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石垣島の大規模ゴルフリゾート開発計画 5つの問題点

この記事のポイント
WWFが20年以上にわたり活動してきた南西諸島にある沖縄県・石垣島では、今、新たな大規模ゴルフリゾート開発による自然破壊の危機が迫っています。日本最南端のラムサール条約湿地である名蔵アンパルの上流に位置する計画地は、カンムリワシ等の絶滅危惧種の生息地であり、大量の地下水の利用やゴルフ場の維持管理のために使われる農薬による周辺地域や生態系への影響が懸念されています。この開発計画の問題点と取り組みについてレポートします。
目次

石垣島の自然と名蔵アンパル

石垣島は、2021年に世界自然遺産に登録された西表島をはじめとする八重山諸島の玄関口であり、貴重な生物多様性が残されています。沖縄県で3番目に広い島の各所が、国立公園や鳥獣保護区に指定されています。

石垣島と名蔵アンパルの位置
© 石垣市市民保健部・環境課発行(H25/3)「名蔵アンパルガイドブック」より引用

石垣市市民保健部・環境課発行(H25/3)「名蔵アンパルガイドブック」より引用
石垣島と名蔵アンパルの位置

石垣島にある日本最南端のラムサール条約湿地である名蔵アンパルを含む名蔵湾周辺は、国の鳥獣保護区・特別保護地区や国立公園に指定されているマングローブ林を有し、生物多様性を保全する上で重要な水環境が広がっています。

そこには、カンムリワシなど絶滅危惧種を含む数多くの希少な野生生物が生息し、地域の子どもたちや島外から訪れる人が自然を学ぶ貴重な場にもなってきました。

日本最南端のラムサール条約湿地、名蔵アンパルの風景。地元の子どもたちが自然や生き物を学ぶ場になっている。
© 青木康夫

日本最南端のラムサール条約湿地、名蔵アンパルの風景。地元の子どもたちが自然や生き物を学ぶ場になっている。

名蔵アンパル周辺の生態系や人々の暮らしは、前勢岳・バンナ岳などの周辺山地からの水の恵みによって成り立っています。

しかし今、名蔵アンパルの水源の一つである前勢岳にある農地を大規模ゴルフリゾートとして開発する計画が進められています。

大規模ゴルフリゾート開発計画 5つの問題点

この開発計画には、各方面からさまざまな問題点が指摘されていますが、WWFでは特に次の点が重要と考えています。

ゴルフリゾート建設予定地は赤字枠内。
©(株)ユニマットプレシャス作成「(仮称)石垣リゾート&コミュニティ計画」環境影響評価書より抜粋

(株)ユニマットプレシャス作成「(仮称)石垣リゾート&コミュニティ計画」環境影響評価書より抜粋。ゴルフリゾート建設予定地は赤字枠内。

【問題1】カンムリワシへの影響

開発される用地内やその周辺には、国の特別天然記念物で、「種の保存法」の国内希少野生動植物種に指定されている、カンムリワシの生息地となっています。実際に現場では、採食や、繁殖の様子が確認されています。

子育てするカンムリワシ
© 中本純市

子育てするカンムリワシ

しかし、現行の計画では、カンムリワシの生息地への影響に関する科学的調査や影響を回避・軽減するための対策が不十分なままとなっています。

【問題2】名蔵アンパル・名蔵湾への影響

現行の計画では、水系を通じた名蔵アンパル及び名蔵湾への影響に関して、科学的調査が行われないまま「影響は軽微」と断じ、必要な対策も検討されていません。

このまま建設工事が始まれば、不可逆的な影響が出ることが懸念されます。

九州大学 浅海底フロンティア研究センター 菅浩伸センター長(同大学院 地球社会統合科学府/共創学部教授)『日本最南端のラムサール条約湿地・名蔵アンパルと名蔵湾の生物多様性』発表資料(2022年2月1日開催)より引用

九州大学 浅海底フロンティア研究センター 菅浩伸センター長(同大学院 地球社会統合科学府/共創学部教授)『日本最南端のラムサール条約湿地・名蔵アンパルと名蔵湾の生物多様性』発表資料(2022年2月1日開催)より引用

【問題3】地下水の利用

現行の計画では、ゴルフリゾートを運営するために1日約1000トンの水を消費し、その約7割を地下水で賄うとされています。

このような大量かつ継続的な地下水の利用は、名蔵アンパルや周辺地域の農地、地域社会、生態系に深刻な影響を与えることが懸念されています。しかし、必要な調査や、それに基づく対策が検討されていません。

名蔵アンパル周辺に広がる農村・集落の風景
© WWFジャパン

名蔵アンパル周辺に広がる農村・集落の風景

【問題4】農薬・赤土等の流出の影響

現行の計画では、ゴルフ場の維持管理のためネオニコチノイド系の農薬を含む複数種類の農薬が継続的に使用される予定です。

周辺水系や地域への農薬汚染の対策が不十分であり、また赤土等の流出に対しても適切な予防措置が求められます。

ゴルフリゾート計画地周辺の水系に生息しているとみられる沖縄県石垣島産のキバラヨシノボリ。絶滅危惧IB類(環境省)、絶滅危惧IB類(沖縄県)、沖縄県希少野生動植物保護条例に基づく指定希少野生動植物種。
© 鈴木寿之

ゴルフリゾート計画地周辺の水系に生息しているとみられる沖縄県石垣島産のキバラヨシノボリ。絶滅危惧IB類(環境省)、絶滅危惧IB類(沖縄県)、沖縄県希少野生動植物保護条例に基づく指定希少野生動植物種。

【問題5】経済効果をはじめとする地域のメリットに関する疑問

本来、農地からゴルフ場への転用は、農地法の規制により、原則不許可となっています。そこで、この開発計画は、地域未来投資促進法という特別法に基づき、地域に「経済効果」をもたらすものとして県知事が承認することを条件に、農地法の扱いにおいて「配慮」を受けられるものとして進められてきました。

しかし、この「経済効果」について、算定の根拠となっている数値が情報公開請求に対しても非開示となっており(行政不服申立中)、本当に地域住民に利益となるのか不明なままとなっています。また開発で失われる自然の価値については、機会費用として全く勘案されていないなど、根本的な問題があります。

加えて、開発計画の用地周辺には、市民の森、ヤエヤマホタル観察地、星空観察が催される石垣天文台があり、石垣市民の自然体験や憩いの場として長年にわたり親しまれてきました。しかし、これらの利用に対して、ゴルフリゾート施設からの光害による影響やアクセスが困難になることによる市民による利用に支障が出ることが心配されています。

ゴルフリゾート計画地周辺で観察されているヤエヤマホタル群落。毎年多くの市民や観光客が観賞に訪れる。
© 青木康夫

ゴルフリゾート計画地周辺で観察されているヤエヤマホタル群落。毎年多くの市民や観光客が観賞に訪れる。

また、この計画が実施されると、石垣島の伝統的な景観を大規模かつ本質的に改変するものになることから、景観保全の観点からも懸念が示されています。

さらに本件計画に関しては、行政手続きの透明性の観点からも問題が指摘されています。たとえばこの計画地には、石垣市が所有する土地が含まれていますが、これが事業者へ提供された経緯や手続きについて市民に対し説明も行なわれていません。

生物多様性に配慮した持続可能な利用に向けて

南西諸島の自然の価値が世界自然遺産の登録地として国際的にも注目される中で、この開発案件に対する対応において、沖縄県や石垣市、開発事業者、また各手続きを主管する国には、貴重な自然環境の保全とその持続可能な利用に真摯に取り組む姿勢が問われています。

WWFジャパンは、石垣市民の皆さんや現地・全国の団体と協力して、行政や事業者に対する働きかけを行なうなど、必要な取り組みを進めていきます。

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