日本の国内象牙市場からの違法輸出の実態把握と国内措置の実行に関する要望書
2022/04/11
環境大臣 山口 壯 殿
経済産業大臣 萩生田 光一 殿
会長 末吉 竹二郎
国際的にアフリカゾウの密猟および象牙の違法取引撲滅に向けた様々な取組がなされる中、2016年のワシントン条約の第17回締約国会議において、ゾウの標本に関する決議10.10が改正され、「ゾウの密猟や象牙の違法取引に寄与している国内市場については閉鎖を求める」勧告がなされました。これを受けて、特に象牙市場を有する主要な国・地域では、法改正や新法制定などにより、自国・地域内の象牙取引を原則禁止とする措置を導入 していますが、日本政府は、日本の国内象牙市場はアフリカゾウの密猟や象牙の違法取引と繋がりはないと評価し 、決議10.10 の勧告する閉鎖を求める市場には該当しないとの見解を示しています。
2019年の第18回締約国会議の決定に基づき、日本など象牙の合法的な国内市場を有する締約国は、密猟や違法取引に寄与していないことを確実にするために実施している措置を常設委員会で報告することとされていますが、日本は、2022年3月の第74回常設委員会において、従前どおりの国内取引の管理体制についてのみ報告を行ない 、他の締約国 やNGOから日本の国内措置は違法取引の実態に十分に対応していないとの指摘を受けました。特に、日本から海外に向けた象牙の違法な輸出の問題が2015年頃から国際的に指摘され続けており 、国内でも国会質問や質問主意書で問題視されています 。また、2020年には国に先駆けて東京都が独自に「象牙取引規制に関する有識者会議」を設置し、違法取引の状況把握と追加規制の必要性の検討を始めていることからも、国の対応の大幅な遅れが浮き彫りとなっています。
大量の国内在庫を抱える日本からの違法輸出がある以上、日本の合法的な国内象牙市場は国際的な違法取引に寄与します。また、世界の象牙の違法取引の供給元となり需要を喚起し、新たな密猟や違法取引を活性化させる懸念があります。2022年11月に予定されている第19回ワシントン条約締約国会議では、第74回常設委員会の議論に基づき、国内市場を有する締約国が関係する違法取引に関する詳しい分析の結果が報告される可能性があるほか 、違法取引に寄与していないことを確実にするために実施している措置の報告の継続を含む国内市場の保有国が取るべき更なる措置についての議論がされる見込みです。日本が建設的な議論をできるよう、2023年に予定されている「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」の見直しも視野に入れ、早急に以下に取り組むことを強く要望いたします。
違法取引に寄与しないことを確実にするために、日本の国内市場からの象牙の違法輸出の実態を把握すること
その中には以下の内容が含まれること:
・ 海外で押収された日本由来の象牙について、関係国と連携して情報収集と分析を行うこと
・ 上記を含む日本が関わる違法取引の傾向を分析し、国内市場との繋がりの実態を把握すること
国内措置の実効性を検証し、種の保存法の改正など法的枠組による追加的措置の検討を進めること
その中には以下の内容が含まれること:
・ 個人所有のものを含む、国内に存在する在庫象牙の把握と管理を確立すること
・ 狭い例外を除き国内取引を原則禁止すること。例外の特定にあたっては、厳格な管理が可能な取引に限定すること
(参考)本件に関連するWWFジャパンのこれまでの提言
Ⅰ.緊急な措置を持って象牙の違法輸出を阻止すること
Ⅱ.厳格に管理された狭い例外を除く国内取引を停止すること
・ ワシントン条約決議10.10「ゾウの標本の取引」の適切な履行に関する要望書(2019年5月8日)
・ 象牙違法輸出の緊急措置および国内市場の健全化に関する要望書(2018年1月10日)
1 東京都 (2021). 第4回 象牙取引規制に関する有識者会議. 西野亮子委員 資料 各国・地域の象牙取引に関する法規制概要.
2 CITES (2019). Implementation of Provisions Relating to Domestic Ivory Markets Contained in Resolution Conf.10.10 (Rev. CoP17). SC70 Doc.49.1 A2.
3 CITES (2022). Closure of domestic ivory markets: Report of the Secretariat (Decision 18.119). SC74 Doc.39 Annex5.
4 CITES (2022). Supplemental information on the closure of domestic ivory markets. SC74 inf.18.
5 CITES (2016). Report on the Elephant Trade Information System (ETIS). CoP17 Doc. 57.6 (Rec. 1).
6 CITES (2017). Implementing Aspects of Resolution Conf. 10.10 (Rev. CoP17) on the Closure of Domestic Ivory Markets. SC69 Doc. 51.2.
7 TRAFFIC (2017). IVORY TOWERS:日本の象牙の取引と国内市場の評価.
8 CITES (2018). Implementing Aspects of Resolution Conf. 10.10 (Rev. CoP17) on the Closure of Domestic Ivory Markets. CoP18 Doc. 69.5.
9 USAID Wildlife Asia (2021). Counter Wildlife Trafficking Digest: Southeast Asia and China.
10 Anon. (2019). 第198回国会衆議院環境委員会議録第5号.
11 早稲田夕季 (2019). 第198回国会衆議院. 質問第204号. 象牙の違法輸出に関する質問主意書.
12 早稲田夕季 (2019). 第198回国会衆議院. 質問第254号. 象牙の違法輸出に関する再質問主意書.
13 CITES (2022). Summary Wednesday 9 March Evening. SC74 Sum.8.