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G7サミット・農相会合に先立ち声明を発表「日本政府は持続可能な農林畜水産物調達および水利用管理を!」

この記事のポイント
WWFジャパンは、2023年5月19日- 21日に開催されるG7広島サミットおよび2023年4月22日- 23日に開催されるG7宮崎農業大臣会合に先立ち、農林水産大臣、林野庁長官、環境大臣、経済産業大臣宛てに、声明を公開しました。人間の経済活動による地球環境のさらなる悪化や人権侵害を引き起こさないよう、日本以外のG7各国では環境・人権デューデリジェンス義務化の動きが加速しています。日本政府にはG7開催国として、サステナビリティを追求する議論でリーダーシップを発揮することを期待します。
目次

声明文全文はこちら。 G7農相会合に先立ち声明を発表「日本政府は持続可能な農林畜水産物調達および水利用管理を!」

欧州では環境・人権デューデリジェンス義務化へ

国際的な規模で展開される人間の経済活動により、地球環境の悪化や人権侵害をめぐる問題が引き起こされています。

2022年2月23日、欧州委員会において環境・人権デューデリジェンス義務化指令案が採択されました。

G7メンバーでもあるフランス、ドイツなどは、人権だけでなく環境面についても行動計画策定にとどまらず法制化により企業に環境・人権面のデューデリジェンス(DD)を義務付ける動きを加速させています(表1)。

表1.欧州諸国で進む企業DDの義務化に関する法令(WWFジャパン作成)

また、イギリスでは2015年に現代奴隷法を、米カリフォルニア州でも2012年にサプライチェーン透明法を制定しており、人権DDに限られるものの、企業に対応を義務化しています。

(注)本稿では、「デューデリジェンス(DD)」とは、環境や人権などにおける課題をサプライチェーンの上流の生産者やサプライヤーの責任とするのではなく、自己の責任として自ら情報収集を行い、リスクを評価し、仮に課題があれば然るべきリスク低減措置をとること、と捉えています。

森林破壊のないサプライチェーンに関わるEU規制(EUDR)による森林破壊フリーの農林畜産物調達義務化

2022年12月6日、欧州議会と欧州連合理事会およびEU加盟国は、世界の森林保全を目指す新法となる「森林破壊のないサプライチェーンに関わるEU規制(EUDR」)の成立に合意しました。

この法律は、森林破壊に関連して生産された、木材や大豆、牛肉、パーム油、コーヒー、カカオなどの、EU域内外の流通を環境DDの義務化により禁じることで、森林減少・劣化への影響を軽減し、温室効果ガス排出と生物多様性損失を減少させることを目的としています。

2023年内あるいは2024年にかけてEUDRが施行されれば、EU域内での取引を行なう世界の企業は、自社のサプライチェーンが世界の森林破壊と関係していないことを証明するよう求められることになります。

EUDRは、さまざまな製品がEU域内で流通するにあたり、生産国の法律を守って「合法」的に作られ、流通したものである、というだけでなく、実際に森林破壊や森林劣化に関連していないと証明することを条件とした、画期的な法律です。

イギリスでも2021年に違法な森林破壊を禁止する法律が既に成立。アメリカでは、2021年に通称US FOREST Actと呼ばれる農林畜産物を対象とした法案が議会に提出され、まだ採択には至っていないものの欧州と同じ方向に進みつつあり、環境・人権両面での企業DDに関する法整備が主流化しています。(表2)

表2.G7各国で進む農林畜産物に関する新しいDD法比較
(以下を参考にWWFジャパン作成)

EUDR: https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_22_7444
英国環境法:https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2021/30/schedule/17/enacted
米国 FOREST Act of 2021:https://www.congress.gov/bill/117th-congress/senate-bill/2950/text

日本における農林畜水産物の環境・人権デューデリジェンスの状況

7年ぶりにG7開催国となった日本。残念ながら日本政府は環境デューデリジェンス(DD)導入に向けた検討はされておらず、人権面のDDもガイドラインの策定に留まっています。

森林リスク・コモディティと呼ばれる農林畜産物(木材・紙パルプ、パーム油、大豆、カカオ、牛肉、天然ゴムなど)についても、日本では、EUDRのような法律は検討されていません。

非合法な木材を規制するクリーンウッド法やグリーン購入法以外には、規制や法律がないのが現状ですが、合法確認のみでは持続可能性は担保できないのです。

水産物については、国内の水産マーケットにIUU(違法・無報告・無規制)漁業由来の水産物の流通を防止することを目的に、「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(以下、水産流通適正化法)」が成立、2022年12月1日施行が開始されました。

この法律は、違法な漁業の抑止や、水産資源の持続的な利用に寄与し、漁業とその関連産業の健全な発展に資するものであると評価できる一方、日本で大量に消費され、かつ、IUU漁業のリスクが高い、マグロ類、カニ類、エビ類などが対象魚種になっておらず、ウナギ類についても対象は国産シラスウナギのみに限られています。

国際的な海洋資源環境の保全の観点からも、対象魚種拡大といった改善が急務です。

また、ゴーストギアとも呼ばれるALDFG(放棄・紛失・投棄される漁具)の対策がされた持続可能な漁業・養殖業からの調達についても、改正漁業法でもほとんどカバーされていないため、対策が必要です。

淡水の利用管理については、国連は2023年3月22日から24日にかけて、世界的に深刻化している水問題を解決するため、46年ぶりとなる水会議を開催しました。

同会議で採択された、水行動アジェンダ は、今後各国政府、産業界、学術界等のあらゆるセクターが協力して、持続可能な水の利用管理を推進するためのコミットメントを示すもの。法的拘束力のない合意とはいえ、世界の淡水の生態系保全に向けた大きな一歩となりました。

特に繊維産業に関しては、EUは2022年に「EU strategy for sustainable and circular textiles(以下「戦略」と表記)」を策定・公表し、繊維生産にかかる水を含む環境への負荷の高さと、EUが輸入する繊維に関しての環境・社会影響に関してのデューデリジェンスの重要性を指摘しました。

欧州を中心に、環境や人権を犠牲にすることは法律で取り締まる時代になっています。

地球環境を破壊しないこと・人権を侵害しないことは「最低限」の要求であり、もはや努力目標ではありません。

むしろ、サステナビリティを追求することを「機会」と捉えて、投融資やビジネスの方向性を舵取りするような、前向きな方向性を模索しているようにみえます。

もちろん、日本企業の中には自主的にこれら問題に取り組む事業者も増えていますが、このまま企業任せにしていて良いのでしょうか?日本でも同様の検討を進めなければ、中長期的には国際社会における日本企業の商取引、資源や資金の調達における機会損失に繋がりかねません。

日本政府に対する声明

農林畜水産物や水利用についてのデューデリジェンスを努力目標としている今の状況では、G7メンバーとして国際社会をリードしていくことは難しいと考え、日本政府、特に以下の省庁の大臣/長官に対して以下の声明を公表しました。

<声明主旨>
● 農林水産省および環境省
EUでは、EU域内で販売、もしくは域内から輸出される農林畜産物が森林破壊フリーであることを確認するデューデリジェンスの実施を企業に義務付ける規則案について合意された。森林破壊の防止は世界規模の問題であるため、G7メンバーとして日本でも同様の規制や法律について検討すべき(表2)

水産でも対IUU法となる水産流通適正化法が施行されたものの、対象魚種が限られており、IUU漁業由来の水産物を日本市場だけではなく世界の市場から撲滅するためには、不十分であるため、対象魚種を拡大すべき

水利用管理でも政府と食料・飲料企業が連携してバリューチェーンの水ストレス削減に向けた取組み事例が進みつつある。気候変動の影響は水で強調されるため、G7メンバーとして日本でも同様の取組の実施を検討すべき


● 林野庁
クリーンウッド法は、木材の合法性確認を義務づける法律に改訂されたことは評価できるものの、違法材排除の実効性には疑問が残る。また、国際潮流を鑑み、合法性の確認だけでなく、持続可能性を追求するような法律にすべき

● 経済産業省および環境省
水リスクについても国連やEUで環境課題として認識されている。特に繊維産業のDDは特定の基準を満たす企業に対して義務化される予定となっている。日本は上記の通り人権ガイドラインのみであるため、義務化・法制化に向けた検討をすべき

G7をはじめとした主要各国同様、国連ビジネスと人権指導原則やパリ協定などに基づいた環境人権DDの義務化・法制化を進めるべき(表1)

声明の全文はこちらからご覧いただけます。

日本政府にはG7メンバーという立場において、中長期的視野に立って環境・人権リスクを低減・回避することで、自然資源を使い続けながら経済活動を持続させるべく、国内政策を整え・リーダーシップを発揮することを期待します。

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