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ワシントン条約CoP19を前に-日本の象牙取引問題を考える

この記事のポイント
2022年3月11日、ワシントン条約の第74回常設委員会が終了し、日本の象牙取引にも関係する提案が承認されました。これを受けて、WWFジャパンは日本政府に対して要望書を提出しました。2022年11月にはワシントン条約の第19回締約国会議が予定されおり、象牙に関しての議論が見込まれ、特に日本は合法的な国内市場を有する国として注目がされています。その背景にある象牙の国内市場の問題について整理してお伝えします。
目次

アフリカゾウの密猟と象牙の違法取引

アフリカゾウ(ここでは、サバンナゾウLoxodonta africanaとマルミミゾウLoxodonta cyclotis両種をさす)は、サハラ砂漠以南のアフリカ37カ国に生息し、大陸全体の個体数は2016年時点でおよそ42万頭と推定されています。

アフリカ南部の個体群は比較的安定していると考えられていますが、アフリカ全土では、1970年代から80年代および、2006年以降に横行した密猟により、1979年時点の推定個体数134 万頭と比較して、37年間でおよそ31%減少しました。

アフリカゾウの密猟の主な要因は、高値で取引される象牙に対する需要です。

©Martin Harvey / WWF

象牙の国際取引はワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)により原則禁止されていますが、2000年代に入ってからのアジアの経済成長に伴う、富の象徴としての需要や、消費の急速な拡大により、違法な取引が急増。

アフリカでの密猟をも引き起こし、アフリカゾウの生存に深刻な脅威をもたらしています。

やまない密猟と違法取引を阻止するために、国際的な取り組みが進む中、2016年のワシントン条約第17回締約国会議(CoP17)で、大きな転換点となる改正決議が採択されました。

これは「ゾウの密猟や、象牙の違法取引に寄与している国内市場については、閉鎖(つまり国内の商業取引の停止)を求める」という内容の勧告で、条約の公式文書「決議10.10:ゾウの標本の取引」の中に新たに追加されることになったのです。

国際社会の認識

この国際的な枠組みにおける決議は、各国での政策へも反映されはじめ、象牙市場のあるアジアの消費国を中心に、象牙取引に関する法規制の導入が進みました。

象牙の市場規模の大きな国・地域(中国、香港、台湾)は、各国内・域内での取引禁止のための法改正を実施。象牙製品が頻出するアンティーク市場の活発な欧州(EU、イギリス)でも、原則国・域内取引禁止の法律・措置が成立しました。

こうした動きが加速する中、日本政府は、現在アフリカで起きている密猟や違法輸入には寄与していない、との見解の下、今も象牙の国内取引を続ける姿勢を堅持しています。

ですが、ワシントン条約の下運用されている象牙の違法取引の分析(ETIS:Elephant Trade Information System)を元にしたTRAFFICの報告によれば、2011年〜2016年の間に、2.42トンの象牙が日本から違法に「輸出」されたことが示されています。

さらに、USAID(米国国際開発庁)による2020年のアジア地域での象牙の押収事例に関する報告書も、中国が関わる象牙の違法取引において、日本から持ち出された象牙が関係している事例が最多であったことに言及。

日本の象牙の国内市場が、世界の象牙の違法取引に関係していることが明らかになっています。

この日本で継続される象牙の国内取引と、日本の市場から流出を続ける象牙の違法取引が世界から注目される中、2019年のワシントン条約第18回締約国会議(CoP18)では、密猟や違法取引に寄与しないために実施している措置について締約国に報告するよう求める決定が採択されました。

そして、2022年11月に開催が予定されている、第19回締約国会議(CoP19)を前に、2022年3月7日~11日にかけて開催されたワシントン条約の第74回常設委員会(SC74:74th meeting of the Standing Committee)の中で、各国が行なった実施措置についての審議が行なわれました。

ワシントン条約第74回常設委員会の結果

約3年ごとに、国際取引の規制対象となる野生生物種を選定し、決議する締約国会議(CoP:Conference of the Parties)とは異なる
この常設委員会は、条約の運営を担う年次会議。

CoPで決議された決定事項の進捗の報告の他、次のCoPで審議する内容が決定されるなど、条約の遵守状況について議論される、重要な国際会議の一つです。

©IISD/ENB CITES

2022年3月7日~11日、フランスのリヨンで開催されたCITES SC74。正式な参加者は、締約国の中から「地域代表」に指名された一握りの国々。その他の締約国やNGOは、オブザーバーとして参加します。

今回、SC74に実施措置について報告書を提出していた、日本を含む10カ国政府(オーストラリア、EU、香港、イスラエル、ニュージーランド、南アフリカ、タイ、イギリス、ジンバブエ)からの報告内容については、常設委員会によって受理されました。

しかし、世界の象牙の違法取引問題は今も解決していないことから、今後も適切な措置を実施し、継続した報告が求められる事になりました。

また、この審議において最も注目すべき結果は、合法的な象牙の国内市場を有する国が関係する、象牙の違法取引について詳しく分析するよう求める提案が承認されたことです。

このことは、象牙の違法な輸出が起きている日本の市場に対し、より踏み込んだ分析が行われる可能性があることを意味しています。

SC74の結果に基づき、11月のCoP19では、日本を含む象牙の国内市場を有する締約国が実効性のある措置を講じているかどうか議論されることが見込まれます。

さらに、SC74では、セネガルとリベリア政府より、日本が大量に抱える在庫象牙が海外に違法に輸出されている実情と、日本が実施する措置が違法な輸入にしか焦点をあてていない実態について指摘する、情報提供文書(SC74 Inf.18)が提出されるなど、日本の象牙取引の不充分な規制に対し世界的な注目が高まっています。

自治体の取り組み:象牙取引規制に関する有識者会議

一方で、海外からの指摘や、国の政策の改善が求められる中、象牙の日本からの違法輸出が発生している事態を重く受け止めた東京都が、自治体、そして国際都市としてなすべき対策を検討することを目的に、「象牙取引規制に関する有識者会議」を立ち上げました。

この会議では、2020年1月より7回にわたって諮問が続けられ、最終回を迎えた2022年3月29日には、同有識者会議より都に対し、提言がまとめられました。

その提言内容のひとつには、象牙取引がゾウの密猟や違法取引に寄与しないようにするため、都条例又はその他の効果的な方法を検討するよう求める内容が盛り込まれ、今後東京都として法的な枠組みを視野に検討が進められることが期待されています。

有識者委員のメンバーとして会議に参加してきたWWFジャパンは、この提言に基づき、東京都がより実効性のある施策を確実に講じるよう求めていきます。

WWFジャパン声明:東京都の象牙取引規制に関する条例制定検討に期待
参考資料:東京都象牙取引規制に関する有識者会議報告書

日本に今必要なこと

日本に存在する象牙は、過去に合法的に輸入したものであることから、現在起きている密猟には関係がないとの見解がありますが、こうした在庫を利用した国内市場から、海外へ違法に象牙が流出している事態は看過できるものではありません。

また、こうした事態は、国際的な違法取引に寄与していること、そして、世界の象牙の違法取引の供給元となり、需要を喚起し、新たな密猟や違法取引を活性化させる可能性があります。

WWFジャパンは、政府に対して、日本国内からの違法な象牙の密輸出を防げていない、現状の政策の改善を訴えています。

2018年1月と2019年5月には、下記の2点を柱とした提言を行ないました。

I.緊急な措置を持って象牙の違法輸出を阻止すること
II.厳格に管理された狭い例外を除く国内取引を停止すること

WWFジャパンのこれまでの提言:
ワシントン条約決議10.10「ゾウの標本の取引」の適切な履行に関する要望書(2019年5月8日)
象牙違法輸出の緊急措置および国内市場の健全化に関する要望書(2018年1月10日)

しかしその後も、政府は実効性のある対策を講じてこなかったため、国際社会から厳格な政策の実行が求められています。

象牙の国内市場の在り方や、自治体が先行して検討を進める日本の象牙取引について、一刻も早く国として対応をすることが必要です。

WWFジャパンは、2022年4月11日、日本政府に対して、以下の内容を求める要望書を提出しました。

・違法取引に寄与しないことを確実にするために、日本の国内市場からの象牙の違法輸出の実態を把握すること

その中には以下の内容が含まれること:
・海外で押収された日本由来の象牙について、関係国と連携して情報収集と分析を行うこと
・上記を含む日本が関わる違法取引の傾向を分析し、国内市場との繋がりの実態を把握すること

・国内措置の実効性を検証し、種の保存法の改正など法的枠組による追加的措置の検討を進めること

その中には以下の内容が含まれること:
・個人所有のものを含む、国内に存在する在庫象牙の把握と管理を確立すること
・狭い例外を除き国内取引を原則禁止すること。例外の特定にあたっては、厳格な管理が可能な取引に限定すること


日本の国内象牙市場からの違法輸出の実態把握と国内措置の実行に関する要望書

WWFは、今後2022年11月に予定されているCITES CoP19や、2018年の改正法施行から5年後の見直しのタイミングとなる種の保存法での対応を求めるなど、日本の国内の象牙取引の課題解決に向けて引き続き働きかけを続けていきます。

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