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日本の地球温暖化対策に皆さんの声を届けよう

この記事のポイント
2024年は日本でも観測史上最も暑く、地球温暖化対策の強化は待ったなしです。政府は地球温暖化対策の方向性を定める、「地球温暖化対策計画」、「エネルギー基本計画」、「GX2040ビジョン」の素案を公表しました。しかし、それらには問題が残り、改善が必要です。2024年末からパブリックコメントが実施中で、誰でも意見を提出できます。地球温暖化の影響を最小限にできるように、ぜひ皆さんの声を届けてください。
目次

1. 日本の地球温暖化対策を左右する3つの文書

待ったなしの地球温暖化。2024年は日本でも観測史上最も暑い1年となるなど、その影響は私たちの暮らしにいっそう強く及んできています。これ以上の気温上昇を食い止めるために、地球温暖化対策を一段と強化する必要があります。

 そうしたなか、日本の対策の方向性を定める3つの重要な文書について、政府が素案を取りまとめました。それが、「地球温暖化対策計画」、「エネルギー基本計画」、「GX2040ビジョン」です。

これらに関しては、2024年末より、社会から広く意見を募集する「パブリックコメント」という手続きが実施されており、どなたでも意見・提案を提出できます。(手順の概要は「3.パブリックコメントを出してみよう」をご覧ください。)

 以下ではその事前準備として、そもそもこれら3つの文書はどのようなものなのか、簡単に解説します。

(1)地球温暖化対策計画とは何か

 「地球温暖対策計画」とは、日本が取り組む地球温暖化対策を総合的に定める計画です。地球温暖化対策推進法によって政府に作成が義務づけられており、おおよそ3年に1回改定されます。

 この計画のうち特に重要になるのが、日本の温室効果ガス排出量の削減目標です。世界全体での地球温暖化対策のあり方を定める国際条約「パリ協定」には世界約200か国が参加しています。世界の平均気温上昇を1.5度に抑える目標の実現のために、パリ協定に参加する各国は温室効果ガスの排出削減目標を「国が定める貢献(NDC)」として国連に提出します。

政府が取りまとめた「地球温暖化対策計画」の案における削減目標は、このNDCとなります。すなわち、日本が世界に向かって公約する目標になるのです。

(2)エネルギー基本計画とは何か

 「エネルギー基本計画」とは、日本の中長期的なエネルギーのあり方を方向づける国の計画です。エネルギー政策基本法の下、3年に1回作成・検討されることになっています。

 日本の温室効果ガス排出量のうち約85%は、エネルギー源として化石燃料を利用することに伴い排出される二酸化炭素(CO2)が占めていることから、地球温暖化対策はエネルギーのあり方を考えることにほかならないのです。

 こうした意味で、日本の地球温暖化対策にとって重要な意義を持つ「エネルギー基本計画」。そこでは、将来のエネルギーはどれだけ必要な見込みなのか、再生可能エネルギーはどれほど使うのか、火力発電・原子力発電はどうするのか、といったことが定められます。

(3)GX2040ビジョンとは何か

 政府は、脱炭素化・エネルギー安定供給・経済成長の同時実現を目指す取り組みとして、「グリーントランスフォーメーション(GX)」を掲げています。「GX2040ビジョン」とは、その方向性を総合的に示す国家戦略として新たに定められるものです。

 上記の「地球温暖化対策計画」や「エネルギー基本計画」の内容を基に、国が目指すエネルギーや産業の立地・構造などの将来の姿を提示することで、企業の事業環境に予見性を与えて、国内投資を後押しすることが目指されています。

 また、その実現に向けた政策も併せて盛り込まれ、例えば企業からの温室効果ガスの排出に対して金銭的な負担を求める「カーボンプライシング」の要素などが記載されています。

パリ協定の掲げる1.5度目標が守られることは、生物多様性の保全にも不可欠です。
© Richard Barrett / WWF-UK

パリ協定の掲げる1.5度目標が守られることは、生物多様性の保全にも不可欠です。

2. 政府案で改善が必要なこと

 前述のパリ協定が掲げる1.5度目標の実現に日本も貢献していくには、「地球温暖化対策計画」、「エネルギー基本計画」、「GX2040ビジョン」の内容も、当該目標に整合していなければなりません。

 しかし、2024年末に政府が示したこれら3つの文書の案は、いずれも不十分な点が残ります。以下では、それぞれの改善点を説明します。

(1)地球温暖化対策計画の案に求められる改善点

◇ポイント:温室効果ガス排出削減目標を少なくとも2013年比66%減を上回るものにするべき。
 政府案では、2035年の削減目標として2013年比60%減とすることを提示しています。しかし、その水準は低いと言わざるを得ません。

 国連の科学機関である「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、1.5度目標の達成のために、温室効果ガスの排出量を世界全体で2035年までに2019年比60%減とする必要があるとしています。

 これは日本のデータに当てはめると2013年比66%減に相当します。ただし、これはあくまで世界平均に過ぎず、先進国としてはこれを上回る水準での削減が求められます。温室効果ガスの排出によって経済成長という便益を得てきたという歴史的経緯や、経済・社会・制度の状況からより多くの排出削減に取り組む能力があるためです。

 つまり、本来であれば先進国である日本には、2013年比66%を上回る削減目標が求められているのです。

 なお、政府案に付随する参考資料では削減目標を高めると「コストが増大する可能性」とありますが、慎重な吟味が必要です。これは一部の機関による分析のみを参照しており、その前提条件が恣意的である可能性が否定できません。

加えて、コスト最小化以外に、世代間や途上国との公平性といった価値も加味する必要があります。本来であれば、独立系の研究機関も含めた様々な主体による分析を、条件や限界を明確にした上で実施し、多様な観点から比較検討して目指すべき削減目標は定められるべきです。

様々な団体・研究機関が2035年や2040年の温室効果ガス排出削減目標について提言しています。こうした情報が加味されるべきです。
© WWFジャパン

様々な団体・研究機関が2035年や2040年の温室効果ガス排出削減目標について提言しています。こうした情報が加味されるべきです。

<参考>【WWF声明】GHG排出量2013年比66%削減という最低限の水準すら下回る2035年NDC案に抗議する

(2)エネルギー基本計画の案に求められる改善点

◇ポイント①:2040年電源構成での再生可能エネルギーの割合を大幅に引き上げるべき
 政府案では、再生可能エネルギーを最大限導入していくことが示されている一方で、特定の種別の電源に過度に依存しないようにすることが念押しされています。その上で、関連資料では、2040年時点での再生可能エネルギーの割合を4~5割にすることが示されています。

 しかし、1.5度に整合した電源構成とするには、再生可能エネルギーの割合をもっと引き上げる必要があります。上記の4~5割という水準は、政府案を議論した審議会でのヒアリングで、2040年の再生可能エネルギーの割合を40~60%とする分析がほとんどだったことを背景としていますが、これらのシナリオはごく限られた研究機関の結果にすぎません。

 他方、その他の研究機関からは、2040年代に70%~ほぼ100%にできることが示されています。WWFジャパンも分析を行なっており、2040年には電力の90%を再生可能エネルギーで賄えると試算しています。これら高い水準は電力の安定供給とも両立でき、決して不可能ではありません。

 加えて、日本の企業をはじめとした幅広い主体からも、再生可能エネルギーの大幅な拡大が求められています。気候変動対策に前向きな企業や自治体などからなる「気候変動イニシアティブ(JCI)」は、再生可能エネルギー導入の最大化などを求めるメッセージを発表し、そこにはプライム上場企業77社を含む236団体が賛同しました。

また、日本経済新聞が2024年12月に実施した「社長100人アンケート」でも、石破政権に期待する政策では「再生可能エネルギー拡大」に最も多くの票が投じられました。(日本経済新聞2025年1月9日付朝刊)

 さらにこうした声は日本で事業を行う海外の需要家たちからも寄せられています。再生可能エネルギーの電力使用100%を目指す企業の国際イニシアティブ「RE100」、エネルギー需要家などからなる国際団体「Clean Energy Buyers Association(CEBA)」、半導体製造における産業発展を目指す国際団体「SEMI」も、日本政府に対し再生可能エネルギー導入を加速する高い目標や施策を求める提言を発表しています。

このように、再生可能エネルギーを大幅に導入できるかは、日本経済の国際競争力に直結するという認識が広く持たれていることが窺われます。

◇ポイント②:化石燃料からの転換に明確な道筋をつけるべき
 政府案は、非効率な石炭火力発電の使用を段階的に止めていくとしつつ、ガス火力の活用のためにLNGの安定供給確保や、火力発電の「脱炭素化」に向けた研究開発・実装を目指しています。また、関連資料での電源構成でも、火力を3~4割としています。

 こうした方向性は、2023年のCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)で合意した、「今後10年間で化石燃料からの転換に向けた取り組みを加速」という内容に整合しません。

 特に日本において石炭火力は非効率なものに限らず、遅くとも2030年までには段階的にすべて廃止しなければなりません。石炭は最も効率的な発電方法でも、ガス火力の2倍程度の温室効果ガスを排出するためです。

また、国際的にも石炭火力の廃止に向けた機運は強まっています。2024年のG7首脳宣言では、G7各国で2030年代前半までに段階的に廃止することが合意されており、日本もこれを遵守する必要があります。

 WWFジャパンの分析では、省エネの追求や、国内での再生可能エネルギー導入拡大、既存ガス火力の稼働率の向上で、電力供給に問題を生じさせずに石炭火力を廃止できることが判明しています。今こそ石炭火力の廃止に向けた具体的なスケジュールが必要です。

 さらに、ガス火力の燃料であるLNGも化石燃料であり、温室効果ガスを排出することを忘れてはなりません。再生可能エネルギーへの移行過程において一時的な役割はあるものの、ただ量を確保することだけではなく、どのようにしてその使用を止めていくか、戦略的に考えていくことも求められます。

◇ポイント③:既に確立した再エネ・省エネ技術の普及を集中的に支援するべき
 政府案は特定の電源に過度に依存しないようにするためとして、現行案では「依存度を低減する」としている原子力発電を「必要な規模を持続的に活用」する方針へと転換しています。また、水素・アンモニアや二酸化炭素の回収・貯留技術(CCS)を用いて火力発電の「脱炭素化」を図ることを目指しています。

 これらはいずれも1.5度目標に整合するタイムラインと規模で、広く実用化・商用化できるか不確実性が大きく、問題があります。

原子力発電は再稼働・新増設が想定どおり進むかは見通せず、放射性廃棄物の処理の問題は過去四半世紀にわたり全く決着していません。また、水素・アンモニア、CCSといった新技術も依然として研究実証段階に留まるとともに、それらの実現を期待して足元で火力発電を使い続けることにもつながります。

 1.5度目標の達成には、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させることが重要ですが、そのための技術は既に存在しているのです。IPCCは、世界全体の排出量を1トン当たり100ドル以下のコストで、2030年までに2019年比で半減できるとしています。その半分以上は20ドル以下の対策であり、大半は太陽光や風力、省エネといった既存技術です。

再生可能エネルギーの導入にはコストがかかると、不確かな根拠で述べられることもありますが、仮にそうしたコストがかかるにしても、その低減につながるような支援策を実施して、確実に排出削減を可能にする既存技術の普及拡大を図ることが最優先と言えます。

例えば建築物の屋根に太陽光パネルを設置することは、再生可能エネルギーの導入を拡大するうえで有効な手段です。
© WWF-US / Paul Fetters

例えば建築物の屋根に太陽光パネルを設置することは、再生可能エネルギーの導入を拡大するうえで有効な手段です。

<参考>

(3)GX2040ビジョンの案に求められる改善点

 上述のポイントはいずれも、「GX2040ビジョン」でも共通しています。以下では、その他のポイントで特に重要な「カーボンプライシング」に関するものをご紹介します。


◇ポイント:排出量取引制度にキャップを設けて排出削減効果をさらに向上させるべき
 政府案は、「カーボンプライシング」の一種として、温室効果ガスを排出する企業に対して排出枠の購入を義務づける「排出量取引制度」を導入すべく、その要点を提示しました。対象企業への制度の参加義務化など、評価できる点もあります。一方で、排出削減の効果をより高めるためには依然として改善の余地が残ります。

 最も大きな点は、制度の対象となる部門からの総排出量に上限(キャップ)を設けることです。排出量取引制度の最大のメリットは、この「キャップ」の範囲内で排出枠が交付されることで、排出量を一定以下に抑えられる可能性を高められることにあります。

また、「キャップ」を適切なタイムラインで次第に小さくしていくことも不可欠な要素です。1.5度に整合する形で「キャップ」を設計しないと、排出削減効果を大きく減じかねません。

 もう1つの改善点は、排出枠の価格設定です。本来、排出枠は市場で自由に取り引きされるところ、政府案では企業に価格の行く末を把握してもらいやすくするため、その価格に上限を設けようとしています。ただ、上限を設けてしまうことで、十分に高い価格にならなければ、他の排出削減の方法が相対的に安くならず、結果として排出削減を強く促すことができません。

企業の予見性は上述の「キャップ」の縮小ペースを示すことで足りるため、そうした上限価格が必要かは慎重に吟味されるべきです。

カーボンプライシングを通じて、排出削減が経済的に「おトク」になることで、社会全体で効率的に進めることができます。
© Shutterstock / pryzmat / WWF

カーボンプライシングを通じて、排出削減が経済的に「おトク」になることで、社会全体で効率的に進めることができます。

<参考>
【WWF声明】日本企業の排出削減のさらなる促進に向けてGX-ETSの強化を要請する

3. パブリックコメントを出してみよう

 以上の3つの政府案は、2024年末から「パブリックコメント」という手続きにかけられています。これは、案の内容について一般の方からの意見を広く募集するものです。誰でも提出することができるため、以下を参考にぜひチャレンジしてみてください。

(1)パブリックコメントを出す方法

以下の政府ウェブサイト「e-gov.」の各ページから、意見を提出することができます。

意見の提出時には、以下の操作に注意が必要です。

  • ページに掲載されているファイルを全て閲覧またはダウンロードしてください。
  • 「意見募集要領(提出先を含む)の全部を確認しました。」の欄のチェックボックスにチェックを入れたのち、「意見入力へ」を押してください。
  • フォームには字数制限があります。それを超えて入力する場合には、初回の意見を送信後に表示された受付番号の続きであることを記載した上で、再度、意見提出を行なってください。(電子ファイルを添付して提出できる場合もあります。)

(2)パブリックコメントの記載ポイント

提出時には、該当箇所、意見の概要、意見と理由、を入力する必要があります。該当箇所は一例として以下のものがあります。(網羅されたものではありません。)

◇「地球温暖化対策計画(案)」

  • 削減目標:第2章第1節 我が国の温室効果ガス削減目標(p. 19, 7~8行目)など

◇「エネルギー基本計画(案)」

  • 再生可能エネルギー:V. 3. (1)「基本的考え方」(p. 23, 16~24行目), 「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」, p. 29 など
  • 火力、ゼロエミッション火力:V. 3. (4)「火力発電とその脱炭素化」(p. 42, 11~16行目/p. 42, 40行目~p. 43, 4行目), 「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」, p. 29 など
  • 原子力:V. 3. (3)「原子力発電」(p. 34, 5~8行目/p. 39, 27~32行目/p.40, 8~15行目), 「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」, p. 29 など

◇「GX2040ビジョン(案)」

  • 削減目標:1. はじめに(p. 2, 7~9行目)
  • 再生可能エネルギー:5. (1) 1)「基本的考え方」(p. 22, 612~623行目), 同 3)「再生可能エネルギーの主力電源化」(p. 23, 646~648行目)など
  • 火力:5. (1) 1)「基本的考え方」(p. 22, 612~623行目), 5. (2)「LNG の確保と LNG サプライチェーン全体での低炭素化の道筋確保や、国際的な議論も踏まえた石炭火力の扱い」(p. 27, 791~794行目/p. 28, 808~811行目)など
  • 原子力:5. (1) 1)「基本的考え方」(p. 22, 612~623行目), 同 4)「原子力の活用」(p. 25, 698~701行目/707~708行目)など
  • 排出量取引制度:6. (2) 1) 1 イ) 「政府指針に基づき対象企業が求められる排出削減の水準を決定」(p. 37), 同ウ)「価格の安定化措置」(pp. 37-38)など

社会の幅広い意見を政府に届けることが重要です。上記を参考に、一行でも一言でも書いてみてください。

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