生物多様性の国際動向と実践へのカウントダウン
2022/10/04
- この記事のポイント
- ポスト2020生物多様性枠組みの議論が開始されて凡そ2年。多くの国際ならびに国内における会合を通じて、生物多様性やネイチャー・ポジティブに向けた議論がされてきました。 国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、2030年までの世界目標が196の国と地域の間で合意されることが期待されています。 「リーダーによる自然への誓約(Leaders Pledges for Nature)」は2020年に発足し生物多様性の主流化等について公約しています。2022年9月に開催された第77回国連総会に合わせて、この「リーダーによる自然への誓約」が再確認され、COP15における合意に向けたモメンタムが示されました。
生物多様性目標設定に向けた国際的な議論
2022年12月、カナダ、モントリオールで国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)が開催されます。2030年までの生物多様性における目標、ポスト2020生物多様性枠組み(GBF)が決められることから、非常に注目を集めている国連条約会議です。
CBD COP15は、当初2020年に開催される予定でしたが、様々な要因にて対面式の会議を開くことが許されず、2年越しでの開催となってしまいました。ただこの2年の間、多くの国際会議で生物多様性に関わる議論がされています。
例えば以下のようなものがあります。
グローバル・オーシャン・アライアンス
英国政府主導で2020年の発足。海域の30%保全を目指している。現在79か国が賛同。
自然と人々のための高い野心連合(High Ambition Coalition: HAC)
陸域の30%保全を目指している。現在日本を含む107か国が加盟している。
2021年G7における2030自然協約
英国が議長国となった2021年のG7サミットにおいて、2030自然協約を採択している。
(外務省による仮訳)
リーダーによる自然への誓約 Leaders Pledges for Nature
国連総会は、毎年9月頃に国連本部(NY)において開催されており、様々な議論が実施されています。
2020年の国連総会では生物多様性の議題が中心に置かれ、その中でも特に注目されていたのが「リーダーによる自然への誓約:Leaders Pledge for Nature」でした。
これは当時の英国ジョンソン首相によって呼びかけが行われ以下の主要10項目への誓約がなされています。
<主要項目>
- グリーン・リカバリー
- 野心的な国際枠組みの実行
- 統合的な説明責任の強化
- 持続可能な生産と消費への変革
- 気候変動対策
- 環境犯罪の撲滅
- 生物多様性の主流化
- ワンヘルス
- 金融の変革
- 社会全体との協働
日本も2021年5月28日、日英首脳電話会談で、当時の菅総理大臣により参加を表明し、生物多様性、気候、人類のための行動を強化することを宣言しました。WWFジャパンは、日本の総理大臣が「2030年までに生物多様性の減少を反転させる」意思を表明したことを歓迎しています。
菅総理の「リーダーによる自然への誓約」 参加表明を歓迎する ~生物多様性の減少傾向を食い止め、回復に向かわせる具体的な施策実行を~
第77回国連総会でLeaders Pledges for Nature第2弾
2022年9月の第77回国連総会にあわせ、Leaders Pledges for Natureのイベント「COP15へのカウントダウン:ネイチャー・ポジティブな世界を目指すリーダーズイベント」が実施されました。その中で、生物多様性の資金調達と保全の促進を目的とした新しいコミットメントが、9月20日に開催されたハイレベルイベントで発表されています。自然を重要視し、世界の行動と実施に向けた支援を求めています。
コスタリカ外務大臣:
「自然と人々のための高い野心連合」のネクストステップとして、世界の陸と海の少なくとも30%を保護することを発表。
コロンビア環境・持続可能な開発大臣:
コロンビア大統領を代表して、生物多様性に関する行動の加速を表明。
さらにドイツが生物多様性の国際的資金を年間15億ユーロに増やすと発表したことは、2016年から2020年のドイツ政府の平均資金から8.7億ユーロの増加となり、これまでのところ、すべての先進国の生物多様性保全に対する国際年間資金投入総額で最高額となります。
ドイツのオラフ・ショルツ首相は、「ドイツは、生物多様性に関する野心的な世界的枠組みの構想を断固として支持します。このような枠組みには、生態系を保護し、回復させるための道筋をつける強力な実施メカニズムが必要です。土地と海洋の少なくとも30%を保護することは、そのために重要な役割を果たします。ドイツで開催されたG7サミットでは、2025年までに自然保護のための資金を大幅に増加させることに合意しました。ドイツはその役割を果たし、今後も続けていきます。遅くとも2025年までに年間60億ユーロの国際気候変動資金予算を約束する一環として、私たちは生物多様性への資金提供を年間15億ユーロと大幅に増やします。この貢献により、生物多様性COP15の野心的な成果に向けて、強いシグナルを送りたいと思います。」と発言しています。
COP15へのカウントダウン
9月20日に開催された「 COP15へのカウントダウン:ネイチャー・ポジティブな世界を目指すリーダーズイベント」の開催の背景には、世界のリーダーがCOP15の成功を政府の優先事項として宣言し、健康、食料安全保障、生活を脅かし、気候変動対策と持続可能な開発を損なう自然の危機が深刻化する中、すべての国が協力して、モントリオールで生物多様性の世界的な合意を確保することがあります。
出席した首脳らは、モントリオールのCOP15で革新的な生物多様性合意を採択することを含め、2030年までに生物多様性の損失を反転させ、ネイチャー・ポジティブな世界を確保するというコミットメントを再確認しました。
カナダのジャスティン・トルドー首相は、次のように述べています。
「カナダは、健全な土地と水、強い経済、そして次世代のための明るい未来のための課題を理解し、その解決のために今年12月にモントリオールで開催されるCOP15のホスト国を務めます。それは、カナダ国内では、2030 年までに国土の 30%、海洋の 30%を保護するという公約を達成するため、歴史的な前進を遂げています。COP15 を含む世界の舞台で、私たちはこの目標を達成し、地球上の生物多様性を保護するために、世界的な支援を引き続き動員していきます。今こそ世界が一丸となり、生物多様性の損失を食い止め、反転させ、自然界を回復への道へと導くための野心的な世界計画に合意する時です。」
1994年に健全な健康的な環境に対する権利を憲法に取り入れたコスタリカは、それ以後世界の環境大国となり、生物多様性議論においては、リーダー的な役割を担っています。今回のイベントにあたり、コスタリカのロドリゴ・シャベス・ロブレス大統領は、以下のように述べています。
「コスタリカは過去3年間、『自然と人々のための高い野心連合』とその103のメンバーを通じて、2030年までに地球の土地と海の少なくとも30%を保護するという重要な世界目標を提唱してきました。本日、私たちは、政府、慈善家、学界、先住民の代表者、地域社会の支援を受けて、「30by30」目標の実施を確実にすることを約束し、この連合が次の重要なステップを踏み出したことを発表します。コスタリカは、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させるための行動を起こすことを全面的に約束しており、私は、12月にモントリオールで開催される生物多様性条約COP15において、自然のための確固たる世界合意を達成するために、我が国がたゆまず努力することを再確認しています。これは、私たちの食料、きれいな水、きれいな空気、安定した気候を提供し、世界経済の基礎となっている自然システムの崩壊を防ぐために、共に行動する10年に一度のチャンスなのです」。
また、このイベントでは、オーストラリアのアンソニー・アルバネーゼ首相が「Leaders' Pledge for Nature」に賛同し、2030年までに生物多様性の減少を逆転させることを誓約しています。
リーダーたちの声明について、WWFインターナショナルのマルコ・ランベルティーニ事務局長は、次のように述べています。
「本日発表された新たな生物多様性融資と保全の取り組みは、12月に開催される国連生物多様性条約COP15に向け、重要なモメンタムとなります。同様に重要なのは、COP15において、2030年までに生物多様性の減少を反転させ、自然を大切にする世界を実現するための野心的な生物多様性合意を確保するなど、世界の指導者が自然に対する緊急行動を取ることを新たに約束したことです。これらは、他の各国政府首脳にCOP15を優先するよう明確なシグナルを送るものです。しかし、単に大胆な声明を出すだけでは、もう時間がありません。停滞した約束や忘れ去られた約束では自然は生き残れないからだ。" 変化を実現しなければならない。
ポスト2020生物多様性枠組みでWWFが求める5つの項目
WWFではポスト2020年生物多様性枠組み(GBF)の議論が始まった当初から、以下5つの項目を確約することを求めています。
1.生息地の保全
a) 地域ベースの保全と種の保存のための適切な目標(つまり自然生態系の完全性、面積、連結性の向上と既知の絶滅危惧種の人為的な絶滅を直ちに停止)を示すこと
b) 2030年までに生物多様性の損失を逆転させ、2050年までに自然と調和した生活を送るという野心のもと、自然および半自然の生態系を効果的に回復させる地域の数値目標を定めること
c) 地球の30%を保全するという世界目標に合意すること
d) 種に関する包括的かつ野心的な保全活動を含めること
2.生産と消費の改善
a) 生産と消費の世界的なフットプリントを2030年までに半減させること
b) 主要な生産部門を特定し、転換に向かわせること
c) 民間セクターの役割
d) 消費と汚染への対応
3.実施策の確保
愛知目標が未達に終わった教訓から、確固たる実施策を確保し、行動の段階的拡大を可能にする効果的な実施メカニズムが含まれることを保証すること
4.資金動員
実施に必要な、適切で、追加的で、効果的で、適時で、容易にアクセスできる財源を生み出すための包括的な資金・資源動員戦略を示すこと
5.自然を基盤とした解決策
a) 公平で権利に基づく自然を基盤とした解決策(NbSs)と生態系ベースのアプローチ(EbA)の並行実施。また、NbSs は社会的課題に対処するための重要なツールである。生物多様性条約は、生物多様性に関する枠組み合意として、生物多様性関連の原則と社会的・環境的側面を確立することができる。
b) 社会的課題に対処するためのフレームワークの関連性としてワンヘルス・アプローチの実施を拡大すること、および、自然関連の疫病と大流行の要因とリスクに対処するための行動をとることを約束すること
2030年まであと8年。
2030年まで目標を達成するために、新規、既存の知見を集約し、行動を起こしていく必要があります。