【動画あり】トビイロホエジカの未来


「キョン」という名の方がよく知られているかもしれません。
その動物の正式な名前はホエジカ。

中国南部から東南アジア、インドにかけて分布するシカの仲間で、現在は13種が知られています。

この中の一種に、トビイロホエジカという、少し珍しいホエジカがいます。

ケーン・クラチャン国立公園の調査用自動カメラ(カメラトラップ)で撮影された、トビイロホエジカ(Fea's Muntjac)。ここにはホエジカ(Red Muntjac)も生息しています。

分布域はインドシナ半島のメコン地域西部。ミャンマーとタイの国境地帯に、南北に連なる山岳地帯です。

トビイロホエジカは世界でただ1カ所、この両国国境を中心とした、この山々の熱帯の森にのみ生息する動物なのです。

同じく、カメラトラップが捉えたインドシナヒョウ。インドシナヒョウはかつてインドシナ半島に広く分布していたヒョウの亜種ですが、今では数が極めて少ないと考えられています。インドシナトラと同様、絶滅が心配されています。

同じく、カメラトラップが捉えたインドシナヒョウ。インドシナヒョウはかつてインドシナ半島に広く分布していたヒョウの亜種ですが、今では数が極めて少ないと考えられています。インドシナトラと同様、絶滅が心配されています。

トビイロホエジカの生息状況などはよく分かっておらず、絶滅の危機にあるのかどうかも不明。それでも、この動物は森林破壊による減少が心配されています。

タイでは、保護区になっているエリアに生き残っていることが知られていますが、それ以外の森が切りつくされた地域では、姿を消してしまいました。

一方、まだ森が残るミャンマー側では、天然ゴムなどの農園開発が急速に拡大。森が失われているほか、保護区にも密猟者が入り込んでおり、こうした野生動物を脅かしています。

国立公園の周辺に広がるゴム農園。タイをはじめ、インドシナ各国の重要な農産品の一つです。近年はミャンマーでも、このゴムノキを育てるための農園開発が拡大しています。

森の乏しくなったタイと、森の保全がままならないミャンマー。

この両国の森を、一つにつないだ形で守らないと、トビイロホエジカの危機はさらに、深刻なものとなります。

このように、人が作った国境を越えて森や水域を行き来する野生動物は少なくありません。
私たちが調査をしているインドシナトラ自体、そういう動物ですし、両国双方の森をのこさないと、遠からず絶滅してしまう動物です。

トビイロホエジカの未来は、他の多くの野生動物の未来とも重なっています。
豊かな森を未来に向けて守れるか。その成否は、今の取り組みにかかっています。

タイとミャンマーの国境地帯に広がる山地。私たちWWFジャパンでは今、WWFタイの仲間たちと共に、ここでトラの生息調査を行なっています。この森の眺めをそのままに保全していかねばなりません。

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自然保護室(コンサベーションコミュニケーション グループ長)
三間 淳吉

学士(芸術学)。事務局でのボランティアを経て、1997年から広報スタッフとして活動に参加。国内外の環境問題と、保全活動の動向・変遷を追いつつ、各種出版物、ウェブサイト、SNSなどの編集や制作、運用管理を担当。これまで100種以上の世界の絶滅危惧種について記事を執筆。「人と自然のかかわり方」の探求は、ライフワークの一つ。

虫や鳥、魚たちの姿を追って45年。生きものの魅力に触れたことがきっかけで、気が付けばこの30年は、環境問題を追いかけていました。自然を壊すのは人。守ろうとするのも人。生きものたちの生きざまに学びながら、謙虚な気持ちで自然を未来に引き継いでいきたいと願っています。

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環境保全団体です。

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