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コアラについて その生態と、絶滅の恐れが高い理由

この記事のポイント
日本では誰もが知っている人気者の動物、コアラ。しかし、野生のコアラを取り巻く現状は、近年急激に厳しいものになっています。生息する森の各地で頻発するようになった森林火災。その規模と被害を拡大している深刻な気候変動。IUCN(国際自然保護連合)も、こうした危機の影響を認め、コアラを、世界的に「絶滅の恐れが高い種(しゅ)」としています。コアラとはどういう野生動物なのか。また、今どのような危機にさらされているのか、ご一緒にみていきましょう。
目次

コアラという動物

世界でオーストラリアにだけ棲息するコアラは、カンガルーと同じ「有袋類」と呼ばれる哺乳類の一種です。

生息している場所は、オーストラリアの東部から南東部に広がる森林。基本は単独で、樹の上で生活していますが、別の木に移動したり、夏場に日陰を探す時などは、地面に降りてくることもあります。

野生のコアラは現在、森林火災や伐採などによってすみかの森が失われていることなどが原因で、絶滅の危機にあります。

コアラについての概要

分類:カンガルー目コアラ科コアラ属
学名:Phascolarctos cinereus
英名:Koala
分布:オーストラリア東部~南部および沿岸部の島々(人の手による移入を含む)
   生息域の広さ:推定50万平方キロ
   生息環境:ユーカリ類の多い亜熱帯湿潤林や乾燥した硬葉樹林
大きさ:オス 頭胴長67~82cm/体重4.2~14.9kg
    メス 頭胴長65~73cm/体重4.1~11kg
    尾は未発達
  行動範囲:オス 20~135ヘクタール
       メス 10~100ヘクタール
  繁殖期:9~5月/11~3月の出産が多い
  出産:通常1頭、稀に2頭。妊娠期間は34~36日
  成長:オスは4年、メスは2年で実際の繁殖が可能になる。
     仔は生まれてから6カ月は育児嚢で成長。
     1年ほどで独立するまで母親と暮らす。
  平均寿命:10~14年
  推定個体数:30万頭(10万~50万頭 :IUCN 2014)
IUCN Red Listの危機ランク:VU(2023年)

コアラのオスとメスはよく似ていますが、少し違う点もあります。オスはメスよりも1.5倍ほど体が大きく、特に繁殖期になると胸の白い毛のところに分泌腺の跡が見えるようになります。これは、オスが自分のなわばりを主張するため、気にこすりつけて臭いを残すための腺で、メスにはありません。
© Martin Harvey / WWF

コアラのオスとメスはよく似ていますが、少し違う点もあります。オスはメスよりも1.5倍ほど体が大きく、特に繁殖期になると胸の白い毛のところに分泌腺の跡が見えるようになります。これは、オスが自分のなわばりを主張するため、気にこすりつけて臭いを残すための腺で、メスにはありません。

コアラの生態について

コアラには、3つの大きな特徴があります。

1. 母親がお腹の育児嚢で仔どもを育てる「有袋類」であること
2. ユーカリの木の葉を食べて生きていること
3. 水をほとんど飲まないこと

「有袋類」としてのコアラ

最初の特徴である「有袋類」というのは、オーストラリアやニューギニア、南米などに生息する哺乳類のグループで、有名な動物として、このコアラやカンガルーがいます。

有袋類は、仔を入れて育てるお腹の袋が有名ですが、哺乳類としてそれ以上に大きな特徴といえるのは、発達した胎盤を持っていないこと。

コアラなど有袋類の多くは、お腹の中の子宮で赤ちゃんをある程度育て、出産するのではなく、先に大きさ7ミリ、重さ0.5グラムほどの超未熟児の状態で仔を生み、胎盤の代わりになる「袋」の中で母乳を与え、育てるのです。

哺乳類の進化の歴史の中で、この胎盤を持たない有袋類の多くは、南米大陸をはじめその生息域の各地で絶滅してきました。

より多様に進化し、高い運動能力や強い繁殖力を持った有胎盤類、すなわちイヌ科やネコ科の食肉目、ウサギ目、ネズミ類を含む齧歯目といった他の哺乳類に追いやられ、生きる場所を失ったためです。

しかし、早くから他の大陸から切り離されていたオーストラリアには長い間、小さなネズミ類やコウモリなどを除くと、有胎盤類がほとんど生息していませんでした。

このため、オーストラリアは世界でほぼ唯一の、多様な有袋類が生息する大地となってきたのです。

コアラの他にも、世界でオーストラリアにしか生息していない、珍しい固有の哺乳類が数多く存在する理由も、この大陸の歴史と深く関係しています。

コアラの食物

コアラは、食物の大半を、ユーカリの木の葉に頼る、特殊な食性を持っています。仔を生み、育てる繁殖のシーズンも、このユーカリの新葉の時期に重なってます。

オーストラリアのユーカリは、600種以上が知られ、コアラはそのうちの120種ほどを食用や休息に利用していますが、特によく食べている樹種は20種ほどに限られています。

いずれのユーカリも、葉にタンニンなどの毒を含む物質を持つ上、栄養価も低いため、これを食べる野生動物は多くありません。

しかし、コアラは食べたユーカリの毒を分解し、消化する微生物を体内に保持しているため、ユーカリの葉を食物とすることができます。

コアラの幼獣はこの微生物を最初は持っていませんが、生後6か月ほどで離乳する時期になると、パップと呼ばれる、母親が排泄する未消化の糞と共に、この微生物を食べることで、その後はユーカリの葉が食べられるようになります。

また、栄養価の低さについても、食べる量と睡眠時間の長さ、代謝率の低さで補っていると考えられています。

コアラの成獣が1日に食べるユーカリの葉は、600g~800gほど。毎日1.5~4.5時間を食事に充てています。

また1日あたり18~20時間は樹上で休みながら過ごし、そのうち睡眠時間が14時間以上を占めています。さらにコアラは、身体の代謝率が他の哺乳類の半分ほどしかなく、少ない栄養でも生き続けることができるようになっています。

これらはいずれも不思議な習性ではありますが、他に同じ食べ物を奪い合う動物がいない、という点は、生きていく上で非常に有利な点といえます。

コアラは唸り声のような鳴き声の他、50m~数百メートルの距離まで届く大きな声を出すことがあります。これはコミュニケーションのために発せられているもので、仔が親を呼ぶ時や、他の個体を威嚇する時や、繁殖期のメスへのアピール、なわばりを主張する時などに使われます。
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コアラは唸り声のような鳴き声の他、50m~数百メートルの距離まで届く大きな声を出すことがあります。これはコミュニケーションのために発せられているもので、仔が親を呼ぶ時や、他の個体を威嚇する時や、繁殖期のメスへのアピール、なわばりを主張する時などに使われます。

水を飲まない動物

コアラは「水を飲まない動物」としても知られています。
もちろんこれは、コアラには水が必要ないということではありません。

コアラは基本的に、生きる上で必要な水分を、毎日食べているユーカリの葉で供給しています。このユーカリの葉の55%は水分で占められており、それがコアラの命をつないでいるのです。

その意味でも、コアラがユーカリの樹上で生活することには、大事な意味があります。

そして樹上生活に適応した結果得た特徴として、葉のにおいをかぎ分ける嗅覚の優れた鼻や、指の付き方が2対3に分かれ、枝を掴みやすい形になった前脚、移動や上り下り、隣の木に飛びつく際に役立つカギ爪などを持つようになりました。

水を直接飲むことが稀なコアラの習性は、古くから知られていたらしく、「コアラ」という名前も、オーストラリアの先住民であるアボリジニの人々の言葉で「水を飲まない」という意味に由来します。

木の上でくらし、ユーカリという他の動物が食べない植物を主食とし、水を飲まずに生きているコアラ。

こうした点はいずれも、生息地の自然環境に独自の生き方で適応し、他には類を見ない習性を身に着けた、オーストラリアの固有種としてのコアラの特徴を物語っています。

コアラに迫る絶滅の危機

およそ100年前まで、コアラは今よりも広い分布域を持っていました。

しかし、1930年頃までは毛皮目的の狩猟が盛んに行なわれ、数百万頭ともいわれるコアラが捕獲されたと言われています。1898年には1年で30万枚のコアラの毛皮が海外に輸出され、1919年にはクイーンズランド州だけで100万枚もの毛皮が取引された、という記録も残っています。

そのため、コアラの生息域はかつての50%まで減少。

その後、一部では生息域が回復しましたが、今度は各地で森林伐採を伴う開発が深刻化してきました。

さらに、離れた木に移動するため木から降りたところで、交通事故に遭ったり、人が持ち込んだ外来生物であるイヌやネコに襲われる問題も発生。また感染症などの影響も受けることになりました。

それでも、オーストラリア東部を中心に広く生息していた野生のコアラが、「絶滅」つまり一頭もいなくなってしまうほどの危機に追いやられるようなことはありませんでした。

むしろ生息密度があまりにも高い地域では、ユーカリの木の枯死が多発し、コアラの頭数の管理が必要なのではないか、という指摘もあったほどです。

そうした状況が大きく変わったのは21世紀に入ってからでした。

背景にあったのは、1990年代以降、オーストラリアをしばしば襲うようになった、気候変動(地球温暖化)による異常気象です。

これが各地にもたらしたと考えられる干ばつは、ユーカリの森を広く枯死させる一方、発生した森林火災の鎮火を阻み、その被害を劇的に拡大させる大きな要因になりました。

特に、深刻な打撃を受けたのは、比較的内陸の生息域で、植物の枯死によって、コアラが「水不足」に陥り、衰弱して命を落とす例が増えたといわれています。

こうした地域では、必要な水分を葉から採れなくなったコアラが、地上に降りて水を飲む様子なども確認されています。

そのため、コアラは2016年には初めて、IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト(絶滅のおそれのある世界の野生生物のリスト)」の中で、絶滅の恐れが高いとされる「VU(危急種)」に選定されることになりました。

大規模化する森林火災の脅威

絶滅の危機が高まりつつあるコアラを、2019年にはさらなる脅威が襲いました。

2019年9月、コアラの主要な生息域を含むオーストラリアの全土で、大規模な森林火災が発生。
この火災により、2020年5月中旬までに推定17万平方キロ(北海道のほぼ2倍に相当)もの森林や原野が焼失したのです。

オーストラリアを襲った2019年の森林火災。
© Andrew Merry / Getty / WWF

オーストラリアを襲った2019年の森林火災。

これは、オーストラリア史上でも類を見ない大規模な火災であり、その結果、多くのコアラが火に包まれて命を落としたり、火傷などの傷を負うことになりました。

また、運よく生き残ったり、救助されたコアラも、もともと生息していた森を失ってしまったことで、今後の減少や、将来的な絶滅の危険が懸念されています。

この被害を拡大したのは、気候変動(地球温暖化)がもたらしたと考えらえる、異常気象による雨の不足と激しい熱波でした。

コアラの生息域では、もともと落雷などによる森林火災はたびたび起きてきましたが、通常は雨によって自然に鎮火するため、大きな問題にはなりません。

しかし、熱波と雨の不足がもたらした異常な乾燥は、発生した火災の延焼をあおり、被害に追い打ちをかけることになりました。

この2019年から2020年にかけて起きた火災で、犠牲になったと推定されるコアラの数は、およそ6万頭。

さらにコアラ以外にも、多くの野生生物が命を落とすことになったのです。

被害は野生生物だけにとどまりませんでした。
水源でもある森が失われたことで、渇水や洪水の危険が高まったほか、この地で農業などを営む人の暮らしも、深刻な打撃を受けました。

コアラの絶滅の危機。それは、人を含む他の多くの生きものの未来を脅かす問題の顕れでもあります。

そして、この問題は決して天災などではなく、気候変動という人の手によって引き起こされ、甚大化した問題だということを、忘れるべきではないでしょう。

オーストラリア、ニューサウスウェールズ州の火災で火傷を負ったコアラ。火災ではコアラをはじめとする多くの野生生物が犠牲になりました。
© naturepl.com / Doug Gimesy / WWF

オーストラリア、ニューサウスウェールズ州の火災で火傷を負ったコアラ。火災ではコアラをはじめとする多くの野生生物が犠牲になりました。

コアラを守るために

現在、コアラの推定個体数には、いくつかの説があります。3万頭から 5 万頭という推定もあれば、10 万頭から 50 万頭という推定もあり、正確な実態はわかってはいません。

しかし、どの推定において過去 20 年の間に、 3 割近く減少しているとみられています。

従来から起きていた森林破壊や、さまざまな外来生物による影響、これらに加わった気候変動の脅威が、減少の原因です。

さらに、2019年から20年にかけての森林火災は、コアラの危機にさらなる拍車をかけました。

クイーンズランド州の救護センターで治療を受ける野生のコアラ。クイーンズランド州に限れば、2001年以降、コアラの個体数は半分に減り、ニューサウスウェールズ州でも最大62%減少したと推計されています。
© Shutterstock / ChameleonsEye / WWF

クイーンズランド州の救護センターで治療を受ける野生のコアラ。クイーンズランド州に限れば、2001年以降、コアラの個体数は半分に減り、ニューサウスウェールズ州でも最大62%減少したと推計されています。

オーストラリア政府も2022年2月、危機が拡大している現状を受け、自国版の「レッドリスト」で、これまで「危急種(VU)」として掲載していたコアラを、「絶滅危惧種(EN)」に選定。絶滅の危機がより深刻になりつつあることを明らかにしました。

こうした問題を解決するため、WWFオーストラリアは、コアラの保護につながる、オーストラリアの自然環境の回復を目指した取り組みを展開。

WWFジャパンも、日本の皆さまからお寄せいただいた寄付金を基に、これらの活動を支援しています。

森林の再生と保全「20億本の木」プロジェクト

これは、森林の減少をくいとめて回復に向かわせるため、植林などの取り組みを推進しつつ、残された森を開発から守ることを目標に、林産物や農産物の生産と消費をサステナブル(持続可能)なものに変えていく活動です。

この取り組みでは、火災によって失われた、森林の再生力を高める活動を進め、必要に応じて在来樹木の植林を実施。
さらに、法的な森林保全の強化も実現するため、すべてのタイプの森林の少なくとも15%が、法的な保護下に置かれることを目指しつつ、残された自然林や、多様な野生生物が多く息づく「保護価値の高い森林」の伐採の、段階的な廃止を求めていきます。

また、こうした取り組みを支える手段として、持続可能な木材の利用を推進するため、すべての林業がFSC®などの適切な森林管理のもとで行なわれるように働きかけ、全体で20億本の木々を再生させることを目指しています。

生物多様性の回復「Koala Forever(コアラよ、永遠に)」プロジェクト

失われたオーストラリアの生物多様性の再生を図り、その一環としてコアラの生息環境の拡大と、個体数の回復をめざす、2050年までの長期プロジェクトです。

活動の一環として、3,500本の在来樹木を、特に低地の亜熱帯林の再生のため植林を行ない、継続的な管理を通じて植生の再生を目指します。

また、森林火災の被害にあった野生生物を救護するための、野生動物病院の新設や拡張を進め、被災した個体の生存率の向上を図ります。

さらに、ドローンを使って、一度焼失した地域に在来種の種を撒き、森を再生させることで、分断された森林の間をつなぐ「緑の回廊」を造ります。

コアラを守ることの意味

WWFではこれらのコアラの生息地での活動の他にも、気候変動の影響をくい止める取り組みにも力を入れています。

たとえば、国際交渉や国内政策の決定の場において、「パリ協定」が掲げる温暖化防止のための目標を、世界の国々が確実に達成するよう、日本をはじめ各国の政府に対して訴えているほか、先駆的な挑戦を続けている企業や、各地の自治体と協力しながら、温暖化の防止につながる新しいビジネスチャンスや経済・金融の在り方を模索し、実現する活動を行なっています。

どんなに森を再生させても、異常気象でまた燃えてしまったら、オーストラリアの野生動物を守ることはできません。そこで共に生きる人たちの暮らしも、脅かされ続けることになります。

野生のコアラが生息する森。コアラは主食の葉をつけるユーカリの樹種の多い森を好みます。気候変動による異常気象は、こうした森の広がる地域に干ばつをもたらし、火災の被害を甚大化させるだけでなく、降雨や気温のパターンを変えてしまうことで、森の植生そのものを改変させてしまいます。その影響は、コアラをはじめ、さまざまな野生動物に及ぶことになります。
© Martin Harvey / WWF

野生のコアラが生息する森。コアラは主食の葉をつけるユーカリの樹種の多い森を好みます。気候変動による異常気象は、こうした森の広がる地域に干ばつをもたらし、火災の被害を甚大化させるだけでなく、降雨や気温のパターンを変えてしまうことで、森の植生そのものを改変させてしまいます。その影響は、コアラをはじめ、さまざまな野生動物に及ぶことになります。

野生のコアラを守ることにつながるさまざまな取り組みは、コアラだけでなく、より多くの野生生物と、森の生態系を守り、回復させていく活動でもあります。

そのことを、広く伝えていくことも、WWFの大事な取り組みです。

かわいいコアラが好きな方、オーストラリアの大自然に魅力を感じている方、そのお気持ちが、今起きているさまざまな問題を解決していくための、第一歩です。

ぜひ、オーストラリアの環境問題と、コアラをはじめとする野生生物の危機に目を向けていただき、これに取り組むWWFの活動を応援してください。

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参考資料

IUCN 2023. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2022-2.
・ Lynx Handbook of The Mammals of the World Vol.5: Monotremes and Marsupials
GBIF : Global Biodiversity Information Facility
クイーンズランド州政府観光局

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