違法な野生生物取引の撲滅をめざすACAMSとWWFのパートナーシップ
2020/09/30
国際的な「組織犯罪」としての野生生物の違法取引
象牙などをはじめとする野生生物に由来した製品や原料、また生きた個体などを違法に取引、採取する「密輸」や「密猟」などの野生生物犯罪。
この違法取引は長年、アフリカゾウなどを絶滅の危機に追い込む、大きな問題とされてきましたが、薬物や人身売買のようなよく知られた国際犯罪ほどには注目されてきませんでした。
その野生生物取引が今、他の国際的な組織犯罪と同じように、大きな利益を生み出す犯罪行為として、深刻化の一途をたどっています。
野生生物の違法取引で取引額は、推定される年間2兆円。
武器、人身売買、薬物の取引に次ぐ、世界的な規模の問題となっているのです。
また違法取引は、希少な野生生物を絶滅の危機に追いやる主因の一つであると同時に、犯罪によって治安を脅かし、影響を受けている地域に計り知れない社会・経済的損失も与えています。
さらに、近年は、野生生物の違法取引が、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)もその一種として取りざたされている「動物由来感染症」のパンデミックを引き起こす原因としても、リスクのある可能性が指摘されています。
違法取引に使われる世界の金融ネットワーク
世界的な規模で行なわれている、この野生生物の違法取引を可能にしているのは、何か?
その重要なカギとなっているのが、国際的な金融ネットワークです。
密猟や密輸を手掛ける犯罪組織は、その資金や犯罪収益の管理・移動に、世界中の金融ネットワークを利用しています。
たとえば、一つの犯罪組織であっても、そのネットワークの中で取引に利用される、金融に関係した主体は、従来の多くの金融機関をはじめ多種多様。
犯罪者たちはこのお金の流れを介して、手にした大金を隠蔽したり、資金を洗浄(ロンダリング)しているのです。
野生生物犯罪に関わる資金の流れを明らかに!
こうした問題への対策を強化するため、2020年8月18日、WWFは金融犯罪の防止を目的とした国際専門家協会ACAMS(公認AMLスペシャリスト協会:Association of Certified Anti-money Laundering Specialists)と、新たなパートナーシップを締結しました。
ACAMSとは、世界最大の金融犯罪防止専門の国際会員制組織で、金融をはじめ多様なセクターのプロフェッショナルに、資金洗浄や金融犯罪防止に関する知識とスキルの向上のための機会を提供しています。
今回のパートナーシップも、世界中の生物多様性を脅かす、この国境を越えた組織犯罪との戦いに向けて、金融機関、各国の政府機関、そして非営利組織(NGO)など、多様な主体による協力を推進するもの。
現在のところ、下記の3つの目標を目指したプロジェクトを展開する予定です。
- 戦略会議の開催やACAMS会員メンバーのエンゲージメント、また、催しや出版物を通じて野生生物が関与する金融犯罪に対する問題認識を高めること
- 公的機関と民間に向けた、教育とトレーニングの仕組みを開発すること
- 違法取引にかかわる資金の流れの発見や、犯罪組織による悪用の防止をサポートするための、コンプライアンス・ツールを作成すること
いわば、コンプライアンス活動の促進を通じ、違法取引行為で使われる、お金の流れを明らかにすることで、犯罪収益の没収や犯罪組織の摘発につなげ、野生生物犯罪の発生を抑え込む取り組みです。
また、この取り組みでは、違法な野生生物取引にかかわる各サプライチェーンでのリスクを、金融セクターが特定、報告、緩和、改善するために取るべき対応を概説し、この分野で初めてとなる資格取得の機会を提供します。
重要なのは、各金融機関などにおける金融情報部門と、コンプライアンスの調査部門に対する支援。
そのため、プロジェクトでは特に、不審なお金の動きや、継続的に問題のありそうな取引が続くケースが認められる国や地域において、こうした取り組みを開始する予定です。
新型コロナウィルス感染症の広がりを受け、急速に注目、強化されつつある、金融に関連した生物多様性の保全に向けた動き。
さらなるグローバル化が進む中、あらゆるモノ、人、お金の流れと共に広がる金融ネットワークを、いかに機能させ、問題の抑制に役立ててゆくのか。
WWFは、野生生物の違法取引のみならず、あらゆる国際犯罪の防止と撲滅にも通じる手段の一つとして、このACAMSとの協力を推進してゆきます。