「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」の国際希少野生動植物種の登録制度の運用厳格化についての要望書


環境省 自然環境局長 鳥居 敏男 殿

(公財)世界自然保護基金ジャパン 会長 末吉 竹二郎
 

2019年8月に開催されたワシントン条約(CITES)第18回締約国会議において、新たに16種が同条約の附属書Ⅰに掲載されることが決定しました。この決定を受け、追加される16種は、2019年11月26日以降、種の保存法の国際希少野生動植物種に指定され、登録票を付与された個体のみ、販売、譲渡等が認められます(法第20条、21条)。

WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICが2019年9月~10月に行なったペット取引市場調査によると、9種はすでに日本に輸入され、ペットとして販売されていることが確認されました。さらに、コツメカワウソやインドホシガメといった一部の種では、密輸事件 が相次いで発覚しているほか、日本と取引実績のある輸出国において個体入手の合法性が確認できない、との評価 がCITESでされていることなどから、日本の市場に密猟、密輸された個体が紛れている可能性が指摘されています。しかし、その一方で、現行の登録制度は、違法に持ちこまれた個体を排除するような仕組みにはなっておらず、そうした個体に登録票が付与され、いかにも合法に入手された個体として流通してしまう懸念が持たれます。

CITESでは、締約国は、条約違反に係る標本の取引防止など適当な措置をとることが定められています(条文第8条)。日本は、ペットとして扱われる動物を数多く輸入している締約国のひとつとして、水際の対策強化に加え、国内の管理体制についても、違法な取引を助長しない仕組みを構築する責任があると考えます。種の保存法が規制する国内取引においても可能な限り個体の合法性を追求し、適切な条約執行に努めるべきです。

以上のことからWWFジャパンは、日本政府に対し、種の保存法における登録制度の運用を厳格化するため、以下の対策を速やかにとることを強く要望するとともに、今後の法改正に向けては、登録の要件に取得の合法性を明示すべく検討を進めることを求めます。

I. 規制適用日前に違法に国内に持ち込まれた可能性が疑われる種については、取得の合法性確認を行う
II. 国内で繁殖した個体等の登録において、親個体となる登録個体とその繁殖個体の親子の確認に科学的証明を求める
III. インドホシガメについては、輸出国における取得の合法性まで遡り、確認ができない個体の登録は控える

I.    規制適用日前取得個体の登録の運用について

規制適用日前に違法に国内に持ち込まれた可能性が疑われる種については、取得の合法性確認のために登録申請書類として、以下の書類の提出を義務付ける。

  • 規制適用日前に日本に輸入された個体 輸出許可書等の公的書類の写し  
  • 規制適用日前に日本に輸入された個体の繁殖個体 繁殖業者が発行する証明書や親個体の輸出許可書の写し 書類がない場合は、必要に応じて繁殖業者へのヒアリング、立入調査等の実施

また、貴省のウェブサイト等で上記必要書類を明示し、審査の厳格化を広く国民に周知する。

<説明>

種の保存法第20条第1項の規定に基づく個体等の登録要件として、適用日前に取得、又は輸入された個体が定義されている(施行令第8条第2号)。これに基づき、登録申請には個体が適用日以前に取得、または輸入されたことを証明する書類の提出が求められているが、それだけでは取得の合法性を確認することはできない。
追加指定される16種の一部は、CITESの附属書Ⅱから附属書Ⅰにアップリスティングされているが、コツメカワウソやインドホシガメはペットとして人気が高く、すでに日本に多く輸入され、流通している。これまでに附属書Ⅱ掲載種が輸出国の許可を得ずに密輸され、国内に持ち込まれたケースも確認されているが、日本で販売される当該種は、密輸が疑われるケースでも、その違法性を追求することが極めて難しく、国内に流入してしまうと合法に取引がされてしまう。さらに、ペット事業者が密猟や密輸事件に関与する事件も頻発しており、国内のペット市場に密輸された個体が紛れている可能性は十分に考えられる。
TRAFFICの調査及び日本の税関の差止記録によると、2016年~2017年までに日本国内外の税関で押収されたカワウソは39頭にも及び 、2018年も2件、計8頭のカワウソの密輸(未遂含む)が国内で摘発された 。インドホシガメも、1983年以降42,000頭余りが輸入され(CITES Trade Database)、国内市場で活発に取引がされているが、2012年に同種5頭が日本の空港で差止められている(税関ワシントン条約該当物品輸入差止等実績)。
こうした状況を踏まえると、これまでの「規制適用日前に取得した」ことの証明だけでは、過去に密輸された個体も規制前から国内に存在しているという理由だけで登録がされ、いかにも合法に入手した個体として販売されるおそれがあることから、密輸された個体を国内市場から排除するような運用を行うべきである。

II. 国内繁殖個体の登録の運用について

国内で繁殖した個体等の登録において、親個体となる登録個体とその繁殖個体の親子の確認にDNA鑑定等を用いた科学的証明を求めるべきである。
特に近年密輸の事例が相次いだカワウソについては、早急に上記方法を導入し、その他の種についても、同様の運用を目指し、その実現に向けて検討を始める。科学的証明の導入までの措置として、獣医師による個体の妊娠や出産の確認、証明書の提出を求めることとする。
なお、科学的証明の適切かつスムーズな運用のため、政府は研究機関等と連携し、審査が行えるような体制を整える。

<説明>

種の保存法第20条第1項の規定に基づく個体等の登録要件として、国内繁殖した個体が定義されている(施行令第8条1号)。
登録申請の際に繁殖証明書と繁殖経緯を説明した書類等の提出が求められているが、上記書類はどちらも申請者自身による説明と写真のみで、親子関係を証明する目的を果たしているとは到底言えない。密輸された個体が、登録した個体の繁殖個体だと偽って申請がなされ、登録されるべきではない個体が登録される危険性がある。
2018年に発生したカワウソの密輸(未遂を含む)事件では、密輸された個体の8頭すべてが幼獣であった 。専門家によると、カワウソの幼獣は種の特定さえ難しく、肉眼で親子の真偽を判断することはほぼ不可能であると言われている。一般的に成獣よりも幼獣がペットとして好まれ、高値が付くことから、今後も幼獣の密輸が続き、違法に持ち込まれた個体が登録個体の子であると偽って登録されるロンダリングが起こる可能性は十分にある。よって、上記措置が妥当である。

III. インドホシガメの登録の運用について

インドホシガメは、各地で密輸が止まないほか、ヨルダンから大量に輸出される繁殖個体について、CITESで同国内での取得の合法性の証明が不十分という判断がされ、輸出停止等の措置が取られている。 そのため、同種については、輸出国における取得の合法性まで遡り、確認ができない個体の登録は控えるべきである。

<説明>

インドホシガメは、世界的にもペットとして人気が高く、日本でも活発に取引がされている種の一つである。1983年以降、日本は42,000頭を超えるインドホシガメを輸入してきた(CITES Trade Database)。一方で、同種は、密猟や密輸の標的にもなっており、世界各地で密輸個体が押収される事例 が確認されている。また、近年は、合法性の確認ができない個体を繁殖個体と偽り、生産国以外の国を経由して輸出されている可能性が指摘されている。
中でもヨルダンはインドホシガメの非生息国でありながら、繁殖施設を有し、最大の輸出国となっているが、このヨルダンからの輸出に関して、繁殖に利用されている原資個体の由来の確認がされていないこと、施設の繁殖能力と比較して、CITESの取引記録で確認される輸出個体数が多すぎるという指摘から、2017年以降、CITESの決議17.7に基づくレビューが発動されている。CITESはこれまでに、ヨルダン政府に対し、インドホシガメの輸出の停止、さらに、原資個体の合法入手の証明や科学的根拠に基づいた施設の繁殖能力に関する情報の提供を求め、ヨルダン政府は、輸出を停止するとともに、合法入手の証明ができない旨を回答 している。CITESは、合法性の取得が十分に確認できないという理由から、ヨルダンの繁殖個体は、決議10.16で規定された繁殖個体の基準を満たしていないという評価6を行っている。
また、2017年2月には、ヨルダン政府の依頼を受けたCITESによって、ヨルダンからの輸出許可書が偽造、使用されている懸念があるとされ、すべての許可書を無効とみなすべき、という通知 が全締約国に対して発行された。少なくとも、2008年~2013年の間に日本向けの貨物としてタイで押収された同種570頭には、偽装されたヨルダンからの輸出許可書が添付されていた ことが明らかになっている。
さらに、TRAFFICが行なったペット市場調査では、ここ1年以内にヨルダンからの輸入があったことや、CITESで問題視されている上記取引を裏付けるような情報が販売事業者から得られている。
日本は長年に渡ってヨルダンからインドホシガメの輸入を行なっており、2004年~2017年の間に同種を20,000頭以上も輸入している(CITES Trade Database)。合法性が疑われる個体が日本に持ち込まれているということを十分に認識し、すでに国内に流入している個体の登録については、こうした近年のCITES取引の問題を勘案し、登録の可否を判断するべきである。

以上

お問い合わせ先

C&M室プレス担当 Email: press@wwf.or.jp

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