極東ロシアの森林保全
2009/09/14
※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。
日本海を隔てて北海道と隣り合う、極東ロシアの沿海地方。そこに広がる豊な森は、人や野生生物に多くの恵みをあたえ、多様な表情を見せてくれます。しかし、ここでは今、木材の生産や開発によって森林が次々と切り開かれ、自然が深刻な危機にさらされています。極東ロシアから大量の木材を輸入している日本も、その現状に大きくかかわっています。WWFジャパンは、WWFロシアと協力しながら、木材の輸出入の動きに注目し、国内企業に対し木材などの「責任ある購入」を求めています。
ロシア沿海地方の森
日本海を隔てて北海道と隣り合う、極東ロシアの沿海地方。
極東ロシアの町ウラジオストックを中心に、200万人あまりが住むこの沿海地方(プリモルスキー州)は、16万5,000平方キロ、北海道の倍近い面積を誇り、そのうちの実に7割以上を森林が占めています。
極東ロシアの沿海地方北部および沿海地方を縦に走るシホテアリニ山脈の標高の高い場所には、タイガ(北方林)と呼ばれる、モミやトウヒなど針葉樹の森が広がっています。
一方、低山帯から南部にかけてみられる森は、針葉樹に加え、ナラ類などの温帯に多い落葉広葉樹が含まれた、四季の変化が豊かな森で、クマやシカ、ヒョウ、トラなど、多くの野生生物が息づいています。
WWFが行なった調査でも、100平方メートルの調査エリア内で、127種の維管束植物が確認されました。
これは、極東ロシアの森が、熱帯雨林にも劣らないほどの高い多様性を持つ、世界でも屈指の豊かさを誇る森であることを物語っています。
この生態系の頂点に立つのは、シベリアトラとアムールヒョウです。2種のクマ(ヒグマ、ツキノワグマ)、トラ、そしてヒョウ。
いずれも食物連鎖のトップに立つ動物を、4種も支えてきた沿海地方の森は、そのたぐいまれな豊かさを、いま急激に失いつつあります。
森の消失
ロシア沿海地方には今も、13万平方キロを超える森が残るといわれています。しかし、伐採や森林火災などの人為的な原因によって、森の42%が、すでに影響を受けているといわれています。
1946年から2002年までの間に企業に「利用権(伐採権)」が認められ、伐採の対象となってきた森は、少なくとも2万5,000平方キロ以上にのぼります。
また、毎年発生する森林火災によって、これまでに推定で4,810平方キロもの森が失われてきました。
1992年のソビエト連邦崩壊の前後からは、ロシアの森林行政に混乱が目立つようになり、その後導入された経済の自由化政策は、商業伐採を加速させ、海外からも商社や伐採企業を沿海地方に引き寄せました。
これは、 シベリアトラの密猟が急増した時期にも一致します。
また、森林行政の混乱と同時に地域の貧困も、違法伐採の横行を生んでいます。
伐採された森では乾燥化が進み、毎年のように大規模な森林火災が発生して、森の減少に拍車をかけています。
ロシア沿海地方では今、森林の自然と、野生生物、そして森で長い間暮らしてきた先住民の人たちの暮らしが脅かされようとしています。
野生生物の危機
ヒグマとツキノワグマが暮らし、トラやヒョウがひそむ森。斜面を駆け上るニホンジカ、空を舞うオオワシ、巨木に巣をかまえるシマフクロウ。
日本では、ほとんど見ることができなくなってしまったコウノトリ。極東ロシアの森には、数多くの野生が息づいています。
しかし、森が減れば、シカやイノシシなど草食動物が減り、肉食動物の減少にもつながっていきます。
沿海地方の南部に生息するアムールヒョウは、WWFの保護活動により2007年から2013年の間に約30頭から50頭前後にまで増加しましたが、依然として絶滅が危ぶまれる状態です。
沿海地方の森が豊かさを失いつつある状況を、もっとも顕著に表しているのがアムールヒョウだといえるでしょう。
野生生物の生息環境である森が失われることは、人にとっても大切な豊かな森が失われてゆくことでもあります。
森とそこに生きる生きものたちを守る取り組みが必要とされています。
日本とのかかわり
次々とトラックで運び出される大量の木材。
港からコンテナ船に積み込まれ、世界へ輸出されていきます。
その主な輸入元の一つが、日本。
ロシア沿海地方の森の開発は、日本とも深いかかわりを持っています。
しかも、極東ロシアから日本に輸入される木材には、違法に伐採されたものが約4割も含まれているとみられています。
さらに近年は、ロシアから中国を経由して、木材や家具が日本に輸入されているケースも増えていると見られていますが、これらの輸入の現状については、今のところ、どれくらいの量になるのか、詳しいことはわかっていません。
WWFジャパンは、WWFロシアと協力しながら、木材の輸出入の動きに注目し、国内の企業に対し、木材などの「責任ある購入」を求めています。
WWFの取り組み
世界的な豊かさを誇り、日本にも深いかかわりのある沿海地方の森を子どもたちの世代にまで引き継ぐことは、現代を生きる私たちの責任です。 沿海地方の森を守るため、WWFはさまざまな活動に取り組んでいます。
優先して保護する森を選ぶ
森の利用と保全を両立させるため、極東ロシア一帯で、特に保護価値の高い森(HCVF)を選び、保護区の設立や管理を支援しているほか、環境に配慮した木材を利用するために、FSC認証を普及させるなどの対策を行なっています。
森林破壊と違法伐採をなくす
日本は、極東ロシアから木材を大量に輸入しており、保護価値の高い森林においても伐採が行なわれています。WWFは、違法伐採や密輸の監視を行なうとともに、日本の企業に対し、違法に伐採された木材や、保全すべき森で伐採された木材を輸入しないなど、環境や地域社会に配慮した"責任ある林産物の調達"を行なうよう働きかけています。
地域の持続可能な利用を促す
現地の人々が、違法伐採や野生生物の密猟に頼らずに暮らせるよう、間伐材で作った木炭や家具、森でとれるキノコ、シラカバの樹液などを、地理的に近く、沿海地方の森にかかわりの深い日本で販売するルートを開拓しています。
森林火災を防ぐ
絶滅の危機にあるアムールヒョウの生息地など、沿海地方各地の重要な自然の森を森林火災から守るため、森林周辺の草地や疎林で防火帯を作成し、その維持を行なっています。
森の多様性を取り戻す
人為的な原因によって多発していると見られる森林火災により、沿海地方南部の森では、火に強いモンゴリナラの木ばかりが残り、森の多様性が失われています。モンゴリナラを間伐し、多様な樹木や下草が育つ環境を作り出すことで、アムールヒョウの獲物であるシカやイノシシの生息に適した、本来の多様性を持つ森の再生を図っています。
関連情報
「Land of the Leopard(ヒョウの森)」回復・保護プログラム
森林の保全が急務とされる極東ロシア。10年におよぶWWFの働きかけにより、2012年には、沿海地方南部のケドロバヤ・パジ自然保護区周辺の保護区を統合し、合計約26万ヘクタールの森が「Land of the Leopard(ヒョウの森)国立公園」に指定されました。ここは、約50頭ほどしか生き残っていない、ヒョウの亜種アムールヒョウの貴重な生息場所です。