ボルネオ島の森林保全
2014/10/21
かつて手つかずの熱帯林が島を覆い、近年でもなお新種の発見が続くほど豊かな生物多様性を有するボルネオ島。この豊かな森林は、絶滅が危惧されているオランウータン、ゾウ、サイといった大型の哺乳動物にとっても、地球上に残された数少ない生息地となっています。しかし一方で、過去半世紀のうちに急速に森が破壊され、現在までに実に50%が消失。森は木材や紙に姿を変えて、海を隔てた私たちの生活に欠かせないものとなっています。WWFジャパンはこのボルネオ島を、優先して自然を守るべき地域と位置づけ、持続可能な森の利用や、消費国としての「責任ある購入」に向けた取り組みを展開しています。
生物多様性の宝庫、ボルネオの森
世界屈指の多様さを誇る熱帯林に覆われ、インドネシア、ブルネイ、マレーシアの三国にまたがる赤道直下の島、ボルネオ島。世界で3番目に大きなこの島には、地球上の生物種のおよそ5%が生息しています。
アジアゾウやオランウータン、スマトラサイ(ボルネオサイ)、ウンピョウといった希少な動物たちをはじめ、その数は哺乳類だけでも222種を数え、植物にいたっては15,000種を超えるとされています。
地球上でこの島でしか見られない固有種も多く、知られていなかった新種の発見が今も相次いでおり、WWFも2010年に発表したレポートの中で、2007年以降、この島で123種もの新種が発見されたことを報告しています。
森が消えれば動物たちも消える
そんな野生生物たちの楽園は今、森林破壊という、大きな危機に直面しています。深い熱帯林に本格的な開発の手が伸び始めたのは、たった半世紀ほど前のこと。
容赦なく木々が切り拓かれて島の風景は急激に変わってゆき、現在までに50%が減少したとされます。特に、地形が平坦で、開発が容易だった低地の熱帯林では、破壊を伴う開発が広く行なわれました。
森林破壊の主因のひとつは、輸出用の木材を調達するための過剰な伐採や、違法伐採です。例えばインドネシア領の低地熱帯林は、1985年から2001年の間に実に29,000平方キロも伐採されました。
同国では森林伐採の際に、行政機関の発行する伐採許可証が必要ですが、生物多様性が豊かな森に伐採許可が出てしまったり、保護が公約されたはずの土地に、重複して伐採許可がおりてしまうことも少なくありません。
また、森林の減少や、伐採のために作られる道路は、湿度の高い熱帯の森を乾燥化させる一因になるほか、森の奥まで人が入り込むことを容易にし、野生動物の密猟や、違法な野生生物取引を呼ぶ原因にもなります。
森が失われれば、そこに生きる野生生物も姿を消してゆくのです。
人の作った森が自然の森を脅かす
アブラヤシ農園の開発も森を脅かしている大きな要因です。アブラヤシの実から搾られるパーム油は、用途が広く生産性も高いことから世界で最も多く生産される植物油。
マレーシアとインドネシアの2か国だけで、全生産量の実に85%以上を占めていますが、この生産を支える開発が自然の森を圧迫しています。
ボルネオ島でも自然林の皆伐と農地転換が急速に進んでいるなか、インドネシアはさらに、2009年に2,000万トンだったパーム油の生産量を、2020年までに2倍に増やすことを目指しています。
また、紙の原料として使われ、5~6年で伐採できる成長の速いアカシアの植林地への転換も大きな要因です。ボルネオ島で伐採された木材から生産された紙は、世界有数の紙消費国である日本でも大量に利用されています。事実、日本が輸入しているコピー用紙の約8割が、インドネシアから来ているといいます。
こうしたプランテーションと呼ばれる植林地は、一見緑の森に見えますが、単一の樹種ばかりを植えた、生物多様性の乏しい、自然の森とは全く異なる環境です。
木材や植物油、紙製品は日々の生活に欠かせないものですし、その生産や利用そのものが悪いわけではありません。しかし一方で、持続可能でない方法で生産された林産物が流通し、それを知らず知らずのうちに使っていることも確かな現実です。
いつも何気なく使っている紙や木材製品が、貴重な自然林を壊し、野生生物たちの生息地を奪っている可能性があることを、日本の人たちもまた、強く認識してゆかねばなりません。
国境を越えて森を守る
3つの国がまたがるボルネオ島ですが、国と国の間に存在する国境は、野生生物にとっては関係のないもの。
WWFはこれまで、インドネシア、ブルネイ、マレーシアに対し、国境を越えた取り組みを働きかけてきました。
その結果、2007年、三か国政府は共同で「ハート・オブ・ボルネオ」宣言を発表。島中央部に広がる22万平方キロもの地域の保全に向けた、持続可能な管理を約束しました。
これは、世界的にみても際立って豊かなボルネオの生物多様性を守りつつ、森の恵みを持続可能な形で利用していくための重要な枠組みとなるものです。
WWFでも、各国の事務所が協力しながら、国立公園での違法伐採対策や野生生物の調査、保護区の拡充や法整備の強化に向けた働きかけ、地域コミュニティの持続可能な自活手段の確保といった多岐にわたる活動を行なっています。
その中でWWFジャパンでは、一般への情報発信や企業への働きかけを通じて、海外から日本国内に輸入・消費されている紙や木材製品、パーム油を、環境に配慮して生産されたものに置き換えてゆく取り組みに重点を置いています。
森の保全と利用の両立に向けて
森の保全を現実的に進めてゆくには、ただ伐採や破壊に反対するだけでなく、森林資源を持続可能な形で利用してゆくための仕組みづくりが欠かせません。
具体的には、木材や紙を主力商品として取り扱う企業に対し、使用する原料がどこの森からどのように生産・調達されたかを確認し、それを確実にトレースすることで、環境に配慮した製品を積極的に扱うことを促す「調達方針」の策定を提案しています。
また、持続可能な林業や、そこで生産された製品を認証する、国際的な機関FSC(R)(Forest Stewardship Council(R):森林管理協議会)の森林認証制度の普及を進めています。この認証を取得した製品には「FSCマーク」が付けられ、消費者がエコラベルつきの商品を選ぶことが可能になります。
海の向こうの森林破壊を、生産国だけの責任とするのではなく、大量消費国として「責任ある購入」を心がけること、それがWWFジャパンの提案です。
パーム油についても同様です。WWFは2004年に、他の組織と協力して、生産から加工、流通に至るまでのステークホルダーを巻き込んだ「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」を設立しました。
この認証制度により、生産国では、新しく貴重な熱帯林を伐採することなく、労働者の権利にも配慮したパーム油生産が、消費国ではRSPO認証パーム油への切り替えが推進され、より環境負荷の少ないパーム油産業への転換が目指されています。
また、森の消失は、地球温暖化を深刻化させる原因のひとつでもあります。炭素を固定している樹木が伐採されることにより、大量の温室効果ガスが大気中に放出されるためです。
事実、インドネシアやアマゾンといった熱帯の森林破壊に伴う二酸化炭素(CO2)の排出は、世界全体の排出量の2割を占めています。WWFは、気候変動という地球課題にとって、森の保全が不可欠なアプローチであるとして、「森林と気候」プログラムを立ち上げました。
これにもとづきWWFジャパンでは、ボルネオ島東カリマンタンにて、FSC認証を取得している林産企業と手を取り、REDD+と呼ばれる枠組みによる活動を行っています。REDD+は、ただやみくもに伐採した場合と比べ、持続可能な森の利用によって守られた樹木に含まれる炭素量に対して経済的な付加価値を与えることで、森の保全をCO2排出削減に一致させる取り組みです。
急速に進む森林破壊の背景にある、国際的な木材や紙、パーム油の需要の高まり。これを変え、供給する企業を動かすのは、消費者からの強い意思表示です。
消費者が、目の前に並ぶ商品の背景にある、自然環境や社会に対する影響を考えながら、使うべきものを"選ぶ"こと。それは、大切な自然を守るだけでなく、努力して環境に配慮したものを生産している人々を支え、勇気づける、大きな力になります。
WWFは生産と消費の現場をつなげ、豊かな森の未来につながる活動を、このボルネオでも行なっています。