あなたの街の暮らしは地球何個分?
2019/07/26
深刻化する資源の過剰な利用と自然破壊
WWFは『生きている地球レポート(Living Planet Report)2018』の中で、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類の個体群が、過去50年(1970~2014年)で約60%減少してきたことを指摘しました。
また、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)が2019年5月に発表した、地球規模の生物多様性及び生態系サービスを評価した報告書でも、今後数十年で、およそ100万種の生物が絶滅するおそれがあると、述べています。
こうした、地球環境の豊かさが失われ続けている現状の一方で、人類によるさまざまな自然資源の「消費」が増大を続け、環境を脅かしてきました。
過去50年間、世界の人口は増加を続け、森林は農地開墾などにより広く消失。また、電気やガスなどのエネルギーの需要も急激に増え、それに伴い排出されるCO2(二酸化炭素)も増加。地球温暖化を増進させる、大きな要因となっています。
こうした人類による消費は、地球の自然が再生する速度よりも速く拡大し、地球が吸収できる量よりも多くのCO2など廃棄物の排出につながっています。
そこでWWFは、この問題の解決をめざす最初の一歩として、その人類がもたらしている環境負荷の影響を、包括的に明らかにする取り組みを行なってきました。
それが、限りある自然資源の略取によって生じる環境負荷を数値化した環境指標「エコロジカル・フットプリント」です。
環境と向き合うまちづくりのツール「エコロジカル・フットプリント」とは?
この「エコロジカル・フットプリント」の重要な点は、誰もが生活をしている中で発生している、ということです。
人は普段、朝起きてから就寝までの間に、食事をし、交通機関を使い、電気照明の下で仕事をしています。
紙や照明のエネルギー、食用にする肉や魚、どの場面にも森林や海洋の産物である自然資源が使われています。
しかし、日常生活では、毎日使っている自然資源がどの程度の量なのか、排出している二酸化炭素をどこまで森林が吸収してくれるのか、などは気づかないものです。
そこで、環境指標である「エコロジカル・フットプリント」は、人類が環境にかけている負荷を、6種類の土地面積に置き換えることで「見える化」しています。
これは、人が利用する食物や林産物の生産に必要な、耕作地や牧草地、森林、海洋の面積、そして排出したCO2(二酸化炭素)を吸収する上で必要な森林の面積などを計測し、明らかにすることで、「人が使っている資源を生み出すために、必要な土地」の規模を明らかにする試みです。
この計算を、世界規模で行なった結果、現状の人類の消費を土地面積は、地球1.7個分の大きさに相当することが分かったのです。
あなたの自治体の生活は地球何個分?
この「エコロジカル・フットプリント」の数値は、世界の国々ごとに異なっています。
日本のように、石油や石炭などの化石燃料に支えられた産業や経済が発達した国は、「エコロジカル・フットプリント」が高く、開発途上国のような国々は低くなります。
もし、世界の人が全て、今の日本と同じような生活をした場合は、地球2.8個分の自然資源が必要になると考えられています。
そして、このことは日本国内の都道府県など、地方自治体においても同じことが言えます。
その自治体にある産業や人口に応じて、エコロジカル・フットプリントは、それぞれ違った規模になる、ということです。
都道府県別エコフットランキング(1人当たり)
その自治体ごとの違いを調査する試みの一つが、総合地球環境学研究所FEASTプロジェクトがおこなった都道府県別エコロジカル・フットプリント分析です。
この取り組みでは、日本の47都道府県のエコロジカル・フットプリント(人口一人あたり)をそれぞれ計算。47都道府県のうち、どこの数値が高く、また低いかを明らかにしました。
その結果、高い自治体のトップ3は東京都、北海道、香川県。低いトップ3は山梨県、鳥取県、沖縄県でした。
東京都のエコロジカル・フットプリントは、日本の平均より約10%大きく、また山梨県は日本平均より13%低いことがわかります。東京都の生活は、山梨県の生活よりも平均して約29%環境への負荷が大きい、ということです。
また、各都道府県ごとに、消費内訳(「食」「住居・光熱費」「交通」「サービス・財」)をみると、それぞれの違いや特徴が見えてきます。東京都などの大都市圏の都道府県では、「サービス・財」の比率が高く、北海道など地方の都道府県では、「住居・光熱費」の比率が高い傾向があります。
このようなデータをもとに、さらに地域の背景や特徴などを分析すれば、どうすればそれぞれの自治体で、エコロジカル・フットプリントを削減できるのか、施策を考えていくことが可能となります。
自然資源の循環を実現した「持続可能なまちづくり」を目指して
WWFジャパンでは、こうした自治体の取り組みを実現するための一助として、2019年7月、「環境と向き合うまちづくり -日本のエコロジカル・フットプリント2019-」を作成。
関心を持つ各自治体に配布し、それぞれの政策に取り入れるよう、呼びかけを行なっています。
現在も各自治体はそれぞれ、さまざまな環境政策に取り組んでいます。
中には素晴らしい取り組みもありますが、部署によって評価の方法や基準が異なっていたり、自治体として一つの取り組みという形で示せていないケースが少なくありません。
ですが、こうした取り組みを全て、環境への負荷、すなわち「エコロジカル・フットプリント」の視点でまとめると、個別の環境政策を一律に見ることができ、しかも、そのいずれもが、様々な形でつながっていることがわかります。
WWFジャパンは、「環境と向き合うまちづくり -日本のエコロジカル・フットプリント2019-」の中で、自治体によるすべての環境政策を、以下の3つに分けて取り組むよう、求めています。
- 環境負荷を下げる(=エコロジカル・フットプリントを減らす)こと。温暖化対策、食品ロス削減、効率よい資源利用のための技術革新
- 土地の生産性を高める (=バイオ・キャパシティ※を増やす) こと。土壌の改善、適切な土地の利用、責任ある調達方針の設定、
- これらを支え、つなぐこと 。教育プログラムの実施、市民参加の場づくり、自治体間の連携
こうした行動はいずれも、限られた資源の中で、日々の暮らしを支えていける「持続可能なまちづくり」の骨子となるものです。
地球環境に配慮し、人の暮らしにも配慮した「持続可能な社会」という未来。その大きな担い手の一つとして、自治体の役割と責任が注目されています。
※バイオ・キャパシティとは、地球の自然資本が本来持っている生産性を土地面積に置き換えたもの
報告書
報告書についてのお問合わせ先:https://www.wwf.or.jp/form_communi/