アフリカゾウの危機 人との「あつれき」が最重要課題に
2023/12/26
2023年11月、野生生物を過度な取引から守るための国際ルールであるワシントン条約の第77回常設委員会が開催されました。
これは、各国政府の代表が、条約の運用や実施の課題を話し合うために各年に実施される会議です。
今回、この会議の中で、新たな「アフリカゾウ行動計画」の発表がありました。
アフリカゾウの生息域は、広くアフリカ38カ国に及び、それぞれの地域で取り組むべき課題はさまざまです。
その中で、この行動計画は、38カ国の共通の目標となり、アフリカゾウ保全について各国が政策を立てる上での、指針となるものです。
利害を異(こと)にする国々が、共通の目標を立て、そして合意する、
これは、実はとても大変なこと。
それでも、38カ国が協力して計画を策定したのは、密猟の脅威に晒されているアフリカゾウの保護に、一丸となって取り組む必要性の認識の表れです。
アフリカゾウ行動計画2010年版
https://cites.org/sites/default/files/common/cop/15/inf/E15i-68.pdf
(WWFジャパン訳)
目標1:ゾウの密猟とゾウ製品の違法取引の軽減
目標2:ゾウの生息地の保全および連結性の回復(分断の解消)
目標3:人とゾウのあつれき(軋轢)の軽減
目標4:ゾウの保全と管理に関する政策立案者、地域社会、利益団体を含む主要な利害関係者の意識向上
目標5:アフリカゾウの管理に関する生息国の知見強化
目標6:生息国間の協力と理解の強化
目標7:アフリカゾウの保全に関する地域社会との連携や協働の促進
目標8:アフリカゾウ行動計画の効果的な実施
【解説】ワシントン条約の第14回締約国会議(2007年)において、行動計画策定が決議され、アフリカゾウ生息国で作成した行動計画が2010年に採択された。目標は優先度の高い順に掲げられている。
アフリカゾウ行動計画の目標2023年版
https://cites.org/sites/default/files/documents/E-SC77-Inf-03.pdf
(WWFジャパン訳)
目標1:人とゾウのあつれき(軋轢)の軽減
目標2:アフリカゾウの生息地の保全よび連結性の回復(分断の解消)
目標3:ゾウの密猟とゾウ製品の違法取引の軽減
目標4:アフリカゾウの保全と管理に関する主要な利害関係者の意識向上
目標5:アフリカゾウの保全と管理に関する生息国の知見強化
目標6:生息国間の協力と理解の強化
目標7:アフリカゾウの保全と管理に関する地域社会との連携や協働の促進
目標8:アフリカゾウ行動計画の適切かつ持続可能な資金投入と、効果的な実施
【解説】ワシントン条約第77回常設委員会で発表された新しい行動計画。2010年に策定された8つの目標を更新する形で、2027年までの目標として立てられている。目標は優先度の高い順に掲げられている。
特筆すべき点は、2023年版の行動計画では、これまでの計画の中で最優先に掲げられていた「密猟」の脅威より上位に、「あつれき(軋轢)」が掲げられたことです。
私も現場を訪れてみて実感しましたが、ゾウのような野生動物が身近に存在する地域では「あつれき」は切実な問題。
人とアフリカゾウが共生できる社会を目指す上で、解決が急がれる問題であり、激化している表れでもあります。
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ゾウによる被害を受けた住居(タンザニア):干ばつなどの影響により水不足に陥り、屋内にある水瓶のニオイに引き寄せられたゾウが夜中にやって来て壁を破壊。家主は無事であった。
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ゾウが通過したことにより被害を受けたサイザル麻の畑(タンザニア):これまでゾウの食性になかった作物のため、タンザニア北東部では広く栽培されている。人里に現われるようになったゾウに踏み倒されてしまう他、近年ゾウが食料としても利用している事例が散見されている。
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ゾウによって荒らされたトウモロコシ畑(タンザニア):トウモロコシはゾウの好物のひとつ。代替でゾウの食性にないヒマワリの栽培が推奨されているが、食料にならない作物の植え付けへの理解が乏しい。油の原料として収益になることなど、住民への普及啓発も欠かせない。
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畑の高台にある監視塔(タンザニア):ゾウの接近を住民に知らせるため24時間体制で監視を続けている。人員の確保や発見時の通報体制など課題も多い。
新しい行動計画で、「あつれき」がアフリカゾウの保全上、最重要の解決課題とされたことは、その深刻さと重要性を改めて世界に示すものとなりました。
WWFジャパンでは、タンザニアでのアフリカゾウ保護プロジェクトを支援していますが、こうした取り組みにおいても、しっかりと地域社会の声に耳を傾け、連携しながら活動を進めていきたいと思います。
(野生生物グループ 西野亮子)