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ウェビナー開催報告:企業が知っておきたい「気候変動に関する国連会議COP27」報告~2023年に向けて役立つCOP27からの示唆~

この記事のポイント
2022年11月、エジプトのシャルムエルシェイクで、気候変動に関する国連会議COP27が開催されました。この会議は、途上国の損失と損害に対する新基金の創設に合意する歴史的な成果を上げました。しかし、前年のCOP26で世界の共通目標になった1.5度目標の実現に必要な2030年目標の強化には至りませんでした。2022年12月13日、このCOP27から特に企業が知っておくべき内容について、会議に参加したWWFジャパンの3人の専門家がお伝えするウェビナーを開催しました。配信時の概要と発表資料を公開します。
目次

気候変動をめぐる国際交渉から、企業は何を学ぶべきか?

エジプトで開催されたCOP27 その成果と失敗

2022年11月6日から20日まで、国連気候変動枠組み条約の第27回締約国会議(COP27)が、エジプトのシャルムエルシェイクで開催されました。

温暖化による被害に脆弱なアフリカで開催されたこのCOPにおいて、議長国エジプトが重視したのが、温暖化の損失と損害にどう国際社会が対応していくか、という課題です。

この議論の結果として、COP27では、「損失と損害」に対する新基金設立が決定。気候変動をめぐる国際交渉において、前例のない一歩が踏み出されることになりました。

その一方で、地球の平均気温を1.5度に抑えるために必要であった2030年に向けた、各国の温室効果ガス削減強化は、残念ながら合意されませんでした。

それでも高まる世界の「脱炭素」の機運

日本では、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機やコロナなどで、脱炭素の足並みの乱れを指摘する声もありますが、
それでも、今回開催されたCOP27は、むしろ脱炭素化の動きが強まっていることを感じさせるものでした。

その象徴的な動きの一つが、2021年イギリス・グラスゴーでのCOP26で決まった「石炭火力の段階的削減」の文言を、COP27ではさらに強め、「(排出減策を講じていない)化石燃料全体の段階的廃止/削減」とするべき、という声が、あがったことです。

この声はアラブ諸国などの反対により、会議での合意こそ実現しませんでしたが、EUやアメリカなどの先進国はもちろん、温暖化による災害に脆弱な途上国の国々によって支持されました。

こうした動きは、次回、2023年末にアラブ首長国連邦で開催されるCOP28に向けた大きな力となっていく事が予想されます。

企業がCOP27から学ぶべきことは? ウェビナーを開催

気候変動をめぐる世界の潮流を知ることは、日本企業が今後のビジネスを考える上で、重要な知見となります。

そこで、WWFジャパンでは、会議終了後の2022年12月13日、COP27の議論の結果と経緯について、特に日本企業が知っておくべき内容を、現地に赴いたWWFジャパンの小西雅子、山岸尚之、田中健が報告するウェビナーを開催しました。

本ページでは、ウェビナー開催時に3名が使用した、発表要旨と資料、講演の動画を紹介し、セミナーの概要を報告いたします。

*こちらの内容は、ウェビナー開催直後にご案内した、こちらのイベント報告を再録したものです。

【アーカイブ録画あり】ウェビナー:企業が知っておきたい「気候変動に関する国連会議COP27」報告 2023年に向けて役立つCOP27からの示唆

プログラム

進行説明:WWFジャパン 田中健

1)解説:COP27の成果について 損失と損害を中心に
      WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子

2)解説:COP27の失敗について 緩和の議論からの示唆
      WWFジャパン 自然保護室室長 山岸尚之      

3)解説:COP27注目の非国家アクターの動き
      WWFジャパン 気候・エネルギーグループ 田中健

4)解説:企業が知っておきたいCOP27からの示唆まとめ
      WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子

各講演の概要

解説 COP27の成果について 損失と損害を中心に

WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子

COP27について解説するにあたり、2021年のCOP26の成果を振り返ってみると、パリ協定の目標が1.5度に事実上強化され、パリ協定のルールが完成したこと、そして石炭火力の段階的削減がCOP決定に明記されました。

また、今やCOPは、自治体や企業、機関投資家などの非国家アクターが国を超えて連盟を結び、連帯して行動することを宣言する場、脱炭素に取り組むステークホルダーが参集し、潮流を生み出す場になっています。企業にとっては、今後の経済のゆくえを左右する脱炭素化の潮流を見極めるために不可欠な機会といえます。

ところで、COP27の背景として、2022年は世界中で異常気象が頻発したことがあげられます。特にパキスタンでは、国土の3分の1以上が浸水する大洪水が起きました。
こうした異常気象に温暖化が関与していることを科学的に分析することは難しかったのですが、イベントアトリビューションという科学の進歩によって、どれだけ温暖化との関連があるのか明示できるようになりました。

たとえば「ワールドウェザーアトリビューション」というサイトは、パキスタンの洪水のわずか2か月後に、温暖化の影響に関する科学的根拠を発表しました。

このことは、異常気象が化石燃料会社などの企業責任とリンクされやすくなることを意味します。

COP27に先立って発表されたIPCC第6次評価報告書は、「ソフトな限界は克服しうるが、一部の生態系はハードな限界に達している。さらなる気温上昇で損失と損害が増加し、適応の限界に達するだろう」と明言しました。

今回のCOPの特徴が、ここに表現されています。すなわち、これまでの温暖化対策は削減を強化する緩和と、温暖化の影響に対する適応の2つでしたが、いよいよ適応を超えた被害、損失と損害が出ていることが誰の目にも明らかになった中で開催されたのです。

そのため、会議の冒頭から、損失と損害への資金支援を訴える途上国が相次ぎました。

損失と損害への対策は、気候変動枠組条約ができる1991年ごろから、小島嶼国連合などが求めてきました。

しかし、国際法で正式に認められれば、歴史的排出責任のある先進国が法的責任を問われ、補償を求められる可能性があります。

そのため、先進国はできるだけ議論を避けよう、できれば技術的支援にとどめようと、議論を回避してきました。

その後、パリ協定の8条に盛り込まれたものの、COP21決定に「法的責任や補償の根拠を含まない」という注釈が添えられました。新資金の創設は、こうした30年の長きにわたる交渉の末に合意されたのです。

次に、議論の経緯についてご報告させていただきます。
まず会議の冒頭で、議長国エジプトの意向を反映して、損失と損害に対する資金アレンジが正式な議題として採択されました。

しかし、途上国が新資金の設立を求めたのに対し、先進国は既存の人道支援や国連の防災組織などがあるので、何が足りないのかを2年間議論して支援の形を決めようと主張し、議論は膠着しました。

事態が動いたのは、欧州連合が途上国に譲歩する提案を出した2週目のことでした。しかし、一見すると譲歩のように見えるこの提案には、2つの条件がありました。

ひとつめは、資金源には先進国に加えて新興国も入れ、革新的メカニズムと言われる国際航空船舶税や化石燃料企業などにまで広げたこと。

ふたつめは、資金を受ける国は気候変動に最も脆弱な国々に限るということです。

この提案には、途上国グループ、特にサウジアラビアなどアラブ連合が反発したため、次の議長案では、資金の受け手は広く途上国全体に拡大されました。

しかし、この議長案には、欧州連合をはじめとする先進国が反対。

そして、会期を延長して土曜日の未明に示された新たな議長案のとおり、資金の受け手は「特に脆弱な国」と曖昧にしたまま合意され、新基金の内容はこれから設立される移行委員会で話し合い、COP28 で決められることになりました。

これまでの国連交渉にはなかった画期的な合意の背景には、世界全体で損失と損害が拡大したという事実があります。

先進国も損失と損害を受けることに変わりはありませんが、途上国には多くの人命を救う早期警戒システムはもちろん、天気予報さえない国が約200 か国中 80か国もあります。

途上国がいかに温暖化に脆弱であるかを国際社会が認め、国際的な連帯、公正な支援として新基金の創設に合意したのです。

この決定は日本にとって、ふたつの意味で大きな影響をもたらします。

新基金の創設によってこれまで資金が回りにくかった適応や防災分野に資金が動くことになりますので、日本企業にとってはビジネスチャンスが広がります。

一方で、損失と損害の科学的根拠が示されるようになるため、化石燃料を扱う企業には訴訟リスクが増大する可能性が生まれます。

ところで、先進国側がなぜここまで譲歩したかといえば、この問題に結論が出さなければ、先進国が求める途上国排出削減の強化、特に中国やアラブ諸国など排出量の多い国々の削減強化という成果が得られないと考えたからです。

しかし、削減強化についてはCOP26を上回る成果を得ることができず、COP28に持ち越されることになりました。

資料:https://www.wwf.or.jp/activities/data/20221213Konishi_.pdf

損失と損害に対する新基金設立に合意
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損失と損害に対する新基金設立に合意

解説 COP27の失敗について 緩和の議論からの示唆

WWFジャパン 自然保護室室長 山岸尚之

COP27は損失と損害に対する新基金を創設という成果をもたらしましたが、緩和の分野では期待された結果を出すことができませんでした。

私からは、この点について、ふたつのポイントから報告したいと思います。

ひとつめは昨年のCOP26で初めて言及された化石燃料、特に石炭火発の段階的削減について前進が見られなかったこと。
ふたつめは1.5度目標の実現に必要な2030年目標の引き上げをめざす緩和作業計画でも成果を上げられなかったことについて、順に説明していきます。

化石燃料削減の国際潮流は、2009年にアメリカのピッツバーグで開催されたG20にさかのぼります。

このときに使われた「非効率な化石燃料に関する補助金を合理化し、段階的に廃止する」という文言は、2022年のG20までほとんど同じ表現で受け継がれています。

2021年には、イギリスで開催されたG7で「2030年代の電力システムの最大限の脱炭素化」と、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への政府による新規の国際的な直接支援の2021年末までの終了」にコミットするという表現が入り、イタリアで開催されたG20でもほぼ同じ文言が引き継がれました。

次いで、2022年ドイツで開催されたG7では、「排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援の2022 年末までの終了にコミットする」と、対象が化石燃料全体に広げられました。

さらにインドネシアで開催されたG20では、「ゼロ排出および低排出電力の導入」という言葉が入りました。

このように化石燃料削減の基本的な路線は連綿と受け継がれ、少しずつ進展してきた歴史があります。

この潮流の主体は、国だけではありません。国と非国家アクターが連携する取り組みもあります。

たとえば2017年のCOP23でイギリスとカナダが主導した脱石炭連盟(PPCA)は、国だけでなくて、州政府や自治体などにも呼びかけて発足しました。

20ほどの国と州政府、自治体や企業でスタートしたメンバーは現在、国だけでも48か国に増加しています。

2021年のCOP26では、ガスや石油からの脱却をめざす脱石油ガス連盟(BOGA)が誕生。デンマークとコスタリカが共同議長を務めるこの連盟のメンバーは、まだ多いとはいえませんが、2022年はポルトガルや米ワシントン州などが加わり、チリやフィジーが準参加しています。

また、COP26では議長国イギリスが呼びかけた国内の石炭火発の廃止、そして海外の化石燃料エネルギーセクターへの公的支援停止の声明にかなりの国が支持を表明しました。

このように、化石燃料を削減しようとする潮流は、国のレベル、G 7 やG 20 のような主要国レベル、非国家アクターを交えたレベルでも、少しずつ拡大してきています。

さらに、COP26決定では、「排出削減対策が講じられていない石炭火発を段階的に削減していく方向への努力を加速することを(中略)締約国に求める」という文言が使われました。

COP27ではこの文言をさらに進め、石炭だけでなく化石燃料全体に広げる、あるいは「段階的削減」を「段階的廃止」に強化することが期待されていました。

しかし、最終局面でアラブ諸国などが強く反発したため、去年の決定文を繰り返すことになりました。

この点について欧州委員会は、「80か国以上も国がこのゴールを支持しているのに反映されていない」と強い不満を表明しました。

次に、各国のNDCの引き上げをめざした緩和作業計画について報告します。

各国が掲げる2030年の削減目標を足し合わせても 1.5 度の目標の達成ができないことは、パリ協定が採択された当時からわかっていました。そのため過去のCOPでは、削減目標の強化を呼びかける文言が決定文書に盛り込まれてきました。

実際、パリ協定の成立から2022年12月13日時点まで169か国がNDCを更新していますし、COP26以降では34か国が更新したり、新しいNDCを提出したりしています。

COPが各国に目標の引き上げを呼びかけ、各国は目標を改善するパリ協定のしくみは機能し始めているといえます。

しかし、それでもまだ必要な削減量には足りないため、2021年のCOP26では、COP27で実質的に削減目標を強化するための緩和作業計画を策定することが決まりました。

パリ協定には5年ごとに各国のNDCの引き上げを目的とした「グローバル・ストックテイク」というしくみもありますが、その射程は各国が2025年に出す2035 年目標です。

一方、緩和作業計画の対象は、まだ不十分な2030年目標の強化です。結論からいえば、この緩和作業計画は強い表現にはなりませんでした。

ところで、COP26の合意文書では、「気温上昇を1.5度以内に抑えることを決意する」という文言が使われています。

通常こうした表現が使われるときは必ずパリ協定2条1項の「2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求する」という文言がそのまま使われますが、あえて1.5度を特出しして、事実上1.5度を共通目標にしたことがCOP26の大きな成果でした。

この文言はCOP27決定でも繰り返されたものの、それ以上の進歩はありませんでした。さらに強化することもなく、逆にいうと後退もしませんでした。

また、表現の強弱はあるものの、COP26までは各国に対する削減目標の呼びかけが繰り返されてきましたが、2022年は呼びかけの対象がNDCを更新しない、あるいは新しい目標を提出していない国に限定されました。

本来なら日本を含めてすでに目標を提出している国に対しても強化を求める言葉を盛り込むことが期待されていましたが、これも実現しませんでした。

しかも、緩和作業計画においては、各国の削減目標を強化するために、たとえば電力や鉄鋼、住宅などのセクターごとの削減ポテンシャルを検討する強力なプロセスにすべきでした。

しかし、この点にも新興国を中心に強い反対があったため、新しい目標やゴールを課さないという制限がかけられ、2026年までに少なくとも毎年2回対話を開催することになりました。

このように、緩和の分野で前進は見られませんでした。
ただし、目標やゴールを課さないとはいえ、パリ協定の特徴はNDCという言葉を使うこと、つまりターゲットやゴールが設定されないとしても、各国はNDCを強化することができることにあります。

企業のみなさんには、COPでも、G7でも、G20でも、非国家アクターのイニシアチブでも、化石燃料の段階的廃止への潮流は確実に生まれていることを、見誤らないようにしていただきたいと思います。

資料:https://www.wwf.or.jp/activities/data/20221213Yamagishi.pdf

明暗の分かれたCOP27の成果
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明暗の分かれたCOP27の成果

解説 COP27注目の非国家アクターの動き

WWFジャパン 気候・エネルギーグループ 田中健

ここ数年、COP20の前後から、非国家アクターがCOPに参加し、交渉の外でその取り組みを発信する、あるいは非国家アクターの連合体が新しい発表をするようになっています。

COP27にも多くの非国家アクターが参加し、さまざまな活動を展開しました。

今日はこうした非国家アクターの動きの中で、まず1.5度目標に向けた「ネットゼロ宣言・行動の信頼性と透明性を強化していく動き」について、次いで「適応とレジリエンスを高める行動を加速する動き」について、2つの成果ポイントを中心にご報告します。

まず、ひとつめの成果ポイントである、1.5度目標に向けたネットゼロ宣言・行動の信頼性と透明性の強化についてですが、これが必要になった背景には、ネットゼロ宣言をする非国家アクターの急増があります。

たとえば国連が主導する「レース・トゥ・ゼロ」というキャンペーンには、1.5度目標を達成するために2030年までに排出を半減して、2050年までにネットゼロを実現するという目標の下で、次の5つの要件に賛同し、約束した企業などの非国家アクターが参加しています。

その5つの要件とは、1.5度目標を達成する「誓約」をし、「計画」を立て、「行動」を進め、「進捗」を公開し、さらに他の外部の非国家アクターを「説得」し、このキャンペーンへの参加を促していく、というものです。

「レース・トゥ・ゼロ」キャンペーンの参加主体の数は、2020 年 6 月の2000から2022年 9 月時点の 1万1000 まで増加しており、この1年にだけでもほぼ倍増しています。

このように、ネットゼロ宣言は増えていますが、その中身はさまざまで、問題も起きるようになりました。

企業の中には、実質的な削減につながらない自社の取り組みを、ネットゼロのアクションと称してPRする、グリーンウォッシュの動きもあります。

2021年のCOP26で国連のグテーレス事務総長がこの問題に言及し、非国家アクターのネットゼロ宣言の信頼性と透明性を担保する基準を策定すると発表。

その後に設立されたハイレベル専門家グループがまとめたネットゼロ宣言に関する提言書が、COP27で公表されました。

その提言書には、10の提言がまとめられています。
その内容は、ネットゼロの誓約を公表し、実現するための短期・長期の目標を立て、目標達成のための計画を策定し、進捗等の情報を開示することに加え、手段としてのボランタリークレジットの使用のあり方、化石燃料の段階的廃止と再生可能エネルギーの利用拡大、さらに自組織の方針とロビーングやアドボカシーとの整合までを含む包括的なものです。

国連が今回、このネットゼロの世界基準とも目される提言書を出したことで、非国家アクターは今後、ネットゼロの取り組みの質が問われることになります。
これはネットゼロに取り組む企業にとって重要な示唆になります。

もうひとつの成果ポイントは、適応とレジリエンスを高める行動の加速です。
適応に関して国連は、「レース・トゥ・ゼロ」と並ぶ「レース・トゥ・レジリエンス」というキャンペーンを立ち上げています。

2021年1月に発足したこのキャンペーンの目的は、2030 年までに気候リスクに対して脆弱なグループやコミュニティに属する40億人のレジリエンスを高めるために非国家アクターの適応行動を促進することにあります。

非国家アクターは、このキャンペーンに、パートナーイニシアチブと呼ばれる適応策を進める団体を通して参加することになっています。

このパートナーイニシアチブには、企業向けのものから自治体向けのものまでさまざまな特長があり、それぞれの適応分野で企業が連携したり、あるいは自治体のレース・トゥ・レジリエンス参加を促進するなどさまざまな動きが進んでいます。

たとえば「レジリエンス・ファースト」というイニシアチブには、すでに600以上の企業が参加。その多くは英国を中心とした欧州や米国の企業ですが、三井不動産UKや日立レールヨーロッパなど欧州ベースの日系企業も名を連ねています。

それぞれのパートナーイニシアチブを見ていただけば、どんな企業が適応やレジリエンスの分野でアクションを起こそうとしているのかがわかり、今後の取り組みのヒントが得られると思いますので、参考にしていただきたいと思います。

さらに、もうひとつの大きな動きとして、「シャルムエルシェイク適応アジェンダ」の発表があります。

COP27議長が設立を発表したこのアジェンダの策定には、レース・トゥ・レジリエンスのキャンペーンをリードするハイレベルチャンピオンと呼ばれる方々が関わっています。

このアジェンダは、レース・トゥ・レジリエンスと同じように、2030 年までに40億人のレジリエンスを強化するために、食料安全保障や農業、水資源と自然、人間の居住環境などの7分野において30 の適応成果目標を掲げています。

これから適応ビジネスに乗り出そうとする企業、あるいは適応計画を立てようとする自治体にとって、適応やレジリエンスを強化するためにはどんな視点をもち、どんな適応をすれば、世界がめざす適応やレジリエンスの強化に貢献できるのかという示唆が得られると思います。

このように、1,5度目標と整合するネットゼロ宣言は、宣言から行動、そしてその信頼性と透明性が求められるようになってきました。

また、国だけではなく、非国家アクターについても適応やレジリエンス強化のための行動が重要視されるようになっています。

国家政府だけでなく非国家アクターにも、緩和と適応の両面で行動の強化や連携が求められると同時に、その中身や質の担保も求められるようになってきたことが、今回のCOP 27 での大きな動きといえます。

資料:https://www.wwf.or.jp/activities/data/20221213Tanaka.pdf

ネットゼロ宣言は質が問われる
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ネットゼロ宣言は質が問われる

解説 企業が知っておきたいCOP27からの示唆まとめ

WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子

企業のみなさんへの示唆についてお話する前に、まず日本が置かれている立場、その課題と期待について補足させていただきます。

日本は、2023年のG7議長国になります。ご存知のように、日本はG 7 の中で石炭火力の廃止計画を表明していない唯一の国です。

また、COP27では世界最大のNGOネットワーク、CANインターナショナルが、日本が化石燃料に対して世界最大の公的資金を拠出していることを理由に、温暖化対策を後退させる国に贈る「化石賞」を与えました。

G7の議長国として、化石燃料の推進国と見なされることは得策とは言えません。

エネルギー危機の中でも石炭火力の廃止方針は揺るがないどころか、ますます強まっています。

COP27では、2021年のCOP26で石炭火力の段階的廃止の表現を弱めたインドが、公の場でこそ発言しませんでしたが、二国間会合などですべての化石燃料の段階的削減を主張していたことが明らかになりました。

この提案には欧州連合、ラテンアメリカ諸国、小島嶼国連合など80か国が賛同しています。このうねりはCOP 28でさらに大きくなると予想されます。

また、脱石炭世界連盟や脱石油ガス連盟の参加国が増加しているように、世界は石炭だけではなく、ガスも削減や廃止の方向への圧力が高まっており、遠からず排出削減が迫られることを認識する必要です。

さらに、削減対象となる化石燃料を用いた発電には、「排出削減対策を講じていない」という言葉が入っています。

何が排出削減対策を講じていない発電であるかについて、国連交渉では具体的に示されていませんが、IPCCの第6次評価報告書では「化石燃料の生産から使用までのライフサイクル全体でたとえば火力発電の場合は90%以上の温室効果ガスを削減した発電」と定義されています。つまり、日本が進めている2030年段階での火力発電の20%アンモニア混焼は、このレベルの削減に至らないことにも注意を払う必要があります。

日本では、インドなどの大排出国、2023年のホスト国となるアラブ首長国連邦などの新興国があまり削減をしていないという議論があります。

しかし、インドは2030年までに 現在の約3倍にあたる500GWの再エネ導入をめざすなど、日本とは比較にならない高い目標を掲げているほか、複数の州は石炭火力の廃止を発表しています。

また、アラブ首長国連邦も2050年カーボンニュートラルという目標を立てているように、新興国もどんどん脱炭素化を加速させていることを注視していく必要があります。

損失と損害に関連して、西村環境大臣はアジア太平洋地域における官民連携による早期警戒システムの導入促進イニシアティブを新たに追加的に立ち上げると表明しました。

さらに損失と損害の基金が設立されれば、気象予報や防災技術をもつ日本企業に商機が拡大していきます。

一方、企業の中にはTCFDなどで物理的リスクを公表しているところもあると思いますが、これからは損失と損害リスクとともに訴訟リスクも視野に入れる必要があると思います。

最後に、気温上昇を1.5度に抑えるという目標は揺るぎません。1.5度に抑える科学に沿った短・中期の目標を設定していくことが企業にとってますます重要になっていきます。

COP27で発表された国連のネットゼロ宣言に関する提言書には、企業の自社目標にクレジットを使用することはできないと明記されましたので、クレジットを購入して排出量をオフセットすることはグリーンウォッシュとみなされる可能性が高くなります。
 
また、日本企業の場合、業界団体による政府の渉外業務(ロビー)で気候エネルギー政策に反対していないことにも注意する必要があります。

個別企業が野心的なカーボンニュートラルを掲げて努力していても、その企業が所属する業界団体のロビーの内容も評価されることになるからです。

ネットゼロの定義が決まると、そこに向かうトランジション、脱炭素化への移行もおのずと決まりますので、非常に大きな影響を与えることになります。このテーマについては、2023年1月に行うウェビナーであらためて解説させていただきます。

以上、COP27の結果の中で企業のみなさまに持ち帰っていただきたいポイントをまとめさせていただきました。

資料:https://www.wwf.or.jp/activities/data/20221213Konishi_.pdf
(スライド:26-28枚目)

企業が知っておきたいCOP27結果ポイント
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企業が知っておきたいCOP27結果ポイント

開催概要

日時:2022年12月13日(火) 14:00〜15:30
場所:Zoom オンラインウェビナー
主催:WWFジャパン
対象者:企業関係者を中心に関心のある方々
参加費:無料
参加者数:394人
イベント案内:
https://www.wwf.or.jp/event/organize/5204.html

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