シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 自治体が企画!中小企業の脱炭素学び舎(愛知県豊田市)


© Shutterstock / Andrei Shumskiy / WWF

愛知県豊田市「中小企業向け『豊田市脱炭素スクール』」

【施策タイプ】 新規事業
WWFの「ここに注目」
 
  • 地域基幹産業のサプライチェーンを支える製造業を中心に、中小企業の経営層が、脱炭素に向けて経営判断しやすくするための学びの場を提供
  • 参加が想定される中小企業と取引先の大手企業にそれぞれ事前ヒアリングし、スクール内容の具体的なニーズを調査。講義と演習を組み合わせた約1年間の長期カリキュラムに
  • スクール期間中は、運営事務局が受講企業の相談窓口となり、脱炭素経営の事業計画化を丁寧にサポートしている

施策概要

豊田市は、令和元年11月に「2050年ゼロカーボンシティ」を宣言。その実現に向け、地域の産業・業務部門におけるCO2削減を進めるため、サプライチェーンを支える市内の中小企業を対象に、自主的な脱炭素化の取組みを支援する学び場として本スクール事業を令和3年度から開始。
経営層や環境部門などの責任者を対象に、脱炭素経営のポイントや省エネ・再エネ導入の実践手法を約1年かけて学んでもらう。受講条件として、①全講座の受講、②本講座の成果(脱炭素経営アクションプラン)のとりまとめ・発表、③企業としての成果の発信、を挙げている。カリキュラム内容は、有識者や実践企業の担当者らを招いた「講義」と、自社のCO2削減効果のシミュレーションなどを学ぶ「演習」を組み合わせている。第1期は令和3年10月~令和4年9月の計10回で16社が参加。スクール期間中は、脱炭素経営に関するさまざまな質問や相談に対応する窓口ももうけ、きめ細やかなサポート体制をとっている。予定では第5期まで開催し、約100社の受講を目指す。

概要図

予算

《費用》
年間約300万円(スクール運営委託費)
※第1期は参加費無料。第2期も無料予定。

《補助金》
第1期は、愛知県の「元気な市町村づくり補助金」。

削減効果

第1期の途中であり、参加者による終了成果発表会などを通じてスクールの効果をフォローしていく。

その他効果

脱炭素を先行して取り組んだ中小企業にとっては、①売上・受注機会の確保、②光熱費の削減、③認知度の向上、④社員のモチベーション向上、⑤人材獲得力の強化、⑥脱炭素経営を考慮した好条件での資金調達などの効果が考えられ、長期的には地域経済全体の強化につながると期待されている。

施策を通して

<実施前の課題>
豊田市の基幹産業である自動車産業においては、ライフサイクル全体を考慮した排出量及び削減量を評価するライフサイクルアセスメント(LCA: Life Cycle Assessment)の観点から、サプライチェーン全体でCO2排出量の見える化や削減を目指す動きが活発化。一方で、大手企業に比べて取り組みが進んでいない中小企業に対し、省エネ・再エネ設備設置のハード対策とともに、人材育成の支援を求める声もあったことからスクール事業が提案された。
企画にあたっては事前リサーチを実施。特に脱炭素経営の必要性が高いと想定される自動車関連の製造業者を中心に、取り組み現状や脱炭素化についての考え方などをヒアリング。取引先である大手企業にも、調達先に期待する水準などを挙げてもらい、それらを参考にカリキュラムを作成した。大まかな流れは①自社のCO2排出量などを算定し“状況を見える化”する、②浮かび上がった課題と対策を整理、③具体的な削減対策・計画を組立てるもの。
受講の募集については、市の産業労働課から中小企業にDMを送るほか、共催の豊田商工会議所も呼びかけに協力した。

<実施における課題や改善点>
初回のみ「脱炭素経営の動向と視点を知る」をテーマにした事前講演会とスクールの説明会とし、興味関心のある企業50社の参加を得た。そのうち、1年間通して本気で取り組もうと決心した中小企業16社が、第2回目から現在まで受講している。しかし、スクール開講時の各社の取り組みは「何から手を付けてよいかわからない」から「CO2算定まではできている」「対策もある程度実施済みだが、取組の発信方法が分からない」までと進捗状況に差があった。そのため、予定していたカリキュラム内容の一部変更や、グループワークの組合せを工夫することで、どの企業にとっても役立つよう柔軟にブラシュアップしながら進めている。

<施策のメリットとデメリット>
メリット: 中小企業ではこれまでも省エネ対策等が進められてきたが、カーボンニュートラル対策として再エネ導入も含めるとコスト面でのハードルが高くなり、経営トップの判断が肝となる。そこで本スクールのように、脱炭素経営についてしっかりと理解する機会を提供することは、長期的に見て非常に有用と思われる。
経営判断として脱炭素計画を作成すれば、社内の人材育成が進み、行政の関連事業とも連動しやすくなる。なお豊田市は令和4年度から、製造業の中小企業向けに「豊田市カーボンニュートラル創エネ促進補助金」制度も開始。スクール協力先の地元信用金庫でも、脱炭素経営を考慮した支援のあり方について検討を開始している。
また本事業を担当する環境政策課の職員も一緒に受講し、グループワークにも参加することで、日ごろ接触の少ない中小企業が抱える課題や現状を知る良い機会となっている。
定員20社で約1年間のスクールは非効率ととらわれやすいが、中小企業の経営層に腰を据えて通ってもらい、きめ細やかなフォローで後押しするためには、身動きのとりやすい20社程度を限度とすることで、確実な成果が期待できると考えられている。


デメリット: 特になし

こんな自治体にオススメです

現状としては、すべての中小企業がカーボンニュートラルの必要性を感じているわけではなく、むしろまだまだ少ない印象を受ける。地域の産業構造を踏まえ、サプライチェーン全体での対策が急務な中小企業が集まっている自治体などに推奨できる。

今後の方針

秋以降に第2期の募集を開始。その直前の9月に、第1期生による終了成果発表会を予定。ここでスクール受講の成果を紹介し、第2期以降の参加増につなげる。持続可能な運営を視野に、参加者の意見等も踏まえながら、第3期以降は、参加費の有料化を検討中。またスクールとは別に、カーボンニュートラル対策に関する中小企業の相談窓口も今年度上半期中の開設を目指している。

自治体担当者からのコメント

豊田市環境部環境政策課 愛川遼さん

本スクールは、中小企業の経営層や環境部門の責任者を対象に実施しています。その理由は、Scope3を意識したサプライチェーン全体での対策の加速化に伴い、今後、中小企業がどのような戦略で脱炭素化に取り組むのか、遅かれ早かれ経営的な視点で判断が必要になるからです。本スクールを通じて、中小企業の脱炭素経営の支援を行い、地域で脱炭素に向けた取組の輪が広がるとともに、産業部門のCO2排出量削減につながることを期待しています。

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