©Shutterstock / isak55 / WWF

診療所から始まる 人と森の未来


森林破壊最前線の一つであるボルネオ島。
自然や人種のみならず、環境破壊の原因までもが多様性に富む島です。

WWFも長年、この島で熱帯林の保全に取り組んでてきましたが、私たちとは違った視点で大きな成果を上げた団体があります。

それは、2007年から、西カリマンタン州のグヌンパルン国立公園周辺で、Health In HarmonyとASRIという2団体が始めた、診療所を作る取り組みです。

なぜ診療所だったのでしょうか?

理由は地域住民による森林伐採。地道な地域住民へのヒアリングから、伐採理由の多くが医療費を確保するためだったことが分かりました。

グヌンパルン国立公園周辺には23の村があり、医療費を確保するために各家庭で年間平均500本以上もの規模で伐採が行われていました。
© OpenStreetMap contributors

グヌンパルン国立公園周辺には23の村があり、医療費を確保するために各家庭で年間平均500本以上もの規模で伐採が行われていました。

そこで、保護区周辺に住む12万人の地域住民が利用できる診療所や助産院、歯科医院などを設立し、県政府や国立公園と協働で、安価に診療が受けられるサービスを構築。

しかも、診療費は現金ではなく、苗木でも良いというから驚きです。

また、有機農業の指導も行ない、受講者が他の人に教えたり、植林活動に参加したりした場合も診療費の代わりになるのです!

診療所で外耳炎検査や視力、歯科検診など様々な診療サービスを受ける地域住民たち

診療所で外耳炎検査や視力、歯科検診など様々な診療サービスを受ける地域住民たち

さらに、チェーンソーを差し出した家庭には小規模農業など新しい事業の準備金や相談サポートを提供し、女性には女性だけで管理するキッチンガーデンの運営などの雇用機会に結び付けました。

チェーンソー買取プログラムを利用する地域住民
© Stephanie Gee/The World

チェーンソー買取プログラムを利用する地域住民

結果、約10年で森林伐採する世帯数は9割減り、乳児死亡率は約7割改善、そして約2万haの森が回復したというのです。

グヌンパルン国立公園に生息するオランウータン。診療所に来た地域住民からの苗木で、175 haのオランウータンの生息地が回復したそうです。
©naturepl.com / Tim Laman / WWF

グヌンパルン国立公園に生息するオランウータン。診療所に来た地域住民からの苗木で、175 haのオランウータンの生息地が回復したそうです。

地域住民の健康に着目し、それを軸に生活と自然保全の両立を成し遂げた、SDGsにも通じるこの活動には感動です!

私たちも、人、動物、そして生態系の健康を一つのものとして捉え、守っていく、この「ワンヘルス(One Health)」の実現につながるような、森の保全活動を続けていきたいと思います!

関連リンク

紹介した活動の詳細

WWFが実施する西カリマンタン州の取組み

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自然保護室(森林)
天野 陽介

獣医になる夢やぶれ、ニュージーランドのマッセー大学で動物学と生態学を専攻。その後、毒蛇調査の 研究助手としてタイの保護区へ。そこで密猟などの違法現場に何度も直面。単に動物学だけでなく、人間社会を理解する必要があると感じ、コスタリカの平和大学で天然資源と平和学の修士号を取得。その後、国連大学でSATOYAMAイニシアティブのプロジェクトに携わり、日本の里山のように世界にも存在する人と自然のバランスがとれた貴重な場所の保全、研究、普及を担当。2019年7月からWWFジャパンの森林グループでオーストラリアとボルネオ島インドネシア領を担当する。

カエルが好きなのに、捕食者であるヘビをタイの保護区で研究していたとき、銃声が。 保護区になるまでこの地に住んでいた老人が密猟者となる負の連鎖を目の当たりにし、自然を守るには人間社会を理解する必要があると痛感。自然と共生していくためには!そして娘に嫌われない父になるためには!が人生のテーマ。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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