流域の保全
2019/12/11
「流域」に生きる生きものたち
例えば、サケのように海と川を行き来する魚類がいます。サンショウウオのように、川と周辺の山林を行き来してくらす両生類がいます。河口近く、淡水と海水の混ざる「汽水域」の微妙な環境に生きる魚や取りも少なくありません。
健全な水と、これらの野生生物を保全するためには、川だけでなく、その周辺に広がり水源となっている山林や湖沼、海と川とが混ざる河口の干潟、湧水や水田などを、一つにつながっている水の環境、すなわち「流域」の景観とみなし、幅広く保全しなければならないのです。
「流域保全」とは、線として見える水の流れのみならず、その水が生まれ、また育む、面としての景観を広く保全する考え方です。
こうした考え方は近年、世界の各地で行なわれている、水環境保全の取り組みの主流になり始めています。
世界の貴重な湿地環境(ウェットランド)を保全する国際条約「ラムサール条約」でも、国境を越えた流域の観点は、保全の基礎として位置付けています。
水をめぐる自然は、あくまで、つながりが、どこか一部が欠けただけでも、全体的なバランスが崩れてしまうおそれがあるためです。
したがって、流域の保全を実現することにより、一種一種の動植物の保護から、水資源の維持、流域の生態系の保全、さらに防災までを含む、幅広い環境保全が可能となります。
「流域」の保全をめざして
一つの「流域」を丸ごと保全するのは容易なことではありません。
しかし、逆にこれを実現することにより、一種一種の動植物の保護から、水資源の維持、流域の生態系の保全、さらに防災までを含む、幅広い環境保全が可能となります。そして、この取り組みこそが、21世紀における「水」環境保全の主流に他なりません。
また、その実現のためには、国境や利害といった人間の視点で川の流れや流域を区切るのではなく、生態系の広がり、という視点でどのような保全の手立てが必要なのかを、さまざまな国や地域の人たち、また産業を担う企業などが、共に考え、実践してゆく必要があります。
現在、農業は世界の淡水資源の70%を使用しています。
とりわけ、乾燥した気候の下で大規模な灌漑などを伴う形で生産される、綿花(コットン)の栽培などは、多くの水を必要とする、環境への負荷が大きな農業です。
こうした水資源の過剰な利用の影響によって、現在地上の土地の30%が劣化しており、年間300億ドルに相当する損失が生じているともいわれています。
この流れを食い止め、健全な水環境の保全がもしも、実現出来なければ、「水の世紀」は、人類をはじめ、あらゆる生物にとって、厳しいものとなるでしょう。
貴重な淡水の自然をめぐるさまざまな問題に対し、WWFは国際的なネットワークを活かし、地域の人の暮らしを含めた淡水をめぐる自然環境と、そこに生きる多様な野生生物を保全する取り組みを目指しています。
水環境および淡水生態系の保全について
地上のあらゆる生命の土台として、また人の暮らしを支える最も基本的な資源として、欠かすことのできない「水(淡水)」。今、大規模な開発や、水資源の乱用により、世界の各地で水の危機が指摘されています。WWFは健全な水の母体であり、多様な生物が息づく湿地の自然(ウェットランド)を、「流域」という観点で保全し、未来に向けた持続可能な水資源の利用を実現する取り組みを目指しています。
水田・水路の生物多様性と農業の共生プロジェクト
日本を代表するウェットランドの一つ、水田。そこは、多くの固有な野生生物の宝庫です。しかし今、その自然は深刻な危機にさらされています。環境省の「レッドリスト」は、日本産の淡水魚の実に43%が絶滅の危機にあることを指摘。その多くを、水田などに生息する魚類が占めていることを明らかにしています。
ビジネスと持続可能な「水」の利用について
農業、工業をはじめ、さまざまな産業に欠かせない水。現在、世界の各地で、水環境と水資源が、深刻な破壊と枯渇の危機にさらされています。産業の担い手である企業にとって、これはビジネスの将来を左右する大きな問題の一つといえるでしょう。WWFはビジネス界への働きかけを通じた、水環境の保全と、その持続可能な利用の実現を目指しています。