【開催報告】GOTS×WWFジャパン共催セミナー「繊維・ファッション産業の持続可能な事業モデルへの転換に企業が果たすべき役割とは ~日本国内のGOTS認証導入事例~」
2024/07/12
- この記事のポイント
- 国連が定める「World Environment Day」にあたる6月5日にWWFはGlobal Organic Textile Standard(以下GOTS)とともに、繊維・ファッション産業におけるサステナビリティを高める取り組みとして、「GOTS認証」の導入事例を紹介するセミナーを開催しました。ブランド・サプライヤー・消費者(ユース)という多様な立場の登壇者を迎え、水や人権、トレーサビリティ等の複雑な課題に取り組む企業・団体の具体的な取り組みや背景を紹介しました。
環境に、人権に配慮する「GOTS」認証を紹介
「水」と深くかかわる繊維・ファッション産業
繊維・ファッション産業は、原材料の生産・加工から消費に至るバリューチェーンの全体で「水」と深くかかわる産業として知られています。
また同時に、労働者の人権問題など、社会環境の課題でも注目を集めている産業でもあります。
そうした背景から、WWFをはじめ、国連、EUなど、さまざまな国際的な機関が、その持続可能性を高めるための取り組みに大きく注目しています。
【WWF報告書】Eau Courant: Water Stewardship In Apparel and Textiles(WWFインターナショナルのサイト:英語)
https://wwf.panda.org/wwf_news/?6222966/Eau-Courant-Water-Stewardship-In-Apparel-and-Textiles
この繊維・ファッション産業のサステナビリティを高める取り組みを重視しているWWFジャパンは、現在、繊維・ファッション産業に関わる企業や団体と、「水」の取り組みを推進する活動を展開しています。
日本においても、非財務情報の開示や、企業の生物多様性への取り組みが、時代の潮流とともに求められるようになりました。
繊維産業もその例外ではなく、とりわけ、コットンなどの原材料のトレーサビリティの確保は、自社のサプライチェーンの環境・社会の課題を把握する上で、必須の土台となる情報です。
一方で、複雑なサプライチェーン・産業構造から、その確保は容易ではなく、多くの企業が課題を抱えている領域でもあります。
注目されるGOTS認証を詳しく紹介
この問題への取り組みとして、注目されているのが、オーガニック繊維のリーディングスタンダードであるGlobal Organic Textile Standard(GOTS)です。
GOTSは、こうした繊維産業の課題に対して、オーガニック繊維のトレーサビリティの確保や、加工の工程での環境・社会配慮を求める国際的な第三者認証。
繊維・ファッション産業に関わる企業・団体が自社のサステナビリティの向上を目指すツールとして、世界的に認知されています。
WWFとGOTSは2024年6月5日、このGOTS認証を利用して、サステナビリティを向上させる取り組みを実践している日本の企業・団体の取り組みを紹介するセミナーを開催。
複雑な課題への取り組みを求められている繊維・ファッション産業の関係企業・団体にとって、今後の参考となる情報をお伝えしました。
当日はゲストに、ミキハウスを展開する三起商行株式会社の平野芳紀氏(ESG推進部 執行役員部長)、三恵メリヤス株式会社の三木健氏(専務取締役)、学生団体「やさしいせいふく」の福代美之里氏を迎え、ブランド、サプライヤーそしてユースといった様々な立場でGOTS認証を利用した取り組みをご紹介しました。
セミナー概要
イベント名 | GOTS×WWFジャパン共催セミナー「繊維・ファッション産業の持続可能な事業モデルへの転換に企業が果たすべき役割とは ~日本国内のGOTS認証導入事例~」 |
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日時 | 2024年6月5日(水)15:30~17:50 |
場所 | 九段会館テラス 東京都千代田区(オンラインとのハイブリッド開催) |
参加者数 | 約200名 |
主催(共催) | WWFジャパン、GOTS |
プログラム | ■開会挨拶・登壇者紹介:金子幸司(WWFジャパン) ■講演
■閉会挨拶:松本フィオナ(GOTS) |
なお、セミナー会場では、ミキハウス、三恵メリヤス、やさしいせいふくのGOTS認証製品の展示も行ない、来場者が商品を手に取って登壇者と交流する様子も見られました。
講演概要
講演1:世界の水リスクと、アパレル・繊維産業に求められる取り組み 小林俊介 (WWFジャパン)
WWFジャパンの小林からは、セミナー全体の導入として、アパレル・繊維産業が、どうして「水」の観点で注目をされているのか、淡水生態系の劣化や気候変動による水リスクの増大等に触れながら解説しました。
そして、とりわけ水の使用・汚染・社会的リスク等との関わりが強いとされているコットンの環境・社会課題について説明。解決策としてグローバルで企業が取り組んでいる「サステナブル・コットン調達」の事例を紹介しました。
講演の最後に、サステナブル・コットンとして注目される「オーガニック・コットン」のトレーサビリティと、加工工程での環境・社会負荷低減のツールとしてのGOTSを紹介。
GOTSを利用した日本の企業・団体の取り組み事例の紹介を通して、日本におけるサステナブル・コットン調達の取り組みの参考になることを期待しているというセミナーの趣旨を伝えました。
講演2:サステナブルな繊維加工と認証制度の必要性 松本フィオナ(GOTS)
GOTSの松本氏からは、まずGOTSの基準について概説を説明いただきました。
GOTS認証では、オーガニック原材料のトレーサビリティの確保に加えて、加工の工程での環境社会配慮に関する厳格な基準を設けているほか、オーガニック生産を支援するためにオーガニック生産への切り替えの途上にある「In-Conversion」のコットンの利用に関する規則も設けています。
また、トレーサビリティが困難とされる農園からジン工場までのトレーサビリティ確保のための新たな取り組みや、不正防除・対策の早期化のための中央データベースの構築、各種の法規制との関連性を持った仕組みの構築など、最新の動きについても解説。
これを活用することで、欧州での法規制強化によって、企業が求められることになる環境への取り組みにも、有効に機能する可能性を示しました。
さらに、消費者への普及啓発の取り組みや、日本の繊維産業でもよく見られる小規模な複数の企業が関わるような生産体制での認証取得を支援するための新たな認証スキームのパイロットプロジェクト(Controlled Supply Chain Scheme:CSCS)についても、紹介を行ないました。
講演3:日本のアパレル製造企業のGOTS認証取り組み事例 三木健氏 (三恵メリヤス株式会社 専務取締役)
三恵メリヤスの三木氏からは、GOTSの新パイロットプロジェクトであるCSCSの仕組みを用いた、三恵メリヤスを中心とした企業グループによるGOTS取得事例の背景や、実際の取り組みでの課題、そしてこれからへの期待についてお話しいただきました。
また、三恵メリヤスでは「昔ながらの作り方」と、連携工場と協力してグループで生産を担う体制を継続してきたことが、「SDGs」的な生産として注目をされはじめてきた背景を説明。
また、もともとは環境への配慮ではなく「一番良いものを作りたい」という思いからオーガニック・コットンの取り扱いをはじめ、その過程で周囲から「SDGs」に配慮したブランドと認知されるようになったことが、環境への配慮の取り組みを加速させるきっかけになったと紹介されました。
そうした中で、GOTSの新パイロットであるCSCSへの参加の打診を受け、周囲からの「GOTSの取得は難しい」「現状では市場の求めがない」といった意見も受けながらも、GOTSの取得を通して工場の管理を改善することで「世界に誇れる・良い工場にしたい」と、取得を決断。
その思いと共に、海外デザイナーとの対話の中から「海外でのビジネス展開を考える際に認証が求められる」ということを実感し、挑戦を決めた背景を共有しました。
認証取得にあたっての課題として、「言語の壁」や「詳細な基準への対応」がハードルとなったことを率直にお伝えいただきながら、「GOTSとは〈トレーサビリティと社会性を適切に記録しいつでも見られるようにする〉仕組みだと簡易要約し、説明し、みんな理解しやすくする」といった工夫をして乗り越えられたことを紹介されました。
運用上のハードルとしては、現在日本で手に入れられる染色で利用可能な薬品(特に助剤)に限界があることに触れつつ、GOTS認証を得た他のサプライヤーをはじめ関係企業間での連携で乗り越えていく必要性を述べました。
また、最後に、現状の生産(小ロットでの生産)での価格上の課題にも触れ、消費者に選ばれるための施策の必要性と、GOTS CSCSでは最初となる製品の紹介も行なわれました。
参考:三恵メリヤスによるGOTS認証製品 GOTS ORGANIC TEE SEW by EIJI
講演4:日本のアパレルブランドのGOTS認証取り組み事例 平野芳紀氏 (三起商行株式会社 執行役員)
三起商行株式会社の平野氏は、同社展開ブランド「ミキハウス」における新生児用オーガニック肌着でのGOTS認証利用の事例を紹介しました。
最初に、「子どもと家族の毎日を笑顔でいっぱいに」というミキハウスグループのVISIONを紹介。子どものことを第一に考え、安心・安全で高品質、そして長く受け継いでいけるようなものを、という思いでものづくりに取り組んでいることを共有しました。
オーガニック肌着やGOTSの取り組みについては、ベビー商品の強化に取り組むという会社の方針の中で、「SDGs」や「エシカル」のニーズに対応したブランディングが求められるようになってきたこと。そして、その対応策を検討していく中で、オーガニックの取り扱いに踏み切った背景をご紹介いただきました。
日本製にこだわってのオーガニック生産には、生産背景の確保に高いハードルがあったものの、日本のGOTSサプライヤーとの連携を深めることで、商品開発を実現。
オーガニック製品の展開に際して社内研修にも注力したことを共有し、認証の仕組みやその背景、また、化学薬品の使用を極力抑えた生産だからこそ生じる、特有の匂いや色のムラ等も、特徴として受け入れていく等、社員の理解の醸成の重要性を強調しました。
さらに、「エシカル消費」に対する消費者の意識の高まりの中で、オーガニック製品等が今後より注目を集めていくことへの期待と、消費者の選択をサポートする上での具体的な科学的根拠・確からしさの担保を進めていく上で、GOTS認証が果たしている役割も指摘。
社内においても、SDGs推進委員会の立ち上げを通して社員同士で話し合う機会が増え、一人一人の「自分ごと化」が進んできている実感を伝えながら、ビジネスとしてマネタイズできる持続可能な事業に育てていく重要性と、同業・異業種も含めたさまざまな連携を通じ、「エシカル」が購買の判断となるような消費者の行動変容への取り組みについて、お話しいただきました。
講演5:サステナブルなコットン生産と染色工程の改善に向けたWWFインドの取り組み 久保優(WWFジャパン)
WWFの久保からは、WWFインドが行なっている、インド国内でのコットン生産の改善プロジェクトと、染色・加工工程での環境配慮の強化に関わるプロジェクトを紹介しました。
まず、WWFインドがトラやゾウに象徴される生物多様性の保全の一環として、さまざまなプログラムをインド国内で展開していることを説明。
特にその中で、日本の繊維・ファッション産業がかかわる活動として、中部インドで行なわれている、コットンのオーガニック生産の支援・またリジェネラティブ農法のパイロットプロジェクトを紹介しました。
産業の構造的に、コットン農園からジン工場までのトレーサビリティを確保することが非常に難しいと言われている中、この取り組みでは、小規模農家の組合を作り、ジン工場と連携することによって、トレーサビリティを確保。
こうして市場にオーガニックやリジェネラティブ栽培された綿花を流通させる取り組みと、欧米を中心にその認証コットンの海外需要が高まっていることをお話ししました。
また、南部インドのNoyal-Bhavani流域において、水環境課題とその改善のための取り組んでいる活動の事例を紹介。
同流域では、コインバートルやティルプールといった繊維の染色加工の一大拠点を河川の下流に有し、そこでの水使用や汚染の課題から、著しい河川の生物多様性の劣化が生じていることを共有し、その対策として、上流部での水の適正な利用を推し進めると同時に、繊維の染色加工工場と連携した、水を中心とした環境負荷を削減する取り組みを紹介しました。
一部の工場では、GOTSの他、OEKO-TEX、ZDHC、Higg-Index等さまざまな国際的なツールを活用しており、環境配慮の状況を確認。このような事例があることと、欧米を中心とした海外からの需要の高まりが強まっていることを共有し、GOTSを国際認証をツールとして活かした取り組みの事例として紹介しました。
講演6:服の生産者に想いを馳せる学生たちの取り組み 福代美乃里氏(学生団体「やさしいせいふく」代表)
学生団体「やさしいせいふく」の福代氏は、コットンや繊維の製造に関わる、低賃金、長時間労働、児童労働の問題に触れ、自分たちと近い年齢の子供たちがそうした過酷な環境で労働をしている事実、またさまざまな環境汚染の問題と深くつながっている事実を知ったことをきっかけに、「やさしいせいふく」での活動を開始したことをお話しくださいました。
また、複雑なサプライチェーンの構造から、消費者が生産の背景で起きている事実や、生産者の安全性が担保されているのかを把握することが困難であることについても説明。
自身が大好きで楽しんでいた「ファッション」の生産の裏側のこうした課題の大きさをより多くの同世代の若者たちに伝えていきたいという思いから、GOTS認証を利用したイベントTシャツの販売の活動を継続してきたことを伝えました。
また、生産背景の農家や工場のスタッフとの交流を通した作った人の顔が見える透明性の担保や、公正な価格の確保のための価格の内訳の公開など、これまでに行なってきた取り組みも紹介。
さらに、普及啓発のための講演会やワークショップの開催を重ねてきたことを報告し、そうした活動がメディアでも多く取り上げられるなど、関心の高まりを感じていることを共有されました。
ユース世代の環境や社会問題への意識の高まりと「環境や社会に配慮したものを選びたい」という思い。日本の関連企業・団体にも、消費者が正しい選択が出来るもの作りを進めてもらいたいという願い。
GOTSは、これを実現するためのツールのひとつとして、大きな役割が期待されています。
まとめ
本セミナーでは、オーガニック繊維のグローバル・スタンダードであるGOTSを利用した、さまざまな立場の企業・団体の取り組み事例を紹介し、その取り組みの背景や思い、取り組む上での実際の難しさや期待等、様々な観点でのストーリーを伝えました。
近年の環境・社会問題への意識の高まりと、「サステナビリティ」の取り組みが求められる潮流の中で求められる、トレーサビリティの確保、さらに自社の取り組みの「サステナビリティ」の根拠をいかに証明していくか、といった取り組みが、より注目を集めていくことになります。
そうした中で、今回のセミナーで共有された事例が、サステナビリティの取り組みを進めていくことを目指す、他の企業・団体の参考となることを期待しています。
WWFは、世界の水環境の課題を、企業・行政・消費者等様々なステークホルダーとともに解決するため、これからも活動を継続していきます。