島の名前がつけられたハゼの未来
2022/06/30
日本の水環境の豊かさを示す生物として、多種多様なハゼ類が挙げられます。日本国内のハゼ類の種数について、『新版日本のハゼ』(瀬能宏監修、平凡社)によれば、「661種以上になることは間違いがなく、この数は、世界のハゼの推定総数の約3割に相当する」とのことです。ハゼは日本の生物多様性の価値を表す代表的な生物なのです。
ハゼ類の主な生息地は、汽水・陸域淡水域から沿岸で、マングローブ林や干潟、藻場、サンゴ礁、岩礁などに広がっています。多種多様なハゼが生息していることは、多種多様な環境があることの証左です。
2022年3月に発表された論文で、沖縄県八重山地方のハゼの仲間が新亜種として記載されました。
新亜種として記載されたのはイシガキパイヌキバラヨシノボリ。「イシガキ」は石垣島、「パイヌ」は南の、という意味で、その名の通り、石垣島の陸域淡水生態系の豊かさを象徴する種といえます。
けれども、この島の名前が付けられた魚は、今絶滅の淵に置かれています。近年の開発等で減少の一途をたどった末に、残された最後の生息地の一つである名蔵アンパル上流の小河川周辺では、大規模ゴルフリゾート建設計画による水環境への深刻な影響が懸念されています。
この開発の問題点については、以下をご参照ください:
イシガキパイヌキバラヨシノボリが生息できる豊かな水環境は、人の暮らしを支える貴重な水系でもあります。
石垣島の名を冠したこの魚が幻の存在とならないように、魚類の研究者や研究機関、水族館、博物館、石垣市民の方々と協力して、緊急に調査や保全の取り組みを進めていきます。
(野生生物グループ小田倫子)