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動物愛護管理法の基本の基

この記事のポイント
日本における動物の適正な取り扱いについて定めている法律「動物愛護管理法」。この法律は、イヌ・ネコなどの愛玩動物だけでなく、産業動物やペット・展示目的に利用される野生動物など、人の管理下にある動物を対象としています。飼育動物の不適切な取り扱いや管理は、日本の自然環境の保全にもかかわりを持っています。環境課題との関係性に注目しながら、動物愛護管理法の基本について解説します。
目次

法律の概要

「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」は、動物を命あるものとして適正に取り扱うことと、人が飼育する動物が他の人へ危害や迷惑を及ぼさないよう管理することを定めた、国内法です。

これは、1973年に議員立法という手法で作られた法律です。議員立法とは、「議員によって法律案が発議され、成立した法律」のことで、内閣(実際は所管省庁)が法律案を作成する内閣立法に対してこう呼ばれます。

当初は「動物の保護及び管理に関する法律」という名称でしたが、1999年の改正で現在の名称になりました。

法律の目的

この法律の第一条には、次のような記載があります。

動物の保護及び管理に関する法律 第一条

「この法律は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵(かん)養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止し、もつて人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とする。」

意外に感じる人もいるかもしれませんが、法律の目的は、「人と動物の共生する社会の実現を図ること」であって、動物を守ることではありません。

この条項に書かれていることを分解すると、下図のようになります。

共生社会の実現という目的を達成するため、法律では以下の2点を規定しています。

  • 動物の愛護:虐待・遺棄の防止、動物の健康・安全の保持など
  • 動物の管理:動物が人に害を及ぼさないための飼い主の責任、動物を取り扱う事業者の義務

動物の愛護(動物福祉)

法律上は、動物愛護という言葉が使われていますが、良好な動物福祉※1を備えることも国民に求めています。

動物を虐待しないことはもちろんですが、動物を取り扱う場合は、動物の本来の習性に反することのないように配慮しなくてはなりません。

このことは、本法の第2条に基本原則として明記されています。

動物の保護及び管理に関する法律 第二条

第二条 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
2 何人も、動物を取り扱う場合には、その飼養又は保管の目的の達成に支障を及ぼさない範囲で、適切な給餌及び給水、必要な健康の管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した飼養又は保管を行うための環境の確保を行わなければならない。

動物愛護は人の主観に基づくものですが、動物福祉は動物の状態から判断されるものなので、たとえ飼い主が動物を大切に思っていても、人の食べ物を与えて肥満状態にするような飼い方は、基本原則に合致しているとは言えません。

※1 動物福祉:国際獣疫事務局(WOAH)は、「動物が生活及び死亡する環境と関連する動物の身体的及び心理的状態」と定義しています。(公社)日本動物福祉協会は、「動物が精神的・肉体的に充分健康で、幸福であり、環境とも調和していること」を意味するとしています。

動物の管理

散歩中の飼いイヌに通行人が噛まれてケガをしたり、飼いネコが隣家の庭をトイレ代わりにしたり、というトラブルを聞くことがあります。

危険な展示動物が逃げ出して、警察が捜索をしているというニュースが流れることも珍しくありません。

こうしたことが起こらないよう、人が飼育している動物を適切に管理する必要があります。

ゴリラ、クマ、ワニやマムシなど特に人の命や身体・所有物に危害を加えるおそれの高い動物約650種は、「特定動物」に指定され、飼育することが禁じられています。

例外的に、その飼育が特定の目的であり、かつ適切な設備や方法を備えているとして、地方自治体から個別に許可を得た場合にのみ、飼育が認められます。

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この特定の目的に「愛玩」は含まれていないので、特定動物に指定されているサーバルをペットにしたいからという理由で飼育することはできません。

法律の対象となる動物

動物愛護管理法の対象とされる「動物」の範囲は、下図のように内容によって異なります。

いたずらに傷つけたりしないことや習性を考慮した適正な取り扱いをすることなどは、動物一般を対象としますが、基本的に、自然状態に生きる動物ではなく、人が占有(飼育・保管)している、すなわち人の管理下にある動物を対象としています。

さらに「愛護動物」に対する殺傷・虐待や遺棄には、罰則が設定されています。具体的には、ウシ、ウマ、ブタ、メンヨウ、ヤギ、イヌ、ネコ、イエウサギ、ニワトリ、イエバト、アヒル、及び人の占有する哺乳類・鳥類・爬虫類に属する動物を愛護動物と定義しています。

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なお、人の管理下には多種多様な動物がいるにも拘わらず、イヌ・ネコに的を絞った規制が多いことを課題として指摘する声もあります。

飼育者と所有者の責務

飼育者・所有者には、動物を愛玩目的でペットとして飼う個人はもちろん、ペットショップやアニマルカフェなど営利目的で動物を飼育する事業者も含まれます。

法第7条には、飼育する動物に関して、上記の良好な福祉状態を維持すること、及び他人に迷惑をかけないよう動物を管理することへ対して飼育者・所有者の責任が規定されています。

具体的には、以下の6点が求められています。

  1. 飼育する動物に因って起りうる感染症に関する知識を持ち、適切に予防する
  2. 飼育動物が逃げないよう対策を講じる
  3. 飼育動物の寿命が尽きるまで終生飼育する
  4. 飼育動物がみだりに繁殖することで適正な飼育ができなくなることのないよう、不妊処置などの適切な繁殖制限を行なう
  5. 飼育者・所有者を明らかにするため、首輪、マイクロチップ、脚環等を飼育動物につける
  6. 飼育動物に関する基準がある場合は、基準に従う(2024年9月現在、「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」など4つの基準がある)

動物取扱業の規制

哺乳類・鳥類・爬虫類に属する動物の販売、保管、貸出し、訓練、展示、競りあっせん、譲受飼養※2を繰り返し、継続して行なう者は、「動物取扱業者」とされます。ただし、産業動物と実験動物に関する事業は、規制の対象外です。

これらの事業を営利目的で行なう者を「第一種動物取扱事業者」、非営利の場合を「第二種動物取扱事業者」と呼びます。事業者は、動物を扱うプロなので、一般の飼育者より高いレベルで動物の適正管理が求められます。

ヒョウモントカゲモドキのような爬虫類を販売目的で飼育・ブリーディングする場合、個人であっても第一種動物取扱業者(販売業)としての事前登録が必要です。
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ヒョウモントカゲモドキのような爬虫類を販売目的で飼育・ブリーディングする場合、個人であっても第一種動物取扱業者(販売業)としての事前登録が必要です。

特に営利事業者である第一種動物取扱事業者には、さまざまな義務が課されています。

第一種動物取扱事業者に課された義務の例

  • 事業を始める前に、所在地の地方自治体に登録をする必要があります。登録は、5年ごとに更新が必要です。
  • 事業所(店舗)ごとに動物取扱責任者を設置しなくてはなりません。
  • 取り扱う動物は、定められた基準を守って飼育・保管する必要があります。
    • 個々の動物に適切な広さや空間の確保
    • 動物の逸走防止 など
  • 飼育している動物に関する帳簿を作成し、所有状況を毎年報告します(販売、貸出し、展示、譲受飼養のみ)。
  • 購入者希望者に対して、その動物の現状を直接見せ、動物の特徴や適切な飼育方法などを対面で説明しなくてはなりません(販売業者のみ)。

※2 その動物を譲り渡した者(元の飼い主)が、飼育に要する費用を負担する場合に限ります。老犬・老猫ホームなどがこの事業に該当します。

動物愛護管理法と環境保全

この法律の主な対象となるのは、人の管理下にある動物、すなわちペット、コンパニオンアニマルと呼ばれる家庭動物、動物園やふれあい施設などの展示動物、畜産業に利用される産業動物などです。

自然で生きる野生動物は、法律の基本原則の対象となるだけですが、法律の目的である「人と動物の共生する社会の実現」は、WWFの目指す「人と自然が調和して生きられる未来」に通じるものです。

なぜなら、人とその管理下にある動物との適切な関係の構築は、人と自然の調和した未来への第一歩だからです。

© WWF / Simon Rawles

人による動物の利用は、さまざまな点で環境へ影響を与えています。

1)外来生物になるリスク
逃げたり捨てられたりしたペットや家畜は、各地で野生化し、人の生活や生態系に深刻な影響を与える侵略的外来種となるものも少なくありません。

2)感染症を拡大させるリスク
動物由来感染症は、自然界の野生動物と人と暮らす動物の間を相互に伝播し、人へ感染が広まるケースもあります。
また、逆に人の感染症が動物にうつる例もあり、こうした種を超えた伝播(スピルオーバー)は、新たな感染症を生み出す恐れを高めます。新興感染症は、自然に生きる野生動物やその動物が属する生態系にとっても大きな脅威です。

3)需要を拡大し、野生個体の絶滅のおそれを高めるリスク
ペット・ふれあい目的の利用とそれに伴う露出の拡大は、どのような動物もペットとして飼える、という安易な誤解を生むおそれがあります。
このことは、需要の増大と需要を満たすため捕獲・取引の増加を招き、野生個体を絶滅の危機に追い込む原因になる可能性があります。

こうした環境課題すべてを動物愛護管理法が解決できるものではありません。

しかし、同法は、侵略的外来種になる可能性や感染症を伝播する危険性のある種、そして絶滅のおそれの高い種も含め、人が飼育する動物※3を一律に対象とする唯一の法律です。

この法律が求めるように、すべての人々が動物の生態や習性への理解を深め、適切な取り扱いをすれば、それは問題の解決に向けた確かな一歩となります。

※3 哺乳類、鳥類及び爬虫類に限る 

アニマルカフェで販売されていたナマケモノ
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アニマルカフェで販売されていたナマケモノ

人は、長い歴史のなかで人社会での暮らしに適応できる動物種を選び、繁殖させることで家畜化しました。イヌ・ネコなどの愛玩動物や、ニワトリ・ウシなどの家畜はその例といえるでしょう。

最近になってペットとして利用されるようになった野生動物を、これらと同一のものとして扱うのは誤りです。野生動物の中には、確かに人に馴れるものもいるかもしれません。しかし、そのことが人の社会の中で暮らすのに適しているか、ストレスなく適応できるのかは、まったく別の問題だからです。

こうした野生動物を含む、人の管理下にある動物全般を対象とする「動物愛護管理法」を見直し、飼育者をはじめとするすべての関係者が、動物と人のかかわりに起因する環境問題の解決に取り組む必要があります。

社会全体で生物多様性の回復を目指す今、それは、非常に重要性が高いことであるとWWFは考えます。

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