©Gerald S. Cubitt / WWF

「種の保存法」における「国際希少野生動植物種」の登録制度の課題

この記事のポイント
2019年11月26日より、日本国内では、コツメカワウソなど16種の野生生物の譲渡の規制が、新たに始まります。これは、2019年8月に開催されたワシントン条約締約国会議の決定に基づくもので、これらの生きものについては国際取引が原則禁止。しかし、現行の日本の制度では密輸された個体が法の目をくぐって、今後も取引されてしまう懸念があります。密輸個体を市場から排除し、密猟に寄与しない制度にするために何が必要なのか。現行の制度とその運用の課題について考えます。
目次

ワシントン条約第18回締約国会議の決定

IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストによると現在、約28,000種以上の動植物が絶滅のおそれがあるとされています。

危機の要因は、気候変動、生息地の汚染や破壊、外来生物などさまざま。過剰な採集や取引も大きな脅威となっています。

そうした状況を解決するため、「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約:CITES)」では、野生生物の国際取引を規制し、持続可能な利用を実現することにより、野生生物種を絶滅の脅威から守っています。

CITESでは、2、3年に一度、全締約国が一堂に会し、取引規制や条約の運用について話し合う締約国会議を開催しています。

そして、第18回締約国会議(CoP18)が2019年の8月にスイスのジュネーブで行なわれました。

CITES CoP18の様子
 

CITES CoP18の様子 Photo by IISD/ENB | Kiara Worth

会議のメイントピックは、野生生物種の国際取引の規制にかかわる「附属書」の改正です。
この附属書は、国際取引の対象となる野生生物のリストであり、現在約5,800種の動物と30,000種以上の植物が、掲載されています。

附属書は、Ⅰ~Ⅲの3つに分類され、それぞれ異なる規制が課されています。


附属書
規制の内容と代表種 掲載種数
附属書Ⅰ 商業目的の国際取引が原則禁止。    ジャイアントパンダやウミガメなど およそ1,000種
附属書Ⅱ 商業目的の取引は可能。ただし、その取引が種にとって有害でないことを輸出国が証明し、許可することが条件。    マホガニーやサメ類など およそ34,600種
附属書Ⅲ その動植物が生息する国が、保全のために国際的な協力を求めている種。  およそ200種

そして、CoP18では57の附属書改正提案が提出され、新たにコツメカワウソやインドホシガメなど16種が附属書Ⅰに掲載されることが決定しました。

CITESの附属書Ⅰに掲載された種は、商業目的の輸入が原則禁止。つまり、日本では今後、これら16種を輸入することができなくなるのです。

新たに附属書Ⅰに掲載される16種
  学名 和名
1 Lutrogale perspicillata ビロードカワウソ
2 Aonyx cinerea コツメカワウソ
3 Balearica pavonina カンムリヅル
4 Gonatodes daudini ダウディンイロワケヤモリ
5 Ceratophora erdeleni ケラトフォラ・エルデレニ
6 Ceratophora karu ケラトフォラ・カル
7 Ceratophora tennentii ケラトフォラ・テンネンティイ
8 Cophotis ceylanica セイロンオマキキノボリアガマ
9 Cophotis dumbara コフォティス・ドゥムバラ
10 Mauremys annamensis アンナンガメ
11 Cuora bourreti ラオスモエギハコガメ
12 Cuora picturata カンボジアモエギハコガメ
13 Malacochersus tornieri パンケーキガメ
14 Geochelone elegans インドホシガメ
15 Achillides chikae chikae ルソンカラスアゲハ
16 Achillides chikae hermeli アキルリデス・キカエ・ヘルメリ

CoP18の決定が与える日本国内への影響

このCoP18で決定した事項に対応するため、日本政府は「外国為替及び外国貿易法(外為法)」および「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」の中で、下記の2つの対応をとることになっています。

  1. 附属書Ⅰ掲載が決定した16種の輸入の原則禁止
  2. 同じく、該当する16種の国内での販売や譲渡等の規制

上記2つのルールが、会議終了後90日間の猶予期間を経て、2019年11月26日から施行されます。

16種の中には、日本に輸入され、ペットとして販売されてきた動物もいるため、今回のCoP18 の決定は日本のペット市場にも、大きな影響を与えることは間違いありません。

結果として、ペット市場への供給を海外からの輸入に頼っていた動物種は、これまでと同じ流通量を確保し、販売をすることが難しくなります。日本のペット市場では購入できなくなる動物も出てくるかもしれません。

日本のペット市場で販売が確認された種
学名 和名
Aonyx cinerea コツメカワウソ
Gonatodes daudini ダウディンイロワケヤモリ
Ceratophora tennentii ケラトフォラ・テンネンティイ
Cophotis ceylanica セイロンオマキキノボリアガマ
Mauremys annamensis アンナンガメ
Cuora bourreti ラオスモエギハコガメ
Cuora picturata カンボジアモエギハコガメ
Malacochersus tornieri パンケーキガメ
Geochelone elegans インドホシガメ

TRAFFICが2019年9月~10月に展示即売会やオンラインで販売の確認(予約や履歴を含む)

ベトナムに生息するアンナンガメ。日本では商業規模での繁殖技術は確立されていない。
©naturepl.com Rod Williams / WWF

ベトナムに生息するアンナンガメ。日本では商業規模での繁殖技術は確立されていない。

またこの決定は、これは新たに輸入される個体だけでなく、すでに日本国内に持ち込まれている個体の販売や譲渡などにも関係してきます。

たとえば、該当する動物で、ルールの施行日より前に輸入されていた個体については、事業者がペットとして販売する場合、新たな手続きを取ることが義務付けられます。

販売や譲渡における国内管理制度のしくみ

こうした規制の根拠となるのは、CITESに対応した国内法による取り決めです。

日本では、CITESの附属書Ⅰに掲載された動物種は、「種の保存法」で「国際希少野生動植物種」に指定され、保護の対象となります。
そして、この「国際希少野生動植物種」は、国内で譲渡や販売、販売のための広告などが原則禁止されています。

ただし、下記のような特定の条件に該当する個体については、環境省に登録すれば、上記行為が例外的に認められています。

【環境省に登録できる個体】

  1. 規制適用日前に国内で取得した個体等
  2. 登録された個体同士で繁殖させた個体等
  3. 関税法の許可を受けて輸入された個体等

つまり、今回新たに「国際希少野生動植物種」に指定された16種において、上記の3つに該当する個体は、国内での販売や譲渡が引き続き可能となるのです。

そのため、ペットなどを扱う事業者は新たな手続きとして、3つの条件のいずれかに該当し、登録できる個体であることを証明する書類を環境省に提出し、審査を受けなければなりません。そして、環境省から「登録票」を付与された個体のみを、取扱うことができるようになります。

押収されたヨウム。ペットのための過剰捕獲、密猟が続き、2016年にCITES CoP17で附属書Ⅰに掲載されたヨウム。
©Wil Luiijf / WWF

押収されたヨウム。ペットのための過剰捕獲、密猟が続き、2016年にCITES CoP17で附属書Ⅰに掲載されたヨウム。

密輸個体も登録可能? 登録制度の課題

しかし、この制度には現状で、次の2つの問題が生じてしまう可能性があります。

  1. 施行前に国内に密輸された個体に登録票が付与されてしまう可能性
  2. 施行後に密輸された個体が国内に流入した場合、その個体に登録票が付与されてしまう可能性

これはつまり、日本の市場が、密輸された個体を合法的に販売可能で、密輸に寄与するおそれがある市場になる、ということです。

また、これらの課題が解決できなければ、今回の規制は実質的な意味を持たなくなります。

なぜ、このようなことになってしまうのか。
2つの課題について、解説します。

1 施行前に国内に密輸された個体に登録票が付与されてしまう可能性

登録のための要件が規定された「種の保存法」の施行令によると、登録を受けることのできる個体は「適用日前に取得、または輸入された個体」と明記されています。

つまり、申請個体が施行日よりも前に、日本にいたことを証明するだけでよく、その個体がどのように日本に持ち込まれたかを証明することは必要としていません。

つまり、過去に密輸された個体も国内に存在しているという理由だけで登録ができ、その点は追及されることがない、ということです。

実際、「国際希少野生動植物種」として追加される種の中には、コツメカワウソのように密輸が相次いだ動物も含まれており、密猟や密輸の手口も巧妙化しています。
摘発された密輸の事例の中には、国の輸入窓口である税関をすり抜け、国内で発覚したケースもあります。

コツメカワウソ
©TRAFFIC

コツメカワウソ

多くの人やモノが、空港や港で移動し、すべての密輸を防ぐことが困難な中、今回のような対応の不足は、密輸個体をペット市場で「合法的に」販売できてしまう問題が、続いてしまうことにつながります。

3 施行後に密輸された個体が国内に流入した場合、その個体に登録票が付与されてしまう可能性

同じくルールの施行後に、日本へ密輸される個体についても、登録ができてしまう問題が懸念されます。

この登録制度では、すでに登録された個体を両親から生まれた子どもの個体も登録することができます。

しかし、その登録申請に必要なのは、提出書類は、申請者による生まれた経緯の説明書と個体の写真のみ。親子関係を証明できる書類とは言えないものです。

この点を悪用し、密輸した個体を「登録した個体から生まれた個体」と偽って申請し、登録票を手に入れることが可能になっているのです。

スローロリスも2007年のCITES CoP14で附属書Ⅰに掲載されたことを受けて、同年に「国際希少野生動植物種」に指定。死んだ個体の登録票が別の個体に付け替えられるなどの違反事例が相次いだ。
© Mikaail Kavanagh/WWF

スローロリスも2007年のCITES CoP14で附属書Ⅰに掲載されたことを受けて、同年に「国際希少野生動植物種」に指定。死んだ個体の登録票が別の個体に付け替えられるなどの違反事例が相次いだ。

2018年に発生した日本へのカワウソの密輸事件のように、密輸された個体の8頭がすべて幼獣だった例もありました。
他にも、成獣より幼獣がペットとして好まれ、高値が付く動物種もいます。

こうした状況を考えると、今後日本への幼獣の密輸が続き、違法に持ち込まれたにもかかわらず、登録個体の子である、と偽って登録されてしまう可能性は十分にあります。

その他 生息国での密猟、密輸が懸念される個体の登録

上記の2つの問題に加え、もう一つ、日本では不適切な個体の登録が行なわれる懸念があります。

それは、現地での密猟や、ロンダリングを経た違法な個体です。

これらの個体の中には、正規の手続きを踏み「合法的」に輸入されたものが含まれている可能性あります。
実際には密猟された個体を繁殖個体と偽り、生息国以外の国を経由し、合法的に輸出している例が、CITESで報告されているのです。

その一例が、日本でもエキゾチックペットとして人気の高いインドホシガメです。

インドホシガメ
©David Lawson /WWF-UK

インドホシガメ

インドホシガメはインド、スリランカ、パキスタンに生息する、絶滅が心配されるリクガメの1種。
日本は世界で同種を最も輸入している国で、1983年以降の輸入頭数は42,000頭を超えます。

しかし、日本にインドホシガメを最も多く「輸出」してきたのは、インドやスリランカではなく、生息国ではない中東のヨルダンでした。ヨルダンは今や、世界最大のインドホシガメの「輸出大国」となっています。

ヨルダンのインドホシガメ輸出頭数

ヨルダンから商業目的および個人(ソースコード:TとP)で輸出されたインドホシガメの数。日本(JP)の輸入量は20,000頭を上回ります。(CITES Trade Database)

ヨルダンから商業目的および個人(ソースコード:TとP)で輸出されたインドホシガメの数。日本(JP)の輸入量は20,000頭を上回ります。(CITES Trade Database)

このヨルダンが輸出してきた個体は「繁殖個体」とされてきました。
しかし近年、この「繁殖」に疑義が呈されています。

たとえば、繁殖に使われた親個体は、どこから、どうやって入手したのか。また、施設の繁殖能力に対し、輸出した個体の数が多すぎる、といった点が指摘されるようになったのです。

そこで、CITES事務局はヨルダン政府に対し、条約の決議17.7に基づく調査を実施。その中で、すべてのインドホシガメの輸出の停止と、繁殖に使用された個体が合法に入手された証明や、施設の繁殖能力に関する情報を提出するよう求めました。

この勧告に対し、ヨルダン政府は輸出を一旦停止し、繁殖に使用した個体は「レバノンから輸入した」と回答。
しかし、レバノンからの輸入を証明する書類は提出されず、さらに、2017年2月には、輸出に必要な書類である「輸出許可書」についても偽造の懸念が浮上。ヨルダン政府が発行したとする全てのインドホシガメの「輸出許可書」を無効とすべきという通知がされるなど、さまざまな問題が明るみに出ました。

2008年~2013年には、タイで日本向けの貨物から押収された570頭のインドホシガメに、偽装されたヨルダンの輸出許可書が添付されていた事件も発覚しています。

輸出許可書偽造に関するCITESからの通知

輸出許可書偽造に関するCITESからの通知

CITES事務局はこうした調査と報告の結果を受け、ヨルダンが「繁殖した」とするインドホシガメは、CITESの定義する「繁殖個体」には該当しない、と判断したのです。

今回、インドホシガメは日本で、コツメカワウソなどと同様にCITESの附属書Ⅰに記載され、「国際希少野生動植物種」に指定されましたが、「登録」さえすれば、日本ではこうした懸念の多い「ヨルダンのインドホシガメ」についても、ペット取引を継続することが可能です。

実際、WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFICが実施したペット市場調査(2019年9月~10月)でも、こうした問題のある取引を裏付けるような情報が販売事業者から得られています。

インドホシガメの事例が物語る通り、たとえ正規の手続きを踏んで輸入された個体であっても、その個体が適切に捕獲、繁殖された、とは限りません。


CITESや「種の保存法」は、そもそも野生生物の保全を目的とした法的措置ですから、こうした個体についても、登録票は付与されるべきではありません。

大きな需要を抱えたペット市場を持つ日本としては、登録にあたっての基準とその運用を強化し、問題のある個体が流通することのないよう、最大限の配慮をすることが強く求められます。

インドホシガメの生息国、インド。
©Ola Jennersten /WWF-Sweden

インドホシガメの生息国、インド

課題解決に向けた対応

貿易統計によると、世界各国から日本が輸入した生きた爬虫類の輸入頭数は、2016年の一年間で19万頭以上。その輸入額は世界第4位の規模となっています。

TRAFFICレポート(2018年)「日本における爬虫類ペット市場の現状」

TRAFFICレポート(2018年)「日本における爬虫類ペット市場の現状」

エキゾチックペットの輸入大国である日本において、今回の制度施行にあたり「違法な個体を排除する制度」と「運用の厳格化」が必要です。

そこで、2019年11月14日、WWFは次のことを日本政府に対して提言しました。

1 施行前にすでに国内に密輸された個体に登録票が付与されてしまう可能性について

まず、違法に国内に持ちこまれた可能性が高いコツメカワウソやインドホシガメなどは、登録審査において、個体がどのように入手されたのか確認するプロセスを加え、申請者に個体が合法的に取得されたことを証明する輸出許可書の写しなどの書類提出を義務づけるべきです。

さらに、今後の法改正においても、登録要件に個体の取得の合法性を明示する検討を進めることを求めます。

2 施行後に密輸された個体が国内に流入した場合、その個体に登録票が付与されてしまう可能性について

親個体となる登録個体と、生まれた個体の親子の証明には、字書の説明書や写真ではなく、DNA鑑定といった科学的証明を求めるべきです。
特に、幼獣での密輸が相次いで発覚したカワウソは、早急に科学的証明を導入し、それ以外の動物種についても、実現に向けた検討をすることを求めます。
さらに、科学的証明の導入までの措置として、獣医師による個体の出産の証明等の提出を義務付けるべきと考えます。

コツメカワウソ
© David Lawson / WWF-UK

コツメカワウソ

その他 生息国での密猟、密輸が懸念される個体の登録について

日本政府は、すでに国内に流入しているヨルダンを輸入元とするインドホシガメの登録については、CIETSでの議論や評価を勘案し、少なくともCITESで合法性が確認できるまでは、ヨルダンのインドホシガメについては、登録を控えるべきです。

輸入国としての責任

エキゾチックペット輸入大国として、日本は、日本国内だけでなく、海外の自然や野生生物の保全にも寄与する責任があります。
その責任を果たすためには、密輸を防ぐ水際対策の強化と同時に、国内での取引が密輸を助長しないよう、確かな仕組みを構築することが重要です。

環境省は、今般の制度運用において、国内繁殖施設の現地確認などの実施可能性を登録申請者に対して明示し、より厳しい対応を取る方針を示しています。

登録制度の厳格化が、密猟や密輸を阻止する取り組みのひとつとして機能するよう、WWFはその運用について監視を続け、更なる改善を政府に働きかけていきます。

インドネシアの森には、コツメカワウソ以外にも多種多様な生きものが生息しています
© WWF-Indonesia /Jimmy Syahirsyah

インドネシアの森には、コツメカワウソ以外にも多種多様な生きものが生息しています

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