのが「認証制度」です。環境保全や人権保護に関する厳しい国際基準をクリアした養殖場に与えられる認証が「ASC認証」。同様の国際基準を満たして漁獲された天然の水産物に与えられる認証が「MSC認証」です。

WWFは、ボルネオ島の北カリマンタンやスラウェシ島のピンラン県で、ASC認証の取得に向けて、エビ(ブラックタイガー)の養殖業改善プロジェクトを実施しています。また、日本国内では、2019年6月に鹿児島県東町漁協のブリ養殖がASC認証を取得しました。

日本への輸入が増えているインドネシアのウナギ(ビカーラ種)に関しても、将来的にMSC認証やASC認証を取得することをめざし、シラスウナギ(ウナギの稚魚)の漁獲や、養殖の改善プロジェクトを行なう準備を開始しています。

また、WWFの働きかけに応えて、社員食堂にASCやMSCの認証水産物を取り入れる企業が増えてきています。

黄海での活動

サルハマシギ
©Hartmut Jungius / WWF

サルハマシギ

朝鮮半島と中国に囲まれた海、黄海に広がる広大な干潟は、さまざまな渡り鳥が訪れる重要な飛来地となっています。この海で特に大量に漁獲されているのが、日本にも輸出されているアサリです。

遼寧省の鴨緑江河口域では、2016年からアサリ漁の改善プロジェクトに取り組み、2020年にはMSC認証の審査が行なわれる予定です。

河北省唐山市のナンプ干潟では、渡り鳥の基礎調査を実施。サルハマシギやコオバシギなどのシギ・チドリ類が10万羽単位で飛来することを確認し、世界的に重要な湿地を保全する「ラムサール条約」の登録地に値することを明らかにしました。政府関係者に適切な保全管理を求めています。

マグロに関する活動

タイヘイヨウクロマグロ
©naturepl.com / Visuals Unlimited / WWF

タイヘイヨウクロマグロ

太平洋の海洋生態系の頂点に立つ魚、太平洋クロマグロ。日本は、この魚を世界で最も多く消費しています。

近年の漁獲規制の成果によって、太平洋クロマグロは回復の兆しを見せ始めてはいますが、依然として深刻な枯渇状態にあることは変わりません。にもかかわらず太平洋クロマグロの管理について話し合う国際会合で、日本政府は、漁獲枠(国際合意で決められた漁獲可能量)の増加を求める提案を出し続けています。

WWFは、現時点で漁獲枠を増やすのは時期尚早であると指摘。また、水産庁と水産業界の担当者を招いてラウンドテーブルを開催し、漁獲から販売に至るまでの過程を証明する制度であるCDS(Catch Documentation Scheme)を整備する重要性と有用性を強く訴えました。

過剰利用や違法取引から野生生物を守る

ゾウの牙やトラの骨、ペット利用に至るまで、人間の過剰な利用が、多くの野生生物を絶滅の危機に追い込んでいます。捕獲や取引(売買や譲渡)を規制する法律や条約も作られていますが、それに反する密猟や、違法な取引もあとを絶ちません。WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFIC(トラフィック)は、特に日本が関係する野生生物の過剰利用を防ぎ、違法取引を根絶する活動に取り組んでいます。

ペット取引に関する活動

©TRAFFIC

東南アジアに生息するカワウソが、ペット目的で日本に密輸される事例が相次いだことから、TRAFFICでは、日本におけるカワウソの取引について調査を行ない、2018年10月に報告書『Otter Alert:日本に向けたカワウソの違法取引と高まる需要の緊急評価』を発表。カワウソを含む希少な野生生物の取引に対し、日本国内の規制が不十分である点を指摘しています。また、カワウソのかわいさばかりを強調するマスメディアやSNSの姿勢にも疑問を投げかけました。

この報告書は、多数の報道番組などで取り上げられ、野生生物がペットとして扱われることの問題点を、広く問いかけるきっかけとなりました。

野生生物がペット目的で取引される事例は、日本の南西諸島(九州と台湾の間に連なる島々)でも起きています。ターゲットになっているのは爬虫類と両生類。TRAFFICは、取引状況の調査を進めるとともに、地元の行政や市民団体にこの問題を知らせる会合を開くなどの取り組みを実施。また、2019年8月の第18回ワシントン条約会議に向けて、南西諸島の両生・爬虫類計8種を、国際取引が規制される生物のリスト「附属書III」に掲載
するよう、環境省に要望しました(*)。

2019年6月に行なわれた動物愛護法の改正にあたっては、国会議員や省庁の関係者に情報提供を行ない、改正案の附帯決議に「野生動物の適切な飼養管理基準の在り方について検討する」という一文が盛り込まれました。

*その後、トカゲモドキ6種については、附属書IIIへの掲載が進められることとなりました

象牙取引に関する活動

©WWF-US / Jeff Muller

象牙目的の密猟や違法取引が続く中、日本では今も、象牙の国内取引が続いています。TRAFFICは、象牙の日本国内での取引について調査と提言を続けていま
すが、特に問題視しているのが、日本からの象牙の違法な持ち出しです。

TRAFFICは、象牙製品の取引が活発に行なわれているインターネット取引について、2018年も調査を続行。オンライン企業との対話も続けてきました。楽天市場は2017年から象牙の取り扱いを自主規制し、メルカリも同じく2017年から象牙製品の出品を禁止。一方でヤフーショッピングやヤフオクでは活発な取引が続いていましたが、ついに2019年8月、ヤフー株式会社が自社プラットフォームでの象牙製品の取引禁止を発表しました。

2018年8月にはメルカリの社員を対象とした勉強会を開催し、絶滅のおそれのある野生生物の取引全般について理解を深めていただくことができました。2019年1月には、全日本空輸株式会社(ANA)が、野生生物の違法取引に関する社員向けワークショップを開催。TRAFFICもこの取り組みを支援しています。

また、東京税関の協力を得て、羽田空港で、日本を訪れた旅行者に向け、象牙製品を日本から持ち出すのは違法であると呼びかける普及活動も実施しました。

民間での取り組みが進む一方で、政府による規制強化は進んでいません。TRAFFICは、国会議員に対する情報提供などを実施。また、2019年5月には、関係省庁(環境省、経済産業省、外務省)に対して、象牙政策の見直しを求める要望書を提出。適正な政策決定が行なわれるよう働きかけています。

地球温暖化をくいとめる

世界中の気候が今までと大きく違ってきていることを、誰もが実感するようになってきました。温暖化は、人間社会はもちろん、野生生物の暮らしにも大きな影響を与えます。WWFジャパンは、国、自治体、企業を対象に、温室効果ガスの排出量を大幅に削減するよう促す活動に注力しています。また、自然環境や地域の文化などに配慮しながら、自然エネルギーの導入が進むようにするための活動にも取り組んでいます。

削減目標を引き上げる

WWFは気候変動枠組条約会議にオブザーバー参加が認められている環境NGOのひとつ
©WWFJapan

WWFは気候変動枠組条約会議にオブザーバー参加が認められている環境NGOのひとつ

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスは、世界全体が協力して削減することが不可欠です。そこでWWFは、国連の気候変動枠組条約に関係する国際会議の場を中心に、各国の政府ができるだけ高い温室効果ガスの削減目標を掲げるよう求める活動を続けています。

2018年12月にポーランドで開かれた第24回気候変動枠組条約締約国会議(COP24)は、温暖化防止のための世界的な約束「パリ協定」の運用ルールを決める重要な会議でした。WWFは、他のNGOと共に、温暖化対策の先進的な事例の発信などに取り組み、各国の政府に、より温暖化防止効果の高いルールを採択するよう求めました。

各国の利害が深く絡み、なおかつ多数決ではなく「すべての国の合意」を旨とする国連の会議は、時に合意に到達できない場合もあります。しかし、COP24では無事にパリ協定の運用ルールの合意に至りました。これにより、2020年からパリ協定のもとで各国が温室効果ガス削減を実行する道筋が整いました。

日本の温暖化対策を強化する

2019年9月に出されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書は、南極やグリーンランドの氷の減少が加速していると指摘している
© Nancy Ruff

2019年9月に出されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書は、南極やグリーンランドの氷の減少が加速していると指摘している

2018年7月、NGO、自治体、企業などが参加する「気候変動イニシアティブ(JCI:Japan Climate Initiative)」が発足。WWFはその事務局を担う3団体のひとつとして参加しています。

JCIの目的は、温暖化防止のための国際ルール「パリ協定」の実現に向けて自主的な取り組みを促進していくことです。パリ協定の履行は、国が率先して行なうべきことですが、自治体や民間の取り組みも欠かせません。発足時には100余りだった参加主体は、2019年9月現在で403に増加。国内外で交流や連携の場を設けながら、各々の温暖化対策強化を図っています。

一方、日本政府が示した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」は、CO2排出量の高い石炭の利用計画を示すなど、問題ある内容となっています。WWFは、この長期戦略の「案」が示された段階から、その問題点を指摘し、見直すべきポイントを提言。JCIも、石炭火力発電を含む化石燃料依存からの脱却を求めています。

企業の取り組みを高める

©Michel Gunther / WWF

2014年から取り組んでいる「企業の温暖化対策ランキング」では、新たに11業種(陸運、海運、空運、倉庫・運輸関連業、機械、精密機器、化学、パルプ・紙、ガラス・土石製品、ゴム製品、繊維製品)についての評価を実施。発表した報告書をベースに、企業との対話の機会を作り、SBT(ScienceBased Targets:科学的知見と整合した削減目標)を持つよう求めてきました。その結果、2018年7月~2019年6月の間に25社が新たに加わり、SBTの参加企業は合計77社となりました。

自然エネルギーを増やす

©Global Warming Images / WWF

環境や地域社会に配慮しながら、自然エネルギー施設の設置場所を選定していく取り組み「ゾーニング」。WWFは鳴門市をモデル地区として、この手法の開発を行ない、結果を手引書「自治体で進める地域協働でのゾーニングのすすめ」としてまとめました。

この手引書を活用し、2019年6月までに72地域の市町村に、ゾーニングの実施を呼びかけました。現在までに、国内の自治体によるゾーニング実施例は、18件にのぼっています。

日本の生物多様性を守る

「自然との共存」という言葉が普通に聞かれるようになる一方で、実際の現場では、持続可能でない利用や開発、外来生物による影響などが、依然として起きています。
WWFジャパンは、長年にわたって保全に注力してきた南西諸島や、希少な水生生物が多く生き残っている九州北部の水田地帯を中心に、人と自然が真に共存できる社会の実現をめざしています。

水田・水路の生物を守る

水田・水路における淡水魚の調査
©WWFJapan

水田・水路における淡水魚の調査

日本の原風景のひとつである水田と、その周辺にめぐらされた水路は、淡水魚をはじめ、さまざまな水生生物の生息地となってきましたが、農業の近代化とともに多くの地域で失われています。

こうした環境が今、かろうじて残っている九州北西部の水田地帯で、WWFは「水田水路の生物多様性と農業の共生プロジェクト」に取り組んでいます。

九州大学の協力を得て行なった淡水魚類の調査結果をもとに、佐賀県佐賀市と熊本県玉名市で保全モデル事業を開始。農業に携わる方々の協力と理解を得ながら、生物多様性と共生できる環境を保つ方策を探っています。小中学生を対象にした生きもの観察会や、高校生が農業と生物多様性について学ぶワークショップなども開催。将来にわたって、農業と生物多様性の共生が受け継がれていく地域をめざしています。

さらに、農地の改修などに携わる行政担当者に、生物多様性保全に結びつく改修計画や工事の進め方などを具体的に提案する資料づくりにも着手しています。

【寄付のお願い】失われる命の色 田んぼの魚たちと自然を守るために、ぜひご支援ください!

南西諸島での活動

©WWFJapan

WWFは長年にわたり、九州と台湾の間に連なる島々「南西諸島」の生物多様性保全に力を注いできました。現在、主に活動を行なっているのが奄美大島、喜界島、与論島、宮古島、石垣島です。

観光利用の増加が今後予想されている奄美大島では、エコツアーガイド認定制度の改善や、望ましいエコツーリズムの実践モデルづくりなどを進めています。

良好な状態のサンゴ礁が残っている喜界島では、島民の方々と共にサンゴ礁文化の掘り起こしと記録に取り組み、地域主体でサンゴ礁保全が行なわれるようになるための土台づくりを行ないました。

与論島では、陸域から流入する富栄養化物質による海洋生態系への影響が心配されることから、発生源や流入経路の調査を進めています。

宮古島では、陸域の生物多様性保全を進める中、希少種ミヤコカナヘビをシンボルとすることで地域住民の関心が高まりつつあります。

観光客が急増している石垣島では、WWFサンゴ礁保護研究センター(しらほサンゴ村)を中心に、サンゴ礁に負荷の高い観光利用を防ぐ対策づくりに取り組んでいます。また、白保海岸で計画されている大型リゾートホテル建設に対しては見直しを求めています。

開発問題に対する活動

世界自然遺産への登録を見込んだ開発計画や、中国・台湾からのアクセスの良さ、格安航空会社の乗り入れなどによる観光客の増加、そして米軍基地の関連もあって、南西諸島では現在も、環境破壊につながる開発の問題が起きています。

観光開発については、現在、奄美大島の西古見地区に計画されている大型客船の寄港地開発と、石垣島の白保地区に計画されているリゾートホテル建設に対して、問題点を具体的に指摘し、見直しを求めるなどの活動を行なっています。

米軍基地の建設が進む沖縄島の辺野古については、環境保全の側面から、日本政府に対して、意見書という形で明文化した抗議を続けています。

南西諸島の開発計画に対するWWFの声明(2018年7月~2019年6月)
2018年8月31日 「辺野古・大浦湾の埋立て米軍基地建設工事に対する要望」
2018年11月2日 「沖縄県名護市辺野古における辺野古基地建設の工事再開を受けた緊急声明」
2019年2月15日 「鹿児島県瀬戸内町西古見集落での大型クルーズ客船の寄港地開発に対する緊急声明」
2019年4月8日 「沖縄県名護市辺野古における新たな土砂投入工事の即時中止とジュゴンの保護対策を求める声明」
2019年6月19日 「鹿児島県瀬戸内町西古見周辺海域の重要性と、 大型クルーズ客船の寄港地開発見直し、及び住民参加型の保全観光利用計画づくりに関する要望」

※上記の要望書は、声明・要請に関する記事ページにて全文をご覧いただけます

自然保護に関心を持つ人を増やす

環境問題は、誰にとっても関係のあることですが、何かきっかけがないと関心を寄せるまでには至らない、という人も少なくありません。一方で、解決には、できるだけ多くの人が目を向け、行動してくれるようになることが欠かせません。
そこでWWFは、さまざまな場を設けて、環境のことや生きものの話題に、くりかえし触れてもらう機会を作り出そうとしています。

世界とつながるキャンペーン

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2019年の「EARTH HOUR(アースアワー)」は、世界188カ国・地域の参加を得て行なわれました。午後8時30分から1時間消灯し、地球のことを想うキャンペーンで、2007年から毎年、WWFが開催しています。現地時間に合わせて灯りを消すので、時差の関係から、消灯がリレーのように地球を一周します。

日本では、墨田区の東京スカイツリータウン®、横浜市のJR桜木町駅前広場、広島市の平和記念公園の3カ所で消灯イベントを開催。また、東京タワー、東京駅、五稜郭タワー、原爆ドーム、横浜ベイブリッジなどのランドマークをはじめ、オフィスや商業施設、店舗など全国1,443施設が消灯に参加しました。

東京スカイツリータウン®では、「野生生物保護」「森林保全」「海洋保全」「温暖化防止」について楽しみながら学べるブースを展開したほか、森林保全に配慮して生産されたパーム油や牛肉を使い、FSC®認証紙で包んだ「アースバーガー」も販売。「食」からも環境について考えてもらう機会となりました。

子どもたちへの普及教育活動

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2018年度に開発を始めた「嗅覚」を使ったワークショップが、「においでめぐる動物園~くんくんPlanetにでかけよう~」というプログラムとして完成。五感を使って生きた動物のにおいを感じ、想像力を駆使してそれを「言葉」にする中で、世界のあちこちで生きる動物たちの生態や生息環境、そして絶滅の危機について学べる内容となっています。

2019年度には、東京、神奈川、沖縄の動物園で、5回にわたり実施し、延べ約1,300人が参加。さらに、プログラムデザインが評価され、「2019年度グッドデザイン賞」を受賞することができました。
2020年度は、さらに多くの動物園での開催が決まっています。

ライフスタイルの変革

1950年代(上)と2000年代の年間平均漁獲量。橙色が濃くなるほど漁獲量が大きいことを示している(『生きている地球レポート2018』より)

1950年代(上)と2000年代の年間平均漁獲量。橙色が濃くなるほど漁獲量が大きいことを示している(『生きている地球レポート2018』より)

2018年10月、WWFは『生きている地球レポート(Living Planet Report)2018』を発表。地球環境の危機的状況を、数字やデータで客観的に示すのが目的で、2年ごとに発行しています。

2018年版では、人類による地球環境への負荷が、過去50年間で190%も増加したことや、4,000種を超える野生生物の生息データから計算される「生きている地球指数」が、過去40年間で60%も減少したことなどを示しました。

こうした状況を変えるには、人間による負荷を、地球が本来持つ再生産力の範囲内に収めることが不可欠です。WWFはこれを「地球1個分の暮らし」と表現し、各所でその実現を呼びかけています。

広報活動

環境問題の現状や課題、それに対するWWFの見解や活動内容などを、メディアに向けて発信し、報道につなげることも重要な活動です。2019年度には、新聞・テレビ・ラジオ・インターネットなどでWWFの名前が登場する報道が5,988件、確認できました。これは2015年度と比べて約6倍に増加しています。

ウェブサイト(ホームページ)では、複雑な環境問題を、背景も含めて詳しく解説したり、保全の現場で得た生の情報をお届けしたりすることを心掛けました。
一方、Facebook、Twitter、Instagram、LINEなどでは、自然環境や野生生物に興味を持つきっかけになるような内容の発信に取り組みました。

時に「難しい」「わかりづらい」とのご指摘を受けることもあるWWFの活動を、少しでも多くの方にご理解いただけるよう、努力を重ねています。

WWFネットワークの活動

WWFは、スイスにあるWWFインターナショナルを中心に、約80カ国にネットワークを持ち、100カ国以上で活動しています。各国それぞれの活動に加えて、グローバルな課題には、世界のWWFが協力して取り組んでいます。

「人と自然の新たな関わり方」を提唱

コロンビアのチリビケテ国立公園。2018年7月にエリアが拡大され、世界最大の熱帯林保護区となった
© César David Martinez

コロンビアのチリビケテ国立公園。2018年7月にエリアが拡大され、世界最大の熱帯林保護区となった

2010年の生物多様性条約会議で採択された「愛知目標」には、陸域の17%、海域の10%を保護区にするなどの具体的な目標が掲げられていますが、その最終年は2020年となっています。

WWFは、愛知目標に続く、新たな国際的目標が不可欠であると考え、「人と自然の新たな関わり方(New Deal for Nature & People)」を提唱。2030年を目標年とし、陸域、海域、淡水域のそれぞれ3分の1を自然の状態のまま保護し、残りの3分の2では、持続可能な利用を行なうことで、人間が環境に与える負荷を半減させ、野生生物の絶滅をくいとめる、という内容です。

WWFは、2020年に中国の北京で開催される第15回生物多様性条約締約国会議で、この目標に世界の国々が合意することをめざして、各国の政府、企業、個人に、賛同を呼びかけています。

違法取引防止へ、アジア太平洋地域が結束

マレーセンザンコウ。アジア地域で、特に深刻な違法取引にさらされている
©naturepl.com / Roland Seitre / WWF

マレーセンザンコウ。アジア地域で、特に深刻な違法取引にさらされている

WWFジャパンの呼びかけにより、野生生物の違法取引問題に、アジア太平洋地域23カ国のWWFが協力して、最優先課題として取り組んでいくことが決定。現在も、各国それぞれが違法取引防止活動を進めていますが、そこに23カ国で連携して行なう取り組みが加わることで、より成果をあげることをめざしています。

2018年11月には関係者が一堂に会し、早急にめざすべき方向を検討。違法な野生生物の現物市場とオンライン市場を閉鎖することや、違法取引の経路を遮断すること、普及啓発活動によって違法野生生物製品を買わない人を大幅に増やすことなど、6項目を抽出しました。

現在はWWFジャパンが中心となり、23カ国の連携を図りながら、具体的な活動に向けた準備を進めています。

海洋プラスチックに関する国際キャンペーンを展開

2019年6月、WWFは海洋プラスチック問題に関する国際キャンペーン「Your Plastic Diet ~毎日プラスチックを食べています~」を開始しました。ウェブサイトを中心に、「あなたも1週間にクレジットカード1枚分のプラスチックを食べています」と呼びかけるショートフィルムを配信し、海洋プラスチック汚染を解決する国際的な協定の設立に賛同するインターネット署名も集めています。

自分の体への影響を示すことで、環境や野生生物にあまり関心のない人にも気づいてもらい、100万件以上の署名を集めて、国際会議の場などで各国政府に向け、対策を求めていく予定です。

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