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カワウソをペットにしないで!隠れた現実が調査で明らかに

この記事のポイント
絶滅のおそれが懸念される野生生物のカワウソ、日本に向けた密輸事件が近年増えています。一方、国内ではカワウソカフェが各地でオープンし、テレビやSNSでも大人気。カワウソをペットにしたいと考える人も増えているようです。この高まる需要を支える要因と、供給の実態を把握するため、TRAFFICは調査を実施し、報告書『Otter Alert:日本に向けたカワウソの違法取引と高まる需要の緊急評価』を発表しました。調査から、マスメディアやSNSから発信されるカワウソの「可愛い」一面が、見る人々に偏った印象を与え、需要を喚起している背景が見えてきました。日本において、カワウソのような「エキゾチックペット」取引の法体制が整っていないことも浮き彫りになり、高まる需要と相まって密輸を誘発している可能性が明らかになりました。

「人気者」が絶滅の危機に!?

目下、日本で大人気のカワウソ。お気に入りのカワウソに投票するイベント「カワウソゥ選挙」が開催され、「ゆるキャラ」まで登場するなど、人気の過熱ぶりはSNSをはじめ、さまざまなメディアを賑わせています。
しかし、野生生物としてのカワウソ類は今、少なからぬ種が絶滅の危機にあります。川の流域や海辺など生息地である水辺の自然の開発や、水質の汚染といった環境破壊がその主な理由です。

さらに、ペットとしての需要などが、野生の個体の密猟などにつながり、その減少に拍車をかけていることも懸念されています。
近年では日本のカワウソ需要も、これに関係している可能性が指摘されています。
密輸の問題も深刻です。

カワウソ類の生息地の一つである東南アジア諸国を対象に、野生生物の取引を監視するTRAFFICが行なった調査によると、2015年から2017年の2年間に、密輸される途中で摘発・押収されたカワウソのうち、実に半数以上が日本に向けたものでした。
これらカワウソはいずれもペットとしての需要が高い幼獣で、日本で転売することが目的であったと考えられます。

この状況をうけ、日本はどの程度カワウソを取引しているのか、また、ペットとしての人気が高まる背景を明らかにするため、WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるTRAFFICの日本オフィスは調査を実施。2018年10月19日に、その結果をまとめた報告書「Otter Alert:日本に向けたカワウソの違法取引と高まる需要の緊急評価」を発表しました。

【取引の問題】無規制のペットビジネスの実態

国家間で行なわれる「国際取引」の課題

カワウソのような絶滅が心配される野生動植物は、人々が過剰に利用することで絶滅の危機が高まることのないよう、「ワシントン条約」という国際的な法律で国から国への輸出入(国際取引)が規制されています。
この条約は、あらゆる取引を禁止するためのものではありません。
絶滅危機がそれほど大きくない動植物であれば、条約の定める適切な手続きを行なうことで、合法的に取引することが可能です。
しかし、こうした手続きを取らずに、違法に取引(密輸)が行なわれる事件は、日本でも後を絶ちません。今回TRAFFICが行なった調査でも、2000年から2017年にかけて日本が関与した国際的な違法取引において、52頭のカワウソが密輸未遂で保護・押収されたことが明らかにされました。このうち39頭、すなわち75%は2016年以降に押収されており、近年増加傾向にあることが分かります。

一方、ワシントン条約のルールを守った合法的な国際取引が、どの程度行なわれたかも調査しました。ワシントン条約の取引記録によれば、2000年から2016年の間にペットショップなどで販売する商業目的として日本に輸入されたカワウソは83頭。そのうち89%が、カワウソ類で最も小型で人気の高いコツメカワウソであることが分かりました。

商業目的として日本に向けられた生きたカワウソの輸入記録(2000年から20016年)

こうした日本に向けた取引は、ワシントン条約のルールの下、合法的に輸入している限り、問題はないように思えます。
しかし、今回の調査では、条約の規制を守っていないと考えられる事例も確認されました。
例えば、輸入した「このカワウソは繁殖施設で生まれた」と記録があるカワウソの個体が、実は違法に野生から捕獲された可能性を示す記録が発見された事例です。
また、手続き書類上は「日本の動物園や水族館で展示するために輸入」されたはずのカワウソの個体が、ペットショップの狭い檻で販売されていた事例も見つかりました。
これらはいずれも、ワシントン条約の規制を守らずに輸入されたカワウソが、日本国内では「合法」に取引された例で、問題の認められる行為です。

輸入は違法、でも「国内取引」はOK?

実際、日本国内には違法な、また過剰な国際取引から、希少な野生動植物を守る「ワシントン条約」の目的にそった、取引の規制を行なう国内法が整っていません。
カワウソのように、国内での取引が禁止、または規制もされていな動植物は、一度日本に輸入されてしまえば、基本的に自由に取引が可能です。
今回の調査でも、2011年以降、インターネット上で少なくとも合計85頭のカワウソがペットとして広告・販売されていたことが明らかになりました。一頭の値段は、80万円から160万円を超える価格。こうした高値で販売されるカワウソの赤ちゃんも見つかりました。
特に調査結果が示した重要な点は、販売されているカワウソの出所が不明確で、販売する業者などがそれを開示していない、いう点です。
確認された85頭のうち、46%は国内の飼育繁殖施設から、20%は輸入によるもの、残りの34%はこうした由来がありませんでした。
さらに、「飼育繁殖施設」や「輸入」と記載があっても、その施設がどこにあるのか、輸入する前はどこにいたのか、特定可能な情報は見つかりませんでした。

これは、日本で動物を販売する際、その出所を明記するよう求めている「動物の愛護及び管理に関する法律」を、多くの販売者が遵守していなかったことを示しています。

また日本には、動物の取引業者に対し、輸入から販売に至るまでのトレーサビリティ(流通経路の透明化)の確保を義務付ける法律がないことも、根本的な問題と言えます。
事実、規制の緩い現在の日本では、密輸されたカワウソや、動物園で生まれたカワウソが、ペットショップで販売されている可能性がある、と証言した販売者もいました。
これは、日本のペット市場で、違法に持ち込まれたカワウソが販売されている可能性がある、ということです。

カワウソの出所に関して日本の動物園と水族館に調査を行なった結果(N=50)

日本の動物園や水族館が繁殖した個体を動物販売業者と取引した経験があるかの回答(N=30)

【需要の問題】過熱する人気と需要の現状

時には一頭100万円以上の値が付き、出所も不確かでも、日本で大きな人気を呼んでいるカワウソ。その需要は何に支えられているのか。
今回の調査ではその背景も明らかにするため、GoogleトレンドやSNSでの発信内容を確認。カワウソ人気の動向についても、調査を行ないました。

インターネット上での検索キーワードを調べた結果、日本では2012年以降、徐々に「カワウソ」というキーワードの検索量が増し、特に2017年にピークに達したことが明らかになりました。
これは2017年8月、絶滅したはずの二ホンカワウソが再発見されたのではないか?という報道が、大きく取り上げられたことが原因と考えられます。しかし、これとは別に、2016年以降になると、「カワウソ」というキーワードとセットで、「ペット」「価格」「カフェ」「選挙」といったキーワードが、数多く検索されるようになったことも分かりました。

Google トレンドを用いて「カワウソ」のワードで検索した結果。人気の程度が見て取れる

この結果から、一般の間でカワウソがペットや猫のような愛玩動物、また、人気のペットとして強く認識されている可能性が見えてきました。
そのトレンドを示すヒントとなったのは、まさにカワウソをペットとして飼っている人々の反応です。

TwitterやInstagramといったSNS上で、飼い主たちはカワウソの日常を投稿。同時に、どういった理由でカワウソを飼い始めたのかなどについても、コメントを残していました。
その結果、確認できた7人の事例のうち4人は、テレビでカワウソを見たことがきっかけであった、と説明。他には動物園や水族館、ペットショップやYouTubeでカワウソを見たことが、飼育のきっかけになったとしています。

©TRAFFIC

カワウソカフェでエサをもらうカワウソ

実際に、SNSで話題になっていた番組や、動画の投稿内容を確認したところ、そこには有名人と旅行するカワウソや、自宅で飼われているペットのカワウソが多く取り上げられていました。
こうしたマスメディアやSNSで発信される情報が、「カワウソはペットとして飼える」という印象を強く与え、新たな需要を喚起している可能性が高いと考えられます。

問題点の解明とその改善に向けて

今回の調査から明らかになった問題点は主に次の2点です。

  1. 日本のエキゾチックペット(珍しい海外の動物のペット)市場の取引規制の緩さ
  2. ペット需要に拍車をかける各メディアでの扱い方

これらは互いに相乗効果をおよぼしながら、野生のカワウソの違法な捕獲や、その密輸、そのペットとしての販売につながり、野生のカワウソを絶滅の危機に追い込む、間接的な要因につながっていると言えます。

全てのカワウソの販売や飼育が、合法的に行なわれている例もあると考えられます。
しかし、犬や猫のように暮らし、アイドルのように人気投票が行われ、SNSを賑わせる一方で、野生のカワウソの危機は省みられることなく、可愛い「一面」ばかりが、見る人々に強い印象を与えていることは、間違いありません。
この状況がさらなるペット需要を喚起し、東南アジアからの密輸増加に繋がること事態は、絶対に避けねばなりません。

TRAFFICは今回の調査で明らかになった以上の問題を解決するために主に以下を提言しました。

  • 日本政府は取引のトレーサビリティが確保されるよう、法的な枠組みを整備すること
  • マスメディアやSNSの提供者は、一般市民が、絶滅が危惧される動物に対し偏った印象を持たないよう、それぞれが責任感を持った情報発信に努めること

SNSについては、海外ではすでに、Instagram上で絶滅危惧種の投稿をすると、注意喚起メッセージが表示されるなど、新たな工夫も始められています。

日本においても、こうしたカワウソのような野生動物を密猟や密輸の危機から守るために、国内の規制を厳しく整え、安易なペット人気に伴う需要の高まりを見直すよう、この問題に真剣に向き合う必要があります

報告書

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