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【開催報告】日本初 アライアンス・フォー・ウォーター・スチュワードシップ(AWS)会議 企業の流域における責任ある水資源管理

この記事のポイント
近年、さまざまな業界で関心が高っている「水リスク」の問題。その解決に深くかかわる、淡水の持続可能な利用管理の確立は、生物多様性保全の一環としても、大きく注目されています。水リスクを回避し、健全な水を育む淡水生態系を保全していくため、企業に今、何が求められているのか。これをテーマに、持続可能な水利用管理を認証するAlliance for Water Stewardship(AWS)を日本で紹介する会議を、2023年2月22日、東京で開催。当日は、国内の企業や省庁関係者ら230名が参加し、AWSを実際に取得した企業の事例や、そのメリットに耳を傾けました。
目次

ビジネスは水リスクにどう対応する? 「流域」視点の水資源管理を目指して

生物多様性の喪失について、世界的に関心が高まっており、2022年12月に採択された国際目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」でも、2030年までに陸域・陸水域、海域の30%を保全することが決議されるなど、対策が喫緊の課題となっています。

とりわけ生物多様性の喪失が顕著な淡水生態系の保全や、洪水や水不足、汚染等の水に関連するリスクは、今後、ビジネスや金融の分野において、国内外を問わない、対策の強化が求められていくことになるテーマです。

そこで、WWFは2023年2月22日、 AWSジャパン・デー2023実行委員会の1団体として、「流域」を視野に入れた「ウォーター・スチュワードシップ」を、企業関係者に紹介する、日本初のAlliance for Water Stewardship(AWS)会議を開催しました。

AWSは、淡水生態系の保全に欠かせない、水リスクへの対応を含めた持続可能な水利用管理、すなわちウォーター・スチュワードシップ活動を認証する国際的な仕組みで、企業を中心に、これからの水、生物多様性保全のためのツールとして注目を集めています。

今回の会議では、AWSのCEOをつとめるエイドリアン・シム氏をはじめ、水文学や水資源管理の専門家、先進的な取り組みを行なっている企業関係者らが登壇。

「流域」という視点から、自社の工場等の地域を越えた、広域でのウォーター・スチュワードシップに取り組む意義と、その具体的事例を紹介しました。

WWFジャパンは今後、AWS認証の取得を目指す企業に向け、海外の情報の発信や、研修プログラムの開催支援等、日本でのさらなる水利用管理と淡水生態系保全の広がりに向けた取り組みを行なっていきます。

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開催概要

プログラム

*講演者 敬称略

開会の挨拶
Alliance for Water Stewardship(AWS) CEO:エイドリアン・シム(Adrian Sym)

第1部 水リスクと企業の情報開示に関する世界と日本の潮流

水リスク研究の最新動向
 東京大学大学院 工学系研究科教授 沖大幹

水と自然関連の情報開示(TNFD)に関する世界動向
 CDP水セキュリティ・グローバル・ディレクター ケイト・ラム
 CDP Worldwideジャパン・アソシエイト・ディレクター 榎堀都

ウォーター・スチュワードシップの取り組みとその動向
 WWFジャパン自然保護室 淡水グループ長 並木崇

水循環基本法の枠組みと企業による取り組みの重要性
 内閣官房水循環政策本部事務局 参事官 川村謙一

ウォーター・スチュワードシップによるによる企業経営のリスク低減と機会創出
 Alliance for Water Stewardship CEO:エイドリアン・シム




第2部 企業のウォーター・スチュワードシップ

持続可能な未来を築くために Building a sustainable future
 Ecolab上級副社長 兼 チーフ・サステナビリティ・オフィサー エミリオ・テヌータ(Emilio R Tenuta)

日本初のAWS認証取得の取り組み
 サントリーホールディングス株式会社サステナビリティ経営推進本部 副本部長 風間茂明

パネルディスカッション

登壇企業:
● H&M へネス・アンド・マウリッツ・ジャパン株式会社 CSR/ サステナビリティ・コーディネーター 山浦誉史
● 株式会社 資生堂 経営革新本部 サステナビリティ戦略推進部 大橋健司
● サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部課長 瀬田玄通
ファシリテーター:
● WWFジャパン 淡水グループ長 並木 崇


閉会の挨拶
Alliance for Water Stewardship(AWS) CEO:エイドリアン・シム

各講演の概要

開会挨拶

Alliance for Water Stewardship CEO:エイドリアン・シム

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会議の冒頭では、Alliance for Water StewardshipのCEOを務める、エイドリアン・シムより、開会の挨拶がありました。
シムは、日本初の開催となった、このAWS会議と、水のための将来のため、さまざまなステークホルダーがリーダーシップを取り、協力していく取り組みとしてのAWSの重要性を強調。
また、今後の日本でのAWSの広がりに期待を表明しました。
また、1か月後の2023年3月22~24日に、ニューヨークで開催が予定されている、国連水会議(UN 2023 WATER CONFERENCE)にも言及。国際社会では、1977年以来の開催となる、世界の水問題を議論するこの会議が、各国が今、直面している水リスクの深刻化の現れであり、それが加速する気候変動の影響や、食料生産の増産、エネルギー、経済成長に応じて激化している点を指摘しました。
そして、水の問題の解決には、企業等プライベート・セクターの参画が今、強く求められていること。そして、水リスクへの企業の対応が、すでに事業ビジネスの事例で利益も生んでいることにも触れ、「リスク管理から価値創造」へとつながるウォーター・スチュワードシップの未来を目指し、水に関するリーダーシップを結集したい、と締めくくりました。

第1部 水リスクと企業の情報開示に関する世界と日本の潮流

水リスク研究の最新動向
東京大学大学院 工学系研究科教授 沖大幹

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沖教授からは、地球の全球レベルの水循環モデルの現状とその課題、さらにご自身が取り組まれている、最先端の研究とその成果について、特に水リスクの一つである渇水リスクの評価の最新動向をお話しいただきました。
沖教授はまず、水の安全保障が、経済、社会、環境に、大きな影響と責任を伴うものであることを強調。国際的にも、ビジネス界が渇水リスクを重視し始めている現状や、自社の工場周辺の地域には問題が無くても、サプライチェーン上に水リスクが存在するケースがあること、そしてそうした情報が、事業への投融資の判断を左右する重要なポイントになる点を指摘されました。
こうした渇水リスクを評価する際に世界で広く用いられている指標、DTAの改良版に日本から提案されているSS-DTAがあります。沖教授はその概要と、その課題についても説明され、水の「消費量」の定義の問題や、流域間を超えて行なわれている水の利用と再生を、リスク評価に反映することの難しさについてお話くださいました。
そして、近年の水の利用や供給が、決して自然任せではなく、人間活動の深い関与によって成り立っていること、またそうした評価を行なうべきことを指摘され、こうした課題に対する近年の成果として、日本の水利用をシミュレートするシステムH08(エイチオーエイト)の内容を紹介されました。同システムは、気象、地下浸透、人間活動による影響などのデータをも考慮し、人と自然の活動を共にモデル化したもので、農業、工業、生活など、用水の重要性を入れ替えた評価が可能な仕組みとなっています。
沖教授は、世界各地での水リスクの評価が進められるにあたり、こうした先進的なシステムが、今後広く活用されるようにしたい、と期待を述べられました。

水と自然関連の情報開示(TNFD)に関する世界動向(1)
CDP水セキュリティ・グローバル・ディレクター ケイト・ラム

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CDP(Carbon Disclosure Project)で水セキュリティに関連する取り組みのグローバル・ディレクターを務めるケイト・ラムからは、ビデオ・メッセージが寄せられました。
ラム氏はまず、2022年に開催された国連の気候変動会議(COP27)が、気候変動会議で初めて、水について決議した会議となったこと。そして2023年が、淡水の生物多様性の危機を解決する「水の国際行動」の10年の丁度折り返しの年にあたり、今が自然と水と気候の危機をくい止める大きな機会であると強調。世界的にも、水リスクへの対応が、大きく注目されている現状について述べました。
また、それに際して企業が果たすべき役割として、イノベーションへの投資や、政府を後押しすることで、淡水の自然を回復に向かわせることにつながる政策が実現できると指摘。
そして、こうした動きを促進し、新たなビジネスを牽引する要素として、企業の取り組みや環境目標についての「情報開示」が進んでおり、CDPに参加する企業も、その85%が成長していると説明しました。
水リスクに関連した情報については、8,447の企業が情報の開示を求められ、400の企業が対応。自発的開示が当たり前になってきているといいます。ラム氏は、こうした先見的な水リスク対応に取り組む企業が、これからのビジネスをリードし、政策への対応についても優位になると強調、各企業に対し、コミットメントの表明を期待するメッセージを述べました。

水と自然関連の情報開示(TNFD)に関する世界動向(2)
CDP Worldwideジャパン・アソシエイト・ディレクター 榎堀都

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CDP Worldwideジャパンのアソシエイト・ディレクターである榎堀氏からは、CDPがESGの特にE(環境)に関するグローバルスタンダードとして注目され、年々CDPを通じた企業による情報開示が進んでいる現状をご説明いただき、今後さらにその対象分野を拡大する方針についてもお話いただきました。
2022年にCDPの質問書に対応する形で、情報開示を行なった企業は、世界で18,700社以上。2010年に初めてCDPの対象となった水リスクについても、3,908社が開示を行ないました。
また、対象分野の拡大については、その背景に気候変動と生物多様性の喪失に、深いかかわりがあり、気候変動の影響の緩和や適応、さらにレジリエンスの強化といった側面において、自然分野でのアクションが必須であり、パリ協定の1.5度目標を達成する上でも欠かせない点を強調されました。
水リスクについても、国際市場が大きな危機感を持っており、緊急の行動が必要とされていることを指摘。自然関連の財務リスクに脆弱な金融機関の現状や、水リスクによる座礁資産化の拡大について警鐘を鳴らすCDPの報告書を紹介しました。
最後に榎堀氏は、今後サステナビリティ情報の開示が、より主流化していく中、CDPも関与しているTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の自然関連リスクと機会に関するフレームワーク(LEAP)の準備が進んでいることを説明。ウォーター・スチュワードシップについても、その向上が企業の情報開示の取り組みを進めていく大きな力になると述べました。

ウォーター・スチュワードシップの取り組みとその動向
WWFジャパン自然保護室 淡水グループ長 並木崇

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WWFジャパン自然保護室の淡水グループ長、並木崇からは、国際的な環境保全団体であるWWFが取り組む、世界各地での淡水生態系のフィールド活動と、その現場で生じているさまざまな水課題を紹介しつつ、サプライチェーン全体を見据えた企業の取り組みにおいて、日本の企業にとって何が重要なポイントとなるのかお話ししました。
まず紹介した、保全プロジェクトのフィールド、トルコのブユク・メンデレス川流域は、上流域に繊維産業の工業地帯が、下流には綿花畑が広がる、水と人の暮らしが深くかかわる地域。ここで過去に起きてきた汚染などの事例をふまえながら、WWFトルコが環境的、経済的に持続可能な水の利用を推進する取り組みを紹介。流域全体をつなげ、その中での関係するステークホルダーの協力の重要性をお伝えしました。
もう一つのフィールドである、ブラジルのセラードの事例では、現地の森林減少とそれによる水への影響や、今問題になっている近年の気候の変化と淡水生態系の変化などについて解説。こうした状況が観光などを含む地域の暮らしや経済に及ぼしている影響についてお話ししました。
日本が世界有数の輸入大国であることも踏まえて、淡水生態系の保全と水リスクの解決においては、企業全体としては国内外を含めたサプライチェーン全体での水リスクの把握・分析を踏まえたうえで、優先的に対応すべき場所を設定すること。また優先的な場所での活動は、流域全体を視野に入れた取り組みが必要であり、その中で重要なリスクを見抜いて戦略的に対応していくことが必要です。
並木はその中で、企業はただ水の消費量・利用量だけでなく、そこに存在する地域ごとの淡水生態系と、生きもののつながりについても目を向け、生物多様性の観点を重視した取り組みを行なうよう訴えました。また日本で近年増加している、洪水などへの災害対策や減災と、生物多様性の保全を一致させた形で進めていくことの重要性も指摘し、責任ある水利用管理の進め方について企業と連携していく姿勢を示しました。

水循環基本法の枠組みと企業による取組の重要性
内閣官房水循環政策本部事務局 参事官 川村謙一

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内閣官房の水循環政策本部事務局から登壇された川村氏からは、健全な水循環の維持と回復にかかわる日本の重要な法律「水循環基本法」の概要と、これからの企業に求められる、水循環に関しての責務と取組の重要性についてお話しいただきました。
平成26年(2014年)に成立した水循環基本法は、日本の水循環施策の方向性を定めた法律で、近年各地で深刻化している、水をめぐる問題、たとえば洪水、渇水、地盤沈下などの課題に対し、総合的な施策を進めるため定められたものです。
この中には、流域全体をマネジメントする考え方や、流域の総合的な管理を、多様なステークホルダーで行なっていく、といった、ウォーター・スチュワードシップに通じた考え方も盛り込まれており、その実現手段として、関係する地域のステークホルダーたちによる、協議会を立ち上げや、それをハブとした活動の推進も記述されています。
実際、期待される取組の効果として、川村氏は、地域一体となった取組への意識の醸成や、その地域にあった水リスクの解決策の立案と効率的な実行、さらにはそれらを通じた、民間企業の評価や、地域ブランドの確立や活動資金の確保といった、地域経済の発展、向上にもつながる要素があることを説明。また、そのプロセスにおいて、民間企業との連携や情報の共有、地域活動の促進、人材確保、育成などの取組が重要であることを指摘しました。
政府では現在、この水循環基本法の枠組みのもと、地域との連携促進に向けた企業の取組をサポートする環境整備も視野に入れつつ、施策の実現を目指していくということです。

ウォーター・スチュワードシップによるによる企業経営のリスク低減と機会創出
Alliance for Water Stewardship CEO:エイドリアン・シム

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今回の会議の主催者であるAlliance for Water StewardshipのCEOエイドリアン・シムからは、企業によるウォーター・スチュワードシップの国際規格の活用が、どう経営リスクの低減や、新たな機会の創出につながるのか、紹介がありました。
創設時より12年にわたりAWSのCEOを務めてきたシムは、AWSの強みを「市場主導型のシステム」にあるといいます。
シムが水リスクの大きな要素として挙げたのは「気候変動」「水質」「需要」の3つ。しかし、政府の主導による水のマネジメントには「分断(ギャップ)」の課題があるといいます。これらの水資源への圧力を解消し、持続可能性を実現するにあたり、政策や規制に頼るだけでは、実情と施策の間にギャップが生じがちになるためです。トップダウンの規制だけでは解決できない。だからこそ、市場主導型の取り組みが必要とされるのです。
市場主導ということは、複数の水利用者(ユーザー)、ステークホルダーが存在し、協力して主導するアプローチ、ということです。その規格システムは、「集う」「定義づける」「評価する」の3つ。流域管理や水の持続可能な利用管理において、こうしたポジティブな変化をリードするのが、AWSの役割です。
AWSは現在、産業界、政府、非営利セクターによる、170の会員組織により構成され、全世界で461のサイトがその認証のもとで水リスクのマネジメントに取り組んでいます。そしてウォーター・スチュワードシップを定義づけ、5つの成果を目指すとしています。
1.適切なガバナンス
2.持続可能な水収支
3.適正な水質
4.水に関連する重要区域の保全
5.全ての人へ安全な水と衛生環境を提供
こうした目標を、政府や業界の主導ではなく、グローバルなマルチステークホルダーが合意形成し、一貫性と、地域に応じた対応のバリエーションを組み合わせながら、ベストプラクティスを実施していく。それがAWSの特徴です。
シムはパキスタン、中国、ペルーなどでのAWSの事例を紹介しながら、その規模や地域のニーズ、実際の活動によるインパクトなどを紹介。何より重要なのは、企業を含むステークホルダーたちが連携し、リーダーシップを発揮するための手段として、AWSを活用している点であることを強調しました。
また、シムはAWS認証の価値を、その「基準の厳しさ」にあるとし、実現するために最適化されたシステムと、正しさ、堅牢さの間でバランスをとることを目指しているといいます。そして、この認証を目指すプロセスにおいて、企業の水リスクへの取り組みがスケールアップし、より広いコミュニケーションが取られるようになっていくことも、AWSがもたらす価値ではないかと思う、と述べました。

第2部 企業のウォーター・スチュワードシップ

持続可能な未来を築くために Building a sustainable future
Ecolab上級副社長 兼 チーフ・サステナビリティ・オフィサー エミリオ・テヌータ

ウォーター・スチュワードシップの企業事例を紹介する第2部では、最初にEcolab(エコラボ)の上級副社長兼チーフ・サステナビリティ・オフィサーであるエミリオ・テヌータ氏より、同社のウォーター・スチュワードシップへの取り組みについて、ビデオ・メッセージをいただきました。
Ecolab(エコラボ)は、フードサービス、食品製造業、ヘルスケア産業など世界中の様々な業界に関わる、水、衛生、エネルギーの技術ソリューションとサービスを提供するグローバル企業で、AWSの設立初期からAWS認証の取得に取り組んできた企業でもあります。
テヌータ氏は冒頭、水をめぐるリスクと、気候変動に関するリスクは、もはや消えない問題となっていること。その解決のための行動と協力が必要であることを訴え、ウォーター・スチュワードシップはその上で不可欠な役割を果たしていることを指摘しました。
企業が水にかかわる取り組みを行なう際には、取水する源流から流域全体を視野に入れ、どこでどう水を使い、影響を及ぼし、管理をしているか、知っておく必要があります。また、水や地域への依存度、適切な水の使用量、地域のステークホルダーへの対応なども同様です。そして、これらを把握する際に役立つのがAWSだといいます。そうすることで、どこに大きなリスクが存在するかを知ることが出来、戦略的な意思決定が可能となるからです。
AWSの認証を通じて、ポジティブなインパクトを出していくカギとなるのは、流域のステークホルダーとの連携と、地域のフィールドに合った解決策の提供、官民のパートナーシップといった、国連のSDGSにも資する活動。テヌータ氏は、これらがレジリエンスな水の未来を創り、ネット・ポジティブ・ウォーター・インパクト(取水する以上に水源の健全な状態に貢献すること)に向けた協業の取り組みだと述べられました。

日本初のAWS認証取得の取り組み
サントリーホールディングス株式会社サステナビリティ経営推進本部 副本部長 風間茂明

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日本で初となるAWS認証を取得したサントリーホールディングス株式会社からは、実際の認証取得の取り組みについて、お話をいただきました。
風間氏はまず、「人と自然と響きあう」という同社の企業理念を実現する中で、総合酒類食品企業として「水」を最も重要な原料と位置づけていることを述べ、2017年にサントリーグループとして制定した「水理念」がウォーター・スチュワードシップの目指す方向性にも通じること、またビールなどの原材料のサプライチェーンにおける農業も重要で、その観点もまじえて水循環を捉えている、と述べられました。
サントリーホールディングスが初めてAWS認証を取得したのは、2018年。その後、国内の3つの工場で認証を取得し、2023年2月21日には九州熊本工場で、最高位である「Platinum」の取得を発表しました。これは、水資源保全への取り組みとしては、世界でもトップレベルの証となるものです。
風間氏は、その熊本での認証審査の取り組みフローを解説。工場のある流域に住む地域のステークホルダーの方々と、繰り返し協議しながら、活動計画を策定し、水資源の枯渇だけでなく、排水の影響なども調査して情報を開示し、話し合いをした経緯を説明されました。
その中には、地下水の涵養をはかるべく、冬水田んぼ(冬季に水を張ったままにした田んぼ)の取り組みも、農業者の方々と実施。こうした連携を実現できる信頼関係の重要性を指摘しました。
また、AWS認証を取得する利点として、1.国際評価の獲得 2.現場のモチベーションの向上 3.ブランドコミュニケーションとしての価値を挙げ、九州熊本工場での認証取得に際しても、地域との連携が結果につながったことをお話くださいました。
風間氏はまだ日本国内の認証取得事例が、自社の3例にとどまっていることから、関心を持つ他の企業にも認証の取得を促し、協力する姿勢を明らかにしました。

パネルディスカッション

会議では最後に、3つのビジネス・セクターから、国内でサステナビリティと水分野への取り組みを進めている企業3社にご登壇をいただき、各社の取り組みや課題を話し合う、パネルディスカッションを行ないました。
ファシリテーターは、WWFジャパン自然保護室 淡水グループ長の並木崇が務めました。
話題それぞれの応答について、要旨をご紹介します。(敬称略)

登壇企業:
● H&M へネス・アンド・マウリッツ・ジャパン株式会社 CSR/ サステナビリティ・コーディネーター 山浦誉史
● 株式会社 資生堂 経営革新本部 サステナビリティ戦略推進部 大橋健司
● サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部課長 瀬田玄通

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議論の要旨:

―― まず、各社の水とのかかわりについて

(山浦)ファッション業界は、衣類素材の原材料となる天然資源の栽培・調達、洗浄・染色など衣類の製造工程だけでなく、お客様の手に渡ったあとの洗濯など、バリューチェーンを通して水資源への影響が大きいと考えており、取り組みとしては、とても重視されています。

(大橋)化粧品の原料としても水は必要。もちろん工場の操業、洗浄等にも使っています。また、化粧品は化学品のイメージが強いかもしれませんが、原料として利用しているものには農産物が多いです。その栽培には水が必要となるため、サプライチェーン上流ではその栽培に水が必要ですし、下流では、メイク落としなどの製品の使用時などいろいろな面で、水は非常に重要視しています。

(瀬田)飲料メーカーにとって、水は事業の一丁目一番地。商品そのものがクオリティの高い水に支えられています。水は、地域の人たちや生態系にとっても重要な資源なので、それを利用させてもらう工場がどう共存していくか。地域社会との建設的な事業展開が、生命線になっています。

―― 地域社会、ローカルでの取り組みについて教えて下さい

(山浦)全体として見ると、当社の場合、日本はバリューチェーンの一部に過ぎません。そうした中で、世界全体で特に水資源に関連する地域の情報を収集することの難しさを感じています。一般的に業界として、どこに、どのようなリスクがあり、何から対応していくのか、優先順位を付けるのがとても難しい。
ローカルという視点では、コミュニケーションにも難しさがあります。どうすれば、そうした取り組みの必要性がお客様に伝わるか。その辺りがチャレンジだと思っています。

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(大橋)私は、自社サービスのライフサイクル、フットプリント評価、リスク分析に携わっていますが、情報の収集という点は、同じく難しいと感じるところです。
水は、地域の偏在性が高い資源です。水が豊かな所とそうではないところで価値が変わります。その意味で、地域性は重要なファクターです。
コミュニケーションも難しいです。水は循環資源という側面もありますから、CO2のように「低ければいい」というものではなく、自然の健全な循環を妨げない範囲で使用していくことが大切で、健全な循環がどの程度なのかは地域(流域)によって異なります。一方で、企業としては一律に減らしていく、という方が、分かりやすいですから、その点が、CO2よりも複雑で難しい。社内でも節水はしていますが、どこまでやるか?ネットゼロみたいなゴールが無いわけです。
工場が立地する地域で、水系全体の循環を理解する必要があり、どれくらいが持続可能な利用のレベルになるのか、検証しなくてはなりません。場所によっては、雨は降っても、水が浸透しやすい土壌だと、表層水が手に入らないので、農業用水はほかの河川水系から取って来る、というような地域もあります。
水の価値やリスク評価の結果も、グローバルとローカルでずれることがありますから、それを我々が正しく理解し、また上手に伝えていくことが課題です。

(瀬田)認識としてはお二人と同じです。グローバルなサプライチェーンの中で、水のリスクをどう捉えるか。また、全てに対応するのは企業としても難しいので、どう優先順位を付けるのか、考えていかねばなりません。グローバルな評価だけが正しいわけではなく、今日の沖先生のお話にもあったように、地域ごとの傾向や仮説を考慮していかねばなりません。
そのために、私たちは先行してリサーチを行なっています。たとえば、地域の水資源の循環の実情や、流域全体の状況を科学的に把握する調査です。
水はローカルなもので、歴史的、文化的過程が地域社会にはありますから、そこの工場も地域の一員として、どう関心や懸念を共有し、どう一緒に活動するかを考えることが大事なプロセスです。
科学的な情報提供も、地域の心情を反映した合意形成も大切にしながら、貢献する事が大事だと考えています。


―― まずローカルな状況の把握、そして何をもって評価するかも大事にされていることがよくわかりました。そうした取り組みの中、リスクよりも価値をどう見出し、進めていくかは重要な点と思います。具体的に、持続可能性を追求する試みの中に、どのような価値や意義を感じておられますか?

(山浦)お客様に対し、製品やサービスの透明性をどこまで提供できるか、ビジネスの裏側をお見せできるか、という点が大事ですが、認証制度はそうした取り組みにおける、一つの「よすが」になると考えています。これは水だけでなく、他の原材料などもそうです。水に特化した認証制度はなかなか無いので、その意味でもAWSは重要で、H&Mとして直接取り組みも始めています。
お客様が製品について十分な知識を持って購入する。これをサポートすることが求められる中、水を含めた環境や資源への透明性への取り組みは価値があると考えています。包括的な努力を進めているところです。

(大橋)化粧品にとってイメージは大事です。特に水は原料としても重要であり、その品質の高さは、信頼の獲得につながります。ですが、これを具体的にどうブランディングに活用するかは、これからの課題です。日本は豊かできれいな水に恵まれた国なので、逆に、水の価値に気づきにくいかもしれません。一方、グローバルでは水に恵まれた地域ばかりではありませんから、水をめぐる取り組みや品質は、良いメッセージになりえるのではないかと考えています。
事業所で使用する水についても、これを持続可能な形で使っていることを、地域の方々に共有していきたい。長く事業を続けていく中で、地域の信頼を獲得することは大切で、私たち資生堂がその地域にいてよかったと思っていただけるようにコミュニケーションを大事にしたいと思っています。

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(瀬田)地域の皆さんに「この企業が地元にいてよかった」と思ってもらえることは、本当にその通りと思います。サントリーでは、山崎のウイスキーが100年、白州が50年、同じ場所で操業を続けてきました。これは大きな財産です。
また、ウイスキーはもともとスコットランドなどの地酒で、地域の暮らしに根差したものでした。それが私たちの事業の根幹にあります。
水を守りながら、地域の文化を育んでいくこと。それが、事業の価値になる。ストーリーも含めたコミュニケーションを、大きな輪にしていくことを目指していきたいと思います。

―― 海外の水リスクに関する情報を、どう集め、評価していくのか。その難しさについて聞かせて下さい。

(山浦)国内とは難しさの内容やレベルが異なると感じています。
水資源という観点では、日本は水が豊かなので、リスクを意識しづらいですが、海外では見方が変わってきます。問題を解決しよう、という力も集めやすいです。ですが、求めているデータが集まりづらいということもあります。日本でも理解されづらいですが、こうした点についても、ローカル独特の定義づけや、特色の把握が大事と感じています。

(大橋)その通りですね。TCFD、TNFDでも水リスクは触れられていますし、気候変動の影響で今後、どのように変化してゆくかについても評価しています。IPCCレポートや論文などの全球レベルのデータを活用したリスク分析では、国内海外、同じように対応が可能です。
しかし、より詳細にローカルの事情を踏まえようとすると、日本には、国内の詳しい統計データもしっかりあります。過去に行われた給水制限などの記録もしっかり揃っていますし、それが蓄積されている。一方海外では、こうしたデータが足りない場合が多いです。
海外も、事業所のある地域ごとに、水のリスクとその将来性を評価したいのですが、海外ではローカルデータが見つからない、という点で悩んでいます。

(瀬田)水リスクを把握するには、空間的データと時間的データの複合性が必要になってきます。ですがこれらの公的データの充実度は、確かに国によって異なります。データが足りない国や地域では、企業が自分で調査資金を出して、情報を取りに行かねばなりません。
また、現地でデータを取るためには、情報を持っている専門家にまずリーチする必要があるので、そのための合意形成もしなくてはなりません。ローカルな地域からのデータ収集、そのデータにアクセスできる人、こうした方々とどう連携するかが大事なポイントです。
そして、現場では、その地域にかかわる同じグループ会社の社員が、ローカルな人たちと接点を持つことになりますから、そうした情報収集や、情報そのもの重要性について、企業グループ内でもあらかじめ合意形成しておくことが大事だと感じています。

―― 海外でのデータの収集については、私たちWWFジャパンも一緒に進めていきたいと考えています。さて、今日お話してきた、水についてまだ取り組みをしていない企業もいらっしゃると思います。これから取り組みを考えていらっしゃる企業関係者の方々に、最後に皆さまから一言ずつお願いいたします。

(山浦)企業が「こうしたことに配慮しています」と、短く表示しているその裏側には、関わる人々のすべての大きな努力が隠れています。それをどれだけ、お客様に伝えられるかは、大きなチャレンジです。
法制度もこれからはさらに厳しくなるでしょう。でもだからこそ、企業として先んじてサステナビリティに取り組むことには意味があるのだと思います。

(大橋)私は社員の家族や、ステークホルダーのご家族向けに、生きものの観察会の開催をかれこれ15年ほど続けています。もともと、こうした観察会のお手伝いを私が始めた頃に、お世話になったNPO団体の方に教えていただいたのは、「人は、好きなものでないと大切にしない。だからまず好きになってもらうことが大事」ということです。
環境を大事にしていこうと思ったら、自然を好きになることが大事なのです。そう考えた時に、自然の中で子どもたちに遊んでもらって、好きになってもらう、それがスタートだと思っています。
TNFDなどの動きに対応する時、その環境のためのアクションを、ポジティブに受け止められるかどうかは、そうした教育の部分が大事になってくると感じています。
これは、私個人の認識ですが、教育とか実地で体験することを通じて水環境や生きものを好きになってもらうことが、今企業が取り組んでいるようなちょっと理解の難しい取り組みを世の中の人に理解してもらうための、大事な要素になると思います。

(瀬田)今回AWS認証を取得した熊本の事例からも、データの大切さを改めて感じます。熊本では、重要なステークホルダーである熊本地下水財団が、地域をつないでいることが大きなポイントになっていました。こうした方々が持つデータ、経験、課題認識を、どう共有して財産にしていくかが重要だと思っています。
地元の子どもたちの参加をふくめ、地域でどう機運を作っていくかが大事です。
日本の中でもこれからAWSを広げていくために、サントリーも協力していきたいと思っています。

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(会場からの質疑)
Q:サントリー様では、熊本での認証の取得にあたり、なぜ「Platinum」を目指されたのですか?
A:工数は通常の認証取得よりも、確かに多くかかりました。最初は負担もあり、抵抗が大きかったです。ですが、取得をしたことで、地域との密なつながりができ、結果的にそれが工場側のメリットになりました。メリットが自覚できるようになると、それがドライバーになった。
なお、その中で、「Platinum」を目指したのは、「熊本とつながりたい」という思いを持ち続けてきた、工場長の強い気持ちがあったおかげでした。

Q:AWS認証の取得までの取り組みにおいて、何が重要だったと思いますか?
A:まず、社としての考え方、方針が大事です。社として、事業のなかで水をどうとらえて大切にしていきたいのか。何をどう対応するかは、その後の話です。AWS認証の取得も、手段であって目的ではありません。
サントリーでは、AWS認証もまだなかった中で、少しずつ先輩方が取り組みを始めていました。結果的に20年かかって今の状況に至っています。CDPの設問にどう答えようかとか、ローカルとの認識共有などをどうしようか、とか、そうした点のテクニカルな知見は積み重なってきますが、それは結果としてついてくるものです。
事業の根幹として、水の問題をどう捉えるかが大事です。

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Q:資生堂様の教育活動(観察会)について教えて下さい。
A:先ほどお話したのは、ボランティア活動として行っているものです。社内掲示板などを通じて告知を行ない、参加者を募っていますが、多くの方は、身の回りにいろいろな生きものがいるとは思っていません。その中で魚やタコなどの生きものを目の前にすると、子どもたちも喜びますし、大人も童心に帰って楽しんだりしてくれます。自然のつながりについて話す場にもなっています。

Q:日本でもAWS認証の取得を増やしたいとのお話でしたが、ローカルな認証が可能な認証機関が、まだ限られているのではないかと思います。日本語での対応を含めた今後の展開は?
A:AWS認証についてはWSASという認証機関が中心になって実際の認証を行なっています。現在の所、日本語での直接対応はできていませんが、日本人の審査員候補はおり、この人が3回の審査を実地で体験すれば、正式な審査員になれます。こうした育成も行なわれているので、審査のハードルは今後さらに低くなっていくと思います。
一方で、難しくとも取得する、そうした意思を持ち、努力をする企業が出てくることも大事です。

閉会の挨拶

Alliance for Water Stewardship(AWS) CEO:エイドリアン・シム

©Suntory Holdings Ltd.

最後に、主催者を代表し、AWSのCEO、エイドリアン・シムより、参加者の皆さまに対し、御礼のご挨拶を申し上げました。
シムは、会議にて多くの意欲的な意思を持つ関係者にお会いできたこと、そして前日の熊本での体験について、「嬉しく、素晴らしい出来事だった」と述べ、今回の各講演で語られた、研究、政策、企業の取り組みの大事さに、あらためて言及。今回の会議が、単体のイベントではなく、AWSが日本で広がる始まりの一歩になると語りました。
また、AWSが、企業の皆さんの水リスクへの取り組みを支えるためにあること。日本語が出来るスタッフもいるので、いつでもお声かけて下さい、と伝えると共に、5月にイギリスで予定されている、AWSフォーラムにも、参加するよう呼びかけました。
そして最後に、AWSでは、この会議の続きとして、次は実際に認証の取得を目標とした企業向けのトレーニングや研修を計画しており、あらためてお知らせする旨をお知らせしました。

「私たちが訪れた、サントリーの熊本工場では、皆さんが認証取得をやり切った「誇り」を感じていらっしゃいました。私は、それを皆さんとも分かち合いたいと思います。皆さんのモチベーションにしてほしいと思います。
私は、日本企業がもっとAWSについて関心を持ち、行動してくれることを願っています。そして皆さんが、水の未来のために、リーダーシップを発揮してくださることを期待しています。ありがとうございました」
(AWS CEO、エイドリアン・シム)

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