西表島でユキヒョウを想う
2023/12/21
WWFジャパンが、環境省の事業を受託し、2020年から沖縄県西表島で地域住民の皆さんや様々な分野の研究者と協力して行っている自然再生の活動があります。今回、私は初めてフィールドである浦内川流域の旧稲葉集落を訪れました。
現在の稲葉は、あまり人が立ち入ることのない場所で草原となっています。しかし、かつて集落があり、稲作が行われていました。この水田跡地の水辺再生を目指し、これまでに掘削した池を拡大するのが今回の目的。こうした湿地の復元は、イリオモテヤマネコの保護にもつながる取り組みです 。

西表島浦内川流域での作業の様子。再び水辺をつくり出して希少な野生生物の生息地を増やすだけではなく、エコツーリズムや環境学習での活用も考えられています。
地域のNPOメンバーやネイチャーガイド、研究者、環境省職員に大学生・専門学校生、のべ51人が2日間汗を流しました。

稲作が行われていた当時は、イリオモテヤマネコ(Prionailurus bengalensis iriomotensis)や、その獲物となるカエルなど水生の小動物が豊富に見られたそうです。
実は、私にはもう一つの目的がありました。西表での活動を、西ヒマラヤで行っているユキヒョウ保全のプロジェクトの参考にすることです。
ユキヒョウのために沖縄へ。不思議に聞こえるかもしれませんが、2つのプロジェクトには共通点があるのです。それは、野生生物の保全と地域住民による自然の利活用を同時に目指すこと、そして、その未来像、ビジョンを作るのは他ならぬ地域の皆さんであることです。

どの様に放牧地を利用するか、野生動物との関係はどうあるべきかなど、将来コミュニティがどんな風になって欲しいかを考え、ビジョンを立てるため話し合う地域の人びと。ヒマラヤ西部ラダックの活動フィールド内の村々でこうしたワークショップを開催しています。
地域住民が主体的に、自然や野生生物を守る。
響きの良い言葉ですが、実現は容易ではありません。長期的な視野に立ってその地域の今と将来を考え、関係者と合意形成をした上で行動を起こすには、冷静な分析力、熱い思いと行動力が必要です。
「生きもの豊かな里山の風景を取り戻したい」という強く思う旧稲葉集落出身の地権者の方、新たなエコツーリズムを目指して協力する地元ガイドの皆さんや絶滅の淵に立つ野生生物の最後のすみかを残したい願う研究者。こうした方々が、地域住民のみならず他の土地に住む若者をも巻き込む、この活動の推進力となっていました。
今回、西表を訪問し、お会いした素晴らしい方々との経験を西ヒマラヤのフィールドチームと共有し、きっと活かしたいと思います(野生生物グループ 若尾)。