シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 中小規模事業者の脱炭素を3つの施策で総合的にサポート(神奈川県相模原市)


神奈川県相模原市「中小規模事業者省エネルギー対策支援事業」

【施策タイプ】条例・ルール作り補助金
WWFの「ここに注目」
 
  • 国や県の制度対象から外れる中小規模事業者の地球温暖化対策を推進する施策
  • 中小規模事業者のCO2排出量削減目標や達成計画の策定と、その実行のための省エネ設備等導入を三つの制度で支援。
  • 無料で利用できる省エネアドバイザー制度により、省エネ診断と共に、地球温暖化対策計画書の作成をサポート。さらに、計画書提出を補助金申請の条件とすることで、計画の実行までを総合的に促す仕組み
  • 地元の中小企業をよく知る商工会議所との連携により、企業への情報提供や手続きのスムーズな運用を実現

施策概要

相模原市内の事業者の9割を占める中小規模事業者(*1)の二酸化炭素排出量の削減と、省エネおよび再エネ利用設備の導入を促進するため、計画的かつ自主的な省エネルギー対策等を支援する制度(平成25年度に開始)。
本事業は、「地球温暖化対策計画書制度」を中心に、「省エネアドバイザー派遣事業」、「中小規模事業者省エネルギー設備等導入支援補助金」をあわせた3施策から成る。中小規模事業者は地球温暖化対策計画書を提出することで、無料の省エネ診断や省エネルギー設備等への補助金が得られる。
なお、省エネアドバイザー派遣事業については、単独でも実施しており、地球温暖化対策計画書(以下、計画書)の提出は必須としていない(*2)。

(*1) 国や県の施策によりエネルギー使用量や温室効果ガス排出量の削減取組が義務付けられていない事業者、「病院」「学校」「社会福祉施設」などの運営事業者も対象となる。
(*2)省エネアドバイザー派遣制度を利用しない場合、過去3年間で何らかの省エネ診断を受け、計画書を作成する事も可能だが、実際は、ほぼ100%が本施策による派遣を受けて計画書を作成している。

予算

《運営費等》 
180万円(令和3年度、主に省エネアドバイザー派遣委託費)
省エネアドバイザー派遣は、相模原商工会議所に委託し、中小企業診断士・エネルギー管理士を派遣。中小規模事業者はアドバイザーに、省エネ診断、レポート作成、書類提出までのサポートを行なってもらえる。計画書の新規提出は例年15件ほど。

《補助予算額》 
1,600万円(令和3年度)
中小規模事業者省エネルギー設備等導入支援補助金の補助金総額。補助金の申請は例年20件程度(計画書1年目2年目3年目が混在))。なお補助金は毎年、ほぼ全額使用。

削減効果

1,833t-CO2
(平成25年~令和2年の累積値(過去実績値と現行の計画値を含む))

その他効果

中小規模事業者にとっては、省エネアドバイザーの派遣を受けて客観的に自分の会社がCO2をどれくらい排出しているかを定量的に確認できる。また、実際に計画書を作る過程を経ることで(エネルギー使用量とCO2排出量の両方を記載してもらう)、省エネ仕様の設備に替えた場合に、具体的にどの程度の効果があるかを定量的に認識ができるため、事業者側の実施意欲を高めることが期待される。

施策を通して

<実施前の課題>
「地球温暖化対策計画書制度」の開始当初(平成25年度)は、多くの中小規模事業者にとって、地球温暖化対策や脱炭素への優先度は今に比べると低く、独自で計画書を作成するのはかなりハードルが高い状況にあった。そのため、参加率を高めるためにも、省エネアドバイザー派遣制度や補助金制度などを組み合わせて実施することで、計画書制度への参加にインセンティブを設ける誘導策を導入している。

<実施における課題や改善点>
省エネアドバイザー派遣(効果的な省エネ対策、計画書作成の助言)、補助金制度による省エネや再エネ設備の導入支援という仕組み自体は開始当初から変わらないものの、補助対象設備の種別や補助金率を情勢にあわせマイナーチェンジすることで、申請者側のニーズに合わせつつ市内での普及率を上げるべき設備への誘導を図っている(例:令和3年度には、コロナ対策を進めるため、通常の対象設備の更新と併せて、高性能の換気設備(全熱交換器型)を導入した場合は補助額を上乗せ)。

<施策のメリットとデメリット>
メリット:事業者にとっては、いずれは実施することになる照明器具の交換や省エネ設備や再エネの導入などの設備更新に補助金が得られる。市にとっては、単に温暖化対策に取り組む事業者が増えるだけでなく、個々の事業者のCO2排出状況や自家消費型の太陽光パネルなどの設備導入量の状況など、報告を通して定量的に把握できるというメリットがある。

デメリット:事業者にとっては、計画書を提出しないと補助金の対象とならない煩雑さが生じる。本来は補助金なしでも計画書を作成して地球温暖化対策に取り組むことが望ましいが、実際には計画書を新規で提出する企業は、例年15社ほどに留まっている。

こんな自治体にオススメです

日本は全国的に中小規模事業者が多いため、どこの自治体でも導入は可能です。
省エネアドバイザー派遣から計画書の作成や補助金申請に至るまでのサポートが肝心であり、自治体のみで窓口を担うことが困難な場合は、事業者の実態を理解し、計画書提出・補助金申請が円滑に行なえるサポートを実施してくれる協力的な運営主体がいることが望ましいです(例:商工会議所など)。

今後の方針

対象者や補助対象設備を広げて(特に再エネや蓄電池の設備の導入)実施することを検討予定。

「相模原市地球温暖化対策計画」

「令和3年 中小規模事業者 省エネルギー対策支援事業」

自治体担当者からのコメント

相模原市 環境経済局 環境共生部 環境政策課
小磯真也さん

今や大企業だけでなく、中小規模事業者にも実効性のある脱炭素に向けた取り組みが求められています。その一方で、中小規模事業者が自力で地球温暖化計画書を作成するのは、まだ非常にハードルが高いということが、現状としてあります。この施策により、地域の商工会議所の協力を得ることで、省エネアドバイザーの派遣や計画書作成のサポートを円滑に進めることができています。また市としても、様々な事業所の排出量が定量的に把握できるというメリットがあります。

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