© Greg Armifield/WWF UK

ワシントン条約(CITES)とは?その誕生と仕組みについて

この記事のポイント
現在、世界の各地でさまざまな野生の動植物が絶滅の危機に瀕しています。その理由の一つが、人間による野生生物の「過剰な利用」です。食べるため、さまざまな製品を作り、消費するため、また観賞用、ペットなどのため。利用しているものは、生きた動植物に限らず、植物の種や動物の羽、牙、爪、毛、骨など、多岐にわたります。こうした人間による過剰な取引によって、絶滅するおそれのある野生生物を保護する国際条約が、「ワシントン条約(CITES)」です。

ワシントン条約(CITES)とは、正式名称を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora」といい、アメリカのワシントンで1973年3月3日に採択され、1975年に発効しました。
取引の規制を通じて野生生物種を絶滅から守ることと共に、その持続可能な利用も大事な理念に据えています。

過剰な利用による野生生物の絶滅危機

ゾウの牙である象牙や、トラの骨、サイの角、また生きたオウムやトカゲ、カメなど、今、日本には世界のさまざまな野生生物が、さまざまな形で持ち込まれ、利用・消費されています。

その用途は、衣類や装飾、食用や薬、また観賞用、ペットなど、これもさまざま。
しかし、こうした野生生物の捕獲や取引が、過剰な形で続くことによって、対象となる野生の動植物が絶滅の危機にさらされる問題が生じています。

象牙-ゾウの牙を利用している
©TRAFFIC

象牙-ゾウの牙を利用している

べっ甲-タイマイの甲羅を利用している
©TRAFFIC

べっ甲-タイマイの甲羅を利用している

皮革製品-ワニやヘビの皮を利用している
©TRAFFIC

皮革製品-ワニやヘビの皮を利用している

キャビア-チョウザメの卵を利用している
©TRAFFIC

キャビア-チョウザメの卵を利用している

実際、1960年代以降、アフリカでは角や牙を狙ったサイやゾウなどの大規模な密猟が横行。国際的にこれを規制するルールも存在しない中で、無制限に取引が行なわれました。
その結果、これらの野生動物は大きく数を減らし、絶滅の危機が一気に高まることになったのです。

他にも、水産物として漁獲される魚や、木材や紙として利用される樹木など、自然界に産する資源として、乱獲され、大量に利用されてきた野生生物は少なくありません。

生息環境の破壊や、外来生物、地球温暖化など、野生生物を絶滅に追い込む原因は、いくつもあります。
しかし今も、この「野生生物の利用」を目的とした捕獲や採集は、世界の野生生物を脅かす、最も大きな要因の一つとして指摘されています。

©IUCN-Redlist 2021-3よりTRAFFICで集計

©IUCN-Redlist 2021-3よりTRAFFICで集計

©IUCN-Redlist 2021-3よりTRAFFICで集計

©IUCN-Redlist 2021-3よりTRAFFICで集計

動植物種(動物:83,669種、植物:58,343種)に対する脅威の原因

「ワシントン条約(CITES)」の誕生

そこで、世界の国々は国際協力のもと野生生物の国際取引(国境を越えて行なわれる取引)を規制する国際条約を作りました。

1975年に発効した、「ワシントン条約(CITES)」です。

正式名称を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora」といい、アメリカのワシントンで1973年3月3日に採択され、1975年に発効しました。

採択の時、この条約に署名した国は80カ国でしたが、その後、加盟国は増え続け、現在は180カ国以上の国々が加盟しています。
日本も、1980年にこの条約を批准。以後、そのルールの下で、野生動植物の取引管理を行なっています。

ワシントン条約の目的は、単純に取引の全面禁止を目指すことではありません。
条約では、取引の規制を通じて野生生物種を絶滅から守ることと共に、その持続可能な利用も大事な理念に据えています。野生生物は、動物であれ、植物であれ、その国や地域の人々の資源であり、利用する権利のある財産でもあるからです。

したがって、保護措置が有効に機能し、個体数が回復したと判断された種については、締約国会議で、取引規制のレベルを下げたり、規制対象から除外する決定が行なわれることもあります。

「ワシントン条約」は、あくまで過剰な取引を規制するものであり、密猟(違法な捕獲)や違法採取を取り締まるものではありません。
しかし、密猟の先に行なわれる取引を抑えるために、消費国・輸入国での「需要」を削減してゆくことも重要です。取引を規制、管理することの他に、近年では需要削減に関する対策を構築するように各国にも求めたり、密猟の脅威にも対処しています。

ワシントン条約掲載種の取引件数の推移 ©CITES

ワシントン条約のしくみ

ワシントン条約では、25の条文に基づき、野生動植物の国際取引のルールや、規制対象となる希少な野生動植物を定めています。

また、その内容を議論、決議するため、2~3年に一度、条約に加盟する国々の政府代表が一堂に会した「締約国会議:CoP(Conference of the Parties)」が開かれるほか、締約国会議の間に条約を運営する「常設委員会」や、科学的・技術的事項が検討される「動物委員会」「植物委員会」の会議なども行なわれています。

附属書について

ワシントン条約では、国際取引の規制対象となる動植物を、「附属書(Appendix)」に掲載しています。

現在、この附属書に掲載されている動物はおよそ5,950種、植物はおよそ32,800種。取引状況と生息状況によって、附属書にはⅠ~Ⅲの三つのレベルが設定されており、それぞれ規制の内容が定められています。

附属書Ⅰに掲載された種は、すでに絶滅のおそれがあり、一番厳しい「取引禁止」いう規制の対象となりますが、これは全掲載種の3%にすぎません。
その他の、附属書ⅡおよびⅢに掲載された種については、生息国の政府が、取引が持続可能であることを確認することを条件に、許可書の申請など必要とされる手続きを踏めば取引が可能です。

附属書に掲載された動植物は、生きたものに限らず、はく製や加工品などすべてが対象となります。

附属書 規制の内容と代表種 掲載種数
附属書Ⅰ 商業目的の国際取引が禁止。
※絶滅のおそれがある生きもので取引による影響を受けているもの
ジャイアントパンダやウミガメ、トラ、ゴリラ、ヨウム、センザンコウなど
およそ1,000種
附属書Ⅱ 商業目的の取引は可能。ただし、その取引が種にとって有害でないことを輸出国が証明し、許可することが条件。
※取引を制限しないと、将来絶滅の危険性が高くなるおそれがある生きもの
マホガニーやサメ類、ライオン、タツノオトシゴ、サボテン、ラン、ローズウッドなど
およそ37,300種
附属書Ⅲ 指定国の輸出許可書、指定国以外の場合は原産地証明書(指定国ではないことを証明)が必要。
※その動植物が生息する国が、保全のために国際的な協力を求めているもの
※附属書Ⅲのみ、締約国会議での採択は必要とされず、指定国が条約事務局に通知することで掲載が可能
セイウチ(カナダ)、宝石サンゴ(中国) など
およそ200種
アフリカゾウ
©Greg Armifield / WWF-UK

アフリカゾウ

トラ
© Roger Hooper / WWF

トラ

センザンコウ
©naturepl.com / Neil Aldridge / WWF

センザンコウ

サイガ
©Wild Wonder of Europe / Igor Shpilenok /WWF

サイガ

チョウザメ
©Andrey Nekrasov / WWF

チョウザメ

ローズウッド
©natureple.com / Nick Garbutt / WWF

ローズウッド

締約国会議: CoP(Conference of the Parties)について

締約国会議は、条約の施行状況を検証するため、各国の政府代表が2~3年に一度開催している会議です。
提案される議題については可能な限り、締約国による全会一致での合意を目指します。
全会一致での合意ができない場合は投票が行なわれ、3分の2以上の賛成で採択されます。

ワシントン条約第11回締約国会議
©TRAFFIC

ワシントン条約第11回締約国会議

締約国数:183カ国+EU(2022年6月時点)
会議で話し合われること
  • 附属書ⅠおよびⅡの掲載種の追加・修正(締約国が提案を提出。他の締約国に生息している種についても提案することが可能)
  • 附属書掲載種の取引状況などの検証(締約国や条約事務局、各種委員会からの報告)
  • 条約の実施のための「決議(Resolution)」、「決定(Decision)」の改正・追加
  • 条約の運営(予算など)・施行について
決議 条文の規定の解釈や、実施におけるガイダンスまたはルールなど、長期的な運用を前提に条約を施行するための合意文書
決定 特定の委員会や事務局向けなど短期的な運用を前提に指示するもので、実施されれば無効になる

ワシントン条約締約国会議(CITES-CoP)の流れ

1)附属書の改正提案:
締約国は会議開催の150日前までに、附属書改正提案(例:●●サボテンを附属書ⅡからⅠにするべき、など)を条約事務局に提出
2)集まった提案を条約事務局がとりまとめ、各締約国に対して通告
3)提案に対する条約事務局およびFAO(国連食糧農業機関)などの見解を通告
4)締約国会議:下記の会議を実施
・分科会1:CommitteeⅠ:附属書改正提案を審議。
・分科会2:CommitteeⅡ:その他の議題を審議。
・作業部会:Working Group:分科会で協議しきれない議題や採択文書の作成など。
・全体会議:Plenary:最終日には、分科会で決まった内容を確認し、最終採択をする。分科会で採択された内容も条件を満たせば再協議できる。
5)採択された附属書改正内容の発効:会議閉会から90日後。
例えば、取引禁止が合意された動植物については、この90日後から禁止措置が適用される。
「留保」する種がある締約国は、それまでに事務局に通達する

※留保
各締約国に与えられた権利の一つ。留保を付した種については、その締約国は条約の定めた規制を受けない(たとえば、附属書Ⅰの種を「留保」した場合、その国だけは附属書Ⅱの扱いとなる)。これは本来、会議で国際取引の規制が定められた際、国内での法整備などの対応に時間がかかる国が、猶予期間として用いるもの。しかし、実際には、その国が取引規制を受けたくない種に対しても、適用している例がある。
たとえば、日本は附属書Ⅰ掲載の鯨類10種、附属書Ⅱ掲載のサメ類11種1属、ナマコ1種およびタツノオトシゴ属について、留保を続けている。

締約国の取り組み

ワシントン条約は、野生の動植物の輸出入の管理を加盟国どうしが協力して実施することによってはじめて効果を発揮します。

しかし、条約に加盟したからといって、加盟国に何かの規制やルールが自動的に発効するわけではありません。
条約では、各国の個別の状況に応じた細かいルールを、一つ一つ取り決めるわけではないからです。

このため、条約に加盟する国々は、条約の理念に則し、また、条文や決議に「対応」した、法規制をそれぞれ整備し、条約を履行する必要があります。

実際、条約に対応した国ごとの国内法はさまざまであり、その施行方法も異なります。

日本の例
たとえば、ワシントン条約の締約国の一つである日本では、条約に対応するため、次のような関連する法律の整備と施行を行なっています。
重要な点としては、海外との取引の水際を管理し、密輸などの対策を取ること。また、国際的に保護することが決められた動物・植物については、日本に輸入された後も、国内で行われる取引(売買、譲渡など)を管理する責任がある、といった点です。

関税法 野生生物を含む、さまざまなモノの輸出入を管理する関連法。
外為法(外国為替及び外国貿易法)
種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律) 附属書Ⅰに掲載された種の国内取引(売買、譲渡など)を規制。
条約施行のための担当局の設置
※各締約国には、法律を設けるだけでなく、その管理や規制の実施に責任を持つ2つの担当局を、それぞれ最低1つずつ決めることが義務付けられている
管理当局:輸出入に必要な許可書や証明書を発給
経済産業省が担っている
※「海からの持ち込み」については農林水産省(水産庁)
科学当局:種の保存の観点から輸出入に関して管理当局に助言を行なう
環境省、農林水産省(林野庁と水産庁を含む)
が担っている

ワシントン条約規制対象種の日本の輸入実績

哺乳類(生体):世界第2位(2015年~2019)©CITES Wildlife Trade View

哺乳類(生体):世界第2位(2015年~2019)©CITES Wildlife Trade View

爬虫類(生体):世界第7位(2015~2019年)©CITES Wildlife Trade View

爬虫類(生体):世界第7位(2015~2019年)©CITES Wildlife Trade View

植物(木材以外、生体):世界第4位(2015~2019年)©CITES Wildlife Trade View

植物(木材以外、生体):世界第4位(2011年~2015年)©CITES Trade dashboard

これまでの締約国会議(CoP)の軌跡

1976年に第一回の会議が開催された、ワシントン条約の締約国会議では、これまでに数々の重要な決議が行なわれてきました。
その一例を紹介します。

CoP7(1989年) 象牙目的の密猟を食い止めるため、アフリカゾウを附属書Ⅰに掲載
CoP10(1997年) もともと密猟も少なく個体数の安定していたアフリカ南部(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ)のアフリカゾウを附属書Ⅱに移行、日本向けに限定的に象牙を輸出することを承認
※附属書の掲載は1種ごとが原則だが、状況に応じて亜種や地域ごとに分けて規制する場合がある
CoP11(2000年) 南アフリカ共和国のアフリカゾウを附属書Ⅱに移行
CoP12(2002年) ボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国のアフリカゾウの象牙の在庫の日本と中国に向けた1回限りの輸出の承認
CoP14(2007年) ヨーロッパウナギを附属書Ⅱに掲載
CoP15(2010年) 大西洋クロマグロの附属書Ⅰへの掲載が提案されるも否決
CoP16(2013年) フカヒレとして消費されるヒレの過剰な取引の懸念からヨゴレなど5種のサメを附属書Ⅱに掲載
CoP17(2016年)
  • 再び激化した象牙の密猟に対応するため、密猟や違法取引に影響を及ぼしている国に対し、象牙の国内市場の閉鎖を勧告
  • 世界で一番密猟されている哺乳類と言われるほどに違法取引の影響を受けているセンザンコウ全種を附属書Ⅰに掲載
CoP18(2019年)
  • 日本への密輸も問題となっていたコツメカワウソが、附属書Ⅰに掲載
  • ペット目的の取引による影響が懸念されている、両生爬虫類10種が附属書Ⅰ・Ⅱに掲載

絶滅の危機にある野生生物を、「ワシントン条約」だけで守ることはできません。
ワシントン条約の力が及ぶ範囲は、あくまで野生生物の国際取引に関連した事項にとどまります。
しかし、この取引の規制や禁止を通じた世界の取り組みは、過剰な利用や密猟を減らすことにも大きく貢献するものです。
また、法の目をかいくぐって今も行なわれている違法取引をも追求し、国際社会が協力して取り締まる上でも、大事な役割を負っています。

WWFジャパンおよび、野生生物取引監視部門であるTRAFFICは、主に日本が関係する取引の動向を把握し、ワシントン条約の決議に沿って、日本の政策が適切に履行されるよう政府に対して働きかけを行なっています。

ワシントン条約締約国会議に向けた資料

第19回ワシントン条約締約国会議 パナマ、パナマ 2022年11月14日~25日
第18回ワシントン条約締約国会議 スイス、ジュネーブ 2019年8月17日~28日
第17回ワシントン条約締約国会議 南アフリカ共和国、ヨハネスブルグ 2016年9月24日~10月5日 
第16回ワシントン条約締約国会議 タイ、バンコク 2013年3月3日~14日
第15回ワシントン条約締約国会議 カタール、ドーハ 2010年3月13日~25日
第14回ワシントン条約締約国会議 オランダ、ハーグ 2007年6月3日~15日
第13回ワシントン条約締約国会議 タイ、バンコク 2004年10月2日~14日
第12回ワシントン条約締約国会議 チリ、サンチアゴ 2002年11月3日~15日
第11回ワシントン条約締約国会議 ケニア、ギギリ 2000年4月10日~20日
第10回ワシントン条約締約国会議 ジンバブエ、ハラレ 1997年6月9日~20日
第9回ワシントン条約締約国会議 米国、フォートローダーデール 1994年11月7日~18日
第8回ワシントン条約締約国会議 日本、京都 1992年3月2日~13日
第7回ワシントン条約締約国会議 スイス、ローザンヌ 1989年10月9日~20日
第6回ワシントン条約締約国会議 カナダ、オタワ 1987年7月12日~24日
第5回ワシントン条約締約国会議 アルゼンチン、ブエノスアイレス 1985年4月22日~5月3日
第4回ワシントン条約締約国会議 ボツワナ、ガボローネ 1983年4月19日~30日
第3回ワシントン条約締約国会議 インド、ニューデリー 1981年2月25日~3月8日
第2回ワシントン条約締約国会議 コスタリカ、サンホセ 1979年3月19日~30日
第1回ワシントン条約締約国会議 スイス、ベルン 1976年11月2日~6日

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