【アーカイブ動画あり】 気候×生物多様性オンライン勉強会  第2回「農畜産物における生物多様性の依存・影響とは?~TNFD開示にもつながるリスク回避~」


切っても切り離せない「気候変動」と「生物多様性」をテーマにした勉強会の第二回目

世界経済フォーラムが発表した「グローバルリスクレポート2025」では、今後10年間のリスクとして「生物多様性の損失と生態系の崩壊」が第二位となりました。陸域の生態系を支える森林の保全は、グローバル企業に限らず、多くの自然資源を海外に依存する日本企業においても重要性を増すばかりです。また、IPCCの報告では、農業・森林・土地利用セクターは世界のGHG排出の約20%を占めており、自然生態系の保全は気候変動対策としても欠かすことはできません。

© WWF-Japan

WWFジャパンでは、国際的な動向を気候変動・生物多様性の両面からの切り口で、情報提供する勉強会シリーズを開始。第2回目の今回は、気候変動と生物多様性の両面でリスクが高いものの、取組みが遅れがちな農畜産物がテーマです。GHG排出や森林破壊・土地転換など、農畜産物を調達する企業は特にサプライチェーン上流で大きなリスクを抱えています。故に、農畜産品を取り扱う企業は、トレーサビリティを確保し、バリューチェーン全体の自然への影響を確認することが重要です。特に自然への影響が大きいコモディティなどを例に、トレーサビリティ確保の重要性、トレースした先での確認事項などを分かりやすく解説しました。

第2回勉強会概要

日時:2025年3月13日(木)14-15時
主催:WWFジャパン
場所:オンライン
参加者数:約260名
プログラム:
「TNFDにおける依存・影響の特定に向けて」
小池祐輔(WWFジャパン自然保護室金融グループ)

「農畜産物における生物多様性の依存と影響とは?」
田沼俊剛(WWFジャパン自然保護室森林グループ)

「TNFDにおけるトレース確立までの開示-企業事例紹介」
小池祐輔(WWFジャパン自然保護室金融グループ)

質疑応答

サマリーと資料

「TNFDにおける依存・影響の特定に向けて」

  • 生物多様性条約COP15では、生物多様性保全においても企業による自然関連の情報開示の重要性が改めて認識された。昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)のターゲット15はビジネスの影響評価と開示が掲げられる。こうした中、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が発表される。
  • TNFDの目的は情報開示を通じてネイチャー・ポジティブに資金を向けること。TNFDの開示提言は主に4つの柱と14の開示推奨項目で成り立つ。「自然への依存・インパクト」は多くの項目で求められており、「自然への依存・インパクト」の分析が質の高い開示のカギとなる。
  • 依存とは「ビジネス継続のために依存している環境や生態系サービス(例:パーム油を使用する企業はアブラヤシ、受粉に必要な昆虫、流域の水などに依存)」、インパクトは「ビジネス活動により変化する自然の状態(例:パーム油を扱う企業はその生産のために、自然の状態を変化させている可能性がある)」を意味する。
  • TNFDではビジネスの自然への依存・インパクトを明らかにするためにLEAPアプローチが採用している。食料農業セクター向けのガイダンスでは、セクター特有のL(Locate:場所の特定)の方法を解説している。
  • 農畜産品は生産段階で自然に依存・インパクトが大きいため、これを特定するためには①主要な農畜産品のリストの作成、②森林破壊リスクのあるバリューチェーン特定、③バリューチェーン上流のマッピングというプロセスで進めていくことが求められる。バリューチェーンのマッピングの後は、さらに農場・農家単位で場所の特定に踏み込んでいくことが求められる。

「農畜産物における生物多様性の依存・影響とは?~TNFD開示にもつながるリスク回避~」

森林破壊に関する国際的な取組

  • 2024年、アマゾンで発生した火災の回数は14万回にのぼる。気候変動や農地開拓等により火災の発生は増加傾向にある。世界的にも環境課題への危機意識は年々高まっており、WEFグローバルリスク報告書2025では、生物多様性の危機は初めて2位になった(10年スパン)。生物多様性COP15ではGBFが採択され国際的にネイチャー・ポジティブを目指していくことが掲げられた。
  • 他にも生物多様性に関する法制度・国際枠組の整備が進んでおり、企業にとっても気候変動だけでなく生物多様性に関する情報開示が求められるようになっている。

森林破壊の現状

  • 世界では毎年1000万ha(北海道の1.25倍)の森林が消失していると言われている。WWFレポートでは南半球を中心に24の地域での森林破壊が特に深刻であることが明らかにしている。

▼関連情報:「森林破壊の最前線」最新報告書を発表

  • ブラジルのサバンナ地帯であるセラードは、ブラジルを支える水源であるとともに、極めて多くの炭素も貯留している。また、固有種に富んだ豊かな生態系であるが、農地開拓による大規模な土地転換が進んでいる。
  • 生物多様性は危機的なレベルで減少を続けており、これは土地利用変化に伴う生息地の減少が大きな要因になっている。
  • さらに森林破壊は気候変動の悪化にもつながる。森林破壊によって土壌中の炭素が20年間に渡り排出されるだけではなく、本来であれば吸収されるはずの炭素が吸収されなくなってしまう。森林による年間の吸収量(11.7Gt CO2)は、中国の年間排出量に匹敵し、一方で森林破壊による排出量(4.0Gt CO2)は米国分に匹敵する。気候変動世界全体のGHG排出のうち約10%が森林破壊によるもの。

森林破壊を引き起こすコモディティ・トレーサビリティの確保

  • 農畜産業は陸域生態系に大きく依存している。FAOによれば、森林破壊の約9割が農地拡大と家畜放牧によるもの。特に7つのコモディディ(牛肉、パーム油、大豆、カカオ、天然ゴム、コーヒー、木質繊維)が森林破壊を引き起こしている。
  • 日本はこれら7大コモディティの大半を海外から輸入している。自社の原料調達におけるリスクを把握するためには原産地を確認することが不可欠。
  • コモディティが持つ森林破壊への寄与度は地域によって変わり、そのためリスクも場所によって異なる。自社による影響を正しく把握するには、調達先の生産現場の特定(Locate)が重要となる。

ケーススタディ

  • 日本国内での養豚に必要な濃厚飼料は、海外からの輸入に依存しているため、飼料も含めて原産地のトレースが必要。例えば飼料のうちブラジル産大豆が、セラード破壊の要因となっている可能性がある。
  • デンマーク・ダニッシュクラウン社では炭素排出8割が農場に由来する。飼料会社と共同してトレースを実施。さらに2028年までに大豆を森林破壊・土地転換フリー(DCF)にする目標を掲げ、調達方針の策定や情報開示をしている。

「TNFDにおけるトレース確立までの開示 -企業事例紹介」

  • サプライチェーンの複雑さ・広範さから、企業にとって原材料のトレースをとるのは容易ではないことはTNFDも認知。そこで、TNFDでは①Supply shed approach(段階的に農場レベルまでのトレーサビリティを確立していく手法)と②契約見直し(サプライヤー契約条件に自然関連のデータ提供を含める)の2つアプローチを示している。
  • またTNFDでは開示にあたってトレースの完了させることは求めていない。重要なことは目標設定と現在地の把握、そして目標に向かうための課題(ギャップ)をどのように埋めるかを開示すること。目標設定とそれに対する、アクションアイテム、および進捗の開示が技術的にできないという企業はない。今後の開示に期待したい。
  • パーム油を扱う企業の例を紹介。一般的に自然へのインパクトが高いとされるパーム油をマテリアリティとして特定し、森林破壊、泥炭地開発、搾取ゼロ(NDPE)方針を表明。さらにデューデリジェンスの構築とトレースを展開を宣言している点は評価できる。今後はNDPEに向けたKPIの設定や具体的なNDPEに向けたアクションアイテムの開示を期待したい。また、当該企業は、NDPEに向けた途中段階にあたる目標(2030年マスバランスRSPO100%)の設定・開示はされているが、調達の現状が示されていないため目標の妥当性の判断が難しい。
  • 続いて木材を扱う企業の例を紹介。当企業は調達方針がありサプライヤーにも森林破壊ゼロを求めている。また短中期の目標を設定した上、目標に対する進捗も開示されており、企業の取り組みが透明性高く開示されている。
  • WWFジャパンではTNFD初期に注力してほしいポイントを4つ抜き出してベンチマーク調査を実施している。

▼関連情報:TNFDキーポイントを参考にしたベンチマーク調査結果 ―2024年までの開示企業

QA

質問:扱うコモディティが多く、全てを対応するのが難しい中で、どのように優先順序をつけるべきか。

田沼:特に小売業はそのような悩みがあると思う。全てを一度に対応していくのは現実的ではない。SBTNやSBTi FLAGのガイダンスに挙げられているようなリスクの高いコモディディからスクリーニングをした上で、自社の取扱量やサプライチェーンの長さを含むトレーサビリティの取りやすさなどを考慮して判断するのがよい。

小池:TNFDの中でも特段の優先コモディティを定めておらず、企業の現状に沿って特定をしていくことを求めている。SBTN等が定めるリスクの高いコモディティリストを基に社内で議論検討をして定めることが求められる。

質問:家畜の場合、飼料による影響が主要な影響なのか。

田沼:養豚や養鶏の場合、飼料生産のインパクトが大きいと考えている。牛肉の場合は、飼料のインパクトだけでなく放牧のための土地利用も大きなインパクトになり得る。

質問:森林に関する指標としてどのようなKPIを設定・開示するのが適切か。

田沼:ネイチャーポジティブイニシアティブがまさに指標策定をしている。陸域生態系の指標についてはコンサルテーション結果のドラフト版が提示されている。

▼関連リンク:ネイチャー・ポジティブ・イニシアティブ(外部ウェブサイト)

質問:TNFD開示であまりよくない事例はあったのか。

小池:インパクトの高いコモディティを扱っているにも関わらず、それに関する記載が全くないと読み手としてはきちんと検討がされているのか疑問を感じる。また、まずは「ミティゲーション・ヒエラルキー」に基づき負の影響を取り除くことが優先されるべきだが、そうしたことの開示がないまま環境再生の取組ばかり記載する例が散見される。バリューチェーン全体できちんと依存・影響を分析して開示することが求められる。

お問い合わせはこちらまで:
森林グループ :Forest@wwf.or.jp
金融グループ :Yusuke.Koike@wwf.or.jp

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