シリーズ:自治体担当者に聞く!脱炭素施策事例集 地域の再エネを活用しEVカーシェアと災害時対策を両立(神奈川県小田原市)
2022/05/12
神奈川県小田原市「EVを活用した地域エネルギーマネジメント事業」
- WWFの「ここに注目」
-
- EV(電気自動車)のカーシェアリング事業を軸にした脱炭素型の地域交通モデル。
- 地域新電力と連携し、効率的なエネルギーマネジメントで再生可能エネルギーを活用。
- EVを“動く蓄電池”ととらえ、災害時に避難所等へ派遣するほか「マイクログリッド」(小規模電力網)の構築にも役立てる。
施策概要
平成23年の東日本大震災時に計画停電を経験した小田原市内では、平成24年に地元企業38社が発電会社「ほうとくエネルギー株式会社」を設立しメガソーラー市民発電所などを稼働させたほか、平成26年には地域新電力「湘南電力株式会社」が誕生した。
一方で小田原市は平成29年、災害時対応として市内の小学校7校に太陽光発電設備と蓄電池を設置(※1)したが、さらなる社会実装の必要性を見据え、EV(電気自動車)を“動く蓄電池”として活用することで、社会的な導入コストを抑えながら地域エネルギーマネジメントを行う脱炭素型の地域交通モデル構築に向けた取り組みを開始した。
令和2年、EVのカーシェアリングを手がける「株式会社REXEV(レクシヴ)」(平成31年1月設立)が、市の協力を得ながらカーシェアリングサービス「eemo(イーモ)」をスタート。これまでにEV約50台とステーション約30カ所を駅前施設や民間事業所、公的施設等に導入し、他地域への展開も含め、EV100台の導入を目標に事業拡大を進めている。
さらに市は同年9月、京セラや湘南電力・REXEVなどと組み「地域マイクログリッド」(小規模電力網)構築事業も開始。地域での再生可能エネルギーの効果的な活用を図りつつ、災害時などの大規模停電発生時には電力系統から一時的に切り離し、地域マイクログリッド構築エリアへの電力供給による早期復電を図ることで、地域のレジリエンスの向上に資することを目指している(令和4年度内の本格稼働を予定)。
※地域新電力である「湘南電力株式会社」、蓄電池の遠隔制御を手がける「株式会社エナリス」等と連携し、いわゆる第三者所有モデルとして実施。
予算
《費用》 特になし。
小田原市は事業推進に向けた連絡会議の設立・運営等に関与。
REXEV、湘南電力と小田原市で応募した環境省「脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業のうち脱炭素型地域交通モデル構築事業」に採択され、EV・充放電器等導入に対し最大で2分の1補助(令和元~令和4年度)。
※マイクログリッド構築事業も、令和2年度の経産省「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業(地域マイクログリッド構築事業)」に採択されたが、こちらも設備等は民間が所有。
削減効果
約28t-CO2(令和元年6月~令和3年12月累計)
蓄電池導入や、ガソリン車をEVに置き換えたことによるもの。走行距離(約37万㎞)で計算。
その他効果
カーシェアリング事業においては、EVパーキングやパワーステーションの場所の賃貸料や管理費等が地元業者や市民に支払われているほか、観光客などの地域内の動きが広がることで地域経済活性化への波及効果が期待される(~令和3年4月までの地域経済効果は約5000万円と試算)。また災害時にはEVを“動く蓄電池”として避難所等での非常用電源活用を想定するなど防災機能の強化にも貢献している。
施策を通して
<実施前の課題>
国の補助事業として申請するための施策への位置づけや、地域を巻き込むための調整が課題。例えばEV及びステーション設置場所の確保については、近隣の市町も含め情報共有を行った。またエネルギー関連に関心の高い地元の民間企業向けに勉強会を実施し、数社の敷地でEVステーション設置を実現した。市役所にも2台のEVを導入しており、業務時間外は一般利用が可能となっている。
<実施における課題や改善点>
カーシェアリング事業の開始がコロナ禍だったため観光客の利用者が伸び悩んでいるものの、市民を中心に会員数は2000人弱まで増えてきた。事業を根付かせていくためにも、イベントなどでEVの蓄電池を使うなどしながら認知度を上げるなどの努力を続けている。
また湘南電力との連携により、一部のステーションではEVに再エネを優先的に充電。REXEVが開発したエネルギーマネジメントシステムで、将来的に地域で発生する余剰電力の効率的活用を見据えている。また、EVの蓄電池としての活用の幅を広げるため、需給バランス調整に係る電力市場取引を見据えた実証にも参加している。
<施策のメリットとデメリット>
メリット:
エネルギー施策が分かりにくいなかで、市民側が認知しやすいサービスという形から、特に意識していなくても結果として地域のエネルギーマネジメントへの貢献につながる新たな選択肢を提示している。EV自体はまだまだ高額で個人所有は難しいが、カーシェアリングで乗車体験が増えステーションが整備されることで、将来的な行動変容を促す足がかりとしても期待でき、市民の暮らしの向上と脱炭素アクションの両立につながる。またエネルギー施策の拡張を目指す上で、交通や観光など他分野との連携のきっかけにもなっているほか、事業主体を民間企業にしたことで、地域を限定せず事業エリアを拡大できる。
デメリット:
市側としては今のところ特になし。
こんな自治体にオススメです
マイカー所有率が高くない市街地や観光地などカーシェアリングのニーズが高い地域、太陽光発電設備を活かした脱炭素施策を模索している自治体であれば進めやすい。
今後の方針
基本的にビジネスとして社会実装されていることから、地域エネルギーマネジメントの更なる展開に向けて小田原市としても引き続き後押ししていく。
自治体担当者からのコメント
小田原市ゼロカーボン推進課 倉科昭宏さん
本脱炭素社会に適合したビジネスモデルが、暮らしの利便性の向上につながる。そしてそのサービスの利用が、知らず知らずのうちに地域の面的なエネルギーマネジメントに貢献する。EVが移動手段としてだけでなく、エネルギーマネジメントの構成要素、エネルギーインフラの一部としてまちづくりに溶け込み、地域に付加価値をもたらす。シェアリングEVを活用した脱炭素地域交通モデル事業は、こうした可能性を持った取組みであると認識しています。