シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 大規模事業所へのCO2排出量削減の義務付け(東京都)
2022/05/10
東京都「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度(キャップ&トレード制度)」
- WWFの「ここに注目」
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- 排出量削減を大規模事業所に義務付け
- 削減対策の推進が特に優れた事業所を「トップレベル事業所」に認定
- 産業部門のみならずオフィスビル等の業務部門も対象
施策概要
温室効果ガスの確実な総量削減を実現するため、2010年度にスタートした制度。排出量が多い大規模事業所を対象に、5年間の一定期間ごとに削減義務率を設けて総量削減を義務付けている。対象となるのは、燃料、熱、電気の使用量が原油換算で年間1,500kL以上の事業所(業務・産業部門)。これらの事業所(約1,200)は、都内約63万事業所のわずか0.2%でありながら、排出量は業務・産業部門の約4割を占めている。削減の義務履行は、事業所自らの削減対策のほか、不足が生じる場合には、他事業所の超過削減分やグリーン電力証書の購入などの排出量取引も認めている。
削減効果
第二計画期間の削減実績について
2015年度~2019年度の5年間(第2計画期間):約2,190万トン削減
2019年度:基準排出量(※)から27%削減
令和4 年1月末日(第二計画期間の義務履行期限)、全ての対象事業所が第二計画期間の総量削減義務を達成し、対象事業所の85%が自らの省エネ対策等によって削減義務を達成
2020年度の削減実績について
2020年度:排出量は1,104万tで、基準排出量(※)から33%削減
※事業所が選択した2002~2007年度のうち、いずれか連続する3カ年度排出量の平均値
その他効果
- 省エネ対策が、トップマネジメントの課題として、経営者の高い関心を得ることに繋がっている。(2014年度の事業者向けアンケートで、7割超の事業者が「経営者の関心が高まった」と回答)
- 対策の推進の程度が特に優れた「トップレベル事業所(優良特定地球温暖化対策事業所)」の認定が、事業所評価の一つとなっており、これまでに100以上の事業所が削減義務率の軽減や、テナントや投資家等へのアピールのために取得した。GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)においても、この認定取得が評価対象となっており、より多くの主体の排出削減行動を喚起する流れをさらに作っている。
- 東日本大震災後の電力危機の際、当制度での気候変動対策の成果を活かして、様々な方法で節電の実践を働きかけ、オーナーとテナントとの円滑な協働関係により、危機を乗り越えることに繋がった。
- 建物稼動後に当制度の対象になることが、事業者が大規模な建物建築をするにあたり、計画段階から省エネ対策・再エネの導入(CO2削減対策)を講じる契機になっている。
- 当制度でのクレジットの創出や取引の仕組みが契機となって、東京2020大会の開会式と閉会式の4日間に都内で排出される全てのCO2をゼロにする「東京ゼロカーボン4デイズ in 2020」や、「東京2020大会のカーボンオフセット」への事業所からのクレジット提供、鉄道会社による電車の運行に関するカーボンオフセットの取組みなど、環境対策の推進に広がりを見せている。
施策を通して
<実施前の課題>
導入の経緯として、東京都では2002年度から、都内の大規模事業所に対して削減目標の設定や排出量の“報告”を求めてきたが、積極的に取り組む事務所とそうでない事務所とで不公平があった。また、自主的な取り組みを促すだけでは排出量の大幅削減に限界があり、事業所の排出削減を現場の努力からトップマネジメントの課題に変えることが求められていた。
こうした中で、制度の導入検討当初には、当初排出義務量の設定に係る公平性などについて、反対意見も数多くあった。そこで、業界団体等と公開で直接対話するステークホルダーミーティングを複数回にわたって開催し、制度導入について議論を積み重ねた。例えば、前制度である地球温暖化対策計画書制度で蓄積したデータ等をもとに、制度対象事業所(約1,300(当時))は、都内事業所のわずか0.2%でありながら業務産業部門CO2排出量の約4割を占めており、大量排出者として率先して削減に取り組んでいく責務があること、これまでの制度運用の実態から自主的な取組のみを促す制度だけでは、大幅なCO₂排出総量の削減は限界があること、そのためにも削減義務化が必要であること、などを説明した。
また、今後も削減ポテンシャルが存在することなどを提示した。さらに、東京の事業者の実態を踏まえた制度設計としていくことなどを丁寧に説明し、東京都経済界の支持と理解を経て、東京都議会において全会一致で条例改正が可決された。(削減義務の導入)
※詳細は以下の資料を参照
中央環境審議会 国内排出量取引制度小委員会(第5回) 2010.6.1東京都説明資料
<実施における課題や改善点>
オフィスビルを対象としたキャップ&トレード制度は、国内外初の取組であったため、事業所の意見等も踏まえながら制度の具体的設計を行った。制度運用時には、対象事業所から提出された計画書の内容や訪問ヒアリング等により優れた取組事例を収集し、省エネセミナーという形で他事業所へ紹介している。また、新たな技術に関する知見や専門家の意見を聞きながら、実効性のある削減対策制度となるよう取り組んでいる。
また、必要な情報(事実)の報告と客観的な裏付け(検証)を求めているため、事業所にとって手続き的な負担となり得る。そのため、申請手続きの簡素化など、適宜見直しを行っている。
こんな自治体にオススメです
本制度は東京都の事業所の実態等を踏まえたうえで構築したものであるが、導入当時と異なり、現在は、CO2の算定報告制度を運用している自治体も多い。都は本制度により温室効果ガスの大幅削減を実現しており、同様の課題を抱える自治体には積極的にノウハウを提供する考えを示している。
今後の方針
制度は継続していく。2050年CO2排出実質ゼロに向けた「ゼロエミッション東京戦略」では、2030年までに都内温室効果ガスを半減することを目標に掲げている。その達成に向けて、本制度の強化も検討している。
施策についてより詳しい情報を知りたい場合には、以下を参照のこと 大規模事業所における対策
自治体担当者からのコメント
東京都環境局地球環境エネルギー部総量削減課
本制度により、対象事業所からのCO2排出量は継続的に減少し、基準排出量から33%もの大幅な削減を達成しています。脱炭素社会の実現に向けて意欲的に取り組む事業所も増えている中で、今後も制度の運用を通じて、ゼロエミッション東京に向けて、官民連携して取り組んでいきたいと考えています。